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Insight
経営研レポート

BPMS導入で終わらせないビジネスプロセス管理(BPM)

2022.02.18
企業戦略事業本部 マネージングイノベーションユニット
マネージャー 山本 純也
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1.はじめに

近年、生産年齢人口の減少、COVID-19感染拡大に伴う働き方の変化、RPAやAI-OCRなどデジタル技術の実用化状況などから、既存業務の自動化を実現するBPMS(Business Process Management System、またはBusiness Process Management Suite)導入への関心が高まっている。すでに事例も多く、自動化によるメリットは享受しやすい環境にある一方、短期的な成果を求めることで、本来享受すべき中長期的なBPM(Business Process Management:ビジネスプロセス管理)としての価値が得にくい状況となる事例も散見される。本稿では、現場で見られるBPMS導入に係る事例を踏まえ、BPMとして効果を得るためのポイントを示したい。

2.BPMSが求められる背景

我が国の生産年齢人口(15~64歳の人口)の減少は著しく、1995年の8,716万人をピーク*1に、2021年時点では7,461万人となっており*2、2029年には7,000万人をも割り込む*3と推計されている。またCOVID-19感染拡大による出勤回避の傾向が重なったことで、特に手作業を中心とした従来業務における人手不足は深刻である。

一方、我が国が目指すべき未来社会の姿として提唱されたSociety 5.0では、経済発展と社会的課題の解決の両立のために、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムが必要である*4とされている。RPAやAI-OCRといった事務作業を支援する諸技術が実用的な水準となる中、各企業はフィジカル空間における人手不足という社会的課題への対応のアプローチとして、自動化も含めたサイバー空間との効果的な融合により、企業の経済発展へつながり得るBPMS導入への関心を高めている。

3.BPMS、BPMとは何か

BPMSとは、従来のワークフローシステムにおける申請・承認の仕組みだけではなく、業務プロセスのモデリング機能、シミュレーション機能、モニタリング機能などを併せ持つ、BPM実行プラットフォームである。近年、RPAやAI-OCRの更なる高品質化に伴い、それらとの連携が比較的容易な仕組みであるBPMSは、より広くより実用的に業務をカバーできる状況にある。

BPMとは、業務改善においてPDCAサイクルが確実に回ることに重きを置いたビジネスプロセスの管理を示す。これは、BPR(Business Process Re-engineering)のような満を持したドラスティックな業務改革とは異なった、日々のビジネスプロセスを通した継続的な改善を狙うものであり、この実行においては自社の業務責任者や実務担当者が主体的となって進めるべきである。その結果、現場主導での業務改善がなされ、効率的な業務プロセスが恒常的に作り上げられる仕組みを得ることがBPMの主な目的となる。

4.BPM実現の主な阻害ケース

先に述べたように、BPMでは、業務プロセスを設計、実行、結果のモニタリングをし、結果に基づいた業務改善につなげるPDCAサイクルの継続的な実現が本質であり、BPMSは手段にすぎないが、既に多くの事例がある中、BPMS導入自体が有効な施策となり得ることは疑いようがない。

しかし、特性の理解が浅いまま従来のシステムと同様にBPMS導入をすすめた場合、一部業務のシステム化・自動化は達成できても、BPMとしての効果が限られることがある。ここでは、その代表的なケースを3点紹介したい。

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図1. BPMにおけるPDCAサイクルと主な阻害ケース

【ケース①】 現行業務の一括システム化

業務の自動化効果の最大化を狙い、自社の業務に対して広く、既存の業務フローを基にした可能な限りのシステム化を行った場合、個別に見ると品質(業務改善効果)が限られる一方で、稼働までの期間は長くなり、導入コストも大きくなりやすい。また、品質に起因して発生しやすいその後の改善において、業務横断的な対応が必要となることから変更コストも大きくなる。

【ケース②】 ベンダーに依存した導入

自社のリソース参画が限定的であり、ベンダーに依存してBPMSが導入された場合、本来肝となる導入後のBPMもベンダー依存となる。その結果、本来の目的である現場主導での業務改善が機能せず、組織や個人としての業務改善能力が高まらない。また、システム導入効果を、本来は効果の一部である表面的な業務効率化の観点で定量的に測定・評価することとなり、費用対効果が十分出ないことが多い。

【ケース③】 カスタマイズの多用

パッケージ製品の標準的な機能によるシステム化が難しい業務に対し、カスタマイズを積極的に活用した場合、BPMにおいて業務改善に着手する際に、再度カスタマイズの対応が必要となる。カスタマイズを重ねることはコストの観点で業務改善の障壁となると共に、ベンダー依存につながり得る。

5.現実的なBPMS導入のアプローチ

先に挙げた3点のケースに対し、望ましくないと理解していたとしても、現実的な状況を踏まえると対応が難しいことがある。そこで、我々の支援実績から、あるべき姿に限らない、より現実的なBPMS導入のアプローチをアドバイスしたい。

【ケース①】 スモールスタートからのスコープ拡大

BPMは、BPMS導入後、利用状況をモニタリングし更なる業務改善を継続的に行う、アジャイル的なアプローチを基本としている。そのため、ウォーターフォール的に、ある業務に対して要件を出し切ってからの実装や、複数業務の同時リリースを行うことは、時間を要し手戻りのリスクも大きくなることから注意が必要である。

一方、システム側に内製化チームがいてもアジャイル開発の前例がなく対応できない、業務側も要件承認のリードタームが長くプロダクトバックログ上の優先判断のスピードに対応できない、BPMS導入後に頻度の高い業務変更は現場負荷から望ましくないなど、アジャイル的な進め方ができないケースは多い。そのような環境下では、まずは複雑ではない代表的な1つの業務を選定し、ウォーターフォールで要件を詰めてから開発を行い、1つの業務でBPMをまず始めることが望ましい。その後、1つの業務整理を通じて合意した方針を、BPMS化のコンセプトとして明確にし、負荷が高く業務改善効果の高い業務を次のターゲットとしてBPMS化することが、手戻りの抑制や効果の刈り取りのバランスから、有効なアプローチになり得るだろう。

【ケース②】 オーナー・責任者の明確化と現場担当者の参画

経験・知見のない状況から、自社主導でBPM実現・BPMS導入に取り組むことは難しい。まず、専門性のある外部のアドバイザーを活用し、BPMに取り組む目的や現在の課題、それらから導かれるありたい姿を整理するべきだろう。その結果、具体化されたBPMSの要件を満たすBPMSパッケージ製品の選定に入ることが望ましい。その際、従来のシステム導入であれば、対象業務と製品機能とのフィット&ギャップに重きがおかれるが、BPMの実現を視野に入れれば、いかに現場主導で継続的に業務改善に取り組めそうな製品かという観点を重視すべきである。この選定においては、自らの取り組みとして主体的に製品評価できる責任者および経営目線での取り組み判断ができるオーナーの関与が必要である。

その後、製品ベンダーと共に導入を進めることが基本となるが、リソースやスキルの事情から、要件定義を含めた主な稼働がベンダーとなることはやむを得ない場合もある。ただし、この場合であっても、最低限の現場担当者は参画し、利用者目線を外さない地に足の着いた推進としたい。また、業務毎に縦割の文化があるようであれば、壁を超えた調整ができる権限を持った責任者が必要である。加えて、システム化スコープについては、現場の要望を参考とした、オーナーの明確な判断が重要である。これらキーマンについて、明確化・体制参画を最低限行った上でプロジェクトを推進したい。

【ケース③】 標準機能による工夫の重視

BPMS導入後のモニタリング結果を踏まえて、業務改善を行うことがBPMの前提である。パッケージ製品において、それが標準機能内の変更であれば、ローコード/ノーコード開発として内製でも対応ができ、あるいはベンダーに変更依頼をしてもコストと所要期間は限定的であるが、カスタマイズであった場合はその限りではない。したがって、BPMを経ても同じ要件で変わらないと確信のある内容や、システム化対応しなければ著しく生産性が下がるなど、影響が明らかに大きい内容を除いて、BPMS導入初期は、業務の見直しと運用の工夫により標準機能内でのBPMS化を目指したい。BPMを進める中で、カスタマイズをしてでも対応すべきポイントを見極め、その後の管理方法も含めて慎重に判断していくことが有効である。

6.結び

本稿では、BPMの目的を踏まえつつ、我々の経験からより現実的に効果を得るためのBPMS導入のポイントを示した。現場主導でBPMに取り組む際、従来のシステム導入の観念が根強い環境では、関係者へBPMの特性を踏まえた理解を促すことが重要となる。本稿がその際の説明材料の一部となれば幸いである。

*1 出所:総務省 平成27年国税調査 https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2015/kekka.html

*2 出所:総務省 人口推計 http://www.stat.go.jp/data/jinsui/index.html

*3 出所:国立社会保障・人口問題研究所 日本の将来推計人口(平成29 年推計)https://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2017/pp_zenkoku2017.asp

*4 出所:内閣府 Society 5.0 https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/

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