デジタルネイティブの価値観と女性のウェルビーイング

情報戦略本部 ビジネストランスフォーメーションユニット
デザインストラテジーグループ
マネージャー 伊藤 藍子
マネージャー 益子 恵

「働く女性」をターゲットとした市場は拡大している

日本における女性の就業率は増加傾向にあり、2019年には70%を超えた。また、共働き世帯も増加し続けており、働く夫と専業主婦の世帯が多かった昭和の時代から、平成、令和と女性の就業状況は大きく変わってきた。(図1)

女性の雇用率を男性と同様レベルまでに引き上げることができれば日本の経済力は10%以上向上するというレポートもあり、今後少子高齢化を背景に労働力人口が減少していく日本において、さらに働く女性の活躍を推進していくことは必要不可欠である。

図1:共働き世帯数の推移
図1:共働き世帯数の推移

出所:内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 令和3年版」
(https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r03/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-03-03.html)

また、SDGs(持続可能な開発目標)においても「ジェンダー平等」が掲げられているように、世界的にジェンダーギャップ解消に向けた機運が高まっている。働く女性にとってのジェンダーギャップ解消には、就業率を高めるだけでなくキャリアの形成により経済参画を推進していくことが必要である。政府も2030年までに女性の管理職比率を30%に引き上げることを目標に掲げるなど、ジェンダーギャップ解消に向けた取り組みを推進している。

このように、働く女性が今後ますます増加し活躍することは社会的要請にもなっているのである。

一方、日本において働く女性が活躍するには課題も多くある。世界経済フォーラムの公表した「ジェンダーギャップ指数2021」において、日本は156ヵ国中120位であり、先進国の中で最低レベルの結果であった。日本はこの指標を構成する4分野(経済、政治、教育、健康)のうち、経済と政治において特に低い評価を受けている。また、ジェンダーに関する意識調査において「企業の管理職の女性比率が30%になるのは約25年後」という予想されるiなど、生活者の肌感覚としても働く女性が活躍する社会は先の未来だと考えられている。

こうした課題の背景には、家事や育児、介護などの「家庭内でのケア労働」との両立の難しさや、出産時の体調不良や不妊治療、更年期障害など健康問題との両立の難しさがある。共働き夫婦において夫が家事や育児を行う時間は増えつつあるが、依然として妻の割合が高いのが現状だ。(図2)

図2 6歳未満の子供を持つ共働き夫婦の家事・育児関連時間の推移
図2 6歳未満の子供を持つ共働き夫婦の家事・育児関連時間の推移

出所:内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 令和3年版」
(https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r03/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-00-38.html)

健康問題との両立も、働く女性にとっては深刻だ。妊娠発覚後、つわりなどの体調不良や立ち仕事、重い物を運ぶなど力を使う業務内容などを起因として出産までに仕事を辞めた女性は65%に上るというアンケート結果もあるii。また、医療機関で実施されたアンケートによれば、不妊治療を始めた働く女性のうち17%が退職や解雇を経験していたというiii。それだけでなく、日常的に付き合わなければならない月経も、仕事のパフォーマンスに影響している人は8割にも上るiv

こうした状況を反映し、健康経営の推進など企業の取り組みが盛んになるとともに、家事の外部化や女性の健康問題に対応するサービスの市場が拡大している。ロボット掃除機を始めとした、家事の自動化を助けるIoT家電や、UberEatsのような宅配サービスの市場は拡大を続けており、デジタルを掛け合わせて家庭内の労働を効率化していく動きは今後も続いていくと考えられる。

また、女性特有の健康問題やライフスタイルに関する課題を解決するサービスを指すフェムテック(FemaleとTechnologyを掛け合わせた造語)の市場は世界的にも注目され、2027年には600億ドル(約6兆6000億円)まで成長すると予測されているv。日本においても2020年は「フェムテック元年」と言われてその言葉が浸透しているが、市場規模は600億近くに上るvi

働く女性の価値観の変化

働く女性をターゲットとした、特にデジタルサービスの市場拡大が期待される中、子育て世代や管理職を担っていく世代が、ミレニアル世代(現在おおよそ20代前半~30代)やZ世代(現在おおよそ10代~20代前半)に移り変わってきている。彼女たちは、どのような価値観を持っているのだろうか。

特徴の一つは、「デジタルネイティブ」だ。ミレニアル世代はインターネットやスマートフォン、SNSの登場を目の当たりにしてきたパイオニア世代であり、Z世代は生まれたときから当たり前のようにデジタルに触れ、生活の一部となっている世代である。コロナ禍の生活に対する意識調査においても、デジタルネイティブ層はそれ以上の世代と比較して「暮らしはデジタルで完結するようになる」「コロナ禍がきっかけでより効率化が進み暮らしやすくなる」「(収束したら)生活がより自由になっていく」と考えている人が多く、コロナ禍におけるデジタル化の影響をポジティブに捉えていることがわかるvii

もう一つ働く女性の価値観として重要な点は「ジェンダー平等」である。博報堂生活総合研究所の「生活定点」の調査結果によると、20代、30代の女性はそれ以上の年代の女性と比較し、男女が平等にキャリアと家庭を両立していくべきだという価値観を持っていると言える。(図3)

図3 ジェンダー平等に関する年代別の価値観
図3 ジェンダー平等に関する年代別の価値観

博報堂生活総合研究所「生活定点」の2020年データを基に、NTTデータ経営研究所が作成 (https://seikatsusoken.jp/teiten/)

現状の考え方の枠組みでは対応ができない

これまで、働く女性を支援する製品やサービスに対するニーズの上昇と、彼女らが持つ価値観について言及してきた。しかしこのニーズに対応したプロダクトは、過去の世代向けに開発された製品の改良に留まるような、既存の延長線上の解決策では対応できるものではない。一つ目の要因として、彼女らとそのパートナーとなる男性世代はデジタルネイティブであり、現状の世代と比べてより大きな利便性を求めており、またデジタルを活用したサービスがその行動を支えていることにある。二つ目の要因としては、そもそも論として、これまでの女性活用のコンセプトは、職場での登用を中心に考えられていることにある。しかし、働くことも含め生活全体での女性の負担となっている家庭内でのケア労働や女性特有の健康問題が置き去りのまま進んでいる。労働に関するジェンダー論での議論を参照すると、『仕事と家庭は両立できない?』で言及されているように、育児や家事を中心とする人々の毎日のケアを行い、再生産を行っていく行為自体に社会全体が重きを置いていない状態では、高いキャリアを積んでいくという女性活躍の方向性は女性に新たな負担を押し付けるだけで、結局のところ、家庭内労働と家庭外労働は両立ができず、持続性のない状態しか生み出さない。これを踏まえると、今後の世代に向けては、我々は新たなプロダクトを通じて、新しい枠組みの提示が必要になっているといえる。

新しい枠組みはウェルビーイングとDXを核としたもの

それでは一体、どのような枠組みが有効であろうか。一つの観点としては、仕事と家庭と分けて考えるのではなく、統合した枠組みとしての幸福(ウェルビーイング)に着目することにある。そもそもの目指すところを明確にしたうえで、新しい家事や育児、仕事を統合したようなやり方を考えていくような枠組みがあり得るのではないだろうか。また、こうしたやり方の再定義を考えていくにあたり、デジタルは強い武器になると考えられる。というのもデジタルトランスフォーメーション(DX)で言及されている通り、デジタルは人々のライフスタイルの形や仕事のやり方を根本的に変える可能性があるからである。働く女性のウェルビーイングの文脈においては、デジタルは具体的には下記のように役立つ可能性がある:

① デジタルはプロセスにおける労力の配分を変える力があるため、現在の状況から、価値の低いところは効率化し、より本質的な価値があるところに時間配分・労力配分を向けられるようになる可能性がある。

② デジタルは知識・ノウハウを機械に埋め込むことにより家事育児の属人性を減らすことができるため、現状家事・育児意識が高くとも、実際のスキルが足りていないために参画しづらい男性もケア労働により効果的に参画できるようになる可能性がある。例えば、ロボット掃除機、洗濯乾燥機、食洗器、自動調理器等を導入することで、掃除や洗濯、料理のスキルが十分でなくとも高い質の家事労働をこなすことが可能である。

この観点で考えていくと、働く女性の課題に対応していくことは、人々のライフスタイルのDXという枠組みの一つとしてとらえることができる。また、デジタルネイティブ世代の女性を中心としたウェルビーイングを支援するととらえると、この問題は下記のような範囲まで一体として考えていくことができる。

働く女性 x ウェルビーイング x DX

新しい枠組みから具体的な形を考えていくにはデザインの方法論が有効

働く女性のウェルビーイングをDXの枠組みから考えたときに、具体的にどのような方法論をもって具体的なプロダクトまで考えていくことができるだろうか。一つにはデザインの方法論が有効であろう。デザインの方法論では、生活者が物事について持つ意味に着目することで、既存の枠組みにとらわれないアイデアを考えていくことができる。ミラノ工科大学のロベルト・ベルガンティ教授が提唱する「意味のイノベーション」がその一つである。既存のプロダクトカテゴリーやサービスカテゴリーの区分から考えるのではなく、そのカテゴリーが果たしている「生活者に対する価値」を考えていくことで、包括的に事象を理解していくことができるのだ。例えば、ショッピングモールを例にとると、既存のショッピングモールから考えると導線の効率化やマーケティングキャンペーンの最適化などインクリメンタルな視点にとどまりがちだが、人々がショッピングモールを利用する価値というものを考えると、購入の利便性以外にも、非日常体験を求めたり、社交の場として使ったり、家族行事の場として使っていることがわかる。そうした価値が理解できれば、その観点を強調したような新しい形のショッピングモールのコンセプト立案や訴求が可能になる。女性のウェルビーイングのDXの文脈において言えば、例えばフェムテックの定義や区分にかかわらず、そもそもの女性の働き方、暮らし方の文脈とデジタルの可能性を掛け合わせることから、そのプロダクト・サービスが真に果たすべき役割を考えることが可能になる。こうした価値は、フィールドワークなどの定性手法を用いて、生活者のナラティブ(語り)を集めて、そのナラティブから共通のパターンを発見し、意味体系を特定することで明らかにすることができる。

「意味」に注目したイノベーション

また、価値に着目する以外にも、ジャーニーを使って考える方法論も、家事育児のプロセスをデジタルをもとに再構成していく試みを行うのに有効であろう。「名もなき家事」という概念によって明確化されたように、家事や育児は頭の中で思い浮かべるイメージと実際に行うタスクの間のギャップが大きい。イメージされているタスクは全体のプロセスの中の一部に過ぎない。こうした言語化しづらいタスクに関してもジャーニーマップのような時系列での考え方やタスクを洗い出す手法を用いることで、可視化することができる。さらに単にデジタル化で効率化するのみならず、価値の考え方と組み合わせることで、そもそもの価値を発揮するために付加価値の低いところは外部化や自動化する、また当事者や家族にとって付加価値の高いところは時間をかけて味わうことができるように、プロセスを再構成することなどが可能になる。

以上のように、今後子育てや企業組織の中核を担っていくミレニアル・Z世代は、それ以前の世代とは異なる価値観をもちデジタルに適応しているため、デジタルを使った新しいライフスタイルを提案する必要性が出てきている。そのためには、既存の延長線上ではない枠組みでサービスを検討することができるデザインの方法論が有効であろう。デジタルネイティブの女性を支援していくことで、そのパートナーであるデジタルネイティブの男性も含め、誰もが活躍しやすい社会につなげることを期待している。

i 電通総研コンパスvol.6 ジェンダーに関する意識調 2021年3月2日(https://institute.dentsu.com/articles/1677/)
ii 《妊娠と仕事に関する調査》妊娠発覚後83.4%が仕事を続けたが出産までに退職した人は65%!【赤ちゃんの部屋】2018年10月30日(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000029820.html
iii 不妊治療で女性の6人に1人が離職 順天堂大など調査 2021年1月23日(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGG182L50Y1A110C2000000/
iv データで知る「女性と仕事」第32回生理休暇とったことある? 2021年9月1日(https://woman-type.jp/academia/discover-career/data/vol-32/
v 女性の悩み解決、フェムテック市場の拡大に高まる期待-補助金も 2021年8月12日(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-08-12/QXAYJ8DWLU6A01)
vi フェムケア&フェムテック(消費財・サービス)市場に関する調査を実施(2021年)2021年10月20日(https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2827)
vii デジタルネイティブ世代は “好きを極める消費”へシフト―「コロナ禍におけるデジタルネイティブ世代の消費・価値観調査」実施― 2020年9月28日(https://www.dentsudigital.co.jp/release/DD2020037_0928.pdf)

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