アナログな製品を作るメーカーにこそ知ってほしい
商品開発のデジタルトランスフォーメーション

~商品価値予測モデルを利用して、顧客価値の天井を超えるレシピ設計を~

情報未来イノベーション本部 ニューロイノベーションユニット
マネージャー 山﨑 崇裕
アソシエイト・パートナー 茨木 拓也

1.はじめに

 DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれて久しい。

 マーケティングへの活用という観点では、Google、アマゾン、YouTube、Netflixといったデジタルサービス分野において、ユーザがどのような広告やコンテンツを好むかというデータに基づいた企画やリコメンドはLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)向上に直結するため、事業の中核として当然のように普及している。

 一方、食品・飲料・化粧品といったメーカーにおいても、個人の嗜好に合わせて商品開発を行うという観点でミッションは同じだが、デジタル業界と比べるとハードルは高く、進みは遅い。その理由は、そもそも捉えたい情報がデジタルデータとして捉えにくいということにある。画面の閲覧やクリックなどデジタルで捉えやすい表面的な行動ではなく、購買行動や商品に対してどう感じたかなどより商品に対する直接的な行動・感性が対象となるからだ。マスプロダクションの時代でさえ、ユーザの感性・行動をデータで捉えることが難しかったのが、それに拍車をかけるように、ニーズの多様化でその把握がさらに難しくなった。また、商品側についてはデータとして捉えることは可能ではあるが、これまで試行錯誤で商品を開発してきたため、商品設計とユーザ感性(商品コンセプト)を結びつけることは商品開発の専門家に任されてきた傾向がある。ただ、ニーズの多様化でそれも限界に来ているのではないだろうか。我々は日々のコンサルティング業務の中で、そうしたモノづくり企業の商品開発DXニーズが高まっているのを日々感じている。

 本稿では、データを使いたくても使えなかった・使う方法が分からなかったメーカーの商品開発の現状・課題に対して、従来のような経験や勘に基づいた手探りではなく、データに基づいて科学的な商品設計を可能とする「商品価値予測モデル」の開発とその活用を提言したい。

2.商品価値予測モデル~商品特性と顧客価値をデータ化し、紐づける~

 我々の言う「商品価値予測モデル」とは、物理・化学的な商品の特徴データからユーザの感性や行動データを予測するものである。別の言い方をすれば、入手が容易な商品に関する情報などから、入手困難な情報、多くの場合「商品の価値」となるような情報を予測する計算式である。理論的には、何を(What: 商品に関する情報)、どのような人が(Who: ユーザに関する情報)、どのような状態で(How: ユーザの状態・周辺環境)商品・サービスを享受するかがわかれば、どのように感じ(ユーザの感性)、どのように行動するか(ユーザの行動)を予測することができると考えられる(図1)。説明変数(予測に利用する情報)として、ユーザの個人的な特性や環境など外部要因の情報もデータとして取り込むことで、ユーザの多様性・時代の変化にも対応できるようにするというアイディアである。

 このようなモデルは、商品とユーザに関するデータが含まれるので、商品開発部門とマーケティング部門の共通のツールとしても活用することができる(逆に、両部門で使うことを想定して、データの種類を選別することも考えられる)。長期的には、データ蓄積によって自社データベースを構築、モデルの精度・信頼性を向上させ、データに基づいた精度の高い商品開発を実現することができると考える。(図1)

図1.商品開発DX~これからの商品開発の在り方~(NTTデータ経営研究所にて作成)
図1.商品開発DX~これからの商品開発の在り方~(NTTデータ経営研究所にて作成)

 この「予測モデル」を作ることによって、どういったことができるのだろうか。例えば、商品に関するデータとそれに対するユーザの感性・行動データとが紐づいたデータセットから、それらのデータ項目の関係性を示すモデル式を導き出すことができる。それによって、新たな商品に関する情報を入力すると、それに対応するユーザの感性・行動に関する情報が予測値としてアウトプットされる(図2①)。つまり、このモデル式から試作品(プロトタイプ)を評価することができる。ただアウトプットを予測するためであれば、回帰モデルで十分であるが、さらに機械学習システムを組み込むことで、商品価値(アウトプット)を最大化させるためのインプット情報は何か、を抽出させることが可能になる。つまりこのモデルによって、どのように商品を改善すればその価値を高められるかのヒントを得ることができる(図2②)。また、商品のある項目についての評価が高くなるようなレシピリストの中で、低コストの材料が使われている、あるいは高コストの材料が使われていないレシピを選ぶことで、その商品価値を維持しつつ低コストのレシピを導き出すことができる(図2③)。

図2.機械学習を用いたモデルによってできること(NTTデータ経営研究所にて作成)
図2.機械学習を用いたモデルによってできること(NTTデータ経営研究所にて作成)

 このようなモデルを作る上では、実際に活用することを想定したデータ項目の選定、精度の高いモデルを作るためのデータの取り方が重要になってくる。以下では、まず前者について、すなわちインプット情報とアウトプット情報の設定の考え方について述べる。

3.アウトプット(出力)の設定

 何が知りたいのか、何を予測したいのか、商品の何を評価したいのか、といった観点から出力情報を設定する。出力情報は大きく分けると、商品に関するデータとユーザに関するデータに分けられるだろう。商品に関するデータが出力情報として設定される場合は、商品の使用性・安全性・劣化度など、商品設計時には判別できない情報が出力情報となり得る。一方、出力情報として設定される「ユーザに関するデータ」は、商品はユーザのCSを高めることを目的としている場合が多いので、商品(サービス)に対するユーザの「感性」か「行動」のどちらかとなる。前者の「感性」は、例えば食品なら「美味しさ」、香料が中心の商品なら「香りのよさ」、サービスなら「満足感」といったユーザの感性的主観評価が想定される。後者の「行動」場合は、「売上額」「売上個数」「トライアル」「リピート」など、行動に紐づくデータが想定される。後者の場合、マーケティングなどが売上に影響することがリアルにイメージされるがために、「人の行動には様々な要因があるため、予測するのは難しい」という議論がよく生じるが、そのような場合は、モデルはあくまで100%予測するものではないということを今一度認識する必要がある。すなわち、予測モデルを作る目的は、商品価値を最大化させるために商品開発において何ができるかのヒントを得ることであり、100%の精度のモデルを作ることではない。そのため、出力情報として「行動」を設定することは否定されるべきものではないと考える。マーケティング施策も入力情報として入れ込んでモデルを作ることも可能であろうが、その施策の多様性からあまり現実的ではないと考えられる。

4.インプット(入力)の設定

 入力情報の設定では、予測したいものに影響を与える因子(原因)を中心に考えてしまいがちであるが、自社で変更可能なパラメータ項目を入力情報として入れるという考え方が重要になってくる。なぜなら、モデルが改善提案をしてきたときに、自社でそのパラメータが変更可能でなければ改善の施策を講じることができないためである。そのため、商品開発モデルを想定するならば、実際に自社で調合する商品のレシピ情報などが理想となってくる。さらに「商品に関する情報」として、組成などの物性データのみならず、食品であれば「甘さ」「苦さ」「爽やかさ」など様々な記述子(評価軸)で評価した数値データも設定可能である。

 商品(あるいはサービス)に関する情報の他に、その商品を賞味・使用する「ユーザに関する情報」や、賞味・使用するときのユーザの状態と状況(環境)である「文脈」も入力情報として考えられる。入力情報としてでなくても、ユーザのタイプや状況に応じて分類するために活用する(そして、分類したそれぞれのデータセットでモデルを作る)ことも考えられる。

図3.商品価値予測モデルイメージ(NTTデータ経営研究所にて作成)
図3.商品価値予測モデルイメージ(NTTデータ経営研究所にて作成)

5.モデルの精度向上

 モデルの精度を向上させるためには、データの質を高くすることと、データの量を多くすることがポイントになる。モデルの精度は、モデルを作ってみないとわからないが、実際に作った後でそのモデルを検証することを考えると、モデルを作る前の段階で、ある程度の精度が期待できるようなデータを揃える必要がある。以下ではモデル精度向上の4つのポイントについて述べる。

1)データの質

 ABC…や〇△×などの分類データよりも、定量的データの方が情報量も多く、精度の向上につながる。ユーザに関するデータを予測する場合、イベントを振り返ってもらって回答してもらう「事後のデータ」ではなく、商品・サービスを享受するときのリアルタイムの回答(質の高い情報、新鮮な情報)を入手することでデータの質(新鮮さ・正確性)を高めることができる。また、専門家が評価するなど個人が評価する場合は、どうしても個人差が生じてしまうので、複数人で評価する・評価する回数を増やすなど、個人差をなくす工夫もあるとよい。

2)データの量・蓄積

 モデルを作る上でデータの量が多いに越したことはない。逆にデータが少ないとモデルの精度が見込めないのは明白だ。しかし、質が良くないデータがたくさんあっても、モデル精度は見込めないし、将来的に同様のデータを蓄積していくことを考慮すると、量よりも質をまずは考慮した方がいいだろう。また、始めの段階では、どのような種類のデータを選別・蓄積していけばいいのか、判別がつかない場合があるだろう。当社がクライアントと何かしらの予測モデルを構築する最初のステップにおいて、予測モデルの試作によって、(予測に対する寄与度から)どの入力情報が重要かを見極め、不要な入力データを削除し、モデルを洗練させる。これによって、将来的なデータ蓄積プランにおいて、効率的なデータ蓄積・モデル構築を可能にする。このデータ蓄積によって、モデル精度の向上が見込まれるのみならず、データを時系列データとしてモデルを構築し直すことで、次期の商品価値を予測、つまりトレンド予測も可能となる。時代ごとにユーザの価値観も変化するため、古いデータを削除し、新しいデータに入れ替えることで、時代に適応したモデルを維持することができる。

3)個人に紐づいたデータ

 データの量と質を追求する以外では、モデルの精度向上のために個人ごとのデータを蓄積することが重要になってくる。その個人ごとのデータをユーザの特性に応じて分類し、分類ごとにモデルを作った方が1分類しないで(一つのモデルで)予測しようとするよりも、予測精度が高まる可能性があるからだ。逆に、一つのモデルで多様なユーザの感性を評価すること自体が不自然であることは容易に理解できるだろう。そのユーザを分類する情報としても、商品に関する情報ではなく、生活様式や価値観などユーザに関する情報を収集することが将来的なユーザのセグメント化に際して効果的である。一商品そのものではなく、生活様式の変化やユーザの価値観(趣味・趣向を含む)の変化こそが、ユーザの商品に対する感性や行動に影響を及ぼすと考えられるためである。また、ユーザの価値観・趣味趣向の変化を捉えることは、時代の変化を捉えることにもなる。ユーザを中心とした情報と対象商品に関する情報から、それらの関連性を見出すことができれば、例えば、ターゲットユーザが音楽を趣味とすることが多い場合には音楽と対象商品のコラボレーションを企画するなど、ユーザに対する更なるブランド価値向上(相乗効果)や、音楽を趣味とするノンユーザーを取り込む新規顧客開拓の可能性がある。余談になるが、当社では人の性格特性・価値観・趣味・嗜好性など情報を集めた「人間情報データベース1」を活用したサービスを展開しており、人間(ユーザ)に対する深い洞察から研究開発・マーケティング戦略に資する示唆を提供している。

1 Digital Congitive Science Center 人間情報データベース https://www.nttdata-strategy.com/dcs/about/index.html

4)脳情報の活用

 さらに、脳情報を活用することでモデル精度を高める可能性がある。人の感情や嗜好性が脳波から推測することができるといったことは古くから報告されている2,3,4が、脳情報を追加した方が映画の興行収入や好ましさをより精度良く予測することができるという研究まで報告されている5。また弊社でも、テレビショッピング番組を制作する試みにおいて、従来手法で制作した映像と脳情報を入れ込んだモデルが制作した映像とで、放送後どちらがお客様からの入電件数が多くなるかを検証したところ、脳情報モデルが制作した映像の方が従来の手法で制作した映像より、入電件数が27.6%増加したという結果を得た6

 これまで自社で蓄積してきたデータを見たときに、データに偏りがある(学習したいデータが少ないなど)、データの精度が低い(定量的ではなく〇×の分類、個人差のあるデータなど)、データ量が少ない(サンプル数が20程度など)といった場合には、モデル構築のためにデータを取り直すことも必要であろう。取り敢えず手元にあるデータでモデルを構築しようとするのは、長期的な観点から得策ではない。将来的に活用することを目指してモデルを構築するのであれば、場合によっては手元のデータを捨てることも必要であろう。

2 Davidson RJ, Fox NA. Asymmetrical brain activity discriminates between positive and negative affective stimuli in human infants. Science. 1982 Dec 17;218(4578):1235-7.
3 Li M, Lu BL. Emotion classification based on gamma-band EEG. Conf Proc IEEE Eng Med Biol Soc. 2009:1323-6
4 Telpaz, A., Webb, R., & Levy, D. J. (2015). Using EEG to predict consumers' future choices. Journal of Marketing Research, 52(4), 511-529.
5 Boksem, Maarten AS, and Ale Smidts. Brain responses to movie trailers predict individual preferences for movies and their population-wide commercial success. Journal of Marketing Research 52.4 (2015): 482-492.
6 「テレビショッピング番組の制作に人工知能を活用し効果を確認~実際に放送した結果、お客さまからの入電件数が従来比27.6%増加~」2018.11.13 https://www.nttdata-strategy.com/newsrelease/181113.html

6.さいごに

 製造業のマーケティングにおいてもグローバルな市場のDXは進みつつあり、これが淘汰圧になるだろう。これまでアナログなモノづくりを行っていたメーカーにとっても生き残るために、より早く、より正確に、顧客と自社製品の特長を理解し、ニーズに合った商品を持続的に開発し続けるプレッシャーがかかってくる。そうした中で、こうしたデータに基づく商品設計は今後のスタンダートになると考えられ、さらに競争力の源泉となるこのようなモデルは各社で独自のものを構築する必要がある。商品開発モデルを構築した後でも、その変化し続ける時代を捉えるためにデータを取り続けることには変わりないが、モデル構築によるメリットは、モデルに必要なデータのみを集めるという意味で効率的な調査ができるということと、モデルを活用することで各要素の影響度や商品価値などをピンポイントで定量的に可視化することができるということである。つまり、的確なデータから時代の変化を的確に捉え、それを基に具体的な商品開発の施策(改善策)につなげることができる。

 データを上手く活用したいが、データをどのように扱えばいいかわからない、手元のデータが少ない、データのデジタル化ができていない、といった現状から、前に進めていない企業も少なくはないだろう。「操作可能な情報(商品レシピなど自社内のデータ)から知りたい情報(消費者の心理や行動)を予測する」という発想に至っていない企業すらいるかもしれない。長期的なプランの元、まずはパイロット的にモデルを試作するなど小さいステップを踏み出すことが、変化の目まぐるしいこれからの時代を企業が生き抜く上で必要になると考える。時代や市場の様々な情報や変化に惑わされず、ユーザへの価値提供を追求し続ける姿勢を持ちたいと思うメーカーにこそ、こうしたデータドリブンな商品開発にチャレンジしていただきたい。

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