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Insight
経営研レポート

日本における貿易業務電子化に向けた民間プラットフォーマーの役割と戦略

2021.08.20
社会基盤事業本部 社会システムデザインユニット
マネージャー 栗原 章
コンサルタント 髙嶋 このみ
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1. はじめに

新型コロナウィルス感染拡大防止に向けて民間企業および官公庁において在宅ワークの導入が進むなか、業務電子化の重要性が増している。

とりわけ貿易関連業務においてはステークホルダが多く、取り扱う情報や文書も多岐にわたるため、効率的かつ迅速な業務遂行に資するITインフラの構築が求められる。

本稿では、NACCSやサイバーポートといった公共ITインフラおよび民間企業による貿易プラットフォームの「TradeWaltz」に焦点を当てて、貿易関連業務の電子化に向けたプラットフォーム間の連携を含む乗り越えるべき課題や将来像を示す。

2. 貿易関連業務の概要

貿易関連業務におけるステークホルダは、大きく分けて契約当事者、金融、物流、国(税関)に分類される。

図1は、各ステークホルダの貿易関連業務内容および手順を示したものである。各業務の関係を見ると、様々な貿易関連書類が様々なステークホルダを行き来している。これは貿易関連業務の複雑さを示すものであるとともに、貿易関連手続きの電子化による業務改革のニーズが高まる背景でもある。

貿易関連手続きの電子化においては、各種文書・情報の電子化、電子化された文書・情報を格納してステークホルダ間に流通させるためのITインフラが必要である。

以下では、日本における貿易関連業務の電子化状況について、NACCSおよびサイバーポート、TradeWaltzが取り扱う業務や文書について概観する。

図 1 貿易手続きおよびステークホルダの概観図

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出典:NTTデータ経営研究所

3. 日本の貿易関連業務の電子化状況

ステークホルダおよび取り扱う書類が多岐にわたる貿易関連業務においては、セキュアな環境における情報の一元管理機能が求められる。

日本国内では、輸出入・港湾関連情報処理センター株式会社(NACCSセンター)が構築運営するNACCS(総合的物流情報プラットフォームシステム)が主要なITインフラとなっているほか、国土交通省がサイバーポート(港湾の電子化)構築を進めている。

さらに、NTTデータ、三菱商事、豊田通商、兼松、三菱UFJ銀行、東京海上日動、損保ジャパンが共同で事業出資して2020年に設立したトレードワルツは、貿易プラットフォーム「TradeWaltz」とNACCSとの業務提携に係る覚書を締結している。

今後、NACCSとサイバーポート、TradeWaltzの連携により、貿易関連手続きにおけるオールジャパンの貿易情報の一元管理を実現していくことが可能であると考えられる。また、民間主導のTradeWaltzとNACCS(2008年5月30日に公布された「電子情報処理組織による税関手続の特例等に関する法律の一部を改正する法律」に基づき、同年10月1日に株式会社となった)とのシステム連携により、民間主導による迅速な機能拡張および海外プラットフォームやERPシステムなどとの連携を進めていくこととなる。

3.1. NACCSについて

3.1.1. NACCSのサービス内容(貿易関連業務)

NACCSでは、入出港する船舶・航空機および輸出入される貨物について税関、港湾管理者、またその他関係行政機関に対する手続および関連する民間業務をオンライン上で処理することを目的とする。

また、貿易関連に必要な多様な書類を一括管理する役割を持ち、行政機関・民間貿易関連企業等が必要とするサービスを提供する。

3.1.2. NACCSが取り扱う書類

NACCSでは、貿易実務における各々の業務内容を扱う書類が存在し、税関業務から通関業務まで様々な書類をオンライン上で処理している。

例えば、貨物の在庫管理、輸出入申告などの受理、許可・承認の通知、輸出入通関のための税関手続き、船積指図やインボイスの登録業務、関税等の口座振替による領収、輸出入関連手続の受理、許可、承認の通知などを扱う。

表 1 NACCS取り扱い貿易関連書類表

輸出

輸入

インボイス情報

入港手続

S/I情報

貨物情報登録

入出港届

インボイス情報

輸出入申告

搬入

各種法令手続

デバンニング

貨物情報登録

混載仕分

バンニング

保税運送申告

搬入

搬入

混載仕立

混載仕分

輸出申告

輸入申告

許可情報等の配信

許可情報等の配信

搬入

包括保険手続

積載手続

出港手続

関税等の領収

参考資料:NACCS1

1NACCS「事業概要」輸出入等関連手続イメージ図(https://www.naccs.jp/aboutnaccs/naccs_image.pdf

3.2. サイバーポート

3.2.1. サイバーポートのサービス内容(貿易関連業務)

国土交通省が実施しているサイバーポート促進WG(港湾物流)では、港湾関連データを集約し、主に民間企業における手続きの電子化を目的とした港湾関連データ連携基盤(サイバーポート)の構築状況などに係る情報を公開している。

貿易業務にて、紙、電話、メールなどで行われている民間事業者の一部港湾物流手続を電子化することで業務を効率化し、港湾物流全体の生産性向上を目的とする。

さらに、港湾物流手続に携わる関係組織間の情報共有の実現を担う役割があり、貿易業務における重要なステークホルダである荷主、海貨フォワーダー・通関業者、保税蔵置場、陸運、ターミナルオペレーター、船会社、港湾管理者等と連携する。

3.2.2. サイバーポートが取り扱う書類

サイバーポートでは、上述した各貿易ステークホルダ(図1)にデータフォーマットなどが異なる自社システムを連携基盤に接続させるための入出力インターフェース(API)で連携させている。2

さらに、船積依頼書(S/I)、ブッキング依頼書、海貨から船会社に向けて必要な船腹予約、通関・倉庫から税関・陸運業社に向けて必要である輸出入許可申請・搬入票などを電子化で補う。3

また、NACCSと連携することにより、NACCSで提供されている全手続(表1)との連携機能を構築している。それに伴い、更なる税関、港湾管理者、関係省等とのデータ連携が可能となる。

表 2 サイバーポート取り扱い貿易関連書類表

輸出

輸入

ブッキング依頼書

運送依頼書

危険物ブッキング依頼書

機器受領書(EIR)

危険物明細書

インボイス情報(I/V)

船積依頼書(S/I )

仮送り状

船腹予約確認書

パッキングリスト(P/L)

空コンテナピックアップオーダー

船荷証券(B/L)

運送依頼書

海上運送状(ウェイビル)

機器受領書(EIR)

複合運送証券

コンテナ貨物搬入書

コンテナリスト

インボイス情報(I/V)

積荷目録

仮送り状

外航ブッキングリスト

パッキングリスト(P/L)

内航ブッキングリスト

ドックレシート(D/R)

輸入指示書

コンテナ内積付書(CLP)

輸入貨物荷捌依頼書

船荷証券(B/L)

到着通知(A/N)

海上運送状(ウェイビル)

荷渡指示書

複合運送証券

荷渡指示書レス申込書

コンテナリスト

コンテナ貨物搬出票

バンニング作業依頼書

CFS搬出票

積荷目録

貨物輸送送り状

フレート情報

コンテナ貨物受領書

振込・振替明細帳票

納品書

振込完了通知書

B/L番号通知書

外航ブッキングリスト

内航ブッキングリスト

納品物

コンテナ確定重量報告書

出典:国土交通省4

2国土交通省 港湾局「港湾の電子化(サイバーポート)推進委員会について(https://www.mlit.go.jp/common/001259893.pdf

3国土交通省「サイバーポートについて」(https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001329600.pdf

Cyber Port「Cyber Portの詳細」 (https://www.mlit.go.jp/kowan/content/001403753.pdf

3.3. TradeWaltzについて

3.3.1. TradeWaltzのサービス内容(貿易関連業務)

株式会社トレードワルツは株式会社NTTデータ、三菱商事株式会社、豊田通商株式会社、東京海上日動火災保険株式会社、株式会社三菱UFJ銀行、兼松株式会社、損害保険ジャパン株式会社の計7社の共同出資により2020年に設立された。日本における貿易業務完全電子化を目指すオールジャパン貿易プラットフォームとして「TradeWaltz」を提供、運営している。

これらの企業の協力・参画により、これまでの貿易関連業務はそれぞれのステークホルダ間での壮大な伝言ゲームであった(図1参照)が、API連携およびブロックチェーン技術(分散型台帳)を用いることによりステークホルダ間で一貫して情報共有が可能になった(図5)。

また、TradeWaltzではブロックチェーン技術の活用により、電子船荷証券、電子原産地証明書を含む全ての貿易紙書類に代わって貿易情報の原本性を確保する見込みである。5

さらに、国内実証実験や海外通関との技術実証実験を実施するなど、今後の国内における貿易関連業務の電子化に大きな影響を与えうる日本を代表する貿易プラットフォームである。

3.3.2. TradeWaltzが取り扱う業務

TradeWaltzは、貿易業務におけるステークホルダのうち、荷主と輸入者、金融機関、保険会社、物流会社、船会社等の間で扱う書類を一括管理する。

表 3 TradeWaltz取り扱い貿易関連書類表

輸出

輸入

信用状(L/C)ドラフト

信用状(L/C)ドラフト

見積書

信用状(L/C)開設依頼

見積回答

見積回答契約書

契約

インボイス情報(I/V)

信用状(L/C)

船積通知(S/A)

通関依頼

信用状(L/C)

船積指示書(S/I)

信用状(L/C)開設依頼

インボイス情報(I/V)

保険証券(I/P)発行依頼

パッキングリスト(P/L)

保険証券(I/P)

原産地証明書(C/O)申請

借方票(D/N)

原産地証明書(C/O)

原産地証明書(C/O)申請

船積通知(S/A)

原産地証明書(C/O)

船荷証券(B/L)ドラフト

インボイス情報(I/V)

船荷証券(B/L)

パッキングリスト(P/L)

輸出許可情報

船積指示書(S/I )

為替手当(B/E)

船荷証券(B/L)ドラフト

買取依頼

船荷証券(B/L)

B/E

買取依頼書

買取結果

出典:株式会社トレードワルツ6

5経済産業省「令和2年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業報告書」(https://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/apec/torikumi/data/20210416Gaiyo_JP.pdf

6株式会社トレードワルツ社提供資料「貿易の未来に向けて」

4. TradeWaltzの今後の戦略(日本の公共システムと一体化していく民間企業の取り組み)

4.1. 公共システムとの連携

株式会社トレードワルツは、2020年11月にNACCSとの間で、国際物流・国際貿易関係者における両者サービスの利用性向上に向けた、システム連携等を視野にした相互連携・協力に係る覚書(MoU)を締結した。7

MoUの締結は、民間主導の貿易プラットフォームが自国の公共システムと連携することを意味している。具体的には、TradeWaltzは下図に示した「第7次NACCSの開発コンセプト」の④国際物流に関連した最新技術の応用・周辺の貿易情報基盤との連携の実現を目指す。

図 2 第7次NACCSの開発コンセプト

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出典:NACCS「第7次NACCSの開発について」8

なお、NACCSとサイバーポートは「NACCSとサイバーポートの連携概要」(図3)で示すとおり、これまで港ごと、事業者間ごとで「個々」に電子化をしていた港湾手続きや情報を全国統一することで、港湾物流業務の生産性を向上させる役割を担うことになる。

これにより、TradeWaltzはNACCSとの連携により、港湾関連データ連携基盤であるサイバーポートとも直接的または間接的に連携することとなる。

従って、TradeWaltzは日本の国際貿易関連手続き業務の電子化において、民間企業でありながらもオールジャパンの貿易情報一括管理体制における重要な位置づけとなる。

図 3 NACCSとサイバーポートの連携概要

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出典:国土交通省『港湾の電子化サイバーポート 推進委員会について』

さらに、TradeWaltzは日本の公共システムの一角として、ASEAN各国の公共システムとの連携を進めている。貿易関連手続きの電子化は、業務の性質上、他国の公共および民間のシステムとの連携が求められる。例えば、2021年6月の内閣府規制改革推進会議での答申を経て閣議決定された「規制改革実施計画」の中に盛り込まれた電子船荷証券(eBL)の運用に際しても、他国のステークホルダ間において同一のeBLが真正性の保証が担保された状態で情報連携している必要がある。

このような背景のもと、TradeWaltzはASEAN-BAC(Business Advisory Committee)が掲げているASEAN地域デジタル貿易連結性(RDTC)のコンセプトである「ASEAN-JAPAN Digital Trade Platform」の構築に取り組んでいる。初期の構成国としては、日本(TradeWaltz)、シンガポール(NTP)、 タイ(NDTP)、ベトナム(未構築)を考えており、ブロックチェーン基盤の連携による国際間のデータ相互接続性・改ざん耐性を高めるとともに、アプリケーション層はハイブリットP2P モデルの実装によるASEAN 地域展開を構想している。

4.2. 国内外の民間ユーザーの巻き込み

前項までは、公共システムとの連携に焦点を当ててきたが、ここでは国内外の民間プラットフォームとの連携によるユーザーの巻き込みについて概観する。

まず、日本国内のユーザー巻き込みについて、直近の動きとしては、今年3月にTradeWaltz(トレードワルツ社)が国際物流システムにおいて最大市場規模のTOSSシリーズ(バイナル社)とシステム連携(API連携)し、一部ユーザーの書類連携業務の電子化をトライアルすることが発表された9。TradeWaltzは今回の協業により、将来的には、7400社のTOSSユーザーを巻き込み、日本国内の貿易業務の電子化を推進していく。

また、海外においては、2021年5月に開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)主催の「コロナ禍を乗り越える、デジタル技術を活用した貿易円滑化施策ワークショップ – 第1回 貿易PFの活用」において、TradeWaltzは2022年度中にシンガポール、タイ、ニュージーランド、豪州との5か国間における貿易プラットフォームの連携による商流情報連携やユーザーコミュニティの形成を提案している。

今後は民間のプラットフォームであるTradeWaltzが日本国内の公共システムの一部としての信頼感を強みに、他国の公共システムおよび民間プラットフォームとの連携、すなわちグローバルな官民連携による貿易手続きの電子化を推進していく方向であるといえる。

他方、TradeWaltzは貿易プラットフォームが構築されていないベトナムやカンボジアを含むASEAN諸国やEUへの展開も計画している。例えば、ベトナムにおいては日本のNACCSをインフラ輸出して構築したVNACCSが公共インフラとして稼働しているほか、中期的なスパンでの貿易プラットフォーム立ち上げ支援を目的としたコンソーシアムの設立が決定している。

また、ベトナム国内の企業においては、会計ERPの普及が進展しており、これらのERPシステムとの連携が必須要件である。下記にASEAN域内におけるERPシステム一覧を提示するが、特に日系の主要クライアントに対し、下記ERPとTradeWaltzの連携が実現することで、現地企業によるTradeWaltz利用ニーズが高まると考えられる。

表 4 アジア大洋州地域における主要なERPベンダ一覧

ベンダ名

利用日系企業

1

Digiwinx Infotech PVT. LTD

不詳

2

Synergix Technologies

KOBELCO

3

Focus Softnet PTE LTD

サンザイム

4

IFS AB

日本製鋼所

5

Deskera

不詳

6

HashMicro Pte. Ltd.

横浜タイヤ、日野自動車

7

3i Infotech LTD.

不詳

8

Rorko Technologies

不詳

9

Digiwinx Infotech PVT. LTD

不詳

10

Synergix Technologies

KOBELCO

11

Focus Softnet PTE LTD

サンザイム

出典:Asia Pacific ERP Software Market Size, Share and Forecast | 2026 (alliedmarketresearch.com)

9トレードワルツ社(https://www.tradewaltz.com/news/163/

5. 貿易プラットフォーム間の連携

5.1. 貿易プラットフォーム間連携に向けた取り組み事例と基本的な考え方

前項までは、貿易プラットフォームと公共システムや、貿易プラットフォーム間でのシステム連携に向けた動きについて概観した。一般的にはSaaSを含むサービス・システム連携の手法としてはAPI連携が主流であるものの、昨今技術開発が進んでいるブロックチェーン基盤同士の連携も有力な手段の一つである。本稿では、システム連携における技術面の課題などについて、貿易プラットフォーム間にけるブロックチェーン基盤の連携に焦点を当てる。

TradeWaltzの開発を担うNTTデータでは、異なるブロックチェーン基盤の相互運用性(インターオペラビリティ)の実現に向けて、2021年3月より株式会社Datachainと協働で技術実証を実施している。10

ブロックチェーンを使った様々なサービスが商用フェーズに移行しつつあるなか、 この実証では商流のブロックチェーン基盤と金融流のブロックチェーン基盤を相互接続することで「モノの移転」と「価値の移転」を同時に実現することが可能となることを証明した。

商流プラットフォームでは、ブロックチェーンが持つ「信頼のネットワーク」上で、世の中を流通するモノの経路を辿り、現在誰の手にあるかを客観的な証跡として記録することができる。金融流プラットフォームを掛け合わせられると、このモノに対して今度は金銭的な価値を付加できる。

同じブロックチェーン上で「モノの価値」と「暗号資産(資産価値)」を両方内包した商流・金融流の総合サービスも出てきつつあるが、これらはあまり貿易プラットフォーム業界では存在感を発揮していない。理由としてはB2Cのプラットフォームは機能が良ければ顧客を捕まえやすいことに対し、B2Bプラットフォームは従来の顧客関係・コミュニティが重視される点があげられる。商流はメーカーや商社といった荷主が主役であり、彼らが使いやすい機能を実装することで、特定業界にフォーカスし、安全安心だと思ったところから既存取引を切り替えていく。金融流は銀行が主体となる。それらは既存のユーザーコミュニティを引きずった形でプラットフォーム化されるため、これらのコミュニティごと、ブロックチェーン基盤間の連携が課題となっているのが現状である。そのため、異なるブロックチェーン・台帳間の連携技術は世界全体の貿易デジタル化を進めるためには必須といえる。

NTTデータとDatachainが実施している技術実証では、ブロックチェーン技術を使った様々なサービスがリリースされる際に、異なるブロックチェーン基盤を連携することでより多くの価値を提供できることを目指している。

図 4 台帳間連携技術の概念図

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出典:NTTデータ

今回のNTTデータとDataChainの台帳間連携の実証試験は今後のプラットフォーム連携の1つのブレークスルーとなる可能性があるため、もう少し細かい内容を見ていく。

今回の技術実証では、既存の仮想通貨を用いて決済手段を提供する決済プラットフォームの「価値」を保有するネットワークと貿易プラットフォーム(TradeWaltz)が保有する「モノ」のネットワークを、Interledgerプロトコルを経由して接続した。

図 5 ユースケースの例:「モノの移転」と「価値の移転」の統合

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出典:NTTデータ

「同じブロックチェーンの基盤技術を使っていれば、接続できるのは当たり前だろう」と考えがちではあるが、今回は異なるブロックチェーン基盤技術間を接続している。TradeWaltzでは、図6に示したブロックチェーン基盤のうち「Hyperledger Fabric」を採用している。Hyperledger Fabricは、エンタプライズ領域において現状、最も注目されているブロックチェーン基盤である。Channelというグループ定義を利用し、データの共有範囲を限定することも可能である。

図 6 ブロックチェーン基盤別のデータ共有範囲の比較

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出典:NTTデータ

TradeWaltzは、①業界横断のプラットフォームであること、②多種多様な貿易書類を構造化データとして保存・利用可能であること、③プラットフォームに構築された情報の活用による新たなエコシステムを構築すること、の3点を特徴としている。

図 7 TradeWaltzのサービス構造(運営主体の考え方)

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出典:NTTデータ

また、図8で示すように、TradeWaltzでは貿易手続き関連データを連携する際に、国ごとにノードを置くコンソーシアム形式に分類される。他には、貿易プラットフォームにすべての貿易関連手続き情報を蓄積する「特定企業占有型」、特定業界の各企業がノードを運用する「特定業界占有型」、全参加企業がノードを保有して運用する「全員保有型」のプラットフォームが存在する。TradeWaltzはこれらのプラットフォームと各業界レベルでの連携はあるものの、図5で示した「貿易プラットフォームレイヤ」に直接的に組み込む形は想定していない。

図 8 貿易プラットフォームのサービス構造比較(運営主体の考え方)

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出典:NTTデータ

さらに、TradeWaltzはブロックチェーン基盤の活用におけるデータ連携は再利用可能な構造化、すなわちブロックチェーンおける貿易関連書類の原本性の実現を最重要視している。他方、貿易プラットフォームによっては貿易関連書類の原本性を重要視せず、PDF(電子媒体)のみのデータ連携にとどまるものも存在する。

このため、今後TradeWaltzがブロックチェーン基盤を連携する際は、連携先のブロックチェーン基盤におけるデータ共有範囲および運営主体の考え方を精査することが重要である。

5.2. データ共有範囲および運営主体の考え方が異なるブロックチェーン基盤との連携

前項までは、貿易プラットフォーム間のブロックチェーン基盤におけるデータ共有範囲および運営主体の考え方が同じであれば、図5に示した貿易プラットフォームレイヤにおける連携(直接的な組み込み)が可能であることを基本的な考え方として述べた。

他方、ブロックチェーン基盤のデータ共有範囲および運営主体の考え方が異なる場合においては、貿易プラットフォームレイヤ内ではなく、図5でいうセカンドレイヤ(決済プラットフォームレイヤなど)での連携を模索することとなる。

上述した技術実証においては、決済プラットフォームレイヤとの連携を対象としており、その取り組みにおいては、価値交換の仕組みとしてAtomic Swap(異なる種類の暗号資産を信用関係が構築されていない当事者においても他の暗号資産に不正なく交換できる技術)を採用してセカンドレイヤ(決済プラットフォームレイヤ)におけるEthereumとHyperledger Fabricの連携を実証した。

Atomic Swapとは、異なる種類の暗号資産を信用関係が構築されていない当事者においても他の暗号資産に不正なく交換できる技術である。ここで、Atomic Swapの処理フローの概要を下図に示す。

図 9 Atomic Swapの処理フロー概要図

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出典:NTTデータ

上図の処理フローの前提として、輸入者がbitcoin、輸出者が貿易文書をアセットとして保有しており、それらの交換を考えることとする。

はじめに、輸入者はランダムな秘密の値Xを生成し、Xのハッシュ値Hを生成する。次に、輸入者は輸出者への資金の送金のために、HTLC(Hashed Time Lock Contract)トランザクションを生成する。なお、HTLCトランザクションは、ハッシュ値が一致した場合のみトランザクションを確定し、資金を受領できるような仕組み(Atomic Swap)となっている。

しかしながら、Atomic Swapの処理フローには課題がある。Atomic SwapではHTLC方式を採用しているため、輸出者と輸入者がそれぞれでトランザクションや貿易文書受領などの確認作業が生じる。すなわち、「モノの移転」と「資産の移転」 の実現において、Atomic Swapでは異なるブロックチェーン基盤間において秘密鍵をクライアントが管理することはできるが、貿易手続き業務の効率化の要ともいえる「自動実行」が実現していない。

図 10 Atomic Swapにおけるトリレンマ

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出典:NTTデータ

NTTデータとDatachainはこのトリレンマを解消すべく、Atomic SwapとDatachainのCross Frameworkを組み合わせた技術実証を行った。

技術実証においては、インターオペラビリティ実現のためのソリューションであるCross Framework(複数のSmart Contractを安全に実行可能にするフレームワーク)およびIBC(Inter-Blockchain Communication、以下IBC)によるRelay方式を採用してトリレンマの解消を実現した。

なお、Relay方式とは、データ連携における中央管理者(第三者のシステム仲介)を必要とせずに、かつブロックチェーン同士で互いを検証し合うことで、インターオペラビリティと取引の自動実行を実現する技術である。

図 11 Cross Frameworkによる自動実行の実現イメージ

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出典:NTTデータ

6. 結論

本稿では、昨今の在宅リモートワークへの対応から、貿易関連業務の電子化ニーズが益々高まる背景を受けて、現状の日本国内の貿易業務電子化に向けた動きを概観しつつ、データ(貿易文書など)連携を担う貿易プラットフォームの役割に焦点を当てた。

さらに、貿易業務電子化において貿易プラットフォーム(TradeWaltz)を中核としたインターオペラビリティの実現、すなわち「モノの移転」と「価値の移転」の統合に係る技術的な課題や解決の方向性を見出した。

今後の日本における貿易関連業務の電子化を支えるインフラは、相互に情報や機能を提供しあい、ユーザー利便性を高めあう共通の考え方を持つプラットフォーム間において、技術的に異なるブロックチェーン基盤のインターオペラビリティを確保しつつ、全世界をカバーする貿易関連業務の電子化サービスを提供する取り組みが進んでいくと思われる。それはいわば航空アライアンス(Star Allianceなど)のように各国を代表する航空路線や、国内線やLCC等得意領域を持つ航空路線がそれぞれのデータやポイントを共有しあい、共同コミュニティを構築するようなマーケティングが進んでいくと想定される。

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