公共サービスにおけるDXプロジェクトの推進にあたって

情報戦略事業本部 ソーシャルアンドビジネスイノベーションユニット
シニアコンサルタント 藤城 真吾
コンサルタント 吉田 智彦

はじめに

新型コロナウイルスの感染を国内で確認してから1年以上が経過した。コロナ禍では、日常生活だけでなく、ビジネス環境も大きく変化し、世の中の多くのサービスが対面から非対面へ、接触から非接触へと急激にシフトした。あらゆるサービスのデジタル化が求められ、各業界で「DX」に注目が集まった1年であった。

 当ユニットが手掛ける公共サービス分野においてもDXが大きな話題となった。各種給付金の迅速な対応、感染者数の正確かつ迅速な情報連携、濃厚接触を高精度で測定するアプリ開発などが期待された。しかし、これらのサービスは多くのユーザ、特に国民からの期待が高かったものの、実際のサービス開発の現場においては、ITの技術面に限らず、法制度や組織体制などの様々な課題が明らかになった。本レポートでは、DXの推進状況とDXの推進における課題とその対策案について政府のレポートを踏まえて述べる。

DXの取り組み状況

 2018年に経済産業省が発表した『DXレポート』では、「デジタルトランスフォーメーションの推進なくして企業の業務効率化・競争力向上なし」と警告されていた。ところが、実態としては「DX=レガシーシステム刷新」や「現時点で競争優位性が確保できていればこれ以上のDXは不要である」という本来の主旨とは異なる解釈がされてしまった。

 2020年12月末に公開された『DXレポート2(中間とりまとめ)』(以下、『DXレポート2』)では、コロナ禍で表出したDXの本質に焦点があてられた。DXの推進状況に関する調査では、約500の組織を対象に、DX推進指標を用いて調査を実施した。結果として、全体の約95%が「未着手状態」、もしくは「一部門での実施」という状態が明らかになり、ほとんどの組織がDXに取り組めていないことが判明した。

図1.DX推進指標自己診断結果
図1.DX推進指標自己診断結果

出所:経済産業省,DXレポート2(中間とりまとめ)

 また、日本情報システム・ユーザ協会(JUAS)が実施したデジタル化の取り組みに関する調査では、DXの本質を理解せずに推進している組織が多いことが明らかになった。具体的には、各組織のデジタル化に対する取り組み状況ついて、トップランナーと自己認識する組織が約40%となった。一方で、現在のビジネスモデル対する考えとして、既存ビジネスを継続しつつ、新しいビジネスモデルも開拓する必要があると回答した組織が大部分を占めた。

図2.デジタル化に関する取組状況
図2.デジタル化に関する取組状況

出所:日本情報システム・ユーザー協会「デジタル化の取組みに関する調査2020」

図3.デジタル化の進展を踏まえたビジネスモデルの変革
図3.デジタル化の進展を踏まえたビジネスモデルの変革

出所:日本情報システム・ユーザー協会「デジタル化の取組みに関する調査2020」

 これらの調査結果から、DXを推進するうえで求められる「変革」の意識が十分でないことや、多くの組織がDXを十分に推進できていない状態が明らかになった。

DX推進における3つの視点

 『DXレポート2』では、組織の成熟度ごとにDXの具体的なアクションを3つの段階に整理した。デジタイゼーション(Digitization)、デジタライゼーション(Digitalization)、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)である。

 デジタイゼーションとは、紙媒体を電子媒体に変換する等の、アナログ・物理データをデジタル化することである。もう一つステップアップした段階にデジタライゼーションがあり、これは個別業務の利便性向上のためにITを適用し改善を図る段階のことである。そして、最も進んだ段階であるデジタルトランスフォーメーションとは、あらゆるプロセスを組織横断的にデジタル化することや、エンドユーザを中心とした価値創出のためにビジネスモデルを変革する段階である。

図4.成熟度別に見たDX推進におけるアクション
図4.成熟度別に見たDX推進におけるアクション

DXレポート2を基にNTTデータ経営研究所が作成

 DX推進に向けて、一概にプロジェクトを上述の「デジタルトランスフォーメーション」という概念で捉えるのではなく、現状把握を実施し、自分たちがどの段階に位置するのかを正確に把握する必要性があると考えられる。

 特に、公的サービス分野の組織においては、現在でも紙に最適化された業務が大半を占めているため、直近の目標に「デジタルトランスフォーメーション」を当てはめることは、現状との乖離が大きく、最終的にプロジェクトの推進の様々な課題になるリスクがある。

 DX推進の一歩目としては、改革を進める領域ごとに現状の状態を把握し、現状に応じた対応策案を検討することが始める必要がある。『DXレポート2』では、DXでの各アクションを取り組み領域と上述の3段階のレベルに分けたものをDXフレームワークとして整理した。

図5.DXフレームワーク
図5.DXフレームワーク

出所:経済産業省,DXレポート2(中間とりまとめ)

DXプロジェクトにおける課題と対応策

 次に、当ユニットの経験から、特に公共サービス分野のDXプロジェクトにおける課題と対応策について述べる。

<課題>

1. ビジョン共有:プロジェクトのビジョンをステークホルダー間で共有できていない

 ステークホルダー間でビジョンを共有した状態を保ちながらプロジェクトを推進できることはごく稀である。プロジェクトが本格始動する前の準備段階では一部のメンバーのみで実施することが多い。また、組織文化や風土から、ビジョンがトップダウンで「情報」として共有されることも少なくない。つまり、組織のベクトルと従業員のベクトルとの合致度合いが、プロジェクトの成否を左右する。

2. 判断基準:既存業務目線で物事を評価する

 DXプロジェクトは現行の業務の在り方を変革するために、新しい世界観を考える必要がある。しかし、新たなサービスや業務のあるべき姿をイメージし、その世界観を基準にして物事を判断することは容易ではない。実際のプロジェクトでは、現場のスタッフを中心に、慣れ親しんだ現行業務との差異に注目する。現行業務と新業務の乖離幅が大きいことを問題視するケースが多く、DXの本質である「変革」の障壁となることがある。

3. 問題意識:現行サービスの問題や課題に気づけていない

 上述の「既存業務目線で物事を評価する」に関連するが、長年使われている社内システムや業務プロセスに慣れているために、DXプロジェクトを開始したからと言って、急に課題意識を高めることは難しい。「現行踏襲」という価値観が蔓延すると、変革するハードルが高くなるリスクがある。変革のためには現状を正解として捉えるのではなく、さらなる業務効率化の追求、またはこれまでとは異なる立場で業務プロセスを評価することが重要になってくる。

<対応策>

1. ビジョン共有:対話によるビジョンの創作と共有

 プロジェクトのビジョンをステークホルダー間で共有することは、「変革」が求められるDXプロジェクトにおいてとても重要である。特にユーザ組織においては、各階層のメンバーで同じビジョンを共有し続けることがプロジェクトの成否を分ける要因となる。ビジョンを無機質な情報として共有するのではなく、対話を通じて「想い」をビジョンに変換し、その過程を通じて共有することが有効なアプローチの一つである。

2. 判断基準:あるべき姿の世界観を軸とした判断・評価

 DXにおいて、現行のプロセスやルールを基準として物事を判断することは、DX推進の阻害要因となりやすい。変革後の世界、あるべき姿の世界観を基準として、サービスや業務に求める要件を検討することが重要である。あるべき姿の世界観に適した評価軸やKPI、また、あるべき姿を維持・成長させるために適した稟議や承認プロセスなどを見つめ直すことが有効である。

3. 問題意識:あえて現行の課題を抽出するプロセスを組み込む

 組織が提供するサービスや組織そのものの歴史の長さに比例して、現行踏襲を望むケースが多く、DX推進の障壁になる恐れがある。このような場合には、現行の課題を抽出する際に、検討や評価の視点を変えることが重要である。具体的には、あえて機厳しい目で現状を評価することや、従業員目線から顧客目線に視点を変えるなどの工夫をすることで、これまで意識していなかった新たな問題や課題を抽出することに繋がると考える。例えば、トヨタ生産方式のように、当たり前を疑うことから始め、「どこにどんな問題があるか?」「なぜその問題が起こっているのか?」「どうやって解決すれば良いか?」と考えることは、課題抽出におけるアプローチの一つとなろう。

図6.公共サービス分野でのDXプロジェクトにおける課題と対応策
図6.公共サービス分野でのDXプロジェクトにおける課題と対応策

終わりに

 2020年度はコロナ禍により、DX推進に注目が集まった一年であった。官民の双方の領域にて、サービスのデジタル化が求められる一方で、DX推進における課題も明らかになった。今後、より一層、オンラインが基準となる社会になることを見据えると、企業内の業務やITシステムにとどまらず、エンドユーザの新たな体験価値なども重要になり、DXの意味合いや位置づけも変化していく可能性がある。当ユニットでは今後も、DX推進を目指す各組織のあるべき姿の実現に向けて引き続き支援していきたい。

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