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Insight
経営研レポート

デジタルシフトとコロナ禍によるBtoB営業マネジメントの変化

~定量・定性面のリバランス~
2021.03.24
企業戦略事業本部
ストラテジーアンドトランスフォーメーションユニット
マネージャー 楠 大彰
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1. はじめに

企業での営業活動において担当者の活動状況や案件の進捗などをマネジメントする際、管理者にとっての必要情報には定量・定性の二つの側面がある。定量的にはKPI(Key Performance Indicator)に代表されるような指標を用いて、何件顧客を訪問したか、何件・いくらの金額を受注したかなどを管理する。一方、定性的には、なぜ担当者(部下)はそう考えるのか、顧客からはどのようなコメントがあったかなどを吸い上げて把握する。これら定量・定性の両面はどちらかに極端な偏りがあるとうまく機能せず、相互補完的にバランスを取りながら設計・管理する必要がある。

しかし、近年これらの営業マネジメントにおける定量・定性の必要情報のバランスが大きく崩れつつある。その背景として顕著なのが、昨今の購買行動のデジタルシフトや、コロナ禍でより一層加速した非対面・非接触ニーズへの対応である。これらは、企業における営業の本質にも大きな影響を及ぼしている。

本レポートでは、これからの時代に求められる営業機能を考える一助とすべく、営業マネジメントの必要要素について考察する。

なお、営業と一口に言っても、顧客の特性・数、商材種別、商談スタイルなどによって細かく類型が分かれる。本レポートでは、前述のデジタルや非対面などの変化が、営業活動における競争環境に及ぼす影響として特に強く生じていると考えられることから、主に「サービス財中心の法人営業(BtoB営業)で、顧客や案件ごとの提案の個別性が高い」業態(図1赤枠内)を想定した考察を行う。

図1 「BtoB営業の類型パターン」

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出所:NTTデータ経営研究所で作成

2. 従来型の営業マネジメントにおける変化

図2左に、従来型のBtoB営業プロセスおよび定量的な管理指標(KPI)の一般例を図示した。旧来、買い手企業での製品・サービスの検討においては、世の中に公開されている情報が少ない、あるいは専門性・個別性が高いなどの理由から、検討の初期段階から提供事業者の営業担当を通じて情報収集や比較検討・条件交渉などが行われてきた。

提供事業者の営業マネジメントとしては、こうした顧客からの問合せ・見積依頼などのアクションや、自社営業担当者による訪問・提案・受注などのアクションに関する定量情報(何をどのくらいの量やったか)をもとに予実管理を行ってきた。加えて定性情報として、顧客へのヒアリング結果や担当者の成功・失敗要因などを、対面での報告会議やオフィスで随時行われる会話から吸い上げ、担当者への指示や計画・パイプライン管理への補完的情報として活用してきた。

しかし、以下に示すデジタルシフトやコロナ禍での非対面ニーズを起因とした環境変化により、これらの営業マネジメントのあり方が根本的に困難になりつつある。(図2右)

(1)デジタルシフトによる顧客の能動的な情報収集・比較検討

デジタル化の進展により、普段の消費行動だけでなく、企業の購買行動でもインターネットを利用した情報収集が当たり前となった。従来、検討の初期段階で製品やサービスの提供事業者に情報を求めていたのが、顧客自身で収集可能、場合によっては提供事業者から値引きなどの最終条件を引き出すまで、提供事業者との細かなコンタクトを必要としないケースすら稀ではなくなっている。

このような変化により、検討プロセス序盤の顧客行動(定量情報)や背景にある顧客企業内での課題・ニーズ(定性情報)が営業担当者に見えなくなっており、マネジメントがいかに情報を吸い上げようとしても担当者がそもそも把握できていないということが頻繁に起こりえる。

(2)リモートワーク・非対面を中心とした営業活動管理

各種業務支援ツールの進展やコロナ禍により、営業活動でも在宅勤務や自社への出社を伴わない顧客先への直行・直帰の割合が増加している。この傾向は、コロナ禍の収束後でも継続するとみられている。

営業担当者がオフィスに出社しないことで、マネジメントが案件・受注などの見込みや活動状況を把握しようとする際、業務ツールでの非同期のコミュニケーションや、リモート会議などでの断片的かつ定型化された情報・数値を中心としたものに頼らざるを得なくなり、定量的な側面に偏る傾向にある。もとより、定性的な情報の吸い上げは形式化が難しく、マネジメントの経験値をもとに状況に合わせた柔軟なコミュニケーション方法で行われてきた。しかし、コミュニケーションの場がオフィス内からリモート・非対面に変化することで、マネジメントが把握できる定性情報が希薄化している。

上記の変化により、営業マネジメントの現場では「提案内容での差別化が難しく、値引き勝負を容認せざるを得ない」「自部門のパイプライン見込みが大きく外れる」「KPI見直しやハイパフォーマーの行動指標にもとづく営業力の底上げ施策が、効果に繋がらない」などの悩みが頻発する。

もともと、前章で示した「サービス財中心で、提案の個別性が高い営業」では、顧客ニーズ・商談期間・金額・受注確度などがブレやすい。(要件のハンドリング次第では、数億・数千万円の案件が数百万円に縮むこともあるし、商談に要する期間も数カ月~年単位など様々である。)そこに加えて、顧客や営業担当者の行動や定性的な情報が見えづらくなることで、管理指標であるKPIをいかに精緻に設定して厳格に管理したとしても、見込んだ計画の達成がより困難になっているのである。

図2 「従来型の営業マネジメントにおける変化」

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出所:NTTデータ経営研究所で作成

3. これからの営業マネジメントに必要な要素

それでは、これからの時代に即した営業マネジメントとはどうあるべきか。もちろん、マネジメントのあり方に唯一無二の正解は無く、自社の歴史や文化、既存の組織や人材・スキルレベル、業界や顧客との関係性などによって百人百様の仕組みが存在する。ただし、前述した環境の大きな変化に適応していくためには、土台となる考え方やスタンスのいくつかを根本から見直す必要があり、ここでは以下の2点について紹介する。また、それらの中から、従来型の営業マネジメントと比較した際の「今後求められる要素」として抽出・整理したものを図3に示す。

(1)営業担当者に「顧客の反応に対する考察と判断」を促す

製品やサービスに関して十分な知識を持った顧客に対応するためには、多種多様な課題やニーズに対して、営業担当者がどのような気づきや影響を与えたか、そして顧客の反応はどうであったかなどの定性面の情報に今まで以上に焦点を当てる必要がある。

例えば「ITソリューションを販売する営業において、顧客からグループウェアツール単体の相見積もり依頼を受けた際、顧客の根本的な悩みや課題にまで踏み込み、社員の働き方・生産性の抜本的改善や大幅なコスト削減などに向けたアプローチを顧客に働きかけ、提案ストーリーを共に作り上げていく」といったスタイルである。

【マネジメントの役割】

上記のような営業スタイルは今までもマネジメントの指導の下に行われてきたが、前述のように柔軟なコミュニケーションにもとづく定性情報の吸い上げが希薄化し、定量面の確認・指示に偏りがちな中では、旧来の管理手法が上手く機能しなくなっている。今後は、担当者が考察や発見(インサイト)を自発的に得るための後押し・動機づけがマネジメント自身の役割であることを、より強く意識することが重要となる。

【判断軸】

営業担当者がせっかく自発的に導き出した考察や発見でも、顧客の動きが見えないなどの理由で、失注リスクを排除するためにマネジメントが頭ごなしに否定するのでは意味がない。裏側にある顧客の真の課題やニーズが把握しづらいからこそ、大胆な仮説や挑戦的な提案ストーリーを作り上げて顧客にぶつけてみるなどの、チャレンジを奨励する姿勢をマネジメント自身が見せていくことが重要となる。

【目標指標】

これらのスタイルを成果と結びつけていくためには、短期的な売上・利益数値の偏重ではどうしても不整合が生じる。短期成果とのバランスを取りながら、仮に直近の案件創出に繋がらなかったとしても、長期視点での顧客との関係構築やLTV(Life Time Value)の最大化にも重きを置くことが必要となる。

(2)プロセス横断でビジョンを共有・スキルの育成を行う

旧来は、外部への情報発信をマーケティング部門が担い、顧客化・案件化以降を一気通貫して営業担当者が担うことが一般的だったが、それぞれの顧客の検討プロセスや状況ごとに、提供事業者に求められる役割が大きく変わってきている。今後、自社から顧客に対して気づき・影響を与えて長期的な関係を構築していくには、パイプライン上の単一方向的な案件進捗管理ではなく、個々の検討経緯・顧客の反応・自社との関係性など定性面の状況に応じた、多様なコミュニケーション手段を用意しておく必要がある。

例えば「営業からの提案仮説に対して、検討施策の位置づけを抜本的に見直すなどの前向きな反応を見せる顧客には、一度立ち戻りWebセミナーやワークショップなどを用いて、本来目指したい状態やお互いの協業可能性を発散・収束させる機会を設けてみる」「自社製品を導入済みの既存顧客に、オンライン・コミュニティや遠隔ハンズオン型の顧客サポートを用いて自社提供価値の最大化、アップセル・クロスセル機会の創出を試みてみる」などのイメージである。

【組織ビジョン・運営】

当然、上記のような活動には部門間の連携が不可欠だが、定性情報が希薄化している中では、機能部署ごとに設けられたKPIなどの定量情報を偏重してしまうリスクが高まる。(営業の短期収益見込み数値が低いと、マーケティングに新規リードの創出圧力が強まり、結果として営業はマーケティングから渡される質の良くない新規見込み案件に忙殺される。)こうした事態を防ぐためには、顧客への価値提供を担う各組織横断で、マネジメントが自分たちの重視すべきビジョンや組織運営方針(例えば、前述の顧客へのインサイト・挑戦・長期での顧客関係を重視するなど)を連携・統一し、根気強く現場浸透を図ることが重要となる。

【スキル育成・キャリア】

組織横断のビジョン・運営方針を根付かせ、全社的な顧客への提供価値を高めていくための人材育成のひとつのあり方として、多様な顧客担当ポジションをローテーション型でバランスよく経験させる方法が考えられる。営業一筋のスキルだけではなく、マス向けのターゲット業界共通課題へのアプローチ手法(マーケティング)や、既存顧客への関係強化・取引拡大手法(顧客サポート)なども自分事として体験させることで、機械的な営業ではなく、定性的な顧客の反応やそれに対するインサイトを適切に把握・活用するスキルを身に付けさせるのが望ましい。

図3 「これからの営業マネジメントに必要な要素」

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出所:NTTデータ経営研究所で作成

4. おわりに

今回は「サービス財中心で、提案の個別性が高いBtoB営業」におけるマネジメントに焦点を当てた考察を行った。前章でも触れたように、上記の業態に限っても企業や組織ごとに適する営業マネジメントモデルは異なる。また、営業機能の構築・育成に力を入れている企業の中には「個々の営業担当者のスキル・ノウハウこそ、自社のDNA・競争力の源泉であり、簡単に変えることなどできない」と捉えている企業も多いことだろう。当社ではそのような企業をはじめ、個々の組織の歴史・風土・現状に即した“目指したい姿”の導出や、真に顧客から求められる組織への変革実現に向けて、支援・協働を行っていきたいと考える。

お問い合わせ先

株式会社NTTデータ経営研究所

コーポレート統括本部 業務基盤部

広報担当

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