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Insight
経営研レポート

ウィズコロナ社会における医療介護業界の人材活用の在り方

2020.09.18
ライフ・バリュー・クリエイションユニット
シニアコンサルタント 塙 由布子
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1. 新型コロナウイルスに起因する医療介護業界の現状

 我が国では、2020年5月に新型コロナウイルス(COVID-19)感染者数が一時、減少傾向に向かい、新型インフルエンザ対策等特別措置法に基づく「緊急事態宣言」が全国で解除され、一時患者数は減少傾向にあった。しかし、PCR検査数などの増加により、7月以降は、緊急事態宣言時よりも感染者数が多い状況が続いている。世界的にも未だ日々多くの感染者が報告されている状況で、医療機関は日々新型コロナウイルスへの対応に追われ、医療提供体制の逼迫が懸念されているところである。

【COVID-19の主な国内動向】

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出所:公表資料を基にNTTデータ経営研究所にて作成

 様々な要因があると考えられるが、新型コロナウイルスの死亡率は高齢者が高いとされていることもあり、以前から人手不足が大きな課題の一つであった介護施設は少ない人材での新型コロナウイルスへの対応を余儀なくされている。

 そこで本稿では、医療介護現場の現状や課題を踏まえながら、ウィズコロナにおける人材活用の可能性などを検討したい。感染疑い者、感染者は下図のとおりで、状態に応じて療養先が区分されている。それぞれの療養先に応じて人材面における課題が異なるため、必要とされる職種も専門職の場合、非専門職の場合と様々である。

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出所:公表資料を基にNTTデータ経営研究所にて作成

 新型コロナウイルスの発生に伴い、医療介護現場では人手不足が深刻化していると言われているが、どのような課題が発生しているかを人材面にフォーカスして整理した。

 国・自治体の要請事項や職能団体からの公表事項、医療機関・介護施設における記事をみると、主に「人材確保」「職場環境改善」「業務負荷軽減」が課題になっていると考えられる。

人材確保

職場環境改善

業務負担軽減

医療機関・介護施設の課題

【介護施設】

外国人労働者の活用が進んでいる介護現場では、渡航制限による外国人労働者不足がみられる。

【医療機関】

通常診療と新型コロナウイルスの対応による業務増加や、育児のための時短勤務者の増加などにより人材が不足している。

【医療機関】

新型コロナウイルス患者を受け入れるために、専門的な医療人材の確保、院内感染対策の整備など対応すべき事項が多い。

【医療機関】

感染症法により「医師は新型コロナウイルスなどの患者を確認した場合、地域(各都道府県)の保健所に「発生届」を手書きで所定の用紙に記載し、ファックスにて提出することが必要であるなど、保健所との事務連絡業務が増大。

職能団体の要望など

【日本看護協会】

看護職確保のための活動の実施。

【日本医師会】

「医療危機的状況宣言」を発表。(2020年4月1日)

【全国老人福祉施設協議会】

新型コロナウイルスに伴う介護現場の窮状を課題提起。

【日本看護協会、日本訪問看護財団、全国訪問看護事業協会】

新型コロナウイルスの対応において、看護職(訪問看護含む)の要望書を様々な観点で提出。

国・自治体の対応

【厚生労働省】

新型コロナウイルスに対応する「医療人材の確保」が全国の医療機関で急務として、下記の項目を重点として医療現場や都道府県などに要請している。

(1)現場で従事している医療従事者の離職防止

(2)潜在有資格者の現場復帰促進

(3)医療現場の人材配置転換

【自治体(保健所)】

新型コロナウイルスにおいて、多くの対象者を適切な医療につなげるために短期間で多くの体制整備を実施している。

(1)感染者:疫学調査、入院勧告など

(2)接触者:健康観察、外出自粛要請、必要に応じて健診

出所:公表資料を基にNTTデータ経営研究所にて作成

2. 課題解決のために実施された取り組み事例

 これらの医療介護現場における課題の解決策として、「人材の創出」「ICTなどのデジタル化」「他業種からのサポート」が実施(下図参照)されている。

 さらに今後、今回のような新興感染症などにより、限りある人材(専門職)で全ての対応をすることが難しいことが想定される。そこで、視野を広げると他業界では「人材シェア」を実施して、必要な場所に人材を配置する取り組みが実施されており、医療介護業界にも応用できると考えられる。

本項では、このうちICTなどのデジタル化の具体的な事例および参考になる人材シェアの手法について以下に示したい。

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出所:公表資料を基にNTTデータ経営研究所にて作成

ICTなどのデジタル化の事例

 医療現場では、患者が医療機関を受診してから入院して退院するまでの感染防止対策や業務効率化、また、医療資材の効率的な活用に向けてICTやロボットなどの活用が進められようとしている。

 ICTの活用では情報のデジタル化によってリアルタイムで情報を関係者に共有が可能となり、業務効率化や紙での情報共有で生じていた情報を共有するためのタイムラグが生じにくくなるのが特徴である。特に今回の新型コロナウイルスは症状の急変があることから、リアルタイムでの患者情報などの共有は重要なポイントの一つである。

 医療従事者の感染リスクを低減するために、主に外来業務では、ロボットとAI技術を活用し、非接触での受診者の問診・スクリーニング・誘導を行っている事例がある。また、病棟では、ロボットとAI技術を活用することで、絶え間ない巡回や見守りなどの患者サポートが可能となる。人が実施する場合には、シフトによる交代勤務となるため、防護服などの医療資材も消費することとなるが、ロボットを活用することにより医療資材の効率的な活用にもつながることが期待されている。

 また、新型コロナウイルス感染者は症状が急変することも多いため、日々バイタルデータなどのモニタリングが必要とされている。AIを活用することで個別の状態に合わせたテーラーメイドのバイタル管理と、個別特性に応じた結果のフィードバックを可能にし、現場での記録業務などや過去情報からの分析の効率化を可能とした。

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出所:公表資料を基にNTTデータ経営研究所にて作成

他業界の「人材シェア」の事例

 他業界では、今回の新型コロナウイルスの影響で仕事量が減少した業界から、人材を探している業界で人材を活用する取り組みが多様な形態で行われた。なかでも医療介護業界においても参考となるという点で、特に注目したいのは、企業間(業種間)における「人材シェア」である。

 一時的に仕事が減少している業種(企業)の従業員が、人材が不足している業種(企業)にて、一時的に仕事に従事し、仕事の需要が戻ってきた場合は元の仕事に従事できるところがポイントである。

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出所:公表資料を基にNTTデータ経営研究所にて作成

 人材シェアの具体的な事例としては、以下のようなものがある。飲食店で調理を担当していた従業員は、店舖の休業により仕事を一時失ったが、調理に携わる者として生産現場を知るため、休業中は、人材シェア制度を活用して収穫作業が忙しい農園での作業に従事するなど、本業でも役に立つような仕事に従事した。観光業では、営業職の従業員を人手が必要なクラウドサービス会社に出向させ、資本提携などを超え、営業や顧客サポート人員など職種が重複する人材を在籍出向という形で人材のシェアを行った。その他にも、飲食業からスーパーマーケット、航空業界から自治体業務のサポートなど、実際に様々な人材シェアが行われている。

 医療介護業界においても、専門職(国家資格保持者など)が本来の業務に専念するために、その周辺業務のサポートを他業界の人材が実施することも可能であると考える。

3. ウィズコロナにおける医療介護業界の在り方

 新型コロナウイルスの感染者数は増加傾向にあるが、未だワクチンは完成しておらず、治療法も確立されていない。

 今後、私たちは個人として「感染予防」「体調管理」を徹底し、政府が提唱している新しい生活様式にも柔軟に対応していく必要がある。

 そのような制約がある中、企業は、経済活動を止めることはできず、新しい生活様式を取り入れながら活動せざるを得ない。よって、企業は、ウィズ コロナで個人(従業員)が予防を徹底できるサポートや体調管理のサポートをしていく必要がある。体調管理のサポートでは、今回の事例で紹介した医療介護現場で使用されているAIを活用した日々のバイタルチェックのシステムの企業版がリリースされており、そのようなシステムを活用して体調変化の兆候を発見し、重症化・拡散抑制を行っていく必要がある。

 一方で、新型コロナウイルスの感染疑いや発症者については、医療介護従事者の感染リスクの低減と特定の医療機関に新型コロナウイルス感染者の対応が集中しないような対策を実施し、医療崩壊に至らない社会システムが必要である。

 その対策として、ICTやロボットを活用した非接触の取り組み、国家資格者が新型コロナウイルスの患者が増加しても肉体的・精神的負担が増加することなく本来の業務(医療サービス)に専念できる体制や仕組みが必要である。

 さらに、国家資格者が本来の業務(医療サービス)に専念するには、その他の周辺業務は一定の研修は必要ではあるが、他業種からのサポートを取り入れ、地域医療が崩壊しない体制づくりや地域の雇用維持・創出を同時に地域の実状に合わせて実施していく必要がある。そのため、各地域においては、平時から企業と医療機関や介護施設間の交流が重要である。例えば、医療機関が自治体と連携して、企業向けに感染対策講座、妊産婦や高齢者への対応、緊急時対応などの出前講座を実施することで、企業側は医療分野への知識や関心が高まり事業への応用も検討できる。

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出所:公表資料を基にNTTデータ経営研究所にて作成

 これまで医療介護分野の人材シェアは難しいとされていたが、平時から非常時に必要な知識を学ぶことで、下図で一部紹介しているように、ロボットでは行き届かない部分の消毒やサポートが必要な方の誘導、簡単な見守りや巡回は可能である。

 このように、平時でも活用できる知識を応用して非常時における医療介護分野の人材シェアの活用可能性は広がると考える。

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出所:公表資料を基にNTTデータ経営研究所にて作成

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