コロナ禍が早める住宅ローンビジネスの限界
~地方移住を起点とした新たな銀行ビジネスの必要性~

金融経済事業本部 金融政策コンサルティングユニット
シニアマネージャー 菊重 琢
コンサルタント 髙木 真弥

1. コロナ禍により不可逆的に変わる価値観と行動様式

 昨今のコロナ禍により、我々の生活様式は大きな変化を余儀なくされた。街中ではマスクをしていない人の方が珍しくなり、テレワークに移行している企業も少なくない。外食はマスクを外す必要があることから敬遠される傾向にあり、テイクアウトやリモート飲み会が急速に普及している。これらの変化には新型コロナウィルスの脅威が続く間の一時的なものもあるだろうが、新たな生活様式の中で生まれた“気付き“に起因する変化については、価値観の変化を伴って不可逆的なものになると考えられる。冒頭にも挙げたテレワーク普及に代表される働き方に関する変化は、そのうちの一つである。本レポートでは、これらの不可逆的な変化がもたらす銀行の住宅ローンビジネスに与える影響と、銀行の新たなビジネスモデルについて考察を加えていく。

2. 都心オフィス需要の減退から予見される住宅ローンビジネスの崩壊

(1)高価なオフィスはもういらない

 今回のコロナ禍では、図らずも多くの企業や会社員がオフィスに出社する必然性について改めて確認する契機となった。確かに一部の業種・職種においては、業務上出社・出勤が必須なケースもあるが、社内外の打ち合わせや資料作成については特段オフィスに出向かなければ実施できない業務ではない。決裁を伴う事務処理についても、インフラさえ整っていればリモートで十分可能だ。さらに、接客業や営業職など直接顧客と対峙する業種・職種であったとしても、その接客・営業形態さえ変われば、出社する必然性がなくなるケースもあるはずだ。

 令和元年の総務省「通信利用動向調査」によると、「テレワークを導入している」又は「具体的な導入予定がある」と回答した企業は令和元年9月末時点で3割に上る。情報通信業に至っては46.5%がテレワークを導入している状況だ。これはコロナ禍前の調査結果であるが、昨今のコロナ禍を受けたテレワークへの移行の動きは様々な企業にも波及しており、この流れは不可逆的なものに思える。

図表1:コロナ禍における在宅勤務体制
企業名 概要
富士通
  • 自宅やサテライトオフィス、出張先や移動中など、場所にとらわれないフレキシブルな働き方を可能とする「テレワーク勤務制度」を2017年4月21日から正式導入
  • さらに、7月6日に2022年度末までにオフィスの規模を半減すると発表。今後は約8万人の国内グループ社員を対象に、在宅勤務を標準とした働き方に移行する予定
日立製作所
  • 日立製作所は5月26日、新常態(ニューノーマル)を見据えた「新しい働き方」を発表
  • 新しい働き方では、在宅勤務の活用を標準として、「働き方の多様化」を推し進めるとしている
ヤフー株式会社
  • ヤフー株式会社では、2020年10月1日より時間と場所に捉われない新しい働き方へと移行するとして、リモートワークの回数制限およびフレックスタイム勤務のコアタイムを廃止
  • 最大月7,000円の補助(どこでもオフィス手当4,000円+通信費補助3,000円)や通勤定期券代の支給停止(通勤交通費は実費支給)も行う
GMOインターネット
  • GMOインターネットグループでは、新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、2020年1月27日から渋谷区、大阪市、福岡市のオフィスに勤務する約4000名を対象に原則在宅勤務とする体制を敷いている
  • 2020年7月15日(水)からは出社許可制で原則は在宅勤務とする体制へ移行。今後の体制については、外部環境に応じて判断

出典:各社報道発表資料からNTTデータ経営研究所作成

 これらの企業の動きは、都心を中心としたオフィス需要が今後長期的かつ大幅に減少する可能性を示唆している。テレワークが定着すれば当然オフィスの立地にこだわる必然性が低下し、都心部のオフィス需要は低下するであろう。また、必要最低限の人員さえ確保できるスペースさえあればよいので広いスペースも不要だ。実際に、近年増加基調にあったオフィス需要は、大幅に下振れる見込みである。東京都心におけるオフィスの空室率は2020年2月まで低下傾向にあったが、3月から6月まで4カ月連続で上昇しているとの報道もある。来年にはオフィス需要が回復するという見立てもあるが、全世界に甚大な影響を及ぼしたコロナ禍によって、企業や人々の行動が不可逆的に変化し、長期的なオフィス需要の低下につながったとしても不思議ではない。

(2)住む場所選びの優先順位が変わる

 コロナ禍における緊急事態宣言期間から在宅で仕事をしているビジネスパーソンの中には、自宅スペースや家族の問題から窮屈な思いで仕事をこなしている方も多いことだろう。今後テレワークや自宅授業などのリモート勤務・教育が一般化した際、人々が自宅に求める役割は拡大する。その時、相応のスペースや設備が求められつつも、都市部においてそのような住居を購入・賃貸するのは一般の企業勤務者にとって金銭的に難しいのが実情であろう。さらに、テレワークであればそもそもオフィス近くに住居を構える必要性は低く、土地代が低い郊外での比較的高機能な住宅購入に需要が移行する可能性が高い。実際に、昨今では郊外のマンションや戸建て需要が急激に回復・増加しているとの報道も多くみられるようになった。

 また、コロナ禍以前から都市部居住者による地方部への移住については関心が高まっている。認定NPO法人ふるさと回帰支援センターが公表している地方移住相談に関する来訪者・問い合わせ数は年々増加傾向にある。また、同センター利用者の年代は多少の上下はありながらも20代から30代の若い世代が増加傾向にあり、2019年には利用者の4割を占めるまでになっている。しかしながら、地方移住への関心が高まりつつも都市部居住者が移住に踏み切ることができない最も大きな要因が仕事である。

 2017年に一般社団法人 移住・交流推進機が実施した調査によると、移住に関心を持ちつつ移住に至らない要因について尋ねたところ48.4%が仕事関連の要因を挙げている。これは、今の仕事をやめ、移住先で新しい仕事に就くことを前提としているが、図らずもこのコロナ禍によってインターネット環境さえあれば今の仕事を辞めずとも移住が可能であるということに、多くの業種・職種の企業・個人が気付くきっかけとなった。このことからも、中長期的にみると仕事という大きなボトルネックは解消に向かい、住宅需要は郊外からさらに地方部や過疎地機へと広がっていく可能性がある。

(3)住宅ローンビジネスの長期的展望

 企業経営上、オフィス賃料の負担なく業務を遂行可能であるのならそれに越したことはない。既に一部の企業では、今回のコロナ禍をきっかけとしてオフィス無しで業務遂行を行うことによる経済的なメリットを見出し、リモートでの環境構築に舵を切り始めている。また、教育についてもリモートでの取り組みが志向されており、これまで社会生活上の事情から事実上限定されていた居住地区に関する制約がますます緩和されていくことだろう。前節で述べた通り、直近では住宅需要が都市部から郊外に住宅需要がシフトすると考えられるが、長期的には安価かつ広いスペースを確保したいという要望を満たすことができる空き家問題に悩む地方都市や過疎地にまで需要が広がる可能性がある。その場合、住宅ローンビジネスでは大きな残高を積み上げることは難しくなるかもしれない。

3. 銀行主導による移住支援ビジネスの可能性

(1)移住を主導する自治体の限界

 人口減少に悩む各自治体では、空き家の賃貸・売却を希望する所有者から提供された情報を集約し利用希望者につなぐ「空き家バンク」の運営や、総務省の支援のもとでの都市部居住者との交流を深める取り組みなど、移住促進に向けた種々の施策を講じている。しかしながら、必ずしも効果的な施策となっていないケースも多いのではないか。

 移住促進の目的を達成するには大きなプロセスが存在する。例えば人口増加を目的とした際には、そもそも移住ターゲットとなる層に対して当該自治体の存在を認知してもらい、関心興味を抱いてもらった上で、他地域や手段との比較検討の上で当該地域を選んでもらい、実際の移住実行を行ってもらう、さらには、移住後に確実に定着してもらうなど、移住・定住に至るまでのプロセスを分解し、プロセスごとの課題・施策を検討する必要がある。例えば移住希望者の間で認知度が高く移住者が多いとある自治体があったとする。一見成功している様にも見えるが、何らかの理由で定着率が低ければ穴の開いたバケツのように人口は中々増加せず目的は達成できない。逆に、ある自治体では移住後の定着率が高くとも、認知率が低ければそもそも興味関心を持つ人、比較検討を行う人の数自体が少数であるため、移住者数は限定的となってしまう。移住促進のためには、プロセス全体を俯瞰した対策を講じることが重要となる。ただし、仮にプロセス全体を概観できたとしても、自治体単独でプロセスごとの支援策を整えるのはスキル面からもマンパワーの面からも困難ではないだろうか。

 例えば将来的な移住先物件候補として増加する空き家の活用が期待されている。現在では過半数の市区町村が空き家バンクを設置しており、それらの情報は国土交通省が推進する「全国版空き家・空地バンク」(民間の2事業者が運営)に集約されているが、個々の市区町村ごとに登録されている空き家件数をみると少数にとどまっているのが現状である。平成30年1月~2月に実施された調査によると登録物件数10件未満の市町村が合計で5割超となっており(図表2)、個々の自治体単位で見たときに、空き家バンクの登録件数が一桁では移住者増加を目的とした情報提供手段として意味を成しているとは言い難いのではないだろうか。

図表2:空き家登録物件数(市町村)
図表2:空き家登録物件数(市町村)

資料:「平成29年度 空き家バンクに関する調査 調査研究報告書」(平成30 年 2 月 (一財)移住・交流推進機構)より抜粋

(2)銀行による従来型マッチングビジネスの限界

 さて、話は変わるが、人口減少や少子高齢化に伴い、地方銀行や信用金庫の収益基盤が悪化しているのは周知の通りである。地域金融機関はこれまでにも店舗削減や事務処理集中化等により経営効率化施策を推進してきているが、既存ビジネスの効率化だけでは持続可能なビジネスモデルの構築は困難だ。そこで注目されるのは収益源の多様化であり、その代表格がM&Aや事業承継等の手数料ビジネスといえる。M&Aや事業承継については、地域の産業を守り顧客基盤を維持する地域振興という側面もあり、近年では多くの金融機関が中小企業向けの事業承継ビジネスに参入している。一方で、本分野では既に老舗といえるプレイヤーが存在している中、銀行・信用金庫、さらには証券会社の他にも、様々な業種からの参入が相次ぎ(図表3)競争は激化の一途をたどっている。

図表3:中小企業向け事業承継サービス例
参入業態 マッチングサイト名/サービス名 概要
既存会社の参入 バトンズ(M&Aセンターから)
  • 2018年に日本M&Aセンターから分社化、アンドビズ株式会社を設立
    2018年バトンズ株式会社に変更
M&Aパーク(エムアンドエー株式会社)
  • エムアンドエー株式会社が2017年からサービスを提供
M&Aプラス(デロイト)
  • デロイトトーマツが2017年に株式会社ディスコから事業を譲り受ける(サービス自体は2015年から開始)
他業種からの参入 事業継承総合センター
  • リクルートが2018年からサービスを提供
事業継承に関するソリューション・サービス
  • オリックスが2019年からサービスを提供
ベンチャー企業の参入 トランビ
  • アスク工業株式会社の一事業部として、2011年からサービスを提供
  • 2016年に株式会社トランビを設立
ビズリーチ サクシード
  • ビズリーチが2017年からサービスを提供

出典:報道資料等からNTTデータ経営研究所作成

 競争激化の結果として、小規模案件にまで手を広げざるを得なくなることが想定されるが、小規模案件の場合フィーが少ない一方で業務負担は基本的に同じであれば、多くの案件数をこなしたとしても大きな手数料収入を上げるのは難しくなってくるだろう。

 そこで注目されるのが、地域経済に貢献し、かつ持続可能なビジネスモデルの構築に資することのできる、地方への移住促進・斡旋・定着を目的とした新たなビジネスだ。

(3)銀行にとってのビジネスチャンス

 前述した通り、銀行におけるM&A・事業承継は有望なビジネス分野でありながらも競争環境は激化する見込みである。一方で、コロナ禍における企業や企業勤務者の価値観・行動が不可逆的に変化することにより、地方移住などの都心離れをキーとしたビジネスチャンスは増加する。移住対策の主体は自治体であるが、スキルやマンパワーの観点から自治体単独で網羅的かつ効果的な移住施策を講じるのは難しいと思われ、ここに銀行としてのビジネスを広げる余地があるはずである。現時点においても、自治体と銀行が提携し移住者を対象とした仕事・住宅に関する相談受付や優遇ローンの提供等を行っているケースが散見されるが、銀行からみると収益確保というよりは地域社会への貢献という観点から取り組んでいるケースが多かったのではないだろうか。

 基本的に銀行の取り扱う金融商品は、それ自体にニーズが有るものではなく、何らかのライフイベント等に合わせて副次的に発生するものである。例えば住宅ローンは、住宅ローン自体にニーズが有るのではなく、住宅購入ニーズを満たすために必要な一つの手段でしかない。個々の金融商品を如何に販促していくかという視点ではなく、ある特定のニーズを満たすための一連の流れをコーディネートし、ニーズを実現するのに必要な手段・要素を内部・外部のサービスを組み合わせて提供するプラットフォーマーとしての役割を果たすことが今後の銀行にとって理想的なサービスの形であると筆者は考えている。その意味でも、都心を離れ、郊外や地方への移住が促進される流れの中で、地方移住に必要な現地リソースとのマッチング機能の提供がプラットフォーマーとしての銀行の新たなビジネスモデルになる。

 例えば移住先となる自治体の認知や興味を広げるための情報提供活動の一つとして「空き家バンク」があげられるが、前述した通りその登録件数が1桁に留まっている自治体が過半数を占める状況にある。銀行としては、地域の不動産会社との連携を通じて空き家バンクの運営に参画することで、空き家バンクの登録物件増加や、移住時に利用可能な各種補助金の情報提供や申請補助等を行うなど新たなサービス・顧客接点を持つことができるようになる。また、空き家を購入・リフォームする場合はニーズに合った事業者の紹介と合わせ、従来の金融商品(住宅ローン、リフォームローン、保険等)もトータルで提案することが可能となる。さらには、移住後の安定的な定住に向けた支援も必要だ。移住者が安定して地方に根付くためには、教育や医療環境などのインフラの他、地域での人間関係やコミュニティの形成も重要となる。銀行が地域の中核として、非金融サービス業者と移住者をつなぐ一次窓口としての役割を果たせるようになれば、マッチングビジネスの幅を拡大できると同時に、顧客のライフスタイルやライフイベントに応じた金融商品の販売も可能となるだろう。このように、持続可能なビジネスモデル構築のためには、金融商品単位のビジネスではなく、顧客ニーズを真に満たすためのプラットフォーマーとして自らの存在価値を定義しなおす必要がある。

4. 銀行にとっての住宅ローンビジネスとは

(1)数年後に住宅ローン残高の減少に直面する可能性

 長く、住宅ローンビジネスは貸付単価が大きく預貸率の維持・向上にも寄与することからも個人向けローンの中で重要視されてきた。しかしながら、長引く低金利環境下において住宅ローンビジネスの収益性は低い状況にあり、既にメガバンクは積極的な融資拡大を控えている。一方で、これまで銀行の住宅ローン残高は順調に増加していることから、ある程度収益性が低いことは致し方ないとの考え方も成り立っていたが、統計情報やコロナ禍の影響を踏まえると直近の住宅ローン残高でさえも数年の間に減少に転じる金融機関が発生するのではと考えている。

 その第一の要因として、コロナ禍とは無関係に、銀行の住宅ローン残高は頭打ちになっている可能性が高いことがあげられる。図表4にある通り、これまで国内銀行と共同組織金融機関における住宅ローン残高は一貫して増加傾向にあった。一方、住宅ローン市場全体の残高は180兆円から190兆円程度で一定に推移している。つまり、国内銀行や共同組織金融機関の残高増加は、一貫して減少している住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)による直接融資分の残高シェアをそのまま吸収する形で実現してきたことがわかる。しかしながら、2018年度時点で住宅金融支援機構の直接融資残高シェアは既に3%程度まで縮小しており、市場が拡大しない限り銀行が住宅ローン残高を伸ばす余地はほとんど残されていない。

図表4:住宅ローン貸出残高推移
住宅ローン貸出残高推移

出所:住宅金融支援機構「住宅ローンの新規貸出及び貸出残高の推移」よりNTTデータ経営研究所作成

 第二の要因として、コロナ禍の影響による住宅ローンの借り換え需要の高まりがあげられる。コロナ禍がもたらした日本経済への影響は甚大であり、自営業者はもちろん企業勤務者についても年収低下のリスクが高まっている。銀行では住宅ローン返済に関する相談が急増していると言われているが、返済に悩みを抱える全ての住宅ローン契約者が既存借入先の金融機関に相談するとは限らない。長引く低金利環境下において住宅ローンは借り換えしやすい環境が続いており、条件さえ合えば他の金融機関への借り換えが発生しうる。銀行住宅ローンの残高拡大が難しい局面を迎えている中で、コロナ禍の影響により金利や借り換え手数料等で劣位な金融機関から優位な金融機関への借り換えが頻発すると、銀行間での勝ち負けがはっきりと分かれ、一部銀行では住宅ローン残高が減少に転じることとなる。

(2)住宅ローンビジネスの位置付けを再確認

住宅ローン残高維持のためには既存顧客に対して積極的な働きかけにでる必要がある。借り換えを考えながらも相談に訪れない既存住宅ローン契約者に対し、あえて銀行自らがその意向を確かめ、ニーズの顕在化を図ることができれば、借り換え防止策として有効に機能するであろう。当然ながら事務負担は増えるし、条件を変えれば利幅も減る。顧客ロイヤルティ向上と顧客接点の維持のためにそれを甘受するというのも経営判断である一方、消耗戦にも思える住宅ローンビジネスへの積極的な注力を控えるのもまた経営判断である。

 自行にとって収益性の低い住宅ローンビジネスを継続する意義はどこにあるのか、そもそも持続可能なビジネスモデルを構築する上で取り組むべき施策とは何なのか、今一度見直すべき時が来ている。

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