現在、新型コロナウィルス感染症のパンデミックにより、空港の事業環境は非常に厳しいものになっている。ICAOの集計 ※1 によると、2020年5月12日現在、世界全体の空港離陸数は3カ月前の9%弱にまで落ち込んでしまっている。我が国や韓国もその例外ではなく、両国の空港離陸数は概ね3カ月前の15%程度にまで落ち込んでいる。しかも、飛行する旅客機内はガラガラの状態が続いており、空港内も閑散とした風景である。その影響は計り知れない。
IATAの予測 ※2 によると、パンデミック前の旅客需要水準を回復するのには少なくとも5年を要するとのことである。
今後、ウィズ・コロナの期間がかなり長く続くと見込まれる中、空港事業やエアラインをいかに効果的に建て直すかについては、国政のリーダシップが欠かせない。資金援助等の緊急支援措置はもちろん重要である。しかし、これが効果的に機能するためには、パンデミック以前から官民がどれだけ実効的に連携し、将来戦略の実現に向けた基盤整備に着実に取り組んで来たかが大きくものをいうような気がしている。
韓国では近年、政府が率先して、戦略的に空港整備に取り組んで来た。本稿では、その内容を概観する。
なお、本稿の執筆にあたり、韓国語で書かれた関連政府文書の紹介及び邦文抄訳提供等では韓国OPEN INNOVATION LABのJee-Youn PARK社長に、我が国の空港事業の現状分析等については当社アドバイザーの安田裕介氏に、それぞれ大変お世話になった。この場を借りて心より謝意を表しておく。
1. はじめに
世界でスマート空港化の取り組みが始まったのは、何年も前のことである。欧米をリードする先進空港では既に多くの先端的取り組みが報告されているし、我が国でも3~4年前からIoT・ロボット活用やFAST TRAVEL推進等で衆目を集めている。
中国ではファーウェイが最新の北京大興国際空港に本格参入し、5G技術・AI・自動運転・エッジコンピューティングを強力に展開している。これらの取り組みを俯瞰すると、スマート空港の発展は、概ね次の順序で進展していると分析される。
① 旅客の利便性向上
② オペレーション業務の改善(グランドハンドリング、警備・保安)
③ 空港と中核とした地域産業連携、空港と連携したスマートシティ展開
ちなみに、我が国では①に重点を置いており、昨年度あたりから②としてグランドハンドリングや警備・保安を支援するロボットの導入が始まったところである。
他方で、韓国はどうかというと、国の政策で①②③をすべてカバーする戦略を持っており、仁川国際空港などで実際にその成果を見ることができる。韓国の特徴は、政府が、空港が行うべき業務の内容と範囲を深く理解した上で将来戦略を主導し、官民連携して計画の実現を進めていることである。また、スマート空港を未来の新技術のテストベッドとして捉え、空港で成功したDXの手法を社会に展開するビジョンを明確に持っていることも強みであると言える。
2. 韓国政府の「第4次産業革命」におけるスマート空港の位置付け
我が国では、「Society 5.0」の実現を強力に推進することで未来社会のデジタル革命とSDGsの達成をめざしているが、韓国では革新成長のための、人を中心とする「第4次産業革命」を推進している。重点を置いている「知能化技術」はAI、ビッグデータ、IoT、ロボット、自動運転等であり、特に目新しいものではない。
しかし、韓国政府は2017年末の段階で、産業・社会分野における知能化革新プロジェクトの1つとして、「スマート空港総合計画」に重点を置いて推進している点が注目に値する。さらに、国土交通部が2019年末に発表した「第3次航空政策基本計画(2020~2024年)」においても、スマート空港水準の拡充に重点が置かれるとともに、整備・グランドハンドリング・空港用装備メーカ等との連携推進により空港の産業ネットワーク化を推進するとされている。
次節以降では、韓国政府の空港政策立案の主体となる国土交通部の体制と、2017年以降の空港関連政策について詳しく見ていく。
3. 韓国国土交通部の空港政策立案の体制
韓国政府においては、空港政策を所管するのは「国土交通部航空政策室」である。国土交通部の英文Webサイトには現在の韓国の航空政策が公開されているが、「便利で安全な航空交通サービスの提供」「仁川国際空港(IIA)の北東アジアのハブ空港化の推進」「非運送事業を育成するための基礎構築」「航空大国としての韓国の地位強化」の4本柱で構成されている。この中から、空港整備に関係する主要政策を抽出すると以下のようになる。
<便利で安全な航空交通サービスの提供>
- サービス都市と国際航空路線を増やし、アジア最大の航空輸送ハブを目指す
<仁川国際空港(IIA)の北東アジアのハブ空港化を推進>
- 約18年間運営されてきた仁川国際空港を「北東アジアのハブ空港」にするための第3期拡張事業を実施
- 仁川国際空港の、貨物取扱能力(第2位)、旅客輸送能力(第8位)に裏打ちされた世界有数のエアポートとしての地位を確固たるものにすること
- 2015年5月現在、87の航空会社、187の都市、週2,616便が就航
- エアポートカウンシル・インターナショナル(ACI)の空港サービス品質(ASQ)リストで12年連続トップ(2005年~2016年)
- セルフチェックイン機、自動化ゲートなど、洗練されたIT融合システムを適用し、世界最高水準の出入国サービスを提供
<非運送事業を育成するための基礎構築>
特になし
<航空大国としての韓国の地位強化>
- 国際民間航空機関(ICAO)による航空安全・セキュリティ評価で世界トップレベルを維持
- 国際基準適合率:安全性98.59%、セキュリティ98.57%
- 若年層の雇用創出と航空産業の発展を目的とした航空労働力育成事業の実施
- 専門学校、インターンシップ、基本スタッフ研修など
これらの政策を主導する国土交通部航空政策室は、次のような構成となっている。このうち空港の開発計画・施設拡充・周辺地域開発、空港騒音対策・環境管理、空港認証/安全管理・点検等を所管するのは、空港航行政策官、空港政策課、空港安全環境課等であると考えられる。
(国土交通部航空政策室の構成)
- 航空政策官
- 航空安全政策官
- 空港航行政策官
- 航空政策課
- 国際航空課
- 航空産業課
- 航空保安課
- 航行安全チーム
- 運行政策課
- 運行安全課
- 航空技術課
- 航空管制課
- 航空資格課
- 空港政策課
- 空港安全環境課
- 航行施設課
4. 韓国のスマート空港総合計画のポイント
革新的成長に向けた人中心の「第4次産業革命対応計画」※3 によると、「社会問題の解決によるQOL向上と新たな成長の促進」のための実現目標において、スマート空港は「スマート交通」の一要素と位置付けられている。具体的な目標設定を以下に示す。
【スマート空港に関する目標設定】
- 2017年12月時点:
IoTやAIを活用して空港利用の全プロセス(自宅→空港→手続き→離陸)と空港サービスの効率化を体系的に進めるべく、スマート空港総合計画を策定する。
- 2022年の達成目標
出国手続き時間17%削減、施設拡充コストを年2,000億ウォン削減
このように、第4次産業革命対応計画の段階で、空港利用(旅客の利便性向上)と空港サービス(オペレーション業務の改善:グランドハンドリング、警備・保安)の体系的な効率化が既に謳われている。スマート空港総合計画は、この基本方針に基づき、旅客体験と空港運用の両方に重点を置いた内容として立案されたものと考えられる。
また、国内外の課題分析に基づき、「世界的な空港運営の競争力を基に、ICTなど国内の強みを活かし、世界最高水準のスマート空港を実装する」ことを目標として掲げている。この中で、課題克服の方向性として提示されたのは次のような項目である。
民間任せにすると、旅客プロセスの改善へと努力が集中し、空港運用の改善が後回しにされる傾向が強まるものと推察されるが、国家戦略として国が民間を主導することで、空港運用の改善を地方空港にまで浸透させる推進力が生まれるものと期待できる。
- 分断された旅客プロセスの全体を改善すること
- ビッグデータを活用し、事後対応から予測に基づく事前対応へのシフト
- ビッグデータを活用し、属人的な空港運用からデータに基づく運用に転換
- 施設拡充による空港容量増大から、先端技術適用による空港運営の効率化への転換
- スマート空港の海外輸出
以上のような国家戦略からの要請や課題克服の方向性を受けて、国土交通部航空政策室は重要6項目からなるスマート空港総合計画※4を提言した。図表1にその概要を示す。
図表1 スマート空港総合計画の6つの戦略目標と具体的な推進課題
戦略目標 | 具体的な推進課題 | |
---|---|---|
スマートアクセス交通 | 自宅での発券と荷物タグ印刷: | 航空・鉄道連携サービス: |
駐車場及びリムジンの利便性向上: | 荷物宅配サービス: | |
スマートプロセス | 生体情報に基づく手続: | 共同利用する旅客処理システム: |
保安・セキュリティ検査の改善: | 航空物流システムの簡素化: | |
スマート情報サービス | チャットボット、パーソナライズ情報提供: | スマートデジタルサイネージ: |
VR体験施設: | スマート免税店: | |
スマート空港運営 | ビッグデータに基づく旅客フロー管理: | IoTを用いた空港施設の管理: |
ターミナル内のセキュリティ強化: | 航空管制システムの高度化: | |
スマートテストベッド | ロボットの導入拡大: | ドローンを活用した施設管理: |
シャトルサービスの自動運転: | 水素自動車の導入: | |
スマート空港の海外輸出 | 韓国型のスマート空港モデル確立 | 韓国型スマート空港の認証制度構築 |
様々な分野での海外展開 | 関連機関の会議体の運営 |
また、これらの計画推進の目標として、新たに追加した2項目を含む4項目からなる2022年の達成目標を改めて提示している。
① 出国手続き時間17%削減
② 空港施設拡充コストを年2,000億ウォン削減
③ 空港運用コストを年99億ウォン削減
④ 新規雇用の創出(6,320人)
韓国では全ての空港を2つの国有会社(仁川空港公社、韓国空港公社(仁川国際空港以外))が運営しているため、政策意思決定の構造が単純であり、国土交通部航空政策室の意識も必然的に高くなるものと思量される。
このためスマート空港総合計画は、アクセス交通・手続き面・情報提供・空港運営・技術テストベッドのスマート化を幅広く網羅しており、さらにこれ自体を海外輸出して認証するという優れた構造になっている。
また、空港運営の現場に精通している専門家(当社安田アドバイザー)によると、政策側が空港利用者と運用現場職員の視点を有しており、現実の課題を良く理解しているため、推進課題が具体的に提示されているとのことである。
筆者は、この計画のなかでも、特に以下の推進課題が野心的であると考えている。
- 空港と鉄道が連携した発券の実現。チケット予約・発券と交通予約が連携した情報提供サービス
- 空港の駐車場が混雑している際に、民間駐車場を紹介、又は公共交通利用を案内するサービス
- チケットをスキャンして高速動線を案内するサービスの提供
- ビッグデータを用いた予測に基づく人・設備運営の最適化による旅客処理能力向上
- 空港運営全般の司令塔となるスマート空港情報統合センターの構築・運営
- 韓国型スマート空港の海外輸出と認証制度構築
5. 第3次航空政策基本計画(2020~2024年)に見るスマート空港政策の進歩
2019年12月末に、第3次航空政策基本計画 ※5 が公表された。この基本計画は、航空と空港を総合する国土交通部航空政策室の最上位の計画である。権容復(クォン・ヨンボク)航空政策室長によると、「今回の第3次計画では数年以内に表面化するアーバンエアモビリティ(UAM)商用化に向けた下地作りなど、未来航空交通の新たな1ページを提示し、航空産業が観光・製造・物流・サービスなどと連繋した総合ネットワーク産業として成長していくように力点を置いた。」とのことである ※6。
この内容をレビューしてみると、2017年末に公表されたスマート空港総合計画の方策がさらに発展・強化された様子を見て取ることができる。また、ドローンタクシー等のアーバンエアモビリティ育成に重点投資することを宣言している点もとても興味深い。
以下では、まず第3次航空政策基本計画の空港関連部分を抜粋した上で、その内容について分析を試みる。まず、空港関連の政策だけを抜粋したのが図表2である。筆者が特に注目した箇所に下線を施してみたが、参考になれば幸いである。
図表2 第3次航空政策基本計画(2020~2024年)における空港関連政策の概要
戦略目標 | 具体的な推進課題 |
---|---|
未来航空産業の革新的パラダイムの構築 | 航空·観光融合·複合による新たな価値の創出: (1) 観光·航空融合·複合を通じたインバウンド市場の創出 (2) 地域の国際社会連結機能の強化 (3) 地域空港サービスをグローバルレベルにアップ |
新しい価値創出のためのハイブリッド航空ネットワーク強化: (1) 超差別化のための仁川空港競争力の強化: (2) 地域別オーダーメイド路線の開設等の地域空港ネットワークの拡大 | |
世界最高水準のスマート航空安全: (1) ビッグデータ中心の最上位の安全システムと政策体系の構築 | |
韓国型空港モデルパッケージの輸出: (1) 韓国型空港輸出パッケージの開発 (2) 官民の強固なチーム構成による輸出活性化 (3) 国家ブランド強化を通じた輸出競争力の最大化 | |
スマートを体験でき、普遍的·継続的な航空サービス実現 | スマートで持続的な空港サービスの高度化: (1) スマート空港を通じた新しい旅客体験の創出
(2) 生体認証システムによるワンストップセキュリティの実現
(3) 空港ターミナル以外のスマート搭乗手続きを拡大
|
空港を地域経済·企業成長のプラットフォームとして構築 | グローバル時代に備えた空港のアンカー戦略の推進: (1) 空港の地域アンカー化のための政策の方向性確立
(2) 空港を活用した地域産業生態系の構築 (3) ビジネス拠点の構築による地域産業連携の強化 |
アクセス改善により空港をコミュニティの中核として整備: (1) 空港利用客の利便性を最大化するための交通システムの改善 (2) 空港事業におけるアクセス交通事業の実効性を強化 | |
先端技術育成のための空港のテストベッド化推進: (1) 中小企業の技術育成·海外進出支援のための技術プラットフォームの構築 (2) 未来技術の導入を検討するためのテストベッドの整備推進 | |
ビッグデータとAIに基づく隙のない航空安全性・セキュリティの実現 | 隙のない航空セキュリティ管理体系の構築: (1) 最高水準の航空セキュリティのための機能強化 (2) ビッグデータを活用したリスクベースのセキュリティシステム構築
|
未来型先端保安検査装置の性能認証システムを構築: (1) 先端保安検査装置の性能認証システムの高度化
(2) 新技術を活用したセキュリティ基盤の構築
|
2017年末公表のスマート空港総合計画と比較してみると、航空・鉄道連携、駐車場利便性向上、共同利用設備、旅客フロー管理、水素自動車導入等、一部印象が薄まった政策は存在するものの、その他ほとんどの政策は順次進められているものと分析できる。
また、次のような点が新たに推進され始めた、又は強力に推進されている重要ポイントであると整理できる。
- スマートを体験でき、普遍的·継続的な航空サービス実現
旅客の利便性向上に対する不断の努力は各国に例外なく共通している取り組みと言えるが、オペレーション業務へのスマート技術(IoT、ドローン等の活用)適用にはある程度の温度差があるものと推察される。韓国政府は、ビッグデータ分析結果に基づく予測を重視していることから、オペレーション業務へのスマート技術適用に積極的であると分析できる。 - 地域経済・企業成長と空港との連携強化
空港による地域経済の活性化は以前から実施されてきた政策であり、特に目新しさはない。しかし、第3次航空政策基本計画の内容を分析すると、これに関連して韓国政府が進めようとしている以下の政策がとても特徴的であると言える。
(a) 地域と国際社会を直結する機能の強化:地域空港サービスをグローバルレベルにアップ、地方国際線の拡大等。
確認が必要だが、もし地方空港と欧米を直接結ぶ路線を開発しようとしているのであれば、これは保安検査機器認証の観点から、かなり野心的な目標を設定していると言うことができる。さらに詳しく調べてみたいポイントである。 - 政府保有データと民間保有データを一体的に活用する取り組みの推進
恐らくプライバシー保護とのせめぎ合いが生じるだろうが、もしこれが本当に実現するのであれば、どのような効果を生み出すのかに強い関心を想起される。- 政府と産業界に散在する安全ビッグデータの統合活用のための統合管理基盤の設計
- 国家機関(法務部·警察庁)が保有する生体情報を活用できる根拠作りのため、航空保安法の改正を推進
- 空港、出入国機関、航空会社などと相互運用可能な生体認証システムの構築
- 税関・検疫等の入国審査関連機関との協議による、スマート搭乗手続の制度的支援策の検討および改善等
- 空港保安におけるリスクベースアプローチ導入への取り組み
空港保安業務を効率的・効果的に強化するためには、リスクベースアプローチを適用することが重要である。韓国政府は、ビッグデータ分析・評価によって危険レベルを導出し、これに基づいてリスクベースセキュリティを適用する新たな戦略を打ち出しており、これに重点的に取り組む姿勢を見せている。この取り組みは、IATAの推奨に沿うものであることを指摘しておく。 - 保安検査装置の更新、自主研究・開発、装置認証の取得等
(a) 旧式の保安検査装置の置き換え推進
国内で運用中の保安検査装置の全数調査と、新型装置への置き換えに向けた具体的計画策定を進めることとしている。計画では追加検査削減を目指し、CT検査機等の高性能検査機の導入を進めることとしているが、これは当社が事務局を務める空港保安の将来像研究会が2017年に提言した方策と一致している。この取り組みは、地方空港と欧米を直結する路線開設にあたり重要な意味を持っており、今後注目に値する
(b) 国産の次世代保安検査装置の開発と装置認証システムの確立
国産の次世代手荷物検査装置(CT検査装置)を自主開発する方針を示している。この取り組みは実際に進んでおり、本レポート執筆にご協力いただいた韓国OPEN INNOVATION LABのJee-Youn PARK社長がこれに協力されている。欧州ECACの認証取得は既に進んでおり、米国TSAの認証取得を含め、政府がこれを支援する方針を明示している。さらに、韓国政府は試験及び性能認証基準などを高度化するとともに、試験認証センター等の性能認証基盤を構築する方針を打ち出しており、同国独自の認証制度を構築する方向性を打ち出したものと解釈した。これは野心的な取り組みであり、今度の動向を注視していく必要がある。
- 空港を、未来技術導入を検討するための「体験デザインの場」(テストベッド)として整備
6. スマート空港からスマートシティへ -社会実装の場で適用が進む「体験デザイン」の取り組み
我が国では、「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術/アーキテクチャ構築及び実証研究」事業において、スマートシティレファレンスアーキテクチャが提言された ※7。今後の行政のスマートシティ推進事業では、このアーキテクチャに基づいて実施することが求められる方向である。
このスマートシティレファレンスアーキテクチャにおいて、スマートシティのビジネスモデルを深化するために、「体験デザイン」を実施する必要性が指摘されている。これは、新技術やこれに基づく新事業の導入にあたり、本格導入に先立ってビジネスモデルの有効性確認に係る実証検証を行う必要性を述べたものである。
韓国政府が進める、空港を「未来技術導入を検討するためのテストベッド」とするという政策は、スマート空港をスマートシティの「体験デザインの場」として活用するという取り組みに他ならない。この観点から、韓国政府のこの戦略は高い先進性を有しているものと思量される。今後の最新動向を注視していきたい。
7. おわりに
ここまでで述べてきたように、現時点では計画段階ではあるものの、韓国政府のスマート空港整備に関する取り組みは、かなり野心的かつ先進的な内容であるということが言える。既に述べたように、韓国では全ての空港を2つの国有会社が運営しており、この2社は国土交通部航空政策室と直結している。
このことから、航空政策室は空港運用を主導する立場にあることが明確であり、その運用現場を良く理解しており、実際の運用を踏まえた具体的な計画を提言しているという特徴がある。さて、この計画はどこまで実現していくであろうか。
現在、新型コロナウィルスの感染症によるパンデミックが進行中であり、国際旅客交通需要は特に強烈に冷え切っている。この厳しい時代を空港がどのように生き抜くべきかがまさに問われていると言える。
今後、ウィズ・コロナ、アフター・コロナの時代を生き抜くスマート空港の事業戦略が強く問われるものと考えられるが、その際に、韓国航空政策室の現在の政策がどこまで機能し、またどのような新たな政策がこれから打ち出されるだろうか。その動向に今後も注目していきたいと考えている。
※1 https://www.icao.int/safety/Pages/COVID-19-Airport-Status.aspx
※2 IATA発表資料”Airlines Tumble on Warning of Lagging Travel Demand Through 2025”
※3 https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/kr/ip/gov/movement/201804-2.pdf
※4 https://www.4th-ir.go.kr/article/detail/17?boardName= ※韓国語
※5 http://www.molit.go.kr/USR/BORD0201/m_69/DTL.jsp?mode=view&idx=240279 ※韓国語
※6 https://japanese.joins.com/JArticle/261064?sectcode=300&servcode=300