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Insight
経営研レポート

シェアリングサービスの動向とデータマネジメントの重要性

2020.03.30
情報戦略事業本部
デジタルイノベーションコンサルティングユニット
コンサルタント 南條 麻衣
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拡大するシェアリングエコノミー

消費者の価値観は、「モノの所有から利用へ」シフトしていると言われて久しい。

博報堂の生活定点調査より、20年前の1998年と、2018年を比較してみると、確かに価値観がシフトしていることが見て取れる。

「物を買うときはブランドを意識する」と答えた人は、1998年の17.1%から2018年は12.7%となり、4.4ポイント減少している。逆に「リサイクルショップ、フリーマーケットなどで中古品を買った」と答えた人は、15.3%から21.9%と6.6ポイント増加しており、ブランドへのこだわりが薄れ、リサイクルや中古でも買えるものはそれで済ませたい、という所有へのこだわりが薄れた姿がうかがえる。

かつて欲しいものの代名詞で、所有することがステータスであった車ですら、「車にかかるお金を節約したい」としてあげた人の割合が18.2%から、23.4%と5.2ポイント上昇し、「現在何にお金をかけているか」をみると、「趣味」「子供のための教養・勉強」と回答した人の割合が上昇している。現在の消費者は、物ではなく、現在及び将来に渡り、自身や家族の経験を豊かにするサービスにお金をかけている。

これらの価値観シフトを受けて、必然的に必要なものを必要なタイミングにリーズナブルな価格で、サービスとして利用するというシェアリングサービスが拡大している。電通デジタルが実施した「国内シェアリングサービスに関する消費者利用実態調査(2018年度)」によれば、その認知度は86%に達し、何らかの形で利用した経験者の割合は約6割となっている。

本稿では、拡大するシェアリングサービスの動向を概説し、これを支える「データ」、そのマネジメントの重要性について述べる。

多様化するシェアリング対象

現在のシェアリングサービスでは、様々なものが提供されている。

ここで、シェアリングサービスの特徴とは何であろうか。本稿では以下のように考えている。一つ目は、遊休リソースの活用である。シェアリングでは、個人や企業が保有するリソースで、空いているものを提供する。リソースは幅広くとらえれば、自動車などの物だけでなく、場所のこともあれば、人のもつスキルのこともある。二つ目は、そのリソースを多数が利用することである。シェアリングのリソースは「借りて利用する」ものであり、所有が移るわけではない。一人がずっと使い続けるのではなく、多数が利用することになる。最後、三つ目の特徴はこれらのリソースの提供者と利用者が、プラットフォーム上でマッチングされることである。

上記の特徴に該当するサービスを見ると、「物」、「場所」、「人」、「金」、様々なリソースがシェアリングで提供されるようになってきている。

「物」についていえば、代表的な例はカーシェアリングである。国内では、会社が持つ車を貸し出すタイプのシェアリングや、個人の車を貸し出すタイプのシェアリングがある。

カーシェアリングサービスの中でトップシェアである「タイムズカーシェア」を提供するパーク24では、車を借りたい法人や個人が会員登録をし、会員の中で希望者が車の貸出を行っている。カーシェアリングサービスの多くは15分単位からの利用が可能であるため、レジャー目的で、数時間以上の利用が前提のレンタカーと比較し、買い物や家族の送り迎えなど、日常利用も含めた多様な用途がある。そのためには、借り手の自宅近隣に車を貸し出す場所、ステーションがあることが重要である。既に駐車場貸出事業を行っているパーク24では、既存の駐車場をステーションへと活用することで、借り手の自宅から徒歩圏内を目途にステーションを利用できるようにしている。

「場所」についていえば、住居を宿泊に供する民泊を筆頭に、コワーキングスペース、会議室、物流拠点、駐車場、コインロッカー、多目的スペース、軒先など様々なものが提供されている。

Airbnb Japanが提供する民泊のシェアリングサービス「Airbnb」は、主に宿泊先を探すゲストと部屋のオーナー(ホスト)をマッチングしている。

民泊サービスは、本来は旅館業の営業許可が必要であったが、一般の住宅が旅館業の許可を取ることは難しく、無許可のまま部屋を提供するホストが多かったため、2018年時点でホストは、6万2,000件にまで、拡大しており、ホスト周辺住民からの苦情が多かった。そこで、2018年6月に施行された民泊新法により、ホストは届け出が必要となり、営業日も180日以下に制限されることなった。

Airbnbでは、新法施行後に無許可施設を掲載できないため、2018年6月に8割の施設の掲載を取り止め、掲載施設は1万2,000件までに減少した。現在は、また、新たなホストが参入し、2019年6月時点で7万件まで回復している。

「人」についていえば、クラウドソーシングという形で、コンサルティング、プログラミングなどのスキルを空き時間を利用し提供するサービスが拡大している。これもスキルや空き時間を利用した労働力の一種のシェアリングといえるだろう。

代表的なクラウドソーシングサービス「ランサーズ」を提供するランサーズでは、主に仕事を発注する企業・個人と仕事を探している個人をマッチングしている。マッチングする仕事内容が、ホームページ・アプリ制作、ライティングなど多岐にわたるのが、本サービスの特徴である。主に次のような流れで取引をしていく。

まず、発注者が仕事の登録をし、その中から個人は希望する仕事を応募、提案を実施する。次に、提案内容から発注者は依頼先を判断し、業務委託契約の締結を実施、マッチングした受注者は依頼された業務を実行し、成果物を納品、発注者が検収する流れである。オンライン上で複数の提案者の提案費用・納期が確認できるため、都度業務委託内容を説明する必要性があり、対面の取引よりも早くマッチングすることが可能である。

「金」についていえば、クラウドファンディングという形で、何らかのプロジェクトを立ち上げたい個人や団体が不特定多数の個人から資金を集める際に利用可能なサービスが拡大している。これも個人の余剰資産を利用した一種のシェアリングといえる。

代表的なクラウドファンディングサービス「Makuake」を提供するマクアケでは、主に新しいプロジェクトを立ち上げたい個人や団体と、プロジェクトに資金提供をしたい個人をマッチングしている。資金提供者は、見返りとしてそのプロジェクトによって生まれた製品やサービスを得ている。資金調達額1億円超えを実現した代表的なプロジェクトとして、和歌山県のスタートアップ企業glafitが提供する「glafitバイク」がある。

「glafitバイク」は、折り畳み自転車と電動バイクの機能を備え、両機能を併用したハイブリット走行が可能な乗り物である。資金提供金額は1台あたり約12万円以上と高額であったが、2017年5月に資金集めがスタートし、ハイブリッド走行という新しい概念と、地元の製品を広めたい和歌山県民による宣伝・購買により、2か月未満で支援者1,284人から目標金額の約4倍である約1億円調達を成し遂げた。

シェアリングサービスのビジネスモデル

これらの遊休リソースを提供する、シェアリングサービス事業者の収益は主として、取引成立時の手数料、サービス利用料、企業からの広告料などがある。

手数料は、サービスのプラットフォーム上の利用者(遊休リソースの供給者、及びその需要者双方)から徴収することが多い。手数料形式をとる代表的なサービス「Airbnb」では、宿泊先を探すゲストから宿泊料の6~12%、部屋のオーナー(ホスト)からは一律3%徴収している。

サービス利用料を徴収する場合は、サービスの需要者から徴収するケースが多い。サービスの供給者に対して供給量・期間に応じて報酬が支払われている。サービス利用料形式をとる「タイムズカーシェア」では、主な収益は借り手が支払う利用料金であり、利用時間・距離に応じて変動する。車・ステーションを貸し出したオーナーへの報酬金額も同様に、利用時間・量に応じたものである。

広告料を得る場合、サービスのプラットフォームは、サービスの利用者(遊休リソースの供給者、及びその需要者双方)を対象に広告を表示する機能を持っており、そこに出稿した広告主から、広告収入を得ている。手数料形式をとるAsmamaが提供する、人のシェアリングサービス「子育てシェア」の収益は主として、集まったママコミュニティに対する広告料である。広告主である企業や自治体がイベント出展などで、コミュニティに対してPRを行い、その対価とし広告収入を得ている。

データ活用によるマッチング率向上

これらのビジネスモデルにおいて、収益を生み出し続けるためには、サービスの需要者と供給者双方のニーズが合致し、マッチングすることが必要である。マッチングをするために、データ活用を行い需要者のニーズを予測し、ニーズに合ったサービスを供給することが重要である。

このデータ活用によるマッチングが、シェアリングサービスの要諦と考えられる。

マッチングするためには、需要者がいつ、何を、どこで、どのぐらい欲しているのかニーズを把握することが、ニーズ把握のためには、正確な情報を取得することが肝要である。

ラクサス・テクノロジーズが提供するブランドバッグのシェアリングサービス「ラクサス」では、当初は個人が利用していないバッグをアプリに掲載していたが、借り手が欲しいバッグがそろわず、借り手がいないという事態が発生していた。

そこで、借りている人は、どのような特徴のバッグを借りているか傾向を分析し、その特徴を把握した。借り手が、どんな色、サイズや形状、ブランドのバッグを何回、どのぐらいの期間借りているか、正確な情報をそろえたうえで、分析したのである。

借用回数が少ないなど、過去の履歴から顕在ニーズが特定できない顧客については、潜在的なニーズの予測を行った。予測するためには、借り手がどのようなペルソナかを見極め、ペルソナに合った商品をお勧めすることが重要と考えた同社は、許諾を得た上で借り手の位置情報を自社アプリで把握した。すると、外出先の傾向と借りるバッグのブランドに関係性があることが分かった。

例えば、百貨店よりもショッピングモールに行くことが多い人はルイ・ヴィトン、外出先の行動範囲が広い人はグッチを借りる傾向があることが判明した。この結果をもとに、まだグッチしか借りていないが、ショッピングモールに出かける頻度が多い顧客に、ルイ・ヴィトンを推奨したところ、更にマッチング率が高まったという。

貸し手・借り手のマッチングをするために新たに取得したデータ(この場合は、位置情報)が、事業の拡大に大きく寄与したといえる。

データマネジメントの重要性

これまでに見てきたように、シェアリングサービスはマッチングが肝となり、そのマッチングを支えるのが、プラットフォームに蓄積される各種データである。正確なデータを確実に蓄積し、活用することこそが、事業の成否を分ける鍵となる。その際に重要となるのがデータマネジメントである。

こうしたデータマネジメントを推進する上で、役立つのがDMBOKである(図1)。DMBOKとは、データマネジメント知識体系の略であり、データマネジメント実務経験者のノウハウとして、組織が継続的にデータマネジメントを推進する上で必要な考え方や組織体制、管理機能、用語、ベストプラクティスなどが纏められている。シェアリングビジネスに限らず、デジタルビジネスを推進する上で、データの活用は欠かせないものであり、今後は今まで以上にデータマネジメントを推進する必要があるだろう。

【図1】DMBOK2の知識領域(ナレッジエリア)の概要

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