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Insight
経営研レポート

デジタルビジネスを成功に導くデータ活用の極意

2020.03.27
情報戦略事業本部
デジタルイノベーションコンサルティングユニット
シニアコンサルタント 櫻井 信輔
シニアコンサルタント 後藤 裕貴
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はじめに

近年テクノロジーの急速な進歩を背景に、ビジネス環境はより高速に変化している。多くの企業では、変化への対応としてデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みを進めている。特に、2018年9月に経済産業省がDXレポートを発表して以降、各企業のDXに対する関心は一層高まっている。

DXレポートにおいて、DX実行の鍵とされているのがデータ活用である。また、ユーザー企業に対する調査1 においても、重視すべきテクノロジーとしてAIやRPAなどと並んで、ビッグデータが上位に上げられるなど、データ活用への関心は高い。

一方で、データ活用への意欲は高いものの、ビジネスや業務改革に有効活用できていないケースも散見される。例えば、2017年の総務省の調査2においては、約半数の企業がデータを有効に活用できていないと答えている。

本稿では、データの分析と活用に対する認識について陥りがちな問題点を示したうえで、データ活用を成功に導くための一つのアプローチを紹介する。

1.データ分析≠データ活用である

近年、多くの企業がデータ活用に取り組めるようになった。実際にデータを活用することでビジネスを成功に導いた事例を聞く機会も多い。

その背景の一つが、データ分析を誰しもが実施できるようになったことである。分析の対象となるデータは、スマートフォンやIoT機器の普及もあり、多種多様なものを大量に入手しやすくなった。入手したデータを分析するための環境も、様々なツールやクラウドサービスの普及により、導入ハードルが低下している。

一方で、様々なツールを導入し、データ分析を行ってみたものの、ビジネスの成功につながらなかったといった声を聞くことも多い。データ分析を行ったからには何かしらの結果が出てきたはずであるが、それでもビジネスの成功につながらないとすると、その理由は、分析した結果そのものがビジネスに役立たないものであったか、もしくは分析結果をビジネスに役立てる方策が思いつかなかった、ということになる。

つまり、データ分析から得られた結果が、必ずしも何らかのビジネス的な価値を生み出すこと=データ活用に結びつくわけではないのである(図1)。

では、データ分析をビジネス的な価値を生み出すデータ活用につなげるためにはどうすればよいか、そのアプローチを以降で述べる。

図1 データ活用の誤った認識

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出所:NTTデータ経営研究所にて作成

2.データ分析をデータ活用につなげる4段階のアプローチ

データ分析からデータ活用につなげることができた多くのケースでは、仮説構築(Plan/Do)、実証(Check)、展開(Action)のPDCA、定着化という4つの段階を経ている。データ活用においては、この4段階を着実に実行することが必要である(図2)。

図2 データ活用につなげる4段階アプローチとその定着化

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出所:NTTデータ経営研究所にて作成

仮説構築・検証・展開とそれらに必要なリソース

4つの段階それぞれを実行するときに重要となるリソースを下図に示す(図3)。

図3 各フェーズにおける重要リソース

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出所:NTTデータ経営研究所にて作成

《仮説構築》

仮説構築とは、様々なビジネス・業務課題に対して、今ある事実や背景を根拠に、「こうしたらできるのではないか」という仮の方策を導くことである。

仮説構築において特に重要なリソースが「人材」である。なぜなら、仮説構築は各々のビジネス課題やその時々の外部環境に応じて柔軟に思考する必要があり、標準プロセスやツール活用による定型化が難しいためである。

仮説構築を行う人材には、仮説の根拠となる事実を把握するための自社ビジネスや外部環境の理解、事実を基に仮説を考えるための思考力が必要となる。

《実証》

実証とは、構築された仮説に沿って施策を試行することである。多くの企業で実施されているPoCはこのフェーズに相当する。

実証において特に「プロセス」が重要となる。標準的な実証プロセスがあることで、属人的な要素を排除し、より公正かつ客観的な実証結果を導くことができる。仮説構築の段階で、実証の開始から妥当性判断に至るまでの標準的なプロセスを定めておくことが大事である。

《展開》

展開とは、実証によって成功が見込まれた施策を他部門や他領域に広げ、本格的に実行することである。

展開において特に重要なリソースが「ツール」である。なぜなら、施策展開の規模が大きくなると、取り扱うデータ量や処理が膨大になり、手運用では実行スピードが落ちたり処理自体が難しくなったりするためである。

現在データ活用のためのツールとしては、分析環境やBI(ビジネスインテリジェンス)など様々な製品・サービスが提供されているので、施策内容や投資規模に応じて適切なツールを見極める必要がある。

定着化によるリソースの品質向上

仮説構築・検証とそれに続く展開の段階までいけば、データ活用としての成果がみえてくる。ただ、ここで終わるのでは一時的な活用成果を得るにとどまってしまう。展開の後「定着化」を行うことが大切でなる。

定着化とは、上述した仮説、実証、展開のPDCAサイクルを繰り返すことで、経験から得たノウハウを組織のケイパビリティとして根付かせ、PDCA全体の精度を向上していくことである。定着化が進むことでデータ活用の成功確率を上げることができる。

PDCA全体の精度を上げるためには、多くの失敗経験とそれを経て生まれる成功体験からノウハウを獲得していくしかない。経験から得たノウハウを基に、仮説構築のための人的スキルの向上や、実証プロセスのブラッシュアップ、展開ツールの見直しを行う。それを繰り返していくことで、データ活用の成功確率を向上させるのである。

3.仮説構築における探索と検証

これまで述べた通り、データ活用を成功に導くためには、4つの段階すべてを実行する必要があるが、4段階の中で特に重要な段階が、「仮説構築」である。

仮説構築においては、「探索」「検証」の2つの活動を繰り返すことになる(図4)。

  1. 探索
    探索では、プロジェクトとしての目的の明確化、取るべき手段の仮説構築、および仮説構築の後の「実証」段階における施策判断の基準設定を行う。例えば、「ECサイトの売上を増やす」が目的だとすると、仮説として考えるべきことは「ECサイトの売上を増やすためには何をすべきか」といった目的を達成するための方策であり、判断基準は「その方策が売上の増加につながるかどうか」である。
    これらの要素が揃うことで、実証段階においてデータ分析を行う目的が明確になる。例えば上記の例であれば、「その方策でECサイトの売上が増加したのか」が実証におけるデータ分析の目的となる。
  2. 検証
    検証では、「探索」で構築した仮説を、データを使うことで証明できるか、そもそも検証に値しない仮説ではないかといった観点で確認を行い、仮説の質の向上を図る。検証する時点で仮説の妥当性を判断するためのデータが入手不可能な場合、もしくは既存のデータなどから実証せずとも仮説が間違っていることが明らかになった場合は、仮説を修正するためにまた「探索」に戻る。
    こうして「探索」と「検証」を繰り返し行うことで、仮説の質を向上させていく。この「探索」と「検証」を進めるうえで、大事なポイントを次項で説明する。

図4 仮説構築における探索と検証

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出所:NTTデータ経営研究所にて作成

4.「探索」と「検証」のポイント

「探索」と「検証」を行うにあたってのポイントは3つある。

  1. 事象の因果関係を理解する
  2. 仮説を具体化する
  3. スピーディーに実行する

1.事象の因果関係を理解する

思い付きであったとしても、まずは考えてみることが仮説構築の第一歩である。一方で、思い付きレベルの仮説では精度が低く、分析をしたとしても無駄になってしまう可能性が高い。

そこで、仮説の精度を向上したいわけだが、そのためには、事象の因果関係を理解することがポイントとなる。例えば、「ECサイトの売上を上げる」という目的に対する「高額商品を増やす」という仮説は、「売上が増えない原因は『購買単価が低いこと』であり、『既存顧客の購買単価が上がる』という結果が必要だ」という考えから導かれている。

一方で、「クーポンを配布する」という仮説は、「売上が増えない原因は『顧客層の固定化』であり、『新規顧客の増加』という結果が必要だ」という考えから導かれている。(図5)

このように、仮説の背景には各々異なる想定の原因と結果が存在する。それらを理解することで、検証の際に適切な仮説かどうかの判断が可能になる。このように、仮説の背景には各々異なる想定の原因と結果が存在する。それらを理解することで、検証の際に適切な仮説かどうかの判断が可能になる。

先の例では、「高額商品を増やす」という仮説の背景を理解し、「原因が購買単価である」という背景認識の正誤を検証することで、仮説を実証に移すべきか、再考すべきかといった判断を行うことが可能になる。仮説の因果関係を理解し、検証時の判断材料とすることで、仮説の精度向上を図ることができるのである。

仮説の因果関係を理解するうえでは、なるべくデータを参照しないほうが良い。なぜなら、データによってより多くの情報が与えられれば、その分先入観が入り込み、考えの幅が狭まってしまうためである。常に事象の背景の推測を繰り返すことで、因果関係を意識した仮説構築が可能になり、仮説の精度向上につながる。

図5 事象の因果関係を理解する

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出所:NTTデータ経営研究所にて作成

2.仮説を具体化する

仮説は可能な限り具体化すべきである。そうすることで、具体的な施策につながりやすくなるとともに、実証の段階において仮説の可否が判断しやすくなる。また、実証で仮説が間違っていたことが判明した場合であっても、何が間違っていたのかが明確になるため、その後の代替案検討に素早くつなげることができる。

例えば、図6においては、仮説1のレベルでは誰にどんな施策を打つべきかが分からない。一方で、仮説3、4のレベルまで具体化すると、性別や年代のデータが必要となるなどデータ入手の難易度は上がるものの、より具体的な施策につなげることができ、実証における仮説の可否の判断や代替案検討が容易になる。

仮説の具体化には、繰り返し「So What?」(だから何なのか?)を問い続けることが有効である。たとえ最初は仮説の妥当性がなくても、目の前の課題を解決するような、小さな「探索」と「検証」を繰り返し、経験を積んでいくことが、データ活用の成功に近づくための鍵となる。

図6 仮説を具体化する

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出所:NTTデータ経営研究所にて作成

3.スピーディーに実行する

ポイントの1、2では具体的アクションや因果関係を「考える」ことが重要だと述べてきたが、それらは「スピーディーに実行すること」が前提である。なぜなら、高速にビジネス環境が変化する中では、現時点で有益だと思える仮説が、1年後も有効であるとは限らないためである。

先に述べたように、失敗経験も一つのノウハウとして将来の成功に向けた糧となる。「探索」と「検証」を高速に実行し、可能な限り早く実証の段階に移り、多くの実践経験を積むことがデータ活用を成功に導くうえでは必要となる。

おわりに

本稿では、データ活用におけるPDCAのアプローチと仮説構築の重要性について述べてきた。

最初に述べたように、何の考えもなしに、データを収集、分析するだけではビジネスにつながるアイデアや業務変革につながる示唆を得ることは難しい。

データ活用を成功につなげるためには、本来の目的を明確に定めたうえで、そこに向かう道筋を探るといった、探索と検証を繰り返すことが重要である。データ活用で成果を上げることに苦しまれているとしたら、まずは仮説構築の探索と検証に取り組まれることを推奨したい。

※1 一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS) 「企業IT動向調査2018」

※2 総務省「安心・安全なデータ流通・利活用に関する調査研究」

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