5G/IoT/AI/ビッグデータ時代の社会システムについて考える(第1回)
~スマートシティ・コミュニティにおける国際標準化~

社会基盤事業本部
社会システムデザインユニット
アソシエイトパートナー/博士(工学)
渡邊 敏康

はじめに

我が国においては、社会経済活動の多様化が加速化する中で、少子高齢化社会の到来、社会インフラの老朽化、大規模自然災害への対応、都市への人口集中や過疎地域の拡大、そしてエネルギー需給構造の変革など、多くの社会的課題が顕在化してきている。

5GやIoTをはじめとするICT関連技術の活用については、これら社会課題の解決に向けた取り組みとして有効であることは理解できても、具体的にどのように活用していくかについては関わる組織や企業によって多岐に渡る。

本連載では、社会課題の解決に向けた社会システムの在り方について、国際標準化やIoTシステムの仕組みについて整理していくことで、今後のR&Dや社会実装の在り方についての検討の一助となればと考えている。

第1回目となる今回は、スマートシティ・コミュニティ分野における国際標準化の取り巻く環境について紹介したい。

グローバルを取り巻く環境

国際連合「国連持続可能な開発サミット」(2015年9月)においてグローバルな社会課題に対して、17の持続可能な開発目標および169のターゲットを定めたSDGs(Sustainable Development Goals)が採択された。これまでは国連において、貧困、飢餓、並びに初等教育などの普及の取り組みとして2000年に開始したミレニアム開発目標MDGs(Millennium Development Goals)を掲げて主に発展途上国としての課題として取り組まれてきた。一方、SDGsにおいては、発展途上国だけではく先進国も含めた世界の全ての国および地域において、持続可能で近代的なエネルギー、インフラの充実、産業化の促進、イノベーションの拡大、並びに気候変動に対する対策等の目標を掲げることで社会課題を解決していくことが大きく異なる点である[1]。

このような背景を受けて、国際連合の専門機関の一つであるITU(国際電気通信連合)、並びに国際規格を定めるISO(国際標準化機構)において、情報通信の標準規格や工業製品の規格を定める従前の国際標準化の活動に加え、社会課題の解決に向けた効果測定の手法に関する国際標準化への取組みが活発になっている。具体的には、都市の成熟度モデルの定量化や、ICT関連技術を都市に導入した際の効果測定、そのためのフレームワークの構築、評価指標の策定などの国際標準化の議論が進められている。このような国際標準化の策定に際しては、対象となる関連技術の社会的受容性を考慮しつつ、社会課題の解決に対してどのように結びついていくのかを示していくことが求められている。

Society5.0の取り組み

このような国際的な背景を踏まえつつ、我が国においても2016年に第5期科学技術基本計画が閣議決定されている。この中では、『ICTの進化等により、社会・経済の構造が日々大きく変化する「大変革時代」が到来し、国内外の課題が増大、複雑化する中で科学技術イノベーション推進の必要性が増していると認識している』[2]ものとされている。特に、第5期科学技術基本計画において定められた4つの政策の柱の一つとして、「経済・社会的課題への対応」を掲げており、社会課題に対する科学技術イノベーションの必要性を定めている。その具体的な社会課題の解決に向けたあるべき姿として、ICTを最大限に活用することで、サイバー空間とフィジカル空間(現実世界)とを融合させた取組みによって、人々に豊かさをもたらす「超スマート社会」を未来社会として定めている。

これは、「狩猟社会」「農耕社会」「工業社会」「情報社会」に続くような新たな社会を生み出す変革を科学技術イノベーションが先導していく、という意味を込めて「Society 5.0」という概念として提唱されている。

スマートシティ・コミュニティの定義

本編では、スマートシティ・コミュニティとは、社会課題の解決に向けて、社会システムにおける様々な分野に対し、ICT関連技術および都市マネジメント技術を活用することで、全体最適化が図られる持続可能な都市あるいは地域と定義したい[3][4]。

スマートシティ・コミュニティが対象とする分野は多岐に渡っており、主要な国際標準化機関・団体であるISO/IEC、ITU-T、NIST、ETSIおよびoneM2Mにおける対象分野を整理及び集約すると図1に示す8つの分類に整理することが可能である[5]。

図 1 スマートシティ・コミュニティの分類整理[16]
国際標準化団体の5G展開ロードマップ

  • ISO/IEC Smart City Preliminary Report 2014 - the Smart City application domain
  • ITU-T An overview of smart sustainable cities and the role of information and communication technologies
  • NIST Framework for Cyber-Physical Systems Version1.0
  • ETSI standards are enabling a global M2M solution
  • oneM2M TR Use Cases Collection

このように、国際標準化機関・団体におけるスマートシティの分類は、エネルギーや上下水といった公共財から、建物、そして物流や人流、交通流などのモノの流れや関連サービスなどまでを網羅している。

スマートシティ・コミュニティの国際標準化

スマートシティ・コミュニティの国際標準化に関する議論は、国際標準化機関・団体である国際電気通信連合(ITU)、国際標準化機構(ISO)、国際電気標準会議(IEC)、並びにISO/IEC Joint Technical Committee1 (ISO/IEC JTC1)を中心に議論が進められている。特に、スマートシティ・コミュニティに関するフレームワークおよび評価指標の定義は、2010年代以降、現在に至るまでITU-T SG20、ISO/TC268およびISO/TC268/SC1を中心に議論が進められている(図2)。

図2 ITUおよびIECにおけるスマートシティの評価指標に関するドキュメント体系(抜粋)
ITUおよびIECにおけるスマートシティの評価指標に関するドキュメント体系(抜粋)

ITU-T SG20においては、4つのKey Performance Indicator(KPI)が定められている。スマートシティに関するKPIの概要(Y.4900)、スマートシティにおけるICT導入に係るKPI(Y.4901)、スマートシティにおけるICT利用の持続性に係る影響に関するKPI(Y.4902)、並びにSDGs達成を評価するためのスマートシティのKPI(Y.4903)についてである。また、ISO/TC268およびISO/TC268/SC1においても、都市サービスと生活の質のための評価指標(ISO 37120)および都市インフラの成熟度モデルに基づいた評価・改善を行う手法(ISO 37153)が発行されている。

このようにスマートシティ・コミュニティにおける国際標準化は、従前の通信規格や技術マネジメントの規格の策定に加えて、評価指標のような都市や街づくりのビジョンや社会課題の解決に対する効果測定に向けた国際標準化の活動にまで範囲が広がってきている(図3)。

図3 スマートシティ・コミュニティにおける国際標準化の概観
スマートシティ・コミュニティにおける国際標準化の概観

このように、ICT関連技術およびエネルギー分野を包含するスマートシティ・コミュニティにおける国際標準化においてKPIによる効果測定の概念が取り入れられていくことで、今後のICT関連技術を活用した街づくりには、社会課題の解決と定量的に連動した俯瞰的な開発が求められてくることを示唆している。これは、ICT関連技術の導入において社会的受容性を考慮したうえで、社会的便益(Benefit)を社会的費用(Cost)にて除した費用便益比(B/C)を十分に考慮した開発が求められていくことを意味している。

従前の都市開発においては、構想・企画から維持管理(O&M:Operation and Maintenance)までの開発サイクルにおいては、エンジニアリング会社、建設会社をはじめとする土木・建設関連が参画する産業構造として捉えられてきた。一方で、ICT関連技術を都市開発の各分野・領域に適用させていくことによって、産業間の連携の度合いが高まり、その結果として、都市・街づくりの段階で考慮・留意すべき事項が顕在化してきている。

都市開発における目標・効果測定の方法としては、B/C をはじめとする指標化によって、これまで社会資本の整備状況の効果測定を行ってきている。ICT関連技術が密接に関わるようになったことで、当該技術を考慮した効果測定の手法を構築すべきとの要請が強くなってきていることを受けて、国際標準化機関・団体における活動が活発化してきている。換言すると、国際標準化の議論および勧告化の対象が、従来の通信規格や工業製品の規格策定から、社会課題および社会システムに着目した標準化の有り方の議論にも広がってきている。

このような流れを踏まえ、社会課題に対する都市・街づくりの構想やその実装を評価指標(KPI)として体系的にとらえるような取り組みが国際的な場で議論が進められている(図4)。

今回はスマートシティの評価指標と国際標準化の関係について紹介した。次回第2回はIoT・スマートシティの国際標準化において情報連携(相互接続性)をどのように担保させていくのかを中心に紹介したい。

図4 ICT関連技術の都市・街づくりの導入と国際標準化活動の流れ
ICT関連技術の都市・街づくりの導入と国際標準化活動の流れ

参考文献

  • [1] 環境省、平成29年度版 環境・循環型社会・生物多様性白書、2017年6月
  • [2] 内閣府、第5期科学技術基本計画、 2016年1月
  • [3] ITU-T FG-SSC, Smart sustainable cities: An analysis of definitions, 2014
  • [4] 国土交通省、スマートシティの実現に向けて(中間とりまとめ)、2018年8月
  • [5] 渡邊 敏康、スマートIoT推進フォーラム、 IoTに関する研究開発・標準化動向について、 2016年6月
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