5Gの展開に深く関与する組織には、国際標準化団体、国、自治体、企業などがあり、5Gの展開を進めている。大きな流れとしては、国際標準化団体での5Gの技術仕様や周波数割り当ての合意をもとに、各国で5Gの展開の方針が検討され、その方針に沿う形で自治体や企業が5Gのインフラ整備、新サービスの研究開発・展開を実施している。
5Gの基本コンセプトを定めるITU-Rと技術仕様の標準化を進める3GPP
国際標準化団体には、主にITU-R(International Telecommunication Union Radiocommunication Sector)と3GPP(Third Generation Partnership Project)がある。
ITU-Rは、国際連合の電気通信分野の専門機関ITU(International Telecommunication Union)の無線通信部門で、5Gの技術性能要件を含めた基本コンセプトの策定や、各国が5Gで利用できる移動通信周波数の割り当ておよび登録を実施する。
ITU-Rは、2015年9月、「IMTビジョン勧告(M.2083)」を策定した。ここでは、5Gの基本コンセプト、すなわち5Gが提供すべき通信能力や、5Gの利用シナリオなどがまとめられた。
また、2020年後半には「IMT-2020勧告」が予定されており、新たな無線インターフェース仕様としてIMT-2020(実質的には5Gを指す)の標準仕様を策定することになっている。ここで策定される仕様は、後述の3GPPで標準化される内容がまとめられたもので、ITU-Rによって5Gの技術仕様として認定される。
3GPPは、通信方式の仕様を標準化するプロジェクトで、ITU-Rが示すスケジュールに沿い、ITU-Rで定められた5Gの技術性能要件を満たす技術仕様の標準化を実施している。5Gの標準化は、主にリリース14~16にかけて実施され、標準化された仕様は段階的に公表される。標準化のステップは、5Gの基本調査フェーズ(技術要求条件、要素技術、展開シナリオなど)が「リリース14」、主に5Gの主要機能の一つである超高速通信向けの仕様を規定するのが「リリース15」、そして5Gの主要機能の残り二つである超低遅延高信頼通信と多数同時接続を主に規定するのが「リリース16」である。各リリースでは、これら以外にも様々な技術要素の仕様策定が進められる。
2017年3月に標準化された「リリース14」では、5G向けの無線通信方式であるNR(New Radio)の基礎研究が行われ、5Gの候補となる技術の検討や評価に加え、5Gの展開シナリオの検討が実施された。
2018年6月に標準化された「リリース15」では、市場のニーズに基づき、超高速通信に対応した仕様の策定が中心に規定された。それに加えて、従来の通信方式であるLTEと新たな通信方式であるNRの組み合わせで運用するNSA(Non-Standalone)型と、NR単独で運用するSA(Standalone)型の仕様策定も進められた。しかし、リリース15ではSA型の仕様は確定せず、リリース16で確定される見込みである。
2020年3月に標準化が予定されている「リリース16」では、既存の機能セットの改善、超低遅延高信頼通信、多数同時接続に対応した仕様の標準化にフォーカスした内容となる。リリース16が規定されることで、ようやく5Gの3つの主要な技術性能要件である超高速通信、超低遅延高信頼通信、多数同時接続の全ての技術仕様が標準化されることになる。加えて、前述の通り、リリース16では、SA型の仕様の検討も進められており、ここで標準化されることで、市場でSA型の製品開発が進められることになる。
補足すると、5G関連製品の市場への投入は、必ずしも3GPPによる標準化を待つ必要はない。企業が独自規格で製品を開発し、それを売り出すこともある。独自規格であれば3GPPの標準化スケジュールに左右されにくいが、独自仕様が乱立すると、通信の相互接続が保証されないといった問題が生じることになる。
3GPPの標準化に沿う場合は、仕様が策定され、その後1.5~2年程度、技術の検証、調整を行ったうえで製品が市場へ投入される。どのリリースの仕様に沿うかによって、製品の性能も異なるため、リリース15に沿ったNSA型の製品、リリース16に沿ったSA型の製品など、同じ5G製品でも規格が異なることになる。
ちなみに、3GPPが標準化した規格であろうとも、企業独自の規格であろうとも、ITU-Rが定める5Gの技術性能要件を満たしていれば「5G」と呼ばれる。そのため、一言で「5G」といっても、異なる規格、性能が存在しうるわけである。
図 1 国際標準化団体の5G展開ロードマップ
日本国内の5G展開を進める総務省
我が国では総務省が中心となり、5G用周波数の国内通信事業者への割り当て、通信事業者以外の事業者へのローカル5G(帯域を占有し、特定の用途に活用できるエリア限定の自営5Gネットワーク)の無線局免許の交付、新たな市場の創出に向けた5Gの実証実験の推進などを進めている。
通信事業者への周波数割り当ては2019年4月に実施され、3.7GHz/4.5GHz帯の6枠(各100MHz幅)と、28GHz帯の4枠(各400MHz幅)が、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天の4社へ割り当てられた。
ローカル5G用周波数割り当ては、2回に分けて実施が予定されている。1回目は2019年12月で、28.2G~28.3GHz帯が割り当てられ、屋内外での使用が可能とされている。ローカル5Gの無線局予備免許には、NTT東日本、富士通、NEC、ジュピターテレコム、ケーブルテレビ株式会社、東京都などの企業や自治体が申請した。2回目は2020年末に、4.6G~4.8GHz 、28.3G~29.1GHzが割り当てられる予定で、屋内など閉鎖空間での利用に限定する可能性があるとされている。
図 2 総務省の5G展開ロードマップ