ソーシャルプロジェクトマネジメントの心得
~ソーシャルプロジェクトコミュニケーション~

企業戦略事業本部
マネージングイノベーションユニット
マネージャー 山本 純也

1. はじめに

復興支援、環境保全、地域活性化など、社会的課題の解決を目的とする活動をソーシャルプロジェクトという。

ソーシャルプロジェクトの従来のプレイヤーは、かつては国や善意のボランティアが多くを占めていたが、今後の来たるべき社会「Society 5.0」として経済発展と社会的課題の解決を両立する考え方が広まりつつある中、もはや民間企業のビジネスと切っても切り離せない状況となっている。

一方、ソーシャルプロジェクトは、多様なステークホルダーが関わることから、期待値のコントロールが困難であり、また環境の変化に伴う計画変更が頻発するなど、多くの場合プロジェクトマネジメントの難しさに直面する。

これまで弊社では多くの大規模システム開発プロジェクトに対しPMOとして成功に導いた実績があり、そのプロジェクトマネジメントの知見をソーシャルプロジェクトに適用し、成果をあげてきた。本稿ではその成果から、ソーシャルプロジェクトのコミュニケーションに着目し、その難しさと解決方法を共有したい。

2. ソーシャルプロジェクトの状況

民間企業にとって、これまでの「Society 4.0」の社会では、社会的課題の解決はCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の一環であり、社会の一員の使命として、人権侵害や環境などに配慮するといった守り目線での関わりが中心であった。一方で、「Society 5.0」の社会においては、社会的課題の解決はCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)であり、ビジネスとして経済成長を目指し、社会的課題の解決に取り組む攻めの目線での関わりとされる。民間企業はこのコンセプトに対し、決してすぐに対応できたわけではない。しかし日本経済団体連合会が「Society 5.0」の旗振り役として積極的に賛同を示す中、実際に経済成長と社会的課題の解決を両立した事例も広く共有され始めたことで、いよいよ民間企業も社会的課題の解決を「配慮」から「成長戦略」へと捉え直してきている。

民間企業の「ソーシャル」への関わり方

出所:*日本経済団体連合会 企業行動憲章の改定にあたって(2017年11月) http://www.keidanren.or.jp/policy/cgcb/charter2017.html
   *日本経済団体連合会 Policy(提言・報告書)/Society 5.0 (2018年11月) http://www.keidanren.or.jp/policy/2018/095.html

一方、民間企業がこれまでの自社を中心としたビジネス同様、安易にソーシャルプロジェクトに取り組んだ場合、ステークホルダーの範囲が明確とならない難しさを意識できずに挫折するケースが多く見受けられる。

例えば、より自社を中心とした限定的なテーマでの取り組みであれば、ステークホルダーも限定的であり合意形成もしやすい。しかし明確なステークホルダーを強く認識し調整できる一方で、社会的課題を捉える以上見えにくいステークホルダーもおり、その見逃しがプロジェクトの成功を阻害することがある。また、社会的課題を解決したとしても、その範囲が限定的であれば、CSVとしても小規模に留まる。

逆に、よりハイレベルに社会的課題を捉え、多くのステークホルダーを巻き込んだ取り組みとなれば、その社会的なインパクトも大規模となり、ひいては大きな経済成長へとつながり得ることになる。現在、ハイレベルの社会的課題を共有するツールとして、2015年に国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」内の国際目標、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の普及が進んでいる。SDGsの17の目標を合言葉とすれば多くのステークホルダーを巻き込むことは困難ではなく、ソーシャルプロジェクトの追い風となっている。だが、ステークホルダーを広げたことで合意形成が困難となり、小規模なCSVすら得られない結果となりかねない状況にあるともいえる。

データ連携の仕組みを標準化して効率化をしよう!とした時に…

現在、我々の世界は予測困難なVUCA(Volatility:変動、Uncertainty:不確実、Complexity:複雑、Ambiguity:曖昧)の時代となり、目まぐるしく複雑にステークホルダーの状況が変わり、社会的課題の解決方法も変わる。更には、社会的課題自体も変わり得るのだ。

この状況は、PMBOK(Project Management Body of Knowledge:プロジェクトマネジメント知識体系ガイド)の各知識エリアに当てはめると、影響は全体に及び、その難しさを実感することができる。その中でコミュニケーションは、他の知識エリアに及んだ影響を踏まえた対応が必要であり、結果として最も難しい観点のひとつとなっている。

PMBOK(プロジェクトマネジメント体系)のフレームで見ても、それぞれの観点で影響がでる

3. ソーシャルプロジェクトコミュニケーションの難しさとその解決

これら状況を踏まえ、我々は、経験からソーシャルプロジェクトにおけるコミュニケーションは大きく次の3つの難しさがあると認識している。

  1. 解決すべき課題がすり合わない
  2. うまく連携して取り組めない
  3. 目標がすり合わない

ソーシャルプロジェクトでは、それぞれの難しさに対応できないことが悪循環を生み、コミュニケーションの支障へつながるケースが多い。

その解決として、本稿では「個人個人の心構え」および「取り組み全体の仕組み」の両面からのアプローチを勧めたい。

ソーシャルプロジェクトにおけるコミュニケーションの難しさ

3.1. 個々の心構えとしての解決

まず出発点として、ソーシャルプロジェクトでは個人個人の心構えが重要である。

  1. 解決すべき問題がすり合わないソーシャルプロジェクトにおいて、解決すべき問題を相手も同様に認識できていることはむしろ稀である。相手とは置かれている状況、持っている情報が異なることから、一方的に共感を求めるのではなく、まず自分自身の問題意識が偏っていると自覚することが重要である。
    自分の問題意識が偏っているのであれば、多様な視点を積極的に取り入れて考える必要がある。自身と同様の意見のステークホルダーにてコミュニティを形成するのではなく、視野を広げるため異なる意見も積極的に認識することが重要である。
    また、解決すべき問題自体が変わること可能性を意識しなければならない。政治、経済、社会、技術の状況や、それまでの試行錯誤の結果から、解決すべき問題が変わっていないか常に確認が必要である。
  2. うまく連携して取り組めないソーシャルプロジェクトでは、民間企業間の考え方の違いだけではなく、NPOなどの立場の違いや、連絡ツールの違い、承認フローの違い、セキュリティの考え方の違いなど、ステークホルダー間の文化的な違いが随所に現れる。他者と自身は立場や文化が異なることを常に意識したい。
    一方で、必要以上に他者に寄り添うことで、それが妥協や迎合とならないようにしたい。ソーシャルプロジェクトでは、ステークホルダーそれぞれが譲れない点や価値観を持つことが重要である。お互いを補い、高め合う目線を持ち、それぞれが自立した者として協働をすることが持続的な成功につながるのである。
    また、この互いに補い高め合う組み方においても、その役割を固定すべきではない。状況の変化に応じ、効果的な役割は変わるものと認識することが重要である。
  3. 目標がすり合わない目標はあくまで有力な1シナリオに基づくものであり、仮説に過ぎないことを認識することが重要である。未来は読めないものと割り切り、状況に応じて新たな目標の仮説を考え、ステークホルダーと認識を合わせることが重要である。
    目標を考えるにあたっては、シナリオを左右する主な要因となるシナリオドライバーを想定することが重要である。VUCAの時代に、全方位に注意を払うことは難しい。シナリオドライバーを意識し、優先的にその動きを注視することが重要である。
    ソーシャルプロジェクトはある時点での目標はあっても、それがゴールではない。目標として、ある時点のスナップショットを思い描くだけでなく、継続的に自身が活きるダイナミックな姿を想像することが重要である。
効果的な「ソーシャルコミュニケーション」に向けた「心構え」のポイント

3.2. 取組全体の仕組みとしての解決

次に、ソーシャルプロジェクトでは、取り組み全体の仕組みとしての解決も考えたい。我々は仕組みづくりを得意としているが、次の考えの下で、実際にソーシャルプロジェクトを成功に導いてきている。

  1. 解決すべき問題がすり合わない課題認識を合わせるためには、議論の場が必要である。合意形成を段階的に行う上で、初期であればある程度参加者を絞り込むことは有効であるが、過度に限定してはならない。また重要であるのは、参加した事実ではない。明瞭なルールを設定し、フェアに議論ができてこそ課題認識を合わせることができる。
  2. うまく連携して取り組めない例えば、参加者のITリテラシーの違い、現場の理解の違いなど、議論の場を用意したとしても、議論するにあたっての理解や基礎知識などが異なると、参加者は議論に集中することができない。時間を経ればいずれ議論に至ることはあるが、多くのステークホルダーを調整し作り上げた場は有効に活用するべきである。その個別の阻害要因は多岐にわたるが、個別に事前に説明するなど、要因を丁寧に対応し取り除くことで、参加者は真に議論に集中することができ、効果的な連携へとつながる。
  3. 目標がすり合わないソーシャルプロジェクトでは、それぞれの立場が異なり、その熱量も異なる。熱の異なるステークホルダーが一丸となって目標へ邁進し到達するためには、大きな遠い社会的課題の解決だけを目標に据えただけでは脱落者が出てしまい、仕組みが崩壊してしまう。目標は、仮説検証ができる姿とし、ステークホルダーの熱が冷めないうちに仮説検証を繰り返すことで熱が冷めることを防ぎ、自走的な仕組みとして大きな社会的課題の解決にも到達し得るだろう。
  4. 効果的な「ソーシャルコミュニケーション」に向けた「仕組み」のポイント

4. おわりに

本稿では、ソーシャルプロジェクトにおけるコミュニケーションについて述べた。しかし、システム開発におけるプロジェクトマネジメントの知見の活用はコミュニケーションに留まらず、その応用の幅は広い。ソーシャルプロジェクトに係る読者におかれては、プロジェクトマネジメントを学び、その観点を活用することが、プロジェクト成功への一助となるであろう。

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