ESG・SDGsを実践するには、現場と地域の声に耳を傾けよ
銀行単独の取り組みにとどめず、「地域ビジョン」で連携を

NTTデータ経営研究所
金融経済事業本部 金融政策コンサルティングユニット マネージャー 池田 雅史
金融経済事業本部 金融政策コンサルティングユニット マネージャー 田中  仁

政府・官公庁などの取り組みに呼応するかたちで、地域銀行においてもESG・SDGsの活動は活発化している。しかしながら、実際の推進においては、経営と現場の乖離などいくつかの課題があり、「見せかけの取り組みとなっている」との声も聞かれる。当社は、経済・社会・環境の3分野を「統合的不可分」なものとするSDGsの17目標の構造から、ESG・SDGsの実践に向けては統一的な地域ビジョンの創出が不可欠と考える。地域銀行においては、ESG・SDGsを「自分ごと」と捉えるとともに、ビジョン創出の担い手となることを期待する。

ESG・SDGsの三つの課題

 2020年12月、グリーンとデジタルを基軸とした経済対策が閣議決定された。菅義偉政権の看板政策の一つとして、脱炭素社会の実現・環境対策につき、2兆円の基金設立が打ち出されたことは内外に相応の驚きをもたらした。米国も、バイデン氏への政権交代により、より環境やエネルギーに配慮した政策や、民主党ならではの市民・社会を考慮した政策を次々と打ち出してくるだろう。

 当社ではESG・SDGsを軸とした地域戦略の策定支援を行っており、これらの分野に対する関心の高まりは、お客さまとの日々の対話を通じ、ひしひしと感じている。地域銀行一つ見ても、統括セクションを設置する例や、グリーンボンドやSDGs債を積極的に組成する例、地域を巻き込むために関連するセミナーを実施する例など、取り組みは具体的なものになってきた。プレスリリースでもESG・SDGsに関する取り組みを積極的に発信する銀行が増えている。

 一方で、「これらの取り組みが見せかけだけに終わっていないか」との指摘もある。確かに開示された資料や情報を冷静に見ると、従来行ってきた取り組みや一般的な業務にESG・SDGsを冠しただけと言わざるを得ないものも存在する。円滑に進んでいるように見えても、ESG・SDGsの推進を担っているはずの現場担当者から、課題が述べられることも少なくはない。具体的には、次のようなものである。

■担い手の不足

 銀行によっては、各部署要員をメンバーとしたESG・SDGs推進プロジェクトを編成の上、定期的に会議体を持つところもある。ただし、プロジェクト推進者から、「メンバーは理解してくれても、当該メンバーが所属する部署内での啓蒙には時間を要する」「行内でESG・SDGsの必要性を理解する者は限られる」など、担い手の不足を指摘する向きも少なくない。プロジェクトが立ち上がっても、会議での議論が堂々巡りとなったり、計画推進に息切れ感を訴えたりする担当者もいる。言葉としてはESG・SDGsを理解していても、「自身の業務にどう関係するのか」「自行がなぜ取り組むのか」「発展性や収益性はあるのか」といった視点で、ESG・SDGsが腹落ちしている行員はまだ多くはないのが実情だろう。

■経営と現場の距離

 地域・ステークホルダーへのアピールのため、経営者はESG・SDGsに向けた取り組みに積極的になるものの、現場がその方針についていけない銀行もある。ある銀行の担当者は、経営層はESG・SDGsについて積極的になってきたとしつつも、「現場の関係者はどうすればいいのか右往左往している」と述べた。これもESG・SDGsが自身の腹に落ちていないためと思われるが、これに「発信ありき」の姿勢が合わさると、銀行の開示も見せかけだけのESG・SDGs(ESG・SDGsウォッシュ)になりかねない。積極さや先進性をアピールしているように見えても中身が伴っていないことが見透かされれば、結果として、自行の評判も棄損しかねない。

■ESG・SDGsの時間軸

 ESG・SDGsに関する現場の想いや説明を経営層が受け止めないケースも存在する。ある銀行では、ESG・SDGsに向けた取り組みの必要性を担当者が熱心に説明しても、「経営層がその収益性や収益化に要する時間軸について納得してくれない」と打ち明けた。当該担当者は、ESG・SDGsは持続可能性の観点からなされる取り組みとたびたび説明しても、「経営層からは早期の収益化が求められる、そうでなければ却下されてしまう」とも述べた。

 さらには、「他部署から『収益にすぐに寄与するわけではないプロジェクトになぜ彼らは懸命になっているのか』と揶揄される」と、想いとは裏腹に現場では肩身の狭い思いをしていることがうかがえる発言もあった。私企業ゆえ、銀行も新しい取り組みには収益性の観点から厳しい検証が必要であることは理解できるが、経営環境困難に伴う経営目線の短期化により、ESG・SDGsが想定する長期視点が受け入れられづらくなっている模様である。

 ESG・SDGsに限らず、銀行が新たな試みを妨げる要因の一つが、人事を含めた行内制度設計ではないかと当社は考えている。銀行はいわゆる減点人事を依然引きずっており、新しい取り組み・チャレンジを称える評価体系は十分に整備されていない。昨今のX-TechビジネスやDXでも同じことが言えるかもしれないが、長きにわたり相応のコミットを要し、かつその収益性や成果が定かではない、あるいは短期的な収益は見込みづらい取り組みは、行員にとって「割に合わない」業務となってしまうのかもしれない。「現業に忙しく、新しい取り組みに割く時間が取りづらい」「上司の了解・理解を得るのが難しい」との声も聞かれた。

実効性ある取り組みには地域連携が不可欠

 前記のような課題を克服できたとしても、ESG・SDGsの実現・達成については、銀行はさらに乗り越えるべき課題があると当社は考えている。先に挙げた「担い手の不足」や「経営と現場の距離」といった課題を「ミクロ」、すなわち銀行内のものと考えると、これから取り上げる事項は、そもそもの構造や銀行に閉じない「マクロ」に関するものである。ここではESG・SDGsがそもそも持つ統合不可分性と、その解決のため当社が想定する「地域ビジョン」について述べる。

 あまり知られていないが、SDGsにあるそれぞれの目標は、「統合的に不可分」とされる。例えば、17の目標のうち、「1.貧困をなくそう」を実現しようとすれば、「2. 飢餓をゼロに」することも必要であるし、「3.すべての人に健康と福祉を」の達成も不可欠となる。同様に、「8.働きがいも経済成長も」という目標を達成しようとすれば、「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」も充足しつつ、「4.質の高い教育をみんなに」提供することも達成される必要がある。すなわち、SDGs17の目標を達成しようとすれば、個別の目標をそれぞれ達成しようとするのではなく、複数(場合によってはすべて)の目標を一体的に達成することが求められる。

 地域銀行には、地域商社の設立によって地域の再生や再成長を担う主体としての役割が期待されるが、「貧困」や「飢餓」は銀行のみでは解決することはできない。既存の役割・機能に即せば、「健康と福祉」は病院、「教育」は大学・高校にいったんは委ねざるを得ないだろう。

 既存の役割・機能に即しESG・SDGsの達成を目指すとなると、誰が核になるにせよ、複数の関係者(マルチステークホルダー)を連携させることが不可欠となる。「連携」という考え方自体は新しいものではないが、異なる利害や想いを有する多様な関係者を束ねるには、セミナーなど一介の施策にとどまらず、目指すべき将来像について認識を一つにするための「地域ビジョン」の創出が不可欠というのが弊社の考えである。

 前述したとおり、銀行内のみで見た場合も、ESG・SDGsが腹落ちしていないため、個々の行員、各部署で動きや方向性はバラバラと推察される。行内全体で共通認識が醸成されていないため、総合企画部は全体取りまとめ、広報・IRは外部への発信にとらわれて、担うべき役割を狭小に定義し過ぎていないか。それによって、当初想定していなかった顛末・展開となっていないか。

 同じことは、地域全体(マクロ)で見ても指摘できる。例えば、「教育」の機能に着目すると教育機関はESG・SDGsに関する講義や科目を増やそうとするかもしれないし、中長期的な計画はすでに自治体で策定されているかもしれない。政府は、毎年30程度の都市を、「SDGs未来都市」などのかたちで選定しており、選ばれた都市の自治体は、行政計画の中で、ESG・SDGsの観点や施策を矢継ぎ早に反映させようとしている。この流れに、金融で地域を担う地域銀行はキャッチアップできているだろうか。

地域ビジョン創出のため、銀行は「伝道者」の気概を

 こうした各者の想いを束ねるべく、当社は地域ビジョン創出のためのお手伝いをすることがある。各者の想いや課題認識を共有するワークショップを頻繁に実施する中で、ESG・SDGsに通ずる考えを「自分ごと」として話し始める方々を何度も目撃したが、それは銀行員にとどまらない。「語り部」には、地域の中小企業経営者や一般住民も含まれ、ある地域の中小家電販売店経営者は、「グリーン」や「ブラウン」、「ブルー」など、環境・エネルギーに係る専門用語を用いつつ、地域の再生に関する想いや自身の役割を自身の言葉で語った。

 ある地域で実施したワークショップで得られたビジョンは、言葉としてはまだ粗削りながらも、「サステナビリティー」や「地域の再生」等、ESG・SDGs、さらには地域金融に通ずる視点・キーワードが随所に現れるものとなった。地域銀行がビジョン創出の担い手となる場合には、会議のファシリテーターやイベント主催者といった形骸的な役割でなく、エバンジェリスト(伝道者)ともいえる気概を持って、これに臨む必要があると考える。そうした気概を得るには、前段で述べた「ミクロ」、すなわち銀行内の課題は克服しておくことが大前提であることは言うまでもない。

 図表は、当社が考えるSDGs/サステナブルコミュニティーの全体像である。注目いただきたいのは、真ん中にあるのが「地域ビジョン」であって、必ずしも自治体や地域金融機関等、「目に見える」主体が中心となっているわけではないということである。「共通するビジョンさえあれば地域は自走する」との考えによるところでもある。ただし、ビジョンを引き出すエバンジェリストの役割は、地域銀行にぜひ担っていただきたいと考えている。

SDGs/サステナブルコミュニティーの全体像

 本稿では、銀行がESG・SDGsの精神に則った真の取り組みを実現するに当たっての、ミクロ・マクロそれぞれの課題を概観した。筆者らは銀行出身であり、地域銀行に地域のESG・SDGsを担ってほしいと思う一方で、「地域ビジョン」の創出は、地域銀行のみで担うのは決して容易ではないとも考えている。地域銀行においては、まずは、自身の属する「地域」を見つめ直した上で、地域の中小企業や住民、教育機関と同じ目線で会話できているか、その対話姿勢をあらためて確認する必要があると思われる。

 大義としては否定できないESG・SDGsは、長期的・持続的な取り組みを要する。自分の言葉でかみ砕きつつ、聞き手の想いや理解に丁寧にひも付ける役割が求められると考える

いけだ まさし
地方銀行での有価証券運用業務を経て、大手シンクタンク/ITベンダーでの調査・企画、監査法人でのリスク・アドバイザリー業務を経て、株式会社NTTデータ経営研究所入社。ESG・SDGsも含め、官公庁・金融機関に対し幅広い領域で調査・コンサルティングを実施。

たなか ひとし
大手信託銀行での企業年金に係る企画業務を経て、株式会社NTTデータ経営研究所入社。ESG・SDGsについては、取引先評価に係るESG評価観点の洗い出しと活用可能性、ESG・SDGsを軸とした地域戦略の策定、戦略の実行に必要なサステナブルコミュニティーの構築の支援実績あり。

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