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Insight
トップ・インタビュー

なぜコネクテッドストラテジーが必要なのか

2023.09.20
(語り手)ニコライ・シゲルコ
(聞き手)NTTデータ経営研究所 代表取締役社長 山口 重樹
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山口重樹

2020年、私は興味深い概念を紹介した素晴らしい本に出会いました。その概念とは、「断片的なやりとりから継続的に接続した関係に移行することが、テーマパークを魔法の体験に、出版社を学びの旅のクリエイターに、病院制度を予防医療組織に変える」というものです。

3年経った今、私はこの展望が日本で実現し、認知されつつあるのを見て興奮を覚えております。

それでは、2019年に出版されたニコライ・シゲルコ博士の著作『コネクテッド戦略』をご紹介します。シゲルコ博士は、ペンシルバニア大学ウォートン・スクールの経営学教授でいらっしゃいます。ニコライさん、本日はゲストとしてお迎えでき光栄です。

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ニコライ・シゲルコ

お招きありがとうございます。おっしゃるとおり、この考え方が浸透していくのを見るのは非常にうれしいです。「顧客により近づく」という概念は、本書を書いた時にはすでに始まってはいましたが、ここ2、3年で明らかに加速しました。新型コロナ感染症のパンデミックも、顧客との接続にテクノロジーを使う必要性を加速させたと、私は考えています。

山口重樹

ニコライさんは、ウォートン・スクールの有名なMBAプログラムでも最も評価の高い教授の一人として広く知られ、その卓越した指導力は20を超える教育賞により認められています。また、世界各地の数多くの企業で戦略ワークショップを実施し、自社戦略の評価や新たな戦略構想の作成を支援してこられました。

本書は「競争で優位に立つためのデジタル技術活用による顧客との継続的関係の構築方法」を説明していて、各セクションの終わりにはワークショップが付属しています。

私は、これらのワークショップが非常に実践的で役立つと思いましたので、本日のニコライさんとの対談で、具体的な内容を掘り下げていこうと思います。

著書の中で、ニコライさんは次のような興味深い主張をしておられます。「コネクテッド戦略の背景にあるテクノロジーは、目まぐるしい速さで進んでいる。こうした進歩により、多くの業界で魔法のようなユーザー体験が実現しつつある。しかし、面白いのは、技術そのものは通常、単なる脇役に過ぎないということだ。コネクテッド戦略の主要な革新性とは、確固としたビジネスモデルを刷新することにあるのである」。この発想の根拠について、詳しく説明していただけますか?

ニコライ・シゲルコ

私たちがこの本を書こう、調べて本にしようと思ったきっかけは、多くの企業が顧客との関わり方を根本的に変えようとしているという事実でした。企業は、顧客がやってくるのをただ座って待っているような回数の少ない単発的なやりとりではなく、実際にはより継続的に顧客と繋がっていて、それによって顧客のニーズを予測し、数少ない断片的なやりとりをより継続的な関係へと変えようとしています。

私たちが最初に関心を持ったのは医療でした。なぜなら、医療こそ断片的なつながりの典型的な例だと思ったからです。私がかかりつけ医に行ったり、入院したりするのは、本当に具合が悪い時です。そして一旦入院すると、四六時中あらゆる人から注意を払ってもらいますが、最終的に誰かが「退院してよし」と判断すれば追い出される。そうすると再び接触はなくなります。私が深刻な状態になるまで、入院させてもらえません。

そう考えると、顧客あるいは患者である私にとっても、医療制度全体にとっても、非効率的なのは明らかです。ですからコネクテッド(接続を保つ)戦略ということを考えた時、私たちが期待したのは、これをうまく実現できれば顧客や患者の体験を向上させると同時に、実際のコストも削減できるということでした。そこで私たちは、コネクテッド戦略の基本的要素に目を向けました。こうした顧客との関係の構築、そしてそれを低コストで実現するための接続を保ったデリバリーモデル構築には、たくさんの取組みが行われています。もちろん、顧客がより好むことをより低コストで実現できれば、それもディスラプションを生み出します。これは単なる新しいポジショニングというよりも、効率性という分野を全く変えてしまうものです。これが運送業や接客業、保険業や銀行業など多くの業界でこうした発想の新しい企業が台頭し、ディスラプションが起きている理由なのです。

「コネクテッドストラテジーとは何か」

山口重樹

スマートフォン、IoT、ウェアラブルデバイスなど、デジタル技術の急速な進化は、企業にビジネスモデルを刷新する新たな可能性をもたらしました。

しかし、単にデジタル技術を導入するだけでは不十分で、本当に成功する方法はそれを効果的に活用することである、そう理解することが肝心だということですね。

クライアントのデジタル変革の成功とは、彼らの顧客が抱える真の課題を解決するサービスを提供することで、支払意思額(Willingness-to-Pay)を高めることだと考え、私たちは、顧客の真の問題を解決するこのサービスを「アウトカムベースサービス」と呼んでいます。

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デジタル技術の進歩によりサービスの向上が可能になり、以前では不可能だった新しいビジネスを生み出すことができるようになりました。そこでは、技術導入のためにサービスを向上させるのではなく、企業が顧客に提供できる価値とは何か再定義することが大事です。

本書の中で、ニコライさんは、「コネクテッド戦略から得られる利益とは、企業がより低コストでより多くの価値を顧客に提供できることである」という、非常に説得力のある主張をしておられます。

私は、本来相容れない「よりよい顧客体験」と「コスト削減」を接続性がどのように両立させるかを理解する上で「効率性のフロンティア図」は非常に有益だと思います。

ニコライさん、この「効率フロンティア図」が何を表しているのか、詳しくご説明していただけますか?

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ニコライ・シゲルコ

縦軸はおっしゃったように「支払意思額」、もしくは顧客が製品やサービスから受ける「perceptive profit(認知(可能)利益)」と呼ぶこともあります。そして横軸は、単位毎のコスト、たとえばサービス1回あたり、あるいは製品1個あたりのコストです。通常、両者は二律背反の関係にあります。みごとにカスタマイズされ、パーソナライズされた製品を作ることはできますが、通常、コストが上がります。あるいは顧客がそれほどまでには好まないがコストははるかに安い、より標準化した製品を作ることもできます。それが、いわばフロンティアを生むのです。

たとえば、食品業界を例に取れば、より低コストのフロンティアには、様々な種類の企業が存在しますね。市場には様々なポジションがあります。ファーマーズマーケットは、少なくともアメリカでは、一般的に訪れて楽しい場所です。しかも比較的、新鮮な農産物が手に入ります。しかし一食のコストを考えると、結局かなり高くついてしまいます。農家はファーマーズマーケットまで行かなければならないし、私も車で出かけていかなければならないからです。私の幸福度は比較的高いものの、コストも高いということになります。

一方で、テスコのような普通のスーパーマーケットがあります。アルディのようなディスカウントスーパーもあります。このように、企業によって市場でのポジショニングの選択が異なるのです。しかし、今、山口さんが指摘されたように、様々な新しいテクノロジーが、このフロンティアを押し広げてくれました。新しいビジネスモデルの登場を可能にしてくれたのです。そしてこれは大事なポイントで、興味深いことに多くの場合、関連するテクノロジーはその企業が開発したものではないのです。これらのテクノロジーは基本的にすでに存在していたもので、新しいビジネスモデルを生み出すためにそれらをどのように組み合わせるかが問題なのです。ウーバーはよい例です。ウーバーは、GPSも携帯電話もグーグルマップも開発していません。しかし、これらの技術を組み合わせて使うことで、破壊的なビジネスモデルを生み出したのです。

新しいテクノロジーは、基本的に新しいビジネスモデルの台頭を可能にします。問題は誰が最初に思いつくかということです。

ここでひとつ例を挙げると、ブルーエプロンは、ミールキットの配達サービスです。ハローフィッシュ、ホームシェフなど、ミールキット業者はたくさんあって、毎週いくつかのレシピと適切な分量の食材が入った箱を送ってくれるのです。ファーマーズマーケットでないと手に入らないような高品質の製品が届くのですから、顧客である私から見れば、これはなかなか素敵なサービスです。今では私の生活から数多くの厄介事がなくなりました。買い物に行く必要もない、レシピを考える必要もない。私の全体的な幸福度は上がりました。ブルーエプロンにはスケールメリットがあり、多くの中間マージンをカットしました。つまり1食あたりのコストが下がったのです。ですからこの図の右上のように、支払意思額が上昇し、フルフィルメントコストも下がったわけです。

先ほども話に出ましたように、これはデジタル技術とコネクテッド戦略が可能にした魔法だと思います。うまく行けば、両方とも同時に実現することができるのです。

「顧客の真の課題をどのように把握するのか。」

山口重樹

私たちは、デジタル変革への取組みの最終的な目標は、大まかに2つのカテゴリーに分類されると考えています。「顧客価値のリ・インベンション」と「バリューチェーンのリ・エンジニアリング」です。

ひとつめの「顧客価値のリ・インベンション」は、現在の顧客体験を分析して顧客が抱えている真の問題を明らかにし、最終的にその解決に必要な成果を把握することです。それにより成果ベースのサービスを提供し、支払意思額を高めるのです。2つめの「バリューチェーンのリ・エンジニアリング」は、データ利用による個別化や即時性など、ますます複雑になるバリューチェーンの問題に対処することです。バリューチェーンのコストは、フルフィルメントコストに影響を与えます。

本書の中で、ニコライさんは接続された顧客との関係をこのスライドのように定義しておられます。それではワークショップ2で説明されている主な手順を詳しく見て行きましょう。すべてのステップを取り上げていきますが、特に顧客との強固な関係を築く上でのステップ4と7の重要性を強調したいと思います。

これらのステップは、顧客の真のニーズを理解する上で極めて重要な役割を果たし、ひいては顧客に価値あるサービスと成果を提供するために不可欠です。ニコライさん、ステップ4(Identify the deeper Needs of the Customer)とステップ7(Find Ways to Utilize information Gathered from Repeated Interactions to Improve the Recognize-Request-Respond Cycle)について詳しくご説明いただけますか

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ニコライ・シゲルコ

おっしゃるとおり、主要な目標と戦略は、顧客の支払意思額を高めることです。そして問題は、多くの業界において自社製品に差をつけることで支払意思額にも違いを生み出すことがますます困難になったということです。製品がますます改良され、多くの面で十分に良くなると、目立った差をつけることがますます難しくなります。そのような場合、今お話しいただいたように、カスタマージャーニーやカスタマーバリューチェーンと呼ばれるような、顧客の支払意思額を高める要因について、より幅広く考える必要があります。「なぜこの製品がそんなに欲しいのか?」といった疑問を突き詰めていけば、顧客のニーズをより深く理解できるかもしれません。

たとえば、S&P500インデックス・ファンドを販売している場合、S&P500インデックス・ファンドを差別化するのは本当に難しいです。しかし、もし誰かがあなたのところに来て、「あなたからS&P500インデックス・ファンドを買いたいのですが」と言ったとしたら、おそらくあなたの最初の質問は「なぜ買いたいのですか?」でしょう。「今朝起きて、完璧な人生の締め括りにS&P500インデックス・ファンドを買わなければと思ったのですか?」なんて、そんなわけはないですよね。

そこで2、3質問を重ねながらよく訊いてみると、「ああ、この人は老後のために貯蓄をしたいのだな」ということがわかるでしょう。より深いところにある根本的なニーズにたどり着くわけです。先ほど挙げた例は医療でしたが、私が今、動悸がするのでできるだけ早く心臓専門医に相談したいとします。そこで「なぜ?」と訊かれれば、「私の心臓を治療してくれる人がほしいから」、またなぜと訊かれれば、「心臓だろうと、肘だろうと、健康を維持したいから」。つまり、このニーズの階層を上がっていくわけです。こうしたより深く結びついた顧客との関係を築くことで、企業としてニーズの階層を上がることができるかもしれません。そしてそれができれば、たくさんのよいことが起きます。

第一に、価値提案が大きく変わります。 たとえば、ナイキであれば、単に靴を売っているのではなく、初マラソン完走のような人生の目標を達成する能力を売っているのです。繰り返しになりますが、それこそがその特定の顧客の根本的なニーズだからです。私は、あなたが心臓専門医に行けるよう手助けしているのではなく、あなたの健康を維持することを手助けしているのです。ですから、価値提案としてはかなり違ってきます。

このニーズの階層を上がることができれば、第二に起きることは、取引のたびに世界中を相手に競争しなくてもよくなるということです。顧客が特定のニーズを持つたびに競争しなければならないとしたら、それは本当に大変なことです。しかし、もしあなたか信頼できるパートナーになれれば状況は変わります。つまり、私があなたからS&P500インデックス・ファンドを買うのは、あなたがより優れたS&P500インデックス・ファンドを持っているからではありません。私のニーズは何か、最良の選択肢は何か、いかにしてそれを購入すべきかを共に探る長いカスタマージャーニーにおいて、あなたが信頼できるパートナーだったからです。あなたがそのジャニーにおける私の案内役でありパートナーだった、それがあなたから買う理由なのです。

そして最後になりますが、このニーズの階層が上がるにつれて、提供するサービスの幅がかなり広がります。もし私が、どうすればもっと早くあなたを心臓専門医につなげられるかを考えているだけなら、できることは限られています。心臓専門医を増やすことはできます。スケジュールをもう少し効率的にすることもできます。でも、私ができることはそれほど多くありません。しかし私の目標があなたの健康を維持することなら、できることはもっとたくさんあります。そのうちのいくつかは実は費用対効果が高くて、そもそも心臓専門医を呼ぶ必要がなくなるかもしれません。

このように、理由を深く掘り下げ、必要性の階層を上がることができれば、本当に起こる2、3のことがご理解いただけたと思います。だからこのステップが非常に重要なのです。

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ニコライ・シゲルコ

もう少しお話させていただくと、より持続性のある競争優位性をいかにして生み出すかという究極の問題です。先ほど私が触れた良いニュース、それは、コネクテッド戦略を構築するのにテクノロジーの革新者である必要はないということでした。

しばしばこうしたテクノロジーは、すでに世の中に出回っているものです。悪いニュースは、こうしたテクノロジーがあなたにとって入手可能なのと同様、誰でも入手できるということです。私たちが主張するのは、テクノロジーそのものは、おそらく当たり前のものだということです。誰もがその技術にアクセスできるので、技術面では誰もが互いにコピーし合うことになります。ですから、より持続性のある競争優位性は、顧客について学ぶことから生まれるのです

そこで私たちはちょっとしたフレームワークを導入しました。これに基づき、顧客とのつながりを構築することで顧客のニーズを認識し、そのニーズを特定のソリューションに変換し、そのソリューションのリクエストを送ることができます。そして企業であるあなたはその要求に応えなければなりません。これが「接続された顧客体験」です。

そこで出てくる問題が「いかにして体験から関係を構築するか」「いかにして信頼されるパートナーになるか」です。 それが4つ目の「R」、つまり「リピーティング(繰り返し)」で、先ほど申し上げたように、単発的な接触をより小規模で継続的な接触に変えるのです。なぜなら、もし私が顧客であるあなたに年に1、2回しか会わければ、あなたについて知ることはとても難しいです。でも継続的な関係があり、より頻繁なやり取りがあれば、あなたのことについてもっと多くのことを知ることができます。つまり、私たちの発想は単発的な接触を継続的な接触に変えるというものです。これはもちろん今は大変で難しいことですが、もしこれらの経験をつなぎ合わせて関係を構築できたら、こうした情報は、顧客であるあなたによりフィットしたカスタマイゼーションを実現し、提供できる製品を最良化し、どんな新製品を開発したらよいか把握するのに役立ちます。そして全般的に、大幅に効率を上げてくれるでしょう。そしてそれを本当にうまくできれば、繰り返しになりますが、時間の経過とともにこのニーズの階層を上がり、あなたの信頼できるパートナーとなることができるでしょう。

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山口重樹

ご説明ありがとうございます。顧客の真のニーズを見極める方法と、サービス提供を通じて顧客体験から繰り返し学ぶ方法がよくわかりました。

それでは今回のテーマに関連しまして、私たちの「アウトカムベースサービスプランニング」のフレームワークもご紹介させてください。「アウトカムベースサービスプランニング」のプロセスを通じて、単に現状を改善するのではなく、顧客の根本的な問題を解決するための新しいサービスを創造します。顧客の問題を解決するサービスを提供するためには、まず顧客が抱える真の課題を認識することが重要です。このステップについて、いくつかの考え方をご紹介します。

弊社では、真の顧客課題を特定するために、トップダウンとボトムアップの両面からアプローチします。トップダウンのアプローチとは、企業の目的、使命、価値という視点から考えることです。

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ボトムアップのアプローチとは、既存の顧客体験から課題を見つけることです。

次の2枚のスライドは、自動車保険会社を例に、既存の顧客体験から問題点を特定する方法を示しています。

最初のステップです。まず、現在の顧客体験のうち、顧客と接触する場面を説明します。次に「ジョブ」、つまり各場面で顧客が解決したい問題を抽出するために、「利用」と「フォロー」の場面に焦点を当てます。顧客の真の目的は、問題解決ですから、「利用とフォロー」の段階に焦点を当てます。保険の購入は顧客の目的ではないからです。この例では、「スムーズな事故対応」と「事故時の経済的保証」をジョブ(仕事)として抽出しました。

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個別のシーン、たとえば、保険の申込み処理での課題解決、プロセス改善は既存顧客の満足度を高めるために必要です。しかし、それでは顧客の真の問題を十分に把握できていないかもしれません。

その場合、私たちは各場面を、それが起こった背景にまで拡大して考え、そこから再び「ジョブ」を引き出す必要があります。自動車の運転なら、顧客の最大の関心事は間違いなく安全性です。ですから、私たちがこのシナリオから中核となる顧客の課題を抽出するとしたら、それは簡潔に「安全で信頼できる運転」と定義できます。

ニコライさんのステップ7に関連して言えば、データ収集、分析、予測、サービス提供によるサービス改善というサイクルを廻すことが重要だと考えています。私は『コネクテッド戦略』の中にある「対話を繰り返すことで、顧客のニーズを認識し、そのニーズを最適なソリューションのリクエストに変換し、そのリクエストに応える能力を継続的に磨くことができる」という記述に全く同感です。

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「接続されたデリバリーモデルを構築するためには。」

山口重樹

次のトピック「接続されたデリバリーモデルの構築」に移りながら、ニコライさんに著書のワークショップ3にあるステップについてお尋ねしたいと思います。

ワークショップ3には、成功のために重要なステップの包括的なリストが掲載されています。私はステップ4と5に注目してみたいと思います。これらはデジタル技術活用によるデリバリーモデル変革に重要な役割を果たすステップです。世の中には多くのデジタル技術が存在しますが、ビジネスリーダーが自分の事業に適切な技術を特定して組み合わせるのは、実際のところ難しいと考えます。

ニコライさん、ステップ4(Deconstruct your connected strategy into technological sub-functions and then catalog currently used technological solutions for each sub-function)とステップ5(Identify new technological solutions and how those might enable further innovations in your connected strategy not identified so far)の内容を、詳しく説明していただけますか?

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ニコライ・シゲルコ

私たちは今、どのようなつながりのある顧客関係を作りたいか、どのような体験を作りたいかを考えました。先ほどの議論、つまりカスタマーバリューチェーンあるいはカスタマージャーニーのどこで介入するかという話に戻りましょう。

私は先ほど、これら4つの「R」、すなわちRecognize(認識)」「Request(要求)」「Respond(対応)」「Repeat(反復)」について話しましたが、これらはカスタマージャーニーのさまざまな要素に対応します。「認識」の要素、これは顧客がニーズを認識するのを助けることです。「要求」の部分は、自分のニーズから何が実際に正しい選択肢なのかを探し、決定することです。それから、「どうやって注文するか?」、「どうやって支払うか」という非常に実際的な疑問があります。さらに私が商品を取りに行かなければならないのか、それとも商品が私のところに届けてもらえるのか、という「対応」の部分です。それから、私はその製品あるいはサービスを体験し、その後はアフターサービスがある。そして今話したような学習と改善の要素があります。

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それから、「私はそれをすべて自分ひとりでやるのか、それともその問題を解決するために他の関係者も巻き込むのか?」という課題があります。ウーバーの話をしましたが、ウーバーは「よし、配達の需要があるのはわかった」とは言いましたが、「よし、そのニーズに応えて小型トラックを買ってドライバーを雇おう」とはなりませんでした。その代わりに、これまでつながっていなかったエコシステム内のさまざまな関係者をどうつなげるかを考えたのです。

こちらに時間と車がある人がいて、あちらに移動手段を必要としている人がいる。 そこで私が彼らをつなげるわけです。これがいわゆる「接続の構築」です。そして、私がこれらの様々なプレイヤーをどのように相互接続するかを考えると、誰が誰に支払うかというお金の流れに関する問題が出てきます。これは収益モデルに関する問題です。

「デジタルテクノロジーをどう活用するのか」

これらの各段階には、おそらく何らかのテクノロジーがあるはずです。おっしゃるように、すぐに技術的解決策まで掘り下げる必要はないでしょう。まず、「どのような仕事のニーズを解決する必要があるだろう?」というように、自分なりの言葉を使うことから始めるといいでしょう。私の考えは、山口さんのフレームワークのひとつとよく似ているのですが、私たちは通常、これらのカテゴリーごとに4つの異なる要素を考えることができます。

通常は、センサーを通してであれ、質問を通してであれ、センシングや情報入手に関しては何らかの課題があるものです。私たちには伝達しなければならない特定の情報があります。それは通常、技術スタックの比較的下位に位置する問題ですが、かなり重要なことです。どうやってビットやバイトを得るか、そしてエネルギーを使いすぎず、熱を発生させすぎないか、などです。これが伝達の部分です。それから、私たちはその情報が中央サーバーやエッジサーバーに届いたら、今度はそれを保存して分析しなければなりません。それから、学んだことを踏まえて対応し、次の段階に移らなければなりません。

特定のセルを埋めようと考えることもできるでしょう。「よし、それぞれの違ったセルの中でしなければならない特定の仕事は何だろう?」と問います。そして、これらの仕事を特定した後で、各セルをさらに深く掘り下げて、「その特定の解決策に実際に役立つのはどんなテクノロジーだろうか?」と問うのです。そうすると面白いことに、自分の業界ではない他の企業が似たような問題を抱えていて、そういう他業界から非常に強力な解決策が見つかったりします。

つぎに逆に考えてみると、それが基本的にはステップ5になるのですが、このセルを利用するもうひとつの方法は、新技術が登場した場合です。突然、新技術が登場します、そこで私たちは自問しますよね。「さて、その特定のマトリクス表の中で、そのテクノロジーは実際に私たちを助けてくれるだろうか?」「この新しいテクノロジーは、フロンティアをどのように押し広げ、新たなビジネスモデルの台頭を可能にするのか?」などです。そして一旦、新技術をこの表の中に当てはめられれば、どのような種類の新しいコネクテッド戦略が可能かを把握するのに役立ちます。「これは以前よりもずっと効率的に対応できるようになる技術だ」「顧客が自分のニーズを表現するのに役立つ。何らかのボットを使って簡単に対話できるし、ニーズについてより洗練された感覚を得ることができる」などです。

ですから、これがこのフレームワークが役立つと私たちが思った2つの方向です。山口さんはトップダウンとボトムアップとおっしゃいましたが、トップダウンは、「よし、解決しなければならない問題はなんだろう」そして「そのために技術を探そう」ということになります。ボトムアップは、「ここに登場したばかりの新技術がある。この技術は、どんな仕事に役立つだろう?」ということです。

しかし、ここでも私はもう一度山口さんもご指摘になった非常に大事だと思う点に戻りたいと思います。私たちが本当に有益だとわかったのは、顧客のニーズからスタートするということです。私たちが達成したい成果は何でしょう? そして、技術本位でないようにするには? ここに素晴らしいテクノロジーがある、それで何ができるのでしょうか? それは、ときには興味深い出発点です。しかし私たちが顧客のペインポイントや支払意欲の原動力を把握しなければ、存在しない問題の解決策、あるいは顧客がそれほど気にかけていない問題の解決策を構築するようなことがしばしば起こります。ですから私たちは、通常は顧客の立場に立って始めるのが非常に重要なのです。

山口重樹

先ほどのディスカッションでは、真の顧客課題の特定に関するフレームワークについてお話しました。今度は、顧客課題を解決するサービスの設計に、デジタル技術をどのように利用するかというフレームワークについてお話します。デジタル・バイ・デフォルトとは、デジタル技術を最大限に活用してサービス変革をするという考え方です。

デジタル技術の進歩は続いていますが、私はこれらの技術を「変換する」「接続する」「アルゴリズム」「認識する」の4つのカテゴリーに分類しました。私はこのようなテクノロジーの目覚ましい進歩によって、アウトカムベースサービスをより低コストで生み出すことが可能になると考えています。

「デジタル・バイ・デフォルト」の考え方では、この図に示すように、顧客体験とバリューチェーンの観点からコア技術を活用します。

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デジタル・バイ・デフォルト(DbD)で、よりよい顧客体験を提供するために、私たちは「理想的なDbD」「可能であるDbD」「将来のDbD」という3つのステップを考えます。これら3つのステップを通じ、未来のテクノロジーを活用した実践的なソリューションを設計することができるのです。

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「コネクテッド戦略では、顧客、製品・サービスを絞ることが必要」

山口重樹

最後に、経営者やリーダーたちにメッセージやアドバイスをお願いします。  

ニコライ・シゲルコ

2つの点について強調したいと思います。ひとつは先ほど申し上げたのですが、「技術に戦略を決めさせないようにしよう」ということです。たとえばボタンが500個あるリモコンは、素晴らしいけれど誰も使いこなせないでしょう。そして、「顧客から始めましょう」と言うことです。私は過去に数社の日本企業と仕事をしたことがありますが、日本企業にとってこれは問題ではないでしょう。皆さん、とても顧客重視でいらっしゃいますから。皆さん、顧客が抱える問題なら何であれ解決するとおっしゃいます。むしろ課題は、戦略的視点から見て、ときには「No」と言うべきだと思います。そしてどんな顧客に重点を置きたいか、どんな製品やサービスに力を入れたいか、どんなことをしないのか、はっきり言うことです。全てのことを全ての人のために全ての場所で行おうととすることは、基本的には戦略がないことと同じです。

繰り返しになりますが、コネクテッド戦略で成功したければ、どんな顧客に対してこの素晴らしい価値を提案するのかを明確にすることが重要だと思います。なぜなら、全ての顧客、全ての問題に対してこれを行おうとすると、本当に難しくなり、非常にコストがかかり、結果も出なくなってしまうからです。フォーカスを絞ることの重要性は、どんな戦略においても課題ですが、コネクテッド戦略においては特に重要です。フォーカスをしないと物事は急速に拡大し、コストはどんどん膨らみフラストレーションがたまることになるでしょう。ですから、「No」ということの重要性というのが、私が視聴者の皆さんに伝えたい主要なメッセージになります。

対談動画はこちらからご覧いただけます。

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Yamaguchi Shigeki
山口 重樹
株式会社NTTデータ経営研究所 代表取締役社長
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Nicolaj Siggelkow
ニコライ・シゲルコ
ペンシルバニア大学 ウォートン・スクール 教授

ペンシルバニア大学ウォートン・スクールの教授で経営、戦略論を担当。マック・イノベーション・マネジメント研究所の共同ディレクターを務める。

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