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Insight
インタビュー

「コネクティング戦略とJALの未来」対談(日本語版)

2026.06.11
ペンシルバニア大学 ウォートン・スクール 経営学教授 ニコライ・シゲルコ氏
JALデジタル株式会社 鈴木 啓介氏/内藤 嘉彦氏/大森 健太郎氏/渡邊 郁恵氏/小島 雄浩氏
NTTデータ経営研究所 代表取締役社長 山口 重樹
NTTデータ経営研究所 マネージャー ジャイヴァードハン・ラール
NTTデータ経営研究所 シニアコンサルタント ヤン・チェン・ハン
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はじめに

移動の概念そのものが問い直される時代に入っている。ZoomやMetaがデジタル体験で物理的移動を代替し、空飛ぶモビリティやドローンが「空港から空港へ」という前提を「ポイント・トゥ・ポイント」へと書き換えようとしている。この変革を脅威と見るか、進化の機会と見るか——その姿勢こそが、これからの航空会社の明暗を分ける。

本対談では、JALデジタルの鈴木氏とシゲルコ教授が、伝統的な航空会社が「コネクティングの未来」で勝者となるための条件を多角的に論じた。戦略の本質、日本人顧客と海外顧客のニーズの違い、マイルの可能性、そしてAIと「おもてなし」の融合まで。技術主導から顧客主導への転換を迫られる日本企業にとって、示唆に富む議論となっている。

業界変化とJALの立ち位置

JALデジタル 鈴木氏:

前回のご講演で「コネクティング戦略は業界を変える」とお話されていました。

現在、航空業界も大きな変革期にあります。

かつては物理的な移動が前提でしたが、今ではZoomやMetaのような企業が、デジタル体験で移動そのものを代替しようとしています。さらに、トヨタやテスラのような企業が空飛ぶモビリティやドローンを活用し、従来の「空港から空港へ」というモデルを「ポイント・トゥ・ポイント型」へと変えようとしています。

私たちはこれを脅威ではなく、顧客ニーズをより深く理解し、進化するチャンスだと捉えています。本日は、伝統的な航空会社が「コネクティングの未来」で勝者になるにはどうすべきか、ぜひ議論させてください。

日本企業の課題:戦略とは「やらないことを決めること」

シゲルコ教授:

日本企業について感じるのは、戦略とは「何をやるか」だけでなく「何をやらないかを決めること」だという点です。しかし日本企業は「ノー」と言うのが苦手です。

「すべての人に、すべての場所で、すべてのサービスを提供したい」と考えがちです。でも、すべての顧客セグメントで世界最高になることは極めて困難です。

もう一つは、日本企業は依然としてプロダクト主導型・技術主導型であり、必ずしも顧客主導型ではないという点です。素晴らしい技術を作りますが、顧客には複雑すぎることもある。

顧客セグメントの違い(日本人 vs 海外顧客)

JALデジタル 鈴木氏:

私たちの分析では、日本人顧客と海外顧客ではニーズが大きく異なります。

  • 日本人顧客:

→ 客室乗務員のサービスなど「人的要素」を重視

  • 海外顧客:

→ オンラインチェックインなど「デジタル利便性」を重視

同じ空港、同じフライトでも、価値の感じ方が異なります。

シゲルコ教授:

興味深いですね。ただし、「欲しい」と言うものと「お金を払う意思がある」ものは違います。

たとえば「機内誌が欲しい」と言っても、5ドル追加で払うかと聞けば、多くは払わないでしょう。

重要なのは、効率性と顧客価値のバランスです。

マイレージの可能性

シゲルコ教授:

カンタス航空の事例をご存じですか?

彼らはマイルを単なる「航空マイル」ではなく、「通貨」のように活用しています。

航空券以外にも使えることで、顧客の日常生活に入り込んでいます。

平均的な顧客は年に2〜3回しか飛びません。

だからこそ、日常接点をどう増やすかが重要です。

JALデジタル 鈴木氏:

私たちもLCCやECサイトなどグループ事業を通じてマイル接点を拡張しています。ただ、日本では長年「すべて込みのサービス」が当たり前でした。

現在はLCCモデルや有料オプション(アンシラリー)へ移行中ですが、これは日本では大きな文化的転換です。

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AI活用:効率化と差別化

JALデジタル 鈴木氏:

AIについて3つの課題があります。

  1. 物理的資産が限られる中で、どうグローバル顧客に対応するか
  2. AIで新しい価値をどう創造するか
  3. 「おもてなし」を重視する日本で、人とAIをどう融合するか
シゲルコ教授:

まず重要なのは「エラーのコスト」です。

  • 燃料計算のミス → 致命的
  • コールセンター要約ミス → 軽微

AIをどこまで任せるかは、エラーの影響度で判断すべきです。

内部効率化(業務効率)と顧客体験向上は分けて考える必要があります。

AIと人的サービスの融合

JALデジタル 鈴木氏:

AIが標準化を進めると、サービスが均質化してしまうのではないでしょうか?

私たちは「人の温かみ」で差別化したいのです。

シゲルコ教授:

顧客体験には2種類あります。

(1) 通常時の体験

予約 → 搭乗 → 到着

これは比較的スムーズです。

(2)非通常時(遅延・欠航)

ここで真の差が出ます。

多くの航空会社は「お客様自身で解決してください」という姿勢です。

しかし、ここで迅速に支援できれば、顧客は「50ドル高くてもこの航空会社を選ぶ」となります。

AIは、

  • 最適な代替便を即時提示
  • 顧客優先順位の自動判定

などでサポートできる。

そして人は、

  • 共感
  • 安心感
  • 判断

を提供する。

これが“Human × Digital”の本質です。

ファーストクラスでの可能性

シゲルコ教授:

例えば、ファーストクラスの30人については、もっと顧客データを活用できるのでは?

現状は「名前」と「事前注文の食事」程度しか把握していないことが多い。

しかし、上位顧客については、

  • 過去の搭乗履歴
  • 好み
  • ステータス

を活用し、よりパーソナルな体験を提供できるはずです。

社内のAI抵抗感

シゲルコ教授:

AI導入でよくある抵抗は、

「自分の代替を育てることになるのでは?」

という不安です。

だからこそ、

  • AIは代替ではなく「能力拡張」
  • 面倒な業務を減らし、人は共感業務に集中

というメッセージが重要です。

AIを「脅威」ではなく「パートナー」にできるかどうかが鍵です。

結論:すべての顧客に最適解はない

シゲルコ教授:

最終的に、万人向けの唯一の正解はありません。

  • LCCでは徹底自動化
  • プレミアムでは人的価値強化

など、ブランドごとに戦略を明確に分けることが重要です。

AIは急速に進化していますが、完璧になるまで待つのではなく、小規模で実験しながら学ぶべきです。


本対談の核心メッセージ


  • 戦略とは「やらないことを決めること」
  • 顧客ニーズは国・文化で大きく異なる
  • マイルは日常接点を拡張する鍵
  • AI導入は「エラーのコスト」で判断
  • 真価は“非通常時”に現れる
  • Human × Digital の融合が差別化
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【写真後列左から】

NTTデータ経営研究所 代表取締役社長 山口 重樹

JALデジタル株式会社 鈴木 啓介氏

ペンシルバニア大学 ウォートン・スクール 経営学教授 ニコライ・シゲルコ氏

JALデジタル株式会社 内藤 嘉彦氏

JALデジタル株式会社 小島 雄浩氏

【写真前列左から】

NTTデータ経営研究所 シニアコンサルタント ヤン・チェン・ハン

JALデジタル株式会社 大森 健太郎氏

JALデジタル株式会社 渡邊 郁恵氏

NTTデータ経営研究所 マネージャー ジャイヴァードハン・ラール

おわりに

本対談を貫いていたのは、「万人向けの唯一の正解はない」という認識である。LCCでは徹底した自動化を、プレミアムでは人的価値の強化を——ブランドごとに「やること」と「やらないこと」を明確に分ける。それが戦略の出発点だ。

注目すべきは、真価が問われるのは予約から到着までの通常時ではなく、遅延や欠航といった「非通常時」だという指摘である。ここでAIが最適な代替便を即座に提示し、人が共感と安心感を届ける。この“Human × Digital”の融合こそが、均質化の時代における差別化の核心となる。

AIは完璧になるのを待つものではなく、小規模に実験しながら学ぶもの。そしてAIを「脅威」ではなく「パートナー」と位置づけられるかどうか——その一点に、変革期を生き抜く航空会社の未来が懸かっている。



TOPInsightインタビュー「コネクティング戦略とJALの未来」対談(日本語版)