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情報未来

救急車に乗って

No.71 (2023年3月号)
NTTデータ経営研究所 取締役会長 宮野谷 篤

世の中の常識だったことでも、数十年するとガラリと変わることがある。外国の地名の読み方がその典型で、近年ではキエフがキーウに変わった。極力現地の発音や読み方を尊重するのが、今のスタンダードになっている。

技術革新も常識を変える。例えば、野口英世による黄熱病の病原体発見は、光学顕微鏡の時代の功績だった。しかし、その後の電子顕微鏡の普及により、光学顕微鏡では見えないウイルスが病原と判明。「野口英世が黄熱病の病原を発見」という事実は否定された。現在、黄熱病の病原は「フラビウイルス族のウイルス」とされている。

私が最近疑問を抱いた常識は、「ドップラー効果」である。それは典型的には、救急車のサイレン音がすれ違い後に急激に低くなる現象だったはず。私の感覚では、「ピーポー」が「ビーボー」に変わっていた。ところが最近は、救急車とすれ違っても、サイレン音がさほど低くならない。これは技術革新による変化なのだろうか?

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「救急車サイレン」でネット検索すると、ドップラー効果よりも圧倒的に数多く、「サイレン音聞こえない」がヒットする。聞こえにくいのは、サイレン音発生装置の技術革新により、住宅街走行時には音質を変え、騒音抑制が可能になったことが原因とのこと。しかし、その技術革新はドップラー効果には影響しないそうだ。

そうなると、論理的には相対速度の変化が原因のはず。さらに調べると、救急車の走行スピードが遅くなったことが原因のようだ。昔の救急車は現場に急行して患者を乗せると、電話などで病院を探し、特定した病院に地図を頼りに走ったのだろう。救急車内での医療設備も限られていたため、患者の命を守るため極力速く走る必要があった。しかし今はネット検索が充実し、車内には様々な医療機器が揃う。たまたま、昨年暮れに家族が自宅で激しい腹痛に襲われ、救急車を呼んだ。救急隊員の方は症状を聞き、最適な病院を選び、スマホで電話して受入可能を確認。そしてカーナビが示す最短距離で病院に向かった。体感時速は20㎞くらいだった。幸い家族は病院で諸検査をしている間に元気になり、ドップラー効果を巡る私の疑問も解決した。

さて、本号が特集するWeb3は画期的なイノベーションと言われている。それはどのように私たちの常識や行動を変えるのだろうか?

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