logo
Insight
情報未来

Web3の時代性と可能性

No.71 (2023年3月号)
NTTデータ経営研究所 執行役員 エグゼクティブコンサルタント 三谷 慶一郎

Web3という言葉を耳にする機会が増えている。

まだ明確な定義はないが、「ブロックチェーン技術を基盤としてつくられる分散型ネットワーク環境と、それによって構築される新しい世界観」を示すものだと考えていいだろう。

具体的には、政府や銀行などの中央機関を介さずに暗号資産を活用してサービスを提供する分散型金融である「DeFi(Decentralized Finance)」、特定の統治者や管理者が存在しない形態でビジネスやプロジェクトを推進できる分散型自律組織「DAO(Decentralized Autonomous Organization)」、唯一無二のデータを作成することでデジタル資産の売買を可能とする非代替性トークン「NFT(Non-Fungible Token)」、さらには、これらのアプリケーションサービスが活用される可能性の高い仮想空間である「メタバース(metaverse)」などが挙げられ、Web3は、これらの技術群を重ね合わせた多義的な概念だと捉えられる。

Web3に注目が集まる背景には、現在の世界がコロナ禍、あるいはウクライナ紛争といった先行きの見えない不確実性の高い環境下に飲み込まれているという「時代性」があるように思えてならない。

よく言われる通り、その根底には、GAFAMといったメガテックへの過度な中央集権から私たち個々を主役とする自律分散型の社会にインターネットを取り戻すべきという思想が存在する。そして、これらのプラットフォーマーが、コロナ禍の非対面・非接触前提社会において、爆発的にビジネスを拡大し従来以上に強力な存在になってきたことは、この考えを強く後押ししているに違いない。

また、今まで経験したことのない厄災が立て続けに起きていく中で、世界中の国家は未来への道筋を見失い迷走し続けている。人々はそんな様子を見ながらこれまで絶対的なものだと信じてきた国家に対して、緩やかに不安を覚え始めている。国家という唯一のプレイヤーに社会の全てを委ねることの限界――これもWeb 3という自律分散型のアーキテクチャの実現を待ち望むことにつながっているのだろう。

さらに、単一国家だけでは対応しきれないような新しい社会的課題が生まれていることも関係する。例えば、環境問題。温室効果ガス排出量の管理を行うためには、国家を跨る全世界のビジネスプロセスの可視化を行う必要がある。あるいは、戦争による難民の国際的保護という問題。これに持続的に対応していくためには、主体的なプレイヤーが存在しない中でのマネジメント体制を構築しなければならない。これらのこともWeb3への期待が膨らむ要因になっているように思う。

政府や産業界からは、Web3を閉塞感のある現状を打ち破る可能性のある概念だと評価する声も出始めている。2022年12月にデジタル庁でまとめられた「Web3.0研究会報告書」では、「Web3.0の下での新しいデジタル技術を様々な社会課題の解決を図るツールとするとともに、我が国の経済成長につなげていく」というメッセージが盛り込まれた。

他方、Web3で扱われる技術群はまだまだ未成熟でリスクも大きいと認識し、これを推進していくことを疑問視する声も少なからずある。本当の意味での評価が見えてくるまでにはもう少し時間がかかるだろう。

しかし、社会的な逆境の中でイノベーションが生まれ出てくることは歴史的にはよく見受けられる現象である。世の中の仕組みを根底から覆すような技術が、出現当初は陳腐で弱点だらけであることもよくあることのはずだ。Web3が産業競争力強化の切り札になるのか、単なるバズワードに終わるのかを議論するよりは、この萌芽的な技術コンセプトをいかに世の中の役に立てるように育てていくかを考えていくべきだろう。

今号の特集を通じ、「情報未来の水先案内人」として、我々なりのWeb3の可能性を展望したい。

TOPInsight情報未来No.71Web3の時代性と可能性