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災害は待ってくれない

~真のデジタルガバメントの実現を~
No.66 (2021年2月号)
NTTデータ経営研究所 取締役 成田 正人
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NARITA MASATO
成田 正人
NTTデータ経営研究所
取締役

私たちの理想とする社会はどのようなものであろうか。「何ごとにも利便性の高い社会」「経済的に裕福な社会」「色々なことに制約を受けない自由な社会」など、人それぞれ理想はさまざまであろう。しかしながら、この未曾有の災害とも言えるコロナ禍において思うことは、「安心・安全であること」が誰にも共通する理想社会の原点であろう。

2021年3月、東日本大震災から10年を迎える。地震に限らず、地球温暖化の影響ともいわれる台風や豪雨被害など、最近災害に関するニュースは枚挙にいとまはない。そして今回の新型コロナウイルスである。感染拡大は長引き、人々の生活への影響は甚大だ。重要インフラの損壊は勿論、感染防止のための遮断、距離の確保など、リアルな空間や物理的な物に頼ることのできない状況にどう備えるかが理想社会の基本要件であると考える。

特に今回の新型コロナウイルスは、特別定額給付金の支給混乱で明らかになったように、デジタルテクノロジーが進化するなかで、これを活かした仕組みを作ってこなかった行政の怠慢を炙り出したといえる。もはや、リアルな空間を前提とした行政インフラでは、今後予想される災害に対応できないのではなかろうか。

デジタルガバメント先進国とされるエストニアが急速にデジタル化を進められたのは、ロシアの脅威が関係していると言われている。「政府がサイバー空間にあって、国民一人ひとりと繋がっていれば、たとえ他国に本土を占領されてもエストニアという国家は存続する」という危機管理の視点ということらしい。その視点で考えれば、今回の新型コロナウイルスも大変な危機である。また、終息するのはワクチンができ、治療薬ができたときだと思われるが、次の新たな危機が発生する確率は高く、予断を許さない。

日本固有の問題としては、首都直下型地震や南海トラフ地震が想定されているゆえ、今回を機にデジタル空間に行政機能を移すことを推進すべきである。また、行政機能をリアルからデジタル空間に移行することで国家としての強靭性が増し、持続可能性が高まると考える。2021年9月、政府はデジタル庁の創設を予定しており、国・地方行政のIT化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を目指している。

長年、同様の取り組みは推進されてきたものの、自治体と国、中央省庁間の壁、政府と国民の相互信頼の不足に阻まれ、結果的に有用なデジタル化がなかなか進まなかったのも事実である。

コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾の立役者と言われるオードリー・タン氏(IT担当大臣)が自身の著書で、「全民健康保険カードやクレジットカードによって本人確認を行い、さらに行政機関のデータとリンクさせるというやり方は、ITの活用によって実現したことですが、それは政府と人々との間に信頼関係があったからこそ実現したのです。このような相互信頼が、社会のデジタル化を推進していくときに不可欠な前提条件になると私は考えています」と語っている。

現在の日本のおかれた状況に鑑みるに、「批判に終始せず、どのようにすればお互い協力できるのか」ということを考えるべきである。そしてそれが政府と人々の重要な信頼の源であり、デジタル化推進の条件でもある。もはや猶予はない。官民一体となって取り組むことに期待するとともに、我々もコンサルティングの立場から、力になっていきたいと考えている。

TOPInsight情報未来No.66災害は待ってくれない