ウィズコロナ時代のデジタルを活用した新たな体験価値

1 問題認識
―リアルの劣化版代替ではない、デジタルの価値の探究が必要

新型コロナウィルスの感染予防の観点から、対面・接触を伴う事業やサービスの継続が困難な状況となる一方で、リモートワーク、オンライン授業などデジタル技術の活用が積極的に行われている。このような状況下で、これまであまりデジタルに馴染みがなかった層もデジタルの活用機会が増加している。これを受けて、これまで対面での顧客接点のみを前提とした事業やサービスを実施してきた企業なども、事業継続上のリスク回避の方策として、デジタル技術の導入検討が必須になってきている。

ただし、緊急事態下におけるデジタル体験の急速な拡大のなか、リアルでの体験をそのままデジタルで置き換えようとするために、デジタル体験の長所を活かしきれず「やはり対面の方がよい」との評価を下される例も散見される。日本人のデジタルリテラシーが総じて向上し、デジタルに注目が集まっている今だからこそ、デジタルとリアル、それぞれの体験の持つ特性や良さを生かしたサービスのあり方を模索することが求められるのではなかろうか。

2 ウィズコロナ時代において生活者が改めて感じたデジタル/リアル体験の価値

弊社では、前述の問題意識の下、デジタル体験とリアル体験、それぞれの価値を生活者視点で改めて見直すため、事例調査および生活者へのアンケート調査とインタビュー調査を実施した。そのうえで、生活者が感じたデジタル体験、リアル体験、それぞれの価値を抽出し、とりまとめた。

(1)ウィズコロナ時代において生活者が感じたデジタル体験の価値

a 物理的な制約を受けない

(a) 距離の制約を受けない

リモートワークやオンライン授業、オンライン接客などのオンラインサービスは、コミュニケーション相手との物理的な距離がどんなに離れていようともリアルタイムでコミュニケーションができることがメリットである。そしてこれが、コロナ禍において様々な事業継続、生活の維持に大いに貢献した。また、移動コストやそれに伴う金銭的・心理的コストが下がり、様々なサービスへの参加障壁が下がったという声がアンケートやインタビューで多く聞かれた。

(b) 空間のキャパシティの制約を受けない

イベントやセミナー、レッスンなどは会場のキャパシティによって定員が決まっていたが、オンラインであれば会場のキャパシティによる人数の制約を受けることなく、主催者が制限しない限り何人でも参加することが可能となる。また、従来はチケット券種や自分が確保した場所の位置によって、コンテンツの見やすさ・聞きやすさに差があったものが、オンラインであれば一律で参加者全員が同じ情報を受け取れるようになった。このため、サービスの享受しやすさや、サービス体験の満足度そのものが向上したという声も多く聞かれた。

b 意図的に受発信情報をコントロールできる

(a) リアルタイムに情報を付加できる

画面越しのコミュニケーションでは、字幕やテキストコメントをリアルタイムでつけたり、バーチャル背景をつけたり、化粧をしているかのように見せたりすることもできる。また、スマホ画面をかざすと、拡張現実で見ている風景に説明情報や昔の姿などを映したりすることができる。このように、リアルタイムの映像に情報を付加したり、リアル情報を適切に隠したりといった意図的な発信情報のコントロールが可能である。それによって事象への理解が促進されたり、エンターテインメント性が増したという声も多かった。

(b) 自らに最適化した情報の受け取り方・発信の仕方が選べる

画面越しのコミュニケーションであれば母語に応じて受信言語を切り替えたり、画面をズームインしたり、ライブ視聴などでアーティストを映す自分の好みのアングルを選ぶことができる。また、求めているコンテンツ内容と違うと思ったら接続を切って体験を中止することも容易になるなど、自分の特性・好みに応じた情報の受信方法を選択することが可能になる。目的の情報を効率的に得たり、コンテンツに集中して楽しんだりすることが容易になるため、没入感はオンラインの方が高い、という声も多かった。

また、逆に発信側になった際も、自分の背景に映り込むプライベート空間を見せたくなかったり顔を見せたくない相手に対しては、背景をぼかしたり、カメラをオフにするなど、プライバシーの露出のコントロールも可能だ。これによってリアルでの対面コミュニケーションよりもコミュニケーションの心理的ハードルが下がり、悩みや意見を表出しやすくなった人も多いという。オンライン接客では、顧客の悩みの表明が気楽になることで、よりニーズに沿った提案ができたといった効果もあったという。

自分がどういった情報を得たいか、またどういった体験をしたいかによって、情報の受け取り方や発信の仕方を自らでコントロール可能なこともデジタルの価値と言える。

c 各人が存在している物理空間をつなげることができる

オンラインでは各人が存在している空間同士が画面越しでつながるため、相手のいる物理空間の情報を受け取ることができ、家にいながら店舗で買い物をする、不動産の物件を見学する、観光をする、といった体験も容易になった。これも前述のリアル体験に発生していた移動コスト、金銭的コスト、心理的コストの削減効果につながっている。

また、家にいながらオンラインミーティングなどでつながっているときは、相手のプライベート空間や家族の情報などが自然と共有されやすくなり、相手を身近に感じてコミュニケーションが活性化された、という声も聞かれた。またアパレルなどのオンライン接客の場合は、家にある手持ちの洋服との組み合わせを提案してもらえるなど、店舗での購買経験よりも満足度が高いケースもあるという。

d 現実ではできない体験ができる

デジタル体験は現実に情報を付加したり拡張したりするだけでなく、フィクションの体験を作り出すことも可能だ。例えばオンライン旅行であれば宇宙旅行や深海などの極地への旅行、現実では治安が悪く行くのが躊躇される場所への観光、一般人は入れない場所への観光、過去や未来の世界の旅行なども可能になる。インタビューでは、こうしたフィクションの体験に対して、デジタルならではの体験価値として好意的な反応を見せる人も多かった。

これらのデジタルの価値は、これまでリアル体験をするには制約が大きかった人たちの制約を排除し、インクルーシブな社会の実現にも貢献している。例えば、妊娠中や身体の障害などで外出に制限が伴う人、育児中で外出可能な時間に制限がある人、対人コミュニケーションに不安がある人なども、デジタル技術を活用すればこれまで諦めていた体験を諦めなくてよくなったり、一律に全員が同じ体験を強制されて我慢していたことから解放されたりと、ストレス軽減につながるだろう。デジタルの力によって、各人のニーズに応じた様々な選択肢を取り得ることが改めて確認されたと言える。

一方で、現在の技術的な限界やサービスが未開発であることも影響し、まだまだリアル体験の方がデジタル体験よりも適している領域も多い。次は調査から見えてきた生活者が感じたリアル体験の価値について考察したい。

(2)ウィズコロナ時代において生活者が改めて感じたリアル体験の価値

a 身体感覚を伴う体験ができる

デジタルで伝えられる感覚は、現在のところ視覚と聴覚にほぼ限られている。ゆえに、人との接触を大前提とする美容、マッサージなどの体験はデジタルではまだ代替できない。また同じ物理空間・時間を人と共有することで得られる一体感についても、デジタル体験で得られないことはないが、リアル体験には敵わないという声が多い。例えばオンラインライブなどは、同一物理空間に他者がいた場合のノイズや気遣いが不要なため音楽やアーティストのパフォーマンスに没入できる一方、会場の一体感が得られず物足りない、という声は非常に多かった。

b 偶然の出会いを誘発しやすい

デジタル体験は、目的指向の体験には非常に効力を発揮するが、目的外の「偶発的な体験」を生むためには今ひとつであるという声も多かった。リアル体験であれば、例えば同じ物理空間にいることによる偶然の出会いやふとした雑談が生まれやすく、また街を歩いている中での偶然の発見、など意図していなかった事象も起こりやすい。こうした目的外、意図外の「余白」から生まれる新たな気づきや世界の広がりは、人生を豊かにしてくれるものである。デジタル体験が目的指向的で効率的な経験であるとすれば、反対にリアル体験はノイズも多いが目的外の余白に溢れた偶発性の高い経験であると言える。

c 特別感を演出できる

デジタル体験により、これまでリアル体験にかかっていた様々なコストを削減できるということは、裏を返せばリアル体験はコストがかかる分、「コストをかけてまでわざわざする特別な体験」として認識されやすくなるということだ。また、今後しばらくリアル体験が対面・接触のリスクがあるものとなるならばなおのこと、そのリスクに留意しながら経験するリアル体験は特別なものであって欲しいという期待もより強まるだろう。たとえば、せっかく店舗に行くからには、ただ目的の商品を実際に見て触って購入するだけでなく、セレンディピティ的な商品との出会いを期待したり、新しいライフスタイルを体感させてもらえたり、デジタル体験では不足する身体的な要素を充足してくれるものが求められるようになると考えられる。

d 他者の存在感があることで、モチベーションのコントロールができる

インタビューでは、オンラインで仕事や勉強、趣味に向き合うようになって改めて必要性を感じたのは、同一物理空間に存在する「他者の存在」であるという話があった。一人で自律的にやるべきことに向き合える人ももちろんいるが、仕事や勉強をする姿勢や意欲は、同一物理空間にいる他者も同様の作業していることによって「やらねばならぬ」という空気感が醸成されるから維持できる。また、「先生が見ている」という監視の意味合いと、「何かあったとしても大丈夫」という安心感も学習には効果的に働いていたという。このリアル体験の価値は、特に小学生など、学校という同一物理空間に友達と先生がおり、みんなで勉強している環境に身を置くことで授業の集中力を維持できていた層において顕著に現れたリアルの価値だったようだ。また、大人であっても、例えばフィットネスクラブでは周囲に人がいる状態で相対的に自分の出来不出来を把握できることでモチベーションにつなげていた、という声もあった。リアルな場で自然と視界に入ってくる他者の存在というのは、集中力やモチベーションの維持向上に寄与していたことがうかがえる。

生活者が感じていたこれらのリアル体験の価値は、今後の技術進展によりデジタル体験でも同様に価値として感じられるものが出てくるかもしれない。だが今は、これらをリアル体験ならではの価値ととらえ、デジタル体験の価値とどのように組み合わせれば豊かな体験価値を得られるかを考えることが重要であると考える。

図1| ウィズコロナ時代において生活者が改めて感じたデジタル/リアル体験の価値
図1| ウィズコロナ時代において生活者が改めて感じたデジタル/リアル体験の価値

出所| 調査結果をもとにNTTデータ経営研究所が作成

3 ウィズコロナ時代におけるデジタル体験とリアル体験の価値を生かしたサービス設計の方向性

調査によって明らかになった生活者サイドから見たデジタル体験、リアル体験のそれぞれの価値を生かし、どのように顧客体験を創出していくか、いくつかの方向性を示したい。

(1)より個々人のニーズに合ったデジタル体験の創出

デジタル体験は情報の付加や最適化が容易であるため、目的の事物をいかに効率的に体験・獲得できるか、そしていかに個々人の多様なニーズに合わせた体験ができるか、という観点から設計することができる。また顧客による情報の取捨選択のデータを蓄積することで、潜在的なニーズを抽出することも可能である。さらに、リアルではできないフィクショナルな体験をいかに実現できるか、といった観点からの設計もできるようになると、デジタル体験の価値がより向上すると考えられる。

(2)デジタル体験による新たな顧客層へのアプローチ

距離やキャパシティの制約を受けないデジタル体験を導入の手段として活用し、これまでリーチできなかった顧客層の開拓につなげていくことが考えられる。実際「ちょっと気になっていたものをオンラインで試しに経験してみよう」というアクションが容易になり、オンライン体験をリアル体験に向けた「お試し」や、数ある選択肢の中からリアルで体験する価値のあるものは何か見極める「情報収集」の手段として活用する、といった人も増えてきていることがわかった。「リアル体験の前段としてのオンライン体験」というステップが生まれつつある。

(3)特別感のあるリアル体験の創出

上記のようなデジタル体験が一般的になれば、リアル体験は今後より「コストをかける意味がある」とユーザーが感じられる演出を施していく必要がある。デジタルでは伝達できない視覚・聴覚以外の感覚をフルに活用できる身体性を伴った体験ができるようにする、目的外のモノ・コトとの出会いができるように設計するなどだ。また、ウィズコロナ時代においては、人との対面・接触を極力減らした上でそれらの体験が実現できるように配慮していく必要もある。その際にも、キャッシュレス決済やオンライン予約による人流のコントロール、ロボットの活用など、非接触の手段としてのデジタルは大いに活用余地があると考えられる。

4 おわりに

今回の調査では生活者が感じているデジタル体験とリアル体験のそれぞれの価値を取りまとめたが、より個々人のニーズにフォーカスしてみると、デジタル体験のどの部分を心地よいと感じるか、何を心地よくないと感じるか、どのサービスは継続利用し、どのサービスは継続したくないのかの判断基準は人それぞれに異なるということも改めて確認できた。 顧客のニーズがこれまで以上に多様化することが想定される中、デジタルとリアルそれぞれでどのような顧客体験を創出するか、各企業の判断がより難しくなっていくことが想定される。また、デジタル体験をリアルなサービスへの導入手段と位置付ける際には、どこまでデジタルで提供するか正しく見極めなければ、デジタル版で満足してしまい、リアル体験へのステップとして機能しない可能性もある。

今後、デジタルとリアルを組み合わせたサービスを設計する際には、どの点はリアル体験を残し、どの点はデジタル体験に変えていくのか、それぞれの特性も加味した上で企業側が提供したい体験価値のビジョンを明確にすることが重要である。企業側の方針を明確にした上で、その実現に向けたデジタルと、リアル体験の価値の生かし方を検討する、という順番で考えなければ、一貫性のある顧客体験の提供もできないし、顧客からの支持や共感も生まれないだろう。コロナ禍を経て各企業のDXへの取り組みが加速する一方で、顧客のニーズの多様化もより進行するため、舵取りはさらに難しくなるだろう。しかし、変化が激しい局面であるだけに、企業は、顧客に提供する価値と向き合い、最適なデジタル・リアル体験の提供方法を検討するという取り組みを愚直に進めることが重要となろう。

本稿に関するご質問・お問い合わせは、下記の担当者までお願いいたします。

NTTデータ経営研究所 情報戦略事業本部
ソーシャルアンドビジネスイノベーションユニット
マネージャー
浅井 杏子
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