働く場所に捉われない働き方であるテレワークは、我が国においても以前からその普及に向けた取り組みが官民ともに推進され、育児・介護支援や災害発生時の事業継続、柔軟な働き方の実現といった多様な目的から、国内企業でも一部では定着してきた。しかし、今年ほどテレワーク、特に在宅勤務の導入が、企業・団体に対して強く要請されたことはなかったと言える(図1)。コロナ禍の中、テレワークはホワイトカラーにおけるニューノーマル※2な働き方として定着することが期待されている。ただし、通勤を含む外出の自粛要請により、突然慣れない在宅での仕事を強いられ、業務分担や環境整備などに課題を残したままスタートした企業も多い。
NTTデータ経営研究所では、新型コロナウイルス感染症拡大防止対策として、通勤を含む移動自粛、在宅勤務の推奨がなされた2020年3月から7月における在宅勤務の実態と課題を把握するため、アンケート調査を実施した。調査は2020年7月27日週にNTTコム リサーチのインターネットモニターに対して実施し、3月から7月までの間に1回以上テレワークを実施した経験のあるホワイトカラー職種の従業員を対象としている※3。
緊急事態宣言解除以降
ニューノーマルな働き方への適応で企業は二極化
まず、3月から7月までの各月における在宅勤務の実施状況を聞いた(図2)。3月から7月までに1回以上テレワークの経験がある者のうち、緊急事態宣言の発出期間中であった4~5月においては、3月と比較して在宅勤務の実施割合は急増している。勤め先の従業員規模や業種にかかわらず、ほぼ半数の回答者が勤務日の50%以上の在宅勤務を実施したと回答している。しかし一方で、緊急事態宣言が解除され、6月以降外出や施設などの営業の段階的緩和が行われるにつれ、在宅勤務の実施割合は低下していく。5月から6月、6月から7月にかけて、勤務日の50%以上在宅勤務を実施している割合は、回答者全体で概ね10ポイント低下した。また、従業員100人未満の企業・団体や、建設業、金融・保険業といった業種に勤務する回答者においては、5月から6月にかけて、20ポイント超も実施割合が低下している。一方、従業員1000人以上の企業・団体や情報通信業に属する回答者においては、6月以降7月においても、勤務日の50%以上を在宅勤務としている回答者が過半数を占めており、ニューノーマルな働き方に移行できた企業と、元の働き方に戻った企業とで、二極化が生じている状況が見受けられた。
紙・ハンコ文化からの脱却&業務最適化がニューノーマルへの適応の成否を分ける
次に、テレワークの実態として、業種別及び企業規模別に傾向を分析した。さらに、役職及び雇用形態別でも傾向を把握した(図3)。
どのような業務内容についてテレワークにより実施したかについて確認したところ、「書類の作成・確認」「Web会議、電話会議」「社内システムなどを通じた業務管理」が全体として多い傾向にあった。業種別及び企業規模別では、特に情報通信業において、「Web会議、電話会議」「社内システムなどを通じた業務管理」が他の業種・小規模事業者に比べ有意に高い(それぞれ80%強と60%弱)。一方、比較的テレワークと関わりが薄いと考えられる建設業でも、全体傾向と同様に「書類の作成・確認」については、多くの従業員(80%弱)が、テレワークで業務を実施している。
続いて、業種・企業規模別に、テレワークを行うにあたっての業務最適化の状況について確認した(図4)。やはり情報通信業において、全業務あるいは可能な業務において業務最適化が進んでおり、在宅勤務でも比較的支障なく、業務が遂行可能になっていることがわかった。業種別では教育・学習支援業、建設業、金融・保険業で、「業務プロセスの最適化が進んでいない」「紙書類を電子化してメールとファイルで作業」が多く、業務プロセスの改善が行われていない傾向が強かった。企業規模別では従業員100人未満の小規模事業者において同様に業務最適化が進んでいない実態が浮き彫りになった。
ここで、業務プロセスの最適化の状況とテレワークの継続意向の関係について分析した(図5)。「全業務で業務の最適化」あるいは「一部業務プロセスを見直し最適化」がされているという回答者は、多くが「平常時から積極的にテレワークを実施したい」と考える傾向にあることが確認できた。一方で、「紙書類を電子化してメールとファイルで作業」あるいは、「業務プロセスの改善が全く進んでいない」という回答者は、「テレワークはできれば今後実施したくない」「継続することは困難」と考える割合が高まる傾向にあった。このことから、業務プロセスについて、テレワークを想定した上で最適化されているか否かが、今後、テレワークの定着に決定的な影響を及ぼす可能性が高いことが分かった。
役職及び雇用形態別で今後のテレワークの継続意向について確認したところ、全般的に同じような傾向が見られるものの、特に派遣職員については、「継続することは困難と感じる」と回答する割合が全体と比べて有意に高く(14・8%)、「できれば実施したくない」とあわせると4人に1人(25・2%)に達し、テレワークの継続に関して困難を感じる傾向が強いことが分かった(図6)。
以上により、調査期間中、業種・企業規模、役職・雇用形態を問わず、多くの企業・団体で在宅勤務を中心とするテレワークが実施されたことがわかった。コロナ禍の状況にも積極的に適応し、従業員の生産性やコミットメントを引き出している企業・団体がある一方で、従業員に「もうテレワークは継続したくない」と感じさせてしまう結果となってしまったところも一定数あることが把握できた。今後、こうした傾向を踏まえ、特にトップ・マネジメント層が中心になって、企業ごとに効果的な対策を講じていくことが求められる。
テレワークに対する方針
~テレワークに対する方針を示している企業は、46・4%~
2020年7月の調査では、回答者全体(N=2203)の46・4%の企業で、経営層などがテレワークに対する方針を示している(「テレワークは今後行わない」という方針も含む)。経営層などでこれから検討する予定の企業は12・5%、方針が示されていない企業は33・2%となっている。1000人以上の企業(n=803)では60・0%が方針を示し、情報通信業(n=346)では63・6%が方針を示している。一方で、100人未満の企業や、建設業、運輸・郵便業、金融・保険業などの業種では、方針を示している企業は、3割程度にとどまっている。
示された方針の内容をみると、全体(n=1023)の88・8%、1000人以上の企業(n= 482)では92・7%、情報通信業では91・4%が積極的なテレワーク利用に向けた方針を示している(図7)。テレワークを積極的に利用しない方針を打ち出した企業は全体の10・1%と少ない。もっとも、従業員100人未満の企業(n=204)では20・1%、卸売・小売業(n= 96)では17・8%が、コロナ禍の前のテレワークの制度(場所や頻度など)に戻す方針か、テレワークは実施しないという方針を示している(図7)。
前節でみてきたように、働き方やテレワークにあたっての業務プロセスの最適化は、経営層やトップ・マネジメント層のテレワークに対する方針と大いに関係している。
方針と従業員の満足度の関係では、「積極的なテレワーク利用に向けて、新たに恒久的な制度化を含めた正式な方針」を示した企業(n=392)の従業員は、「経営層の改革意欲」「現場の状況への理解」や「従業員に対する健康への配慮」などを理由に77・1%が満足している。一方で、「テレワークは実施しないという方針」が示された企業(n=56)の従業員は、「従業員の健康への配慮がない」という理由で不満に感じているとの結果となった。ただし、「現場の状況を理解し、納得感があるメッセージが示されている」企業では、テレワークを実施しない方針に満足している従業員も一定数存在している。このように、経営層などには納得感あるメッセージを示すことが強く求められていることが分かる。
勤務先の新型コロナ対応を受けて、勤務先に対する勤続意向(働き続けたいと思う気持ち)は、全体(N=2203)の40・9%で高まっており、低くなったという回答は11・1%と少ない。加えて、勤続意向が高まったとの回答の割合はテレワークに対する方針を示している企業の方が、示していない企業よりも8ポイント程度高いとの結果になった。
本調査から、コロナ禍の中、経営層などが具体的な方針を示すことで、ニューノーマルの定着や、従業員エンゲージメントの向上に寄与することが示唆された。