イベント開催時における感染症リスクへの対応

1 イベント開催における感染症リスク

新型コロナウイルス感染症(COVIDー19)の感染拡大を受け、安倍晋三首相ら日本政府および関係者の代表者と国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長による電話会談の結果、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の延期が合意された。その後、IOC臨時理事会により「1年程度の延期」が正式に承認された。これは、外国人を含む不特定多数の人々が競技会場等に密集することにより、更なる感染拡大が生じる可能性が高いことを踏まえてなされた史上初の措置である。

一方で、今後新型コロナウイルスの感染拡大が減速・収束するにつれ、再び多くの大小様々なイベントが開催されていくことであろう。そのためには、イベント参加者に対して安全・安心を提供できる ”備え“を築き上げておくことが重要である。本稿では、大規模イベントの開催にあたり、イベント主催者等が行うことが求められる感染症リスクへの対応について紹介する。

2 感染症リスクへの対応

イベント開催における感染症リスクへの対応は、大きく「イベント開催前」と「イベント開催期間中」、そして「イベント終了後」の3つのフェーズに分けることができる。「イベント開催前」では、感染発生・拡大を防止するための対策や感染発生・拡大時の対応について各種計画を定めるとともに、計画の前提となるイベント開催時の感染症リスクそのものの評価を行う。

また、「イベント開催期間中」は、感染症リスクの評価に基づき、各種の予防策を実施し感染の発生・拡大を防止する他、発生・拡大時には迅速かつ適確な対応を行うことが求められる。

最後の「イベント終了後」では、これまでの2つのフェーズで行った各種の対応について効果を検証し、今後開催するイベントに向けた教訓およびノウハウを抽出する。以下、3つのフェーズについて、具体的な内容について記す。

(1)イベント開催前の対応

イベント主催者は、イベント開催時にどの様な感染症リスクが存在するのか、またイベント会場のどこに感染の発生・拡大を誘発する場所があるのかにつき評価を実施し、感染の発生・拡大の予防策および発生・拡大時の対応策を立案・計画する必要がある。

イベントのように不特定多数の人々が特定の地域・場所に集合する状態をマスギャザリング(Mass Gathering)と呼ぶが、マスギャザリングにおける感染症リスクの評価については世界保健機関(WHO)※1等によりいくつかの評価指標、推奨事項が公開されている。※2

最初に、どの様な感染症がイベント開催期間中に発生・拡大する可能性があるのかについて評価を行う。評価は、感染症の発生可能性と拡大可能性の2つの軸から行う。一例として、年間を通じて国内外で1000件以上発生が確認される感染症は、発生可能性の高い感染症として評価(懸念)されるものである。また、空気感染の可能性や場所・時期により感染を媒介する昆虫が生息する場合は、感染拡大の可能性が高いと評価できる。※3

次に、開催されるイベントに焦点を当てたリスク評価を実施する。例えば、参加者の属性から評価を行う。海外からの参加者が多い国際的なイベントは、海外からウイルスが持ち込まれる可能性が高いと評価できる。また、免疫力の弱い高齢者は感染による重症化の可能性が大きいため、高齢者が多く参加するイベントも、充分な対策を講じることが求められる。

また、イベント開催期間も重要な評価指標である。例えば、開催期間が概ね1か月以上の場合は感染症リスクが高く、医療機関からの感染症予防・対処に対する積極的な支援が必要とされる。その他の主な評価指標を下記図1に示す。

リスク評価は、イベント開催前に実施するが、定期的に再評価・更新される必要がある。例えば、イベント開催中に新たな感染症が海外で発生・拡大が確認された場合、特に警戒・監視すべき感染症として予防策・対応策を検討しなければならない。

また、イベント参加者の出身国・地域や年齢等のデータより、感染症の発生・拡大が確認されている国・地域からの参加者の人数、免疫力の弱い高齢者の人数ついて日々把握・分析し、同様に予防策・対応策を検討しなければならない。

図1| 感染症リスク評価の評価指標の一例
図1| 感染症リスク評価の評価指標の一例

出所| WHO「Public Health for Mass Gathering: Key Considerations」pp.18-20より、NTTデータ経営研究所にて作成

(2)イベント開催期間中の対応

感染症リスクに対しては、如何に感染の発生そして拡大を防止するかが重要である。リスク評価の結果を基に、イベント会場の施設特性に応じた予防策(密集の回避、手洗いの励行、消毒液等の設置等)を行う必要がある。

また、感染の発生・拡大を、如何に早く確認し対応できるかも重要となる。そのためには、イベント会場における感染症リスクへの警戒・監視体制の構築が必要となる。例えば、検温等の実施による会場出入口での感染者の流入抑制(ゲートコントロール)も、警戒・監視体制の1つである。

また、警戒・監視体制としてサーベイランスが挙げられる。サーベイランスとは、調査・監視の意であり、感染症の発生情報を統一的な手法で持続的に収集・分析し、感染症の発生・拡大状況を可視化するものである。サーベイランスの結果を基に、イベント主催者は今後重点的に警戒・監視すべき感染症について医療機関や行政機関等と共通認識を醸成・更新しなければならない。

また、イベント主催者は感染の発生・拡大状況に合わせ、イベントの継続または中止・延期を迅速に判断できる基準として「警戒レベル」を定めておくことが求められる。「警戒レベル」の一例を図2に示す。イベント主催者は、医療機関等と事前に協議を行い、イベントに適合した「警戒レベル」を定めておくことが望ましい。

万が一、感染の発生・拡大が確認された場合には、更なる感染拡大を防止・抑制する必要がある。予め定めた「警戒レベル」に応じて、イベント主催者はイベントの中止・延期の要否について判断を下さなければならない。その上で、医療機関等の関係機関と連携し、より本格的・専門的な感染拡大の防止・抑制措置を講じなければならない。

関係機関との連携にあたっては、現状について迅速かつ正確に情報共有・報告を行うことが重要である。そのためには、関係機関との間で用いる報告書の様式や記入事項等、また報告のタイミングや緊急時のレポートライン等についてイベント開催前の段階から医療機関や行政機関と綿密に協議を行い定めておく必要がある。

イベント参加者に対する積極的な情報提供・広報も必要である。昨今、SNSを介して誰もが様々な情報を瞬時に不特定多数の人々に発信可能となった。発信する情報の中には、医療機関等の公式発表に基づく情報の他、膨大な数の真偽不明なデマ情報・フェイクニュースも含まれている。如何に早く正しい情報を提供し、デマ情報等を打ち消すかが必要である。

情報提供・広報を行う上で、イベント主催者と関係機関との間に内容・認識(今後の予測)に齟齬がないことが必須である。そのためには、どの様な情報を提供・広報するのか、誰がどの様な手段を用いて情報提供・広報するのかについて、イベント主催者および関係機関の各広報担当窓口による協議を行う体制・仕組みを構築しておくことが望ましい。

図2| 「警戒レベル」の一例
図2| 「警戒レベル」の一例

出所| NTTデータ経営研究所にて作成

(3) イベント終了後の対応

イベント終了後には、実際にイベント開催期間中に実施した防止策がどの程度感染の発生・拡大を防止できたのか、あるいは感染を発生・拡大させる可能性(危険性)が無かったのかについて検証を行う。また、万が一感染発生・拡大への対応を行った場合には、実施した対応の内容や関係機関との連携等について課題は無かったのかについても検証を行わなければならない。

検証を行うにあたっては、イベント主催者のみならず関係機関も交えた合同の反省会・ふりかえりの場を設け、多方面から多角的に対応を検証することが望ましい。特に、実際に感染発生・拡大への対応を行った関係者へのヒアリングを行うとなお良い。

検証結果については、備忘録として自組織のみに保管するだけではなく、今後のイベント開催時における感染症リスクへの対応に関する教訓・ノウハウとして利用できるものでなければならない。例えば、イベント開催前に実施したリスク評価の結果や立案した計画について改めて見直しを行い、イベント開催時におけるリスク評価のモデル、実施すべき予防策・対応策のモデルとして広く公開されることが望ましい。それは公開されたレガシーとして、今後開催される多くのイベントの安全かつ安心に寄与することになる。

3 実効性のあるリスク対応を行うための基盤の整備

以上のようなリスク対応に実行性を付与するためには、図3のように様々な ”基盤 “を整備しておかなければならない。これまで述べてきたとおり、イベント開催前そして開催期間中を通して、リスク評価の実施、評価に基づく予防策・対応策の実施においても、イベント主催者と医療機関や行政機関等の関係機関との間で緊密な連携が極めて重要である。

緊密な連携を行うためには、連絡窓口の設置等の体制整備を行うのはもちろんであるが、何よりもお互いに「顔の見える関係」を築き上げ、それぞれの組織が抱える課題や強みについて深く理解し合うことが重要である。例えば、普段からこれらの機関が一同に集まる連絡会等を設置し、定期的・継続的に顔を突き合わせる場を設けることも有益である。

また、教育・訓練を通じたイベント関係者の対応力向上、体制・計画等の実行性検証しておくことも必要不可欠である。例えば、感染の発生・拡大を想定し、イベント中止・延期の判断手順、関係機関への報告手順等の確認・検証を行う。また、実際のイベント会場を利用し、検温等で確認した感染者を安全に隔離する方法や搬送について実地にて確認することも重要である。

最後に、イベント終了後に抽出された教訓・ノウハウの活用を忘れてはならない。自組織として既に一度同様のイベントを開催しているのであれば、リスク評価や予防策・対応策について、過去のイベントの反省会・ふりかえりの場の備忘録等を参考にする必要がある。また、自組織として初めてイベントを開催する際には、過去のイベントに携わったイベント主催者や関係機関の担当者をアドバイザーとして招聘することも、より実効性のあるリスク対応を行うためには効果的な措置であろう。イベント主催者には、様々な教訓・ノウハウを収集・活用し、感染症リスクに対応できる万全の管理体制を構築することが求められる。

図3| 感染症リスクにおける対応の全体像
図3| 感染症リスクにおける対応の全体像

出所| NTTデータ経営研究所にて作成

本稿に関するご質問・お問い合わせは、下記の担当者までお願いいたします。

NTTデータ経営研究所 情報未来イノベーション本部 産業戦略センター
センター長/アソシエイトパートナー
鈴木 教雄
E-mail :
マネージャー
山田 真司
E-mail :
Tel:03-5213-4171

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