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コラム・オピニオン

日本の夏、節電の夏

2022.07.22
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1.はじめに

白と青

暑くて長い夏がやってきました。皆様いかがお過ごしでしょうか。

いつもどおり色の話から始めます。今回は「涼感」を表す白と青です。

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白も青も、水や氷のイメージがあるので涼しく感じるのでしょう。MINTIAなど、口をスッキリさせる「清涼菓子」のパッケージは、白と青です。

空のムコウ

下の写真は、「空のムコウ」という寒天を使った和菓子で、山形市にある「乃し梅本舗佐藤屋」が販売しています。透明な部分とブルーの部分のバランスとグラデーション、光の屈折、そして内部に残る気泡が、涼しさと宇宙的な奥行きを感じさせてくれる一品です。

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(出所)筆者購入、撮影のち喫食

2.電力需給の逼迫

6月下旬から猛暑に

今年は異常に早く梅雨明けし、6月下旬から猛暑になりました。東京では6月25日から9日連続で最高気温が35℃以上の猛暑日を記録。過去5年間で比較しても、本年6月下旬の東京の暑さは突出しています(図1)。

<図1>東京の最高気温・旬平均値の推移

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(出所)気象庁データベースから弊社作成。

今夏の電力需給予測

猛暑で涼しく過ごすにはエアコンが必須です。しかし、今年の夏は電力不足が懸念されるため、政府は7月頭から9月末まで、全国レベルで節電を要請しました。これは7年ぶりのことです。

図2は、本年5月27日に資源エネルギー庁資料で示された今夏の電力需給見通しです。不測の事態に備えて、電力供給量は需要量に対して3%以上の余裕(=予備率)が必要とされています。10年に一度の暑さを想定した場合、今年7月の予備率は、東北、東京、中部の電力管内で3.1%に落ち込むと予想されていました。また、4月時点では余裕があった西日本でも、5月時点では7月の予備率が3.8%に低下するとの予想となっていました。実は、今夏の電力需給逼迫は早くから懸念されていたのです。

<図2>今夏の予備率予測

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(出所)2022年5月27日、資源エネルギー庁「2022年度の電力需給見通しと対策について」。他に対策が講じられない場合の予備率。

一段と厳しい冬

さらに、上記資料によれば、10年に一度の寒さを想定した場合、来年1~2月に東京エリアでは予備率がマイナスとなり、中部~九州にわたる幅広いエリアで予備率が1~2%台に低下する見通しとなっています(図3)。

<図3>冬の予備率予測

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(出所)同上。

3.電力不足の背景

日本の電力需給構造

現時点では、休業していた火力発電所を急遽稼働させたことなどから、東京エリアの7月の予備率予想は3.7%と幾分改善しました。それにしても、なぜこれほどまでに、電力供給に余裕がない状況に陥っているのでしょうか?

まず、日本の電力需給の基本構造をみましょう。図4は資源エネルギー庁作成のイメージ図です。電力供給は、①原子力発電や水力発電などの安定的なベースロード電源と、②安定供給+需給調整役も担う火力発電、③発電量が天候に左右される太陽光発電や風力発電、から成り立っています。

<図4>日本の電力需給のイメージ

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(出所)資源エネルギー庁「再エネの大量導入に向けて~「系統制約」問題と対策」(2017年10月5日)。

日本の電力需給逼迫の背景として、需要面では予想外に早く訪れた猛暑で冷房需要が上振れたことが挙げられますが、基本的には、以下のような供給不足要因が指摘されています。

① ベースロード電源の中で、原子力発電が6月末時点では5基、7月20日時点でも6基しか稼働していないこと*。

* 原子力規制委員会「原子力発電所の現在の運転状況」によれば、6月末時点で、運転中は関西電力大飯発電所3号機、四国電力伊方発電所3号機、九州電力玄海発電所4号機、同川内発電所1、2号機のみ。7月下旬に関西電力大飯発電所4号機が運転を再開したが、残る27基は定期検査で休止中。

② 設備老朽化や脱炭素化への対応に加え、本年3月の福島地震の影響もあって、稼働停止・休止中の火力発電所が増えていること。

③ 太陽光発電の拡充に伴い、昼過ぎまでの電力需要は供給できるものの、日没にかけて太陽光発電量が減少するため、午後遅くから夕方にかけて供給不足となるおそれがあること。

また、日本では、電力需給調整が基本的には電力会社の所管エリア内で行われる体制となっており、電力余剰エリアから不足エリアへの送電容量に限界があることも、構造的な問題として以前から指摘されています*。

* 詳細は、資源エネルギー庁「再エネの大量導入に向けて~「系統制約」問題と対策」(2017年10月5日)参照。

複雑化する電力需給調整

私は今年の電力需給逼迫状況をみて、電力の需給調整が、需要・供給両面で非常に複雑化・困難化していると感じました。同時に、あちこちで「もったいない」状況が生じています。

需要面の複雑性

電力需要面では、まず、猛暑やカラ梅雨といった天候要因が過去データの連続的な分析では予測困難になっていることが挙げられます。例えば、上記の資源エネルギー庁の資料では7~9月の需給対策が議論されており、6月からの猛暑は想定外だったものと推察されます。「10年に一度の暑さ・寒さ」という予測条件も、もはや保守的とは言えないのかもしれません。

また、近年における社会構造変化が電力需要の非効率で重畳的な増大をもたらしていると思います。例えばテレワークが普及し、家庭での使用電力が増えています。その分だけオフィス滞在人口が減っているにもかかわらず、オフィスでの冷房・照明は過度に使用されているのではないでしょうか。また、経済・社会のデジタル化に伴い、データセンターでの電力需要が増加しているといったことも挙げられます。

電力広域的運営推進機関による電力長期予測(本年3月政府に提出)では、2021年度の需要実績が大きく増加したにもかかわらず、今年度以降の夏季電力需要は趨勢的に減少する形になっています(図5)。その理由は、「経済規模の拡大や電化の進展などの増加影響よりも、人口減少や省エネの進展などの減少影響の方が大きいと考えたため」とされています。

<図5>電力需要の長期見通し

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(出所)電力広域的運用推進機関「2022年度供給計画の取りまとめ」(2022年3月31日)。

しかし、上述のような「電力使用の個別化」「データ依存型経済への移行」といった構造変化の進展に加え、今後のEVシフトの本格化なども踏まえると、少なくとも先行き数年間、電力需要は減らないように思います。

政府や電力業界は、こうした天候予測の不確実性や社会構造変化も踏まえて、電力需給の予測精度を向上させるとともに、合理的なリスクシナリオに基づく予測を行うことが求められます。また、ユーザー側でも、例えばオフィスビルにおいて、照明のLED化を急ぐとともに、働く人の健康を守りつつ、柔軟かつ部分的な冷暖房・照明使用を可能とするような対策を早急に講じる必要があります。

供給面の複雑性

供給面では、太陽光発電の導入が進み、発電能力が大きく増加した一方で、需給調整や送電設備への接続の問題から「出力制御指示」が発出される頻度が増えています。昼に太陽光発電量が増加して需要量を上回り、停電に至る事態を回避することなどが理由です。出力制御が実施されると、太陽光で発電しても送電・使用されずに空費される電力が発生します。「電力不足なのに、部分的・時間的には電力余剰」が生じているのです。これは、実に「もったいない」ことだと思いませんか?

特に、日照条件に恵まれた九州では、他地域に先駆けて2018年10月に初めて太陽光発電の出力制御が実施されましたが、それ以降の太陽光発電設備の増設を受けて出力制御指示が頻発するようになりました。2021年度は167回、今年度は6月13日までに41回、指示が出されています(図6)。

<図6>九州本土エリアにおける出力調整指示回数

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(出所)九州電力送配電「でんき予報」掲載データより弊社作成。2022年度は、4月1日から6月13日時点までの回数41回を年換算(202回)。

さらに今年度は、北海道、東北、中国、四国エリアで、初めて出力制御指示が出されました(図7)。再生エネの余剰電力が発生する「もったいない」状況は、西日本や北日本にも広がっているのです。

<図7>出力制御実施地域の広がり

――出力制御指示の回数(回)

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(出所)各電力会社公表資料より弊社作成。2022年度入り後は、5月または6月中旬までの回数。

蓄エネのススメ

技術的には、昼間の太陽光発電の余剰分を蓄電池に充電し、夕方にかけて放電することで、再生エネの空費は避けることができます(図8)。また、余剰電力で水を分解し、水素に変換することで、電力を空費せずに水素を貯蔵することが可能となります。

<図8>蓄電設備の活用イメージ

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(出所)弊社作成。

4.電気料金の急上昇

電気料金値上がりの背景

ロシアによるウクライナ侵攻の影響に加え、円安の進行もあって、このところ電気料金が高騰しています。そこで、輸入物価指数を使い、原油や天然ガスの外貨建て価格自体が上昇している影響と、円安の影響を分けてみましょう。図9のとおり、本年6月の石油・石炭・天然ガスの輸入物価は、契約通貨ベースで前年同月の1.88倍、円ベースでは前年同月の2.37倍となっています。円ベースの前年比2.37倍の上昇に対する寄与率でみると、輸入契約価格上昇が83%、円安が17%となる計算です。

<図9>エネルギー輸入価格前年比の要因分解

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(出所)日本銀行・企業物価指数(7月12日公表)のうち輸入物価指数「石油・石炭・天然ガス」から弊社作成。

電気料金の先行き見通し

東京電力は、8月のモデル世帯に適用される家庭用電気料金を9,118円と発表しました。昨年8月の6,960円から31%も上昇しています。家庭向け電力料金の値上げ幅には制度上の上限があり、既に大手電力10社中8社が上限に達しています。東京電力でも9、10月には上限到達とみられているので、家庭用電気料金の大幅な上昇はいずれ止まると予想されます。

もっとも、ロシアによるウクライナ侵攻は長期化の様相にあり、今冬の欧州における暖房需要も勘案すると、世界的なエネルギーの逼迫状況も長期化するでしょう。当分、電気料金は高水準で推移することが見込まれます。コスト増を緩和するために、企業や家計が自ら直ちに実施できる方策はやはり省エネ・節電なのです。

今夏の節電の難しさ

通常であれば、電気料金の高騰は企業や家計が節電努力を強める経済的インセンティブになります。しかし、今年は6月下旬から猛暑になったため、熱中症の患者数が関東を中心に昨年比著増しています(図10)。

<図10>熱中症で救急搬送された患者数

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(出所)総務省消防庁 熱中症情報「救急搬送状況」。

家庭の場合、夏の電力消費量の3分の1を冷房が占めています。猛暑下で熱中症を避けるには適切な冷房使用が欠かせないため、今夏の節電には相当な工夫と努力が必要です。

5.自助努力

わが家の節電:元々やっていた対策

わが家は2017年に東京ガスのエネファームを導入し、自家発電をしています(電力自給率は2割程度)。また、照明は洗面所と物置を除きすべてLEDに変えています。

新たな節電対策①:エアコン買い替え

さらに、「猛暑×節電の夏」を乗り切るため、6月上旬にリビングのエアコンを15年ぶりに買い換えました。35万円と高価でしたが、省エネ性能最高機種にしたところ、エアコン稼働時の電気使用量が大きく減少しました*。また、東京都の「ゼロエミポイント」を申請し、商品券19,000円を受け取ることもできました。

* エネファーム導入時に台所に設置されたスマートメーターで、電力使用量を常時モニター可能。

新たな節電対策②:太陽光パネル+蓄電池

加えて、6月下旬に持ち運び可能な太陽光パネルと蓄電池のセット*を購入しました。2Fベランダにパネルを置くと、夏の好天時には4日で蓄電池の充電が100%になり、1回あたり約3%の出力でスマホ1台をフル充電できました。実用性が確認できたため、災害に備えて蓄電池の充電を一定以上に維持しつつ、平時からスマホの充電や扇風機の使用には蓄電池の電気を充てることにしました。

* ジャックリー社製、蓄電池容量403Wh+太陽光パネルSolarSaga60(69,000円)。

6.おわりに

家計や企業の省エネ努力は必要ですが、抜本的には、通常の生活や企業活動を妨げないように、政府が持続可能な電力供給体制を確保する必要があります。当面の電力不足は火力発電所等の稼働増で乗り切るとしても、脱炭素目標の達成に向けて、CO2を増やさずにエネルギー自給率を引き上げる政策を計画的・重点的に推進すべきだと思います。

そのためには、①再生エネ発電を拡充するのみならず、「蓄エネ能力」も拡充して発電ロスを抑制すること、②再生エネの地産地消化を進め、デジタル技術を活用してエリア内のリアルタイム需給調整力を高めること、③火力発電のCO2排出量を大幅に削減できる技術を早期に実用化すること、が重要と考えます。弊社は、「グリーン×デジタル」分野のコンサルティングを得意としており、これらの新技術の社会実装が早期に実現するよう、貢献していく所存です。

Profile
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Miyanoya Atsushi
宮野谷 篤
取締役会長
株式会社NTTデータ経営研究所
岩手県出身。1982年東北大学法学部卒業。同年日本銀行入行。金融市場局金融調節課長、金融機構局金融高度化センター長、金融機構局長、名古屋支店長などを経て2014年5月理事(大阪支店長)。2017年3月理事(金融機構局、発券局、情報サービス局担当)。2018年6月から現職。
専門分野は、金融機関・金融システム、決済・キャッシュレス化、金融政策・金融市場調節。
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