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コラム・オピニオン

新年を迎えて

2021.01.04
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皆様、新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。

赤と青

今年も色の話から始めましょう。今回は赤と青を取り上げます。

コロナ禍では、赤は感染の危険を示す色、青は医療従事者の方々等への感謝を表す色として、世界共通に使われています。赤と青のイメージは、太古からの地球や人間の活動に根付くものだから世界共通になり得るのです。赤は血や炎の、青は海や水の象徴色です。

郷土玩具の色

このような赤と青の使い分けは郷土玩具でも。ちなみに今年の干支は丑ですが、東北では牛のことを「べこ」といいます。福島県会津地方の郷土玩具「赤べこ」が有名です(下の写真)。

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(出所)筆者所有・撮影

会津の赤べこは昔から疫病除けに効くとされてきました。その由来は、①約1200年前、赤い牛が寺院建設時に材木運搬で大いに活躍したこと、②後に天然痘が大流行した際、赤べこ玩具を持っていた子供たちが病を免れたこと、とされます。赤は疫病除けの力を、斑点は牛が天然痘を身代わりに受けた痘痕(あばた)を表すそうです。新型コロナウィルスを寄せ付けないよう、今再び「赤べこパワー」が注目されています。

もしも、玩具が「青べこ」だったら、疫病除けのパワーは感じられないでしょう。しかし、実は福島には、張り子の「青べこ」も存在します(下の絵)。東日本大震災の後に、おだやかで平和な恵みをもたらす海を祈って、作られたそうです。

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(出所)入手困難なため筆者画

牛で決まったボーダー

牛といえば、私の故郷岩手県でも、昔から牛が重宝されてきました。子供の頃、南部藩と伊達藩の藩境を巡る話をよく聞かされたものです。

「双方の殿様が南下・北上して出会った所を藩境にすることになった。伊達の殿様は馬で、南部の殿様は牛で移動した結果、藩境はかなり北よりに決まり、南部藩は損をした」と。ルールを提案した伊達藩からの手紙には、「双方が午(うま)で移動し」と書いてあったのに、南部の殿様が牛と読み間違ったという説があります。寓話からは、当時は牛も一般的な移動手段だったことがわかります。

実際、岩手県北上市の「相去(あいさり)」という町(盛岡から約50km南)に、当時の藩境を示す一里塚があります(下の写真)。この地名は、殿様同士が会い(相)、去ったという話に由来するともいわれています。

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(出所)筆者撮影

現在の岩手県と宮城県の県境は、相去町よりも約50km南(盛岡から100km南、仙台から70km北)付近に設定され、岩手県は北海道に次いで面積が大きい県となりました。寓話における南部の殿様の失敗は、帳消しになったのです。

<藩境と県境>

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(出所)当社作成

上記いずれの寓話も、「べこ」は昔から物や人を運ぶ手段として重宝されてきたことを示しています。人と牛は共生し、社会や生活が形成されていたのです。

スマート農業

今や人と牛との関わりは、農業における肉牛や乳牛の飼育となり、搬送や灌漑などの手段として牛を使うことは稀です。牛に代わり様々な農機が開発され、生産性が格段に向上しました。さらに近年は、農機をロボットやICT、AI等と組み合わせた「スマート農業」が展開されています。例えば、某TVドラマでも話題となった無人トラクターは、すでに大手農機メーカーから販売されているのです。

農業の担い手の減少と就業者の高齢化、農地の大規模化が進むなか、スマート農業には大いなる期待が寄せられています。

<農業経営体数と高齢者比率>

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(出所)農林水産省「農林業センサス」から当社作成。農業経営体は個人および法人経営体の合計。65歳以上の比率は、個人経営体のうち基幹的農業経営体の従事者数に占める65歳以上の従業者の比率。

<1農業経営体当たりの耕地面積(ha)>

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(出所)同上

スマート農業は、自動化技術やデータ利活用などによって、省力化はもとより、「農業の高度化」も可能とします。例えば、農機の無人化は災害対応力の強化にもつながります。人工衛星やドローンによる映像データ蓄積とAIによる分析は、生育状況や病虫害等の状況に適応した農作業を可能とし、収穫量の増加や品質向上につがなります。その結果、人間は農業経営や品種改良など、より高度な仕事に専念することができるのです。同時に、データの活用により、ロボットやAIの機能を向上させることも可能と考えられます。

当社は昨年6月、千葉県において、スマート農業を活用した落花生の生産実証プロジェクトに参加しました。そこでは、様々な映像データや熟練農家の教師データをAIに学ばせることによって、より現実的な分析モデルを構築できるかどうかを実証しようとしています。

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(出所)㈱NTTデータCCSのデータを基に当社で作成

<AIによる収穫適期診断>

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(出所)㈱NTTデータCCS。写真中の英字テキストは落花生の葉色のAI分析結果を示す。greenは葉が旺盛な状態。black dotやbrown dotは下葉が枯れたり、葉が黄色づいた状態。葉の状態変化と、試し掘りによる莢(さや)の外観、莢裏の色、子実の登熟度等がAIにより紐づけられ、葉を撮影するだけで土中の莢の収穫適期を判断。

デジタル時代の共生

冒頭述べたように、人間は昔から家畜をはじめ多くの生物と共生してきました。家畜は生き物であり、常に人間の言うことを聞くわけではありません。牛がトラクターに代わったとき、人間は農機を使いこなすようになりました。愛車・愛機というほどに大事に使ったとしても、作用は一方通行で、「農機との共生」とはいえません。

近い将来、AIの判断は人間に接近・凌駕していき、ロボットの動作はより優しく柔軟になっていくでしょう。ロボットが生き物に近づくとき、人間とロボットの間で相互理解・相互作用が生まれ、両者は共生するようになると思います。

<家畜→機械→デジタル>

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(出所)当社作成

おわりに

当社は、本稿で取り上げた領域を含め、来るべき未来社会を見据えたうえで、①企業・社会の課題解決に有益なイノベーションを踏まえつつ、②課題解決に必要な制度改革やビジネス改革を明確化することで、地に足の着いたソリューションを皆様に提案し、お役に立ちたいと考えています。

重ねまして、本年もよろしくお願い申し上げます。

Profile
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Miyanoya Atsushi
宮野谷 篤
取締役会長
株式会社NTTデータ経営研究所
岩手県出身。1982年東北大学法学部卒業。同年日本銀行入行。金融市場局金融調節課長、金融機構局金融高度化センター長、金融機構局長、名古屋支店長などを経て2014年5月理事(大阪支店長)。2017年3月理事(金融機構局、発券局、情報サービス局担当)。2018年6月から現職。
専門分野は、金融機関・金融システム、決済・キャッシュレス化、金融政策・金融市場調節。
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