脳科学×デジタルで新たなヘルスケアソリューションに挑戦
client 大手製薬会社
このプロジェクトでは、脳科学を活用したデジタルセラピューティクス(デジタル技術を用いた治療法)によって食選択を改善したり、満腹感を醸成することで食べ過ぎを防止するトレーニング技術の開発と効果検証を行いました。ニューロフィードバックという脳活動の可視化技術を用い、個々人の脳波を用いてパーソナライズしたトレーニングを実施しました。検証の結果、体重減少などのダイエット効果を確認することができました。今後一般向けにこの技術が広まっていくことを期待しています。
ニューロフィードバックを使ったデジタルサプリメントで薬だけに頼らないダイエットを
肥満の治療には食欲を抑制する医薬品などの投与が一般的に行われています。また、個人で手軽に入手できるダイエットサプリメントも広く利用されています。しかし、医薬品には依存などの副作用があることや、耐性がついてしまうことなどが課題となっています。また、サプリメントはダイエット効果を謳っていたとしても、本当に効果があるかは疑問であることが多いです。このプロジェクトではこれらのダイエットに関する課題解決を目指し、脳にアプローチする技術を開発しました。ニューロフィードバックは利用者自身の学習・成長により効果が発現するため、依存や耐性が生じない方法です。したがって、課題解決に適した方法であると言えます。
科学的エビデンスに基づいた効果のある脳科学ソリューションを、気軽に使ってもらえる形で提供したい
我々は科学的に効果のあるトレーニング技術の開発を目指すために、エビデンスに基づいたロジック作りを大切にしました。そのために、まずはダイエットを行う上で重要な食欲のコントロールに関する脳のメカニズムや脳科学を用いた食欲コントロール技術に関する既存エビデンスの調査を徹底しました。その結果、多くの先行研究で食欲のコントロールには脳のDLPFC(背外側前頭前野)という部位が重要な働きをしていると示されていることがわかりました。DLPFCは前頭葉の一部であり、脳の司令塔として高度な機能を担う領域です。食欲以外に感情や睡眠のコントロールにも関係していると言われています。ある研究では、BMIが高い人のほうが食べ物を見たときの前頭葉の反応が弱く、空腹でないにもかかわらずつい食べ過ぎてしまう行動には前頭葉の機能が関係していることが明らかにされています。脳科学を用いた食欲コントロール技術に関しては、既にfMRIという脳活動のイメージング手法を用いたニューロフィードバックトレーニングの研究事例が複数ありました。これらのエビデンスに基づいて本プロジェクトでは前頭葉が持つ食欲コントロール機能に着目したニューロフィードバックトレーニングの開発を進めました。しかし、既存の研究で用いられていたfMRIにはMRI検査で使用するような大型の装置が必要で、費用も高額です。そのため、将来的に一般ユーザーが日常生活で使用することを想定した技術としてfMRIは良い選択肢ではありません。そこで、我々はより計測のハードルが低い「脳波」を使った簡便なアプリケーションを独自に開発するに至りました。脳波の計測装置は頭皮やその周辺に設置する小型なもので、fMRIと比較して安価に使用することができます。しかしながら、脳波はfMRIと異なり、DLPFCといった脳の特定の部位にアプローチすることが困難という大きなデメリットがあります。このデメリットを克服するために脳波で食欲の抑制状態を表現する手法を考案したのですが、ここが最もクリエイティビティを発揮できたポイントであると感じています。
脳科学を使ったデジタルソリューションでBeyond the Pillsの動きに貢献
近年、製薬業界では医薬品の創出・販売を超えた新たな事業モデルでのソリューション提供を行う"Beyond the Pills(薬を越えて)"の動きが加速しています。特にデジタルセラピューティクスへの期待は国内外で高まりを見せており、ヘルスケア関連のアプリケーションやウェアラブルデバイスなどが数多く開発されています。このプロジェクトでは脳科学を活用したソリューションがデジタルセラピューティクスの発展に貢献できる可能性を示すとともに、クライアントの新規ヘルスケアビジネス創出の支援をすることができました。我々は脳科学を使ったデジタルセラピューティクスが社会に普及することを目指して、今後もさらなるビジネス創出に貢献していきます。