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『情報未来』

当社の研究、コンサルティング、事例から厳選された、お客様の問題解決に役立つ情報誌です。

No.59(2018年8月号)

特集:デジタルが切り拓く地域の未来

放送局最盛の要、SDGs
~地方放送局が握る地方創生の鍵~

鳥海 彩
鳥海 彩
NTTデータ経営研究所 社会基盤事業本部 社会・環境戦略コンサルティングユニット シニアコンサルタント

とりうみ あや
民間放送局、気象会社を経て現職。低炭素社会の構築支援、再生可能エネルギー分野の事業化支援、地方自治体へのSDGs普及支援、中央省庁におけるSDGs海外調査分析活動支援等に多数従事。気象予報士として、全国で気象・防災の解説出演・講演会も行う。

はじめに

 民放放送局は全国に147局も存在するが、テレビ局の最盛の時代はとうに過ぎたと言われている。若い世代を中心にインターネットによる情報取得が主流になる今、放送局の持続可能性が問われている。持続可能性と言えば、国連や政府により推進されているSDGs(持続可能な開発目標)が、昨今、注目を集めている。本稿では、SDGsというキーワードを用い、全国各地にある民放局を持続可能の道を探りたい。

加速するテレビ離れと地方放送局に迫る危機

 「テレビ離れ」と言われるように、人々はインターネットの普及により様々な方面から情報を仕入れるようになった。テレビを視聴する世帯が減ったことにより視聴率が下がり、民放放送局の収入である広告収入も年々減少している(図1)。視聴率1パーセントを切り売るテレビ局は、取得視聴率が広告収入にダイレクトに繋がる。詰まるところ、テレビ局は視聴率が取れる番組を作るために競い合い、過酷な労働環境を生み出しているとも言える。

図1| テレビ行為者率(全体)

図1| テレビ行為者率(全体)

出所:NHK放送文化研究所 2015年 国民生活時間調査

 将来性が不安視されるテレビ局だが、その中でも崖っぷちに立たされているのが地方放送局だ。なぜなら、東京キー局や、大阪・名古屋準キー局は、会社の規模も大きく不動産など別事業での収入があり、依然企業体力があると言える。一方、地方放送局にはそういった資源が少ない。キー局と地方放送局は、フジテレビ系列などという言葉に代表されるように、ネットワークという枠でキー局の番組を共有しているが、経営自体はそれぞれの会社ごとに切り離されている。地方放送局は、キー局により作られる番組の広告収入に依存してきた。このため、自社から離れゆく視聴者に対する抜本的な課題解決は残されたままなのである。全国に147局あるテレビ局の数は、既に国内で飽和状態と言われている。人口減少と「テレビ離れ」が進む今、1県に4局も5局も存在する必要性を問う視聴者の声もあり、地方の放送局から経営破たんしていく未来を予想する専門家も居るほどだ。

放送局の持続可能性に関わるキー、SDGs

 放送局が置かれた現状については前述の通りだが、彼らが、放送そして経営を持続可能にさせるためには何が必要なのだろうか。実は、そのキーとなるのがSDGsではないかと筆者は考える。

 SDGsとは2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標」である。先進国を含む国際社会全体の開発目標として、2030年を期限とする包括的な17の目標が設定されている。(図2)

 「誰一人取り残さない」社会の実現を目指し、経済・社会・環境をめぐる広範な課題に、統合的に取り組むことを推奨されている。

 国連のSDGs採択を受け、欧州企業を中心にSDGsに積極的に取り組む企業が増え、財務情報だけでなく非財務情報の開示も目立つようになってきた。投資家たちは中長期的な財務パフォーマンスを計るためにESG(E環境・S社会・Gガバナンス)に注目するようになり、ついに2017年7月にはGPIF(年金管理運用独立行政法人)がESG投資への参入を表明した。企業の社会貢献と言えば、企業の利益とは ”関係なく “社会に貢献するというボランティア的要素が目立っていたが、ESG投資が後押しすることもあり、SDGs への取り組みはビジネスに直結するようになってきたのだ。

大手新聞社がリードするSDGs普及活動

 大手企業を中心にホットワードとなっているSDGsだが、マスコミ界においては、既に新聞社がSDGsに着手している。朝日新聞社のSDGsに対しての稀有な取り組みは、昨今、各界の話題になっている。社会問題をSDGsの視点で切り込み、記事化するという取り組みだ。例えば、「捨てないパン屋」という記事。広島県にあるパン屋の主人が、持続可能性について考え、売れ残りのパンを捨てていた経営から、売れると決まったパンのみを販売するという受注型のビジネスに切り替えたというストーリーである。パン屋の主人は、パンを廃棄しないビジネスに成功しただけでなく、販売を効率化したことで休みが増えたと喜ぶ。それでいて、売り上げも維持できていると、大変満足しているそうだ。SDGsゴール12の「つくる責任 つかう責任」をメインテーマに、ゴール8「働きがいも 経済成長も」が達成された格好である。

 朝日新聞のSDGs担当者は言う。「地方にこそSDGsのチャンスが隠されています。持続可能な社会を創るために、SDGsのものさしでその事象を計ることにより、見えていなかったものが見えてくるはず。自治体や企業の将来へのヒントやチャンス、もしくは隠れたリスクに気づくきっかけになるかも知れません」

 朝日新聞社のSDGs快進撃は社内に限ったことではない。SDGsを共通言語とすることにより、ライバル新聞社同士の協力も達成したのである。他社が企画する展示会の会場内で、朝日新聞社がSDGsに関する調査を行ったのだ。同会場で、新聞社同士が協調し合う図を見せた形だ。まさにゴール17「パートナーシップで目標を達成しよう」に対応した行動である。この斬新な取り組みについて、協力を依頼した新聞社に話を伺った。「SDGsの枠組みでは、各々得意分野を共有し、自社の個性を出したパフォーマンスを行うことができるんですよ」業界の掟を破った展示会は、大成功を収め、本年度はさらに拡大したSDGs企画となり準備が進められている。

地方放送局によるSDGs情報を、デジタルを活用し全国へ

 私はこの大手新聞社の「SDGsを切り口にした地方の情報発信」と「ライバル社との協調」というスキームは地方放送局にフィットすると考えている。先に「SDGsを切り口にした情報発信」について述べる。

 まず、地方放送局に推奨したいのは、拾われる日々のニュースや社会問題を、SDGsの17のゴールを ”ものさし “に使い取材し放送し発信することである。「地元にいいことをしている人・企業の紹介」を放送する地元情報番組は、地方放送局に既に多く存在する。その情報にSDGsの ”ものさし “を当てるだけで、持続可能な自治体・企業に成長するためのヒントが伝えられるはずだ。このヒントは、朝日新聞社の「捨てないパン屋」のように地方創生のケーススタディとなり、全国、いや世界で活用される可能性もある。情報発信力を高めるために、SDGsの視点で編集された情報を自局放送に留めず、全国へ発信する事も推奨したい。デジタル、つまりインターネットを上手く活用するのだ。SDGsを共通言語としたニュース配信は、全国から地方に注目を集めるチャンスになると、筆者は考えている。東京発のみの情報配信だけでなく、地方発の配信が拡大すると、今まで全国の視聴者が知り得なかった地元企業や地方自治体が注目されるだろう。中小企業の求人募集や地元優良企業への投資拡大、人口流入に繋がることが予想される。

 もとより、放送局は取材し、編集し、放送する情報のプロである。毎日、報道のデスクは、各企業自治体からのプレスリリースで溢れており、情報が集まりやすい体制は整っている。テレビ局が「地味ではあるがSDGsで光る情報」を配信し、その情報を得た者が、情報先が求める内容に応えるとするのであれば、テレビ局の今後のビジネスにも繋がるだろう。既存の広告の枠組みでない、成果主義的な報酬も増加するかもしれない。戻るところ、やはりSDGsについて考えることは、将来のビジネスチャンスに気づくきっかけとなることを改めて述べておきたい。

ライバル社との協調
~SDGs情報メディア相互利用プラットフォーム~

 次に、「ライバル社との協調」である。前述した ”SDGs情報発信 “が発展すれば、各地の情報を全国に届け、かつプールできるプラットフォームがインターネット上で必要になるだろう。現在のところ、民放147局が情報をアップロードできるプラットフォームは存在しない。視聴率を競うライバル社同士がプラットフォームを完成させるには、いくつもの障壁があるだろう。しかし、ライバル企業と協力し協調姿勢でビジネスを進めることが、自社の持続可能性に繋がることを、前述した新聞社は教えてくれている。

図3|SDGs情報共有プラットフォーム(仮)のイメージ

図3|SDGs情報共有プラットフォーム(仮)のイメージ

出所:NTTデータ経営研究所にて作成

 また、ライバル社同士を仲介できる存在として地方自治体を挙げたい。政府は、SDGsを地方創生のキーワードと捉えており、SDGsを政策に取り込む地方自治体を積極的にサポートしている。具体的には、2018年6月には「SDGs未来都市」として29都市を認定し、その中で優れたモデル事業を提案する自治体には、事業費補助金で後押しをすると決定したほどだ。SDGsで地方を盛り上げたい自治体にとって、普及に関し大きな役割を担うメディアは良きパートナーとなるに違いない。緊急を要する事件事故のニュース、政治経済の特ダネならまだしも、地方のSDGs、つまり地方における2030年のあるべき姿を考えるというテーマなのだから、メディア各社にも「協調姿勢」を推進させたいところだ。また、SDGs情報メディア相互利用プラットフォームが実現し、地方の情報が全国で相互交換されるとするならば、自治体同士の情報交換も活発化するだろう。ライバルメディア間のパートナーシップを築く役割を自治体が行うことで、未だかつてないSDGsを枠組みとしたスキームを実現させる可能性があることを、筆者は提案する。

おわりに

 SDGsの17のゴール、169のターゲットは、あらゆる分野に対応するよう包括的な内容となっている。SDGsを学び、理解し、アウトプットできるまでは、それなりの時間と投資が必要になるだろう。しかし、背に腹はかえられないことを、テレビ局が一番理解している。放送地域に人が集まらない限り、テレビの視聴者は減り、地元企業に体力がなければテレビ局の収益も下がる一方である。SDGsを ”ものさし “に取材しSDGs情報を発信する事は、テレビ局経営の持続可能性に繋がるのだ。

 現状、民放147局で積極的にSDGsに取り組む局は存在しない。SDGsにより地方創生に一躍担えるチャンスは、地域のテレビ局にあることに気づき、トライしてもらいたいと願うばかりだ。