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『情報未来』

当社の研究、コンサルティング、事例から厳選された、お客様の問題解決に役立つ情報誌です。

No.55(2017年7月号)

マネジメントの復権 第5回

ポスト・トゥルース時代のマネジメント
~オルタナティブ・ファクトを超えよう~

四條 亨
四條 亨
NTTデータ経営研究所 情報戦略コンサルティングユニット デジタルイノベーションコンサルティンググループ アソシエイトパートナー

しじょう とおる
生産財、サービス財を中心とする戦略的マーケティングが専門領域。企業ビジョンや戦略策定、CS経営、営業マネジメント、ナレッジマネジメント、組織とIT等のテーマは、消費財メーカや金融機関等にも広く経験を持つ。主な共著は、『顧客ロイヤルティ戦略』(同文舘出版)。

時代を映すポスト・トゥルース

 昨年の米大統領選挙前後から、ポスト・トゥルースという言葉を見聞きするようになった。その年を代表する言葉となって、オックスフォード辞典の「2016年の単語」にも選ばれたという。一般的にはポスト・トゥルースは、事実・真実よりも感情に訴えることが有効になることを示している※1。これは「オルタナティブ・ファクト」と共に、事実と異なっていても「見たいものを見て」「別の事実がある」と言い抜けることに化している。
 なぜポスト・トゥルースが成り立ってしまうのだろうか。大統領選挙では主たる2人の候補者の支持者ごとに、視聴選択するメディアが異なっていたとされる(例えばクリントン支持者はCNN、トランプ支持者はFOXを見ることが多い)。更に大手メディアがトゥルースを示したとしても、それをフェイク・ニュースと言い張ることが支持されてしまう。その背景には、支持者が自分の嗜好に合う限られたソーシャルメディアの情報だけを選択していることにあると見られている※2。これは言ってみれば、接する情報やそれに基づく考えが「タコツボ化」していることを示している。
 このポスト・トゥルースと言われる一連の発言では、前後の脈絡がなく、場合によっては矛盾していても平気である。そのような指摘を受けたとしてもオルタナティブ・ファクトを楯にした対応によって、事実は受け入れられない。このように次々と都合の良い適当なことで言いくるめようとする人のことを、私たちは信用できないのではないか。本来、言動の整合性や統一性を保とうとすることは自身の信用に関わることであり、そこから外れないように一生懸命になるはずである(そのため「過ちては改むるに憚ること勿れ」と言うこともある)。
 それにもかかわらず、事実や実態の方を捻じ曲げて正当化を主張するようなことを生じているのが、このポスト・トゥルースの大きな問題である。その結果、通るのであれば強弁すればよい、本当のことが何であるかを追究することはどうでもよい、ということになることが懸念される。

企業における「ポスト・トゥルース」

 このようなポスト・トゥルースに関する状況は、海の向こうのことであり、まして企業経営には関わりがないと思いたいところである。企業が製品サービスをオン・マーケットすれば、それらは売れるか否かという直接的な審判を受ける。その審判では、製品サービスの価値だけでなくマーケティング上の施策が変数として影響するものの、顧客からの反応と明確な事実である結果が示されることになる。ここにはオルタナティブ・ファクトで取り繕うような余地はなさそうに思える。
 しかし改めて考えてみれば、企業組織の活動やマネジメントに関して、ポスト・トゥルースに相当することを見かけることがある。
 例えば循環取引で見かけ上の売上を大きくしたり、有償支給取引(バイセル取引)の不正な会計処理操作で利益の嵩上げをしたりといった企業が、時々マスコミを賑わせる。これらは事業部門や企業全体として公正に開示すべき売上や利益という事実に対して、不当な対応で作った「オルタナティブ・ファクト」を示しているといえる。そのような対応は一時メリットを得ても、結果的には企業の存続に影響を与えてしまうのだから、デメリットの方が大きいといえるだろう。
 マネジメント層が関わって組織的に行われるものの他にも、別のレベルで見受けられるものがある。例えば営業部門ではこれまで、期末にノルマ達成のためにチャネルに押し込みをしたり、親密取引先に泣きついて無理に発注をもらったりといったことまで、様々なことが行われてきた。
 これらはいずれも、実際の経営活動や営業活動がどのように行われ、その結果がどう出たかという事実よりも、ノルマに対して個々人や組織が適応しようとすること、あるいは達成によって得られるインセンティブを求めることで行われている。つまり自分(たち)に都合のよい「事実」を作り上げているに過ぎないし、取引先に借りを作り、押し込みによって社内には在庫過剰や生産計画への悪影響をもたらすといったデメリットを生じてさえいる。
 このような動きに対しては、企業組織としてガバナンスの徹底から個々人への職業倫理の訴えかけまで、対応が取られて一定の有効性を示してきた。また、ITを利活用した仕組みによる不正防止などもあって、抑止されるようにはなってきている。しかし今に至るまで、根絶されず時々露見してきていることからすれば、組織や構成員の行動に関わる、根が深い問題と捉えることができるだろう。

企業組織でポスト・トゥルースが生じる理由

 ポスト・トゥルースが主張されるようなことは最近のことだが、企業の活動の中では従来から連綿と生じているのはなぜだろうか。生じてしまう場面や背景について考えてみよう。

◆ 経営者が思ったとおりに事が進まないことを嫌い、耳障りなことを避ける場合
 事業の創業者や功績をあげた経営者は、自社がこれまで営んできた活動をよくわかっている。そのため立てた戦略や計画に沿って、現実が自身の考えのように推移すること、思ったような結果が出てくることを当然視することがある。あるいは携わってきた事業への思い入れが強いこともあって、他人の言うことに耳を貸さないなど、耳障りなことを避けることも生じることがある。このような場合、配下の方々が叱責や非難を受けないように、オルタナティブ・ファクトを報告することがある。
◆ 売上ノルマなどの数値目標管理に関する圧力が厳しい経営の場合
 経営の数値目標では、目標設定の仕方が機械的ないし恣意的であることや、実現の方法を組織や個人に押し付ける結果主義も少なくない。所与の環境の変化や実現手段の妥当性を顧慮せずに、対前年●%(あるいは△万円)アップなどのアサインが課されることは、よく見受けられる光景であろう。
 こうした状況では、達成に向けては尻叩きが策となり、達成できない場合のネガティブな扱いをはじめとする圧力が強くなる。そして数値達成の形式を満たすことが優先される危険性が高くなる。この結果ポスト・トゥルースが生じてしまうのではないかと考えられる。例えば営業現場では顧客貢献が進まないどころか、むしろ製品サービスの価値を毀損し、利益を損なうような営業活動が行われてしまう。その中にあって四半期決算など結果評価の短期化が進むことによって、足元の対応が優先され、圧力への過剰同調も生まれやすくなる。
◆ 組織や個人単位に分立した管理に傾注する場合
 顧客やマーケットに生じてきた変化や組織全体の差配、人材の育成・配置に興味がないマネジメント層を見かけることがある。それらすべてを、個人や管理単位の組織に一任してしまっている。そしてマネジメント層の関心は結果にしかない。
 こうなると現場の実態はわからなくなるため、報告で言い切られる数値が事実かどうかさえ不明なまま受け入れざるを得なくなる。目標達成にインセンティブがある一方で、それを支える事実や実態の情報は担当しか知らないのであれば、一種のエージェント問題となりかねない。つまり成果は自分が得て、問題があれば他責という状況を招く懸念がある。

マーケティング・オーディットの勧め

 企業におけるポスト・トゥルースのような問題に対しては、ガバナンスのような制度としての取組みがあるし、もう一方では組織としてのコミュニケーションといったソフト面での取組みがあると考えられる。ポスト・トゥルースには情報を選択的に限ってタコツボ化する様相があることからすれば、組織においては、内部評価に偏したマネジメントを超えていくことが望まれる。客観性を持った情報を導入し、そのような外部情報をマネジメントに取り込んでいくことが考えられる。例えばCS(お客様満足度)や組織内のES(従業員満足度)など組織内外のステークホルダからの評価は、その一端となるだろう。
 売上利益や製品市場戦略といったマネジメントの根幹に関わる点に関して、筆者はマーケティング・オーディットと称する検討をお勧めしている。それは企業組織のマーケティングに関わる実態や実効性を把握するためのものである。
 オーディットといえば事業やITに関して実施されている。事業における戦略実現やマーケティング活動に向けて取り組まれることは多くないであろう。経営企画、営業企画やマーケティング部門などで機能が確立している場合には、活動結果に対して自律的に検証が行われることがある。しかし、多くは例えば売上結果をもとに施策は妥当などと評価しているのである。このように施策と結果を単純に結びつけると、スタッフサイドからは施策はよかったのにラインの現場対応が良くなかったために結果が出なかった、という言い訳が成り立つこともありうる。
 いわゆる結果オーライでもなく、結果責任の押し付けでもなく、ポジティブなマネジメントのサイクルをまわしていくためには、組織に応じた機能を明確にして、その内実をコンスタントに把握・評価・更新していくことが望まれる。そのための仕掛けがマーケティング・オーディットなのである。
 例えば製品市場戦略に沿って言えば、自社の戦略に即して選択されたターゲット顧客とそこに適合する製品サービスを売っていくことが当然であろう。その適合性や顧客の受容性を確認し、何らかの問題が見てとれれば、それを把握・克服するといった活動が続く。また成果の進捗を踏まえて、次の打ち手(機会の抽出、ターゲット顧客の変更、製品サービスの選択など)を進めることになる。ノルマ達成だけを目的とすれば、売りやすいモノを売りやすい相手に売って売上が立てばよいわけで、組織全体としての製品市場戦略の実現性は顧慮されないことになる。また期中で成果進捗を確認していくことは、把握した実態に応じて打ち手を適切に変えていくことを可能にする。その際、製品サービス、顧客(マーケット)、売り方などの各機能における活動実態と改善を検討していくことになる。このオーディットを行う機能は、製品サービスやマーケット(顧客)を担務する組織と切り離して実施することがカギとなる※3

トゥルースを追究する企業

 企業にとって業績は重要であるがそればかりに傾注すると、却ってマーケットのトゥルースが見えなくなり、結果として組織活力が削がれてしまうことがある。有名な大手消費財メーカーであるライオンは、マーケットの事実実態を直視して停滞を脱しつつあるという※4
 同社はオーラルケアのクリニカなど良く知られたブランドを持つ。そのため小売からは目玉商品として扱われることが多くなり、メーカーとして売上を追うことが「安売りで量を稼ぐ」サイクルを招いていたとされる。これに対してブランドの付加価値を再創造する一方で、「売り方マネジメント会議」と呼ばれる売上実績NGの営業会議を持つことにしたという。この会議は販売施策の提案実施を対象として、なぜ売れたかを検証する「見える化」を図るものである。まさに数値を追うのではなく、実現すべき施策を組織として検討・共有する機会を作り出している。
 この会議体は営業活動のPDCAプロセスを意識することで、チャネルや顧客の実態とそれへの反応というトゥルースを抽出・共有する。そして営業のナレッジを深化させることを通じて、売れた/売れなかった結果論を越える。これによって開発部門は事業・営業部門にコミットしやすくなったという。このような取組みが改めて「一蓮托生の組織風土」を醸成することにも寄与して、製品、ターゲット(マーケット)、売り方の組み合わせと最適化を進められることになったと見ることができる。自部門にとってのトゥルースを言い募るのではなく、共通のトゥルースを確認して連携を進められることは、組織力の向上にも大きな意味を持つであろう。

ポスト・トゥルースに陥らないマネジメント

 ポスト・トゥルースに陥らないマネジメントを考えることは難しい。組織内外でそれが生じるような風潮を絶つためには、マーケティング・オーディットのように現場実態の把握をもとにして、マネジメントの適確性を確認していくことが有効であると考えている。前述の要因と対比させて、3つの取組みを考えておきたい。

◆ マネジメント層から丁寧なコミュニケーションを行う
 マネジメント層は「現場の情報があがってこない」とか「悪い情報が聞こえてこない」と嘆かれることが多い。それは耳障りなことを知らせて、デメリットを与えられたくないと配下の方々から思われているためで、結果として率直なコミュニケーションがなされにくいことによっている。俗に言う「悪い知らせをもたらした使者を殺すな」ということは、マネジメント層自身には当然のこととして、その周囲にいるスタッフ層にも該当することである。スタッフがマネジメント層を忖度している場合は非常に多い。
 耳障りに感じられることのうちに、大事な変化の兆しや思い違いを正す契機があることが多いのであるから、そのような使者を排除すれば、実態を糊塗した報告が続くことになるだろう。
 そして現場から掬い上げた変化などのファクトについて、異なるチャネルの情報活用や気づきの導出をもとにどのように判断するかは、マネジメント層とスタッフの責務でもある。
◆ 小分け分立型の組織管理に楔を打ちこむ
 様々な新しい企業組織の形態がこれまで喧伝されてきたが、ほとんどの企業ではオーソドックスに既存の事業組織を単位として、それを細区分した組織によって管理や評価を行っている。更に、組成や評価なども、組織の位置づけを勘案して変えていくのではなく、単純に小組織に小分け分立させていくことも少なくない。
 こうすれば管理や評価の仕方が形式上揃って簡便になる。一方で、タコツボ化によって組織の多様性が生まれにくいこと、見知ったメンバへモノカルチャで抑圧的な管理が行われる懸念があることといった課題を抱えることになり、それらがポスト・トゥルースの遠因となりうる。そのため多様性については専門性(機能)と組織の再結合の仕掛けが必要であろうし、管理については独善化しないように当該組織に外部視点を導入していくことが求められよう。
 あがってくる現場情報が形式化しがちな中にあって、このような仕掛けと共に、埋没しがちな実態情報をスタッフがインフォーマルに拾い上げる、マネジメント層が現場に関わっていくといった泥臭いフォローも有効になる。これらが楔を打つということになる※5
 筆者は経営者と組織活性に関した問題を話させていただくときには、「民の竈から煙が上がっていますか?」と冗談めかして伺うことがある。マネジメント層として現場状況を把握されているか、そして活性していると見て取っているかを直接的に知っていただきたいという想いがある。
◆ 評価の多様性を持つ
 ポスト・トゥルースが企業組織内で通りやすいのは、評価をはじめとして、言いくるめたい事項が単一もしくは少ない場合である。例えば売上で評価されるのならそれをどのように作るか(あるいは言いぬけるか)に傾注することになる(そしてそれを可能にする仕組みを作れば良い、となる危険性がある)。
 MBOの目標設定やKPIでドライブする経営管理の方向性は、達成できる目標を置く、KPI(だけ)を充たすようにすればよいといった自己中心の単目的化をはらんでいるのである。今やマネジャー層は多くの活動課題を抱えているので、単純な評価はなくなりつつあると思いたいが、実態としては多様な評価があっても重視するものが決まってしまっているように感じられる。
 ここに挙げたような点はマネジメントにおいて当たり前のことである。しかしポスト・トゥルースを契機として、マネジメントへの懸念を考えてみると、タコツボ化した組織やそれへの評価・支持が生じてきており、そのような「内部評価」依存や自己完結性が背後にあるのではないか。これは企業組織においては、内部評価に代表される組織内論理だけではなく、外部評価や客観視する現場の情報を常に取り入れること、そのための仕掛けを作っていくことで乗り越えていくことが望まれることである。

  1. ※1 本来トゥルースは、客観的に多角的な見方で支えられるものである。科学においてはエビデンスや様々な検証によって確認され、あるいは修正をかけられて確定されてきている。そして時間軸を通じて評価に耐えられるものでもある。ポスト・トゥルースにはこれらが欠如している。
  2. ※2 ピューリサーチの結果などをもとにした藤原帰一の論述に基づく。「時事小言」(朝日新聞 2017年5月24日)
  3. ※3 これらの枠組みを共に検討してきた西村務(IMSC)はかつて、米軍が攻撃ターゲットを的確に破壊したかという効果性判定の観点から、オーディット機能を保有していたことを指摘していた。戦争の例えはいささか良くないかもしれないが、用意された武器が適切だったか(製品サービス)、ターゲットは正しかったか(顧客選定)、正しいターゲットに命中させたか(営業顧客対応)という機能の組み合わせに基いて戦果を見ていたことになる。例えば何であれ売って数字を作ったから良いと言っている営業は、ターゲットではない対象を適当な武器で破壊して戦果を挙げたと称しているのかもしれない。
  4. ※4 「眠れる『ライオン』、数字NG会議で覚醒」日経ビジネス2017年3月20日 以下の同社に関する記述は、本記事に基づく。
  5. ※5 形式要件を充たしていれば良いとか顧客が言っているという錦の御旗を掲げて、組織内部で横車を通すことはよく見聞きする。例えばものづくりやサービス提供を行う業態のある企業では、売上数値で評価していたことから、外注費が95%以上という大規模案件で売上を立てているのを見たことがある。これでは大きな売上が立っても、自社で価値を作り出すことにならないし、そもそも利益を確認すれば赤字案件であろう。それが駄目とルールに記載されていないことをもって評価せざるを得ないというのは機械的な運用といえる。健全な評価をおこなうためには、常識的な運用、複数の評価などが必要となる一例である。