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『情報未来』

当社の研究、コンサルティング、事例から厳選された、お客様の問題解決に役立つ情報誌です。

No.52(2016年10月号)

特集:デジタルコグニティブサイエンス

人間の本質を理解することを目的とした「人間情報データベース」の開発

高山 文博
高山 文博
NTTデータ経営研究所 情報未来研究センター デジタルコグニティブサイエンスセンター シニアコンサルタント

たかやま ふみひろ
2011年NTTデータ経営研究所入社。メーカー、小売・流通業、金融機関などへのマーケティング戦略構築、海外進出支援などを中心に活動。近年は、ソーシャルメディアマーケティングやニューロマーケティングの手法開発に取り組む。新規事業化支援、マーケティング戦略、ソーシャルメディアマーケティング戦略、海外進出戦略等。

1 ビッグデータ時代に求められるデータ

 「ビッグデータ」という言葉を耳にする機会が増えてから久しいが、現在、企業各社が力を入れているのが消費者に関する情報の収集である。日本においても小売業を中心にポイント付きの会員カードを発行し、消費者の購買履歴を元に、顧客ロイヤリティを高めようとする取組みが活発になっている。また、最近では企業がデータを軸に競争優位性を見出すため、自社が保有する内部データだけではなく、他社の顧客情報やツイッターデータといった外部データの収集に取組む企業も現れ始めている。
 一方で、本当に必要なデータを集めることが出来なければ、ビジネスに活用することが難しい。例えば、内閣総理大臣・安倍晋三氏と俳優・石田純一氏は、同じ生まれ年(1954年)、性別(男性)、出身地(東京生まれ)、婚姻(既婚)、趣味(ゴルフ)という特徴を有するが、果たしてこれらのデータからこの二人が似た人物であると言えるだろうか。安倍晋三氏と石田純一氏をテレビやインターネットで拝見したことがある人であれば、違和感をおぼえるだろう。ここで述べたかったのは、マーケティングや商品開発においても、本当に必要なデータを見極め、集めることが出来なければ、人間の本質を過って理解した施策を講じてしまうリスクを孕んでいるということだ。そこで、ビッグデータ時代に本当に必要なデータは何かを考え、人間の本質に迫るデータをビジネスに活用しようという着想で始まったのが、「人間情報データベース」の開発である。

2 「人間情報データベース」の開発

 NTTデータ経営研究所では、2016年4月に脳科学・認知心理学などの研究者と共同で大規模調査を行い、人間の本質を理解するための基盤である「人間情報データベース」を構築した。「人間情報データベース」には、約150問のアンケートによって得た約25000人のWebモニターの属性、ライフスタイル、趣味、嗜好、性格、価値観、脳特性、購買行動等合計700項目に及ぶデータを蓄積している(図1)。合計700項目の一例を挙げると、人間の脳の特性を理解することで計測ができる「報酬に対する価値観」、「確率に関する価値観」、「時間割引に関する価値観」がある。私たちの意思決定は、人によって異なる、特徴があると言われているが、これらは脳の特徴の違いであり、アンケート結果からは、それぞれの価値観についても人、すなわち個々の脳によって傾向や度合が異なる結果が表れている。

図1:人間情報データベースとは

図1:人間情報データベースとは

出所:NTTデータ経営研究所にて作成

 ここで、簡単に前述の3つの価値観について説明する。「報酬に対する価値観」を決めている脳のシステムは価値関数システムといわれ、これは人のウォンツやニーズと関係し、神経伝達物質ではドーパミンが深く関わっている。ドーパミンは得られる報酬への期待値、すなわち報酬予測誤差の大きさに関係して分泌される。例えば、貯蓄が1億円あるときに1万円もらうのと、貯蓄がないときに1万円もらうのとでは、その価値、嬉しさは相当違うのではないだろうか。この報酬予測誤差の大きさは、人、より正確には人の脳によって、また周りの環境条件によって異なる。また、その人が意思決定をする瞬間の身体的環境状況(おなかがすいている、頭痛がするなど)によっても異なる。
 「確率に関する価値観」とは客観的、数学的な確率と主観的、心理的な確率の関係を示すものである。不確かなことやリスクに対する意思決定にはアドレナリン(正確にはノルアドレナリン)の分泌が関係している。また、セロトニンも関わっている。例えば、宝くじで一等賞にあたるのはかなり難しいが、人によって確率どおりに判断する人もいれば、心理的に確率よりも高く見積もる人もいれば、逆に確率よりも低く見積もる人もいる。
 「時間割引に関する価値観」とは将来に対する価値を割り引く傾向であり、これは全ての人に当てはまるが、その度合いは人によって異なる。将来の価値への評価は、報酬系の一部である線条体の活動と相関性があり、神経伝達物質セロトニンの分泌が関係している。例えば、今日1万円もらえるのと、1週間後に1万100円もらえるのでは、どちらを選ぶだろうか。銀行の定期預金の金利が年率1%にも満たない現在の状況を考えれば、1週間後に1万100円もらうのはかなりの高利率であり、得なはずだが、人によっては今日の1万円を選ぶ。
 このような脳に関する情報を含めた人間情報を蓄積することによって、従来の「ペルソナ」とは大きく異なるマーケットセグメンテーションを作ることができる。従来は、例えば、「首都圏のマンションに住んでいるひとり暮らしの30代の女性で趣味はカラオケ、休日はショッピングに行く人」をターゲットの「ペルソナ」として商品やサービスの開発を行ってきた。ところが、同じ条件に当てはまる女性でも、内向的か外向的か、協調性が高いか低いかによって、購入するサービスは異なるかもしれない。「ペルソナ」とは言うまでもなく心理学用語で「仮面」であり、本来は「仮面」の内側に隠された性格、心理など内面的、本人も気づかない無意識の特徴を知ることが重要である。弊社では、この700項目に及ぶデータを活用し、従来の「ペルソナ」とは異なる人間の心理、パーソナリティ、脳特性等を考慮したモデルを構築し、企業向けに付加価値情報として提供している。

3 「人間情報データベース」の差別化要素

 現在、弊社のみならずWebモニターから種々のデータを取得している企業は存在している。その中には、Webモニターの属性・ライフスタイル・価値観等のデータを取得している企業もあれば、購買行動・メディア接触等のデータを取得している企業もある。そうした中で、弊社の「人間情報データベース」の差別化要素は大きく次の3点である。(図2)

  1. ① 科学的根拠の質
     「人間情報データベース」の取得したデータ項目の信頼性は、研究機関との共同研究によって支えられている。脳科学・心理学等を専門とする研究機関の当該取組みへの参画や、信頼性の高い研究を採用する等、企業への確実な情報をお届けするための体制を整え、信頼性の高いデータ項目の取得に向けた取組みを行っている。また、研究機関には、共同研究を通じて取得したデータを積極的に学術利用していただくことを想定しており、「人間情報データベース」の活用によって社会に役立つ研究成果が生まれていくことを期待している。
  2. ② データの質
     「人間情報データベース」では、Webアンケートを実施する際に問題となる事象への対応も行っている。Webアンケートには、「Webモニター属性(年齢・性別・居住地)に偏りがある」、「Webモニターが適当に回答する」といった事象が見られることがある。それに対して、弊社では、「日本の人口動態に合わせたWebモニターの割付け」、「適当回答を排除するためのデータスクリーニング」といった対応策を講じている。
  3. ③ 情報提供の質
     「人間情報データベース」では、企業にとって正確でわかりやすい情報提供を目指している。現在は、企業からの課題を吸い上げたうえで弊社データサイエンティストチームにてコンテンツを作成し、情報提供を行っている。具体的には、企業から「広告出稿の際のセグメント作成に活用したい」、「消費者嗜好を需要予測のモデル作成に活用したい」、「自社のお客様のパーソナリティ把握に活用したい」といった様々なご要望を頂いており、「人間情報データベース」を活用して個々の案件に合わせた情報提供を行っている。

 また、「人間情報データベース」にて取得するデータについては、Webモニターへの利用方法の明示および同意取得はもちろんのこと、国の定めるガイドラインの遵守、有識者との協議等、倫理的・法的・社会的課題への取組みも行っている。

図2:人間情報の差別化要素

図2:人間情報の差別化要素

出所:NTTデータ経営研究所にて作成

4 今後の取組み

 現在、「人間情報データベース」では、属性、ライフスタイル、趣味、嗜好、性格、価値観、脳特性、購買行動等に関するデータを取得・蓄積し、それを「研究機関による学術利用」や「企業への情報提供」に活用することを取組みの大きな柱としている。
 今後の取組みとしては、「データの質」、「データの量」という観点から「人間情報データベース」を発展させることを目指したい。
 まずは、「データの質」という観点では、脳科学・心理学に基づくデータ項目を増やしていくことはもちろん、シングルソースパネルの変容を捉えることを目的として経年変化データを取得していくことも重要であると考えている。更には、脳科学・心理学に基づく情報のみならず、人間を取り巻く環境情報(子育て環境、人間関係、等)や人間の行動結果情報(購買、お金、仕事、恋愛、等)のデータを取得・蓄積することで、人間の本質に迫っていきたいと考えている。
 また、「データの量」という観点では、現状2万5000人のWebモニターに参加頂いているが、更に参加者を増やしていきたいと考えている。具体的には、取得したデータを参加者にフィードバックする仕組みを構築し、参加者が自らも把握していなかった新たな自分を発見する機会を提供していきたい。これは単純に参加者を増やすことだけが目的ではなく、自分自身を知ることで日々の生活を充実させられる場として「人間情報データベース」を活用いただきたいと考えている。
 最後になるが、私たちは今後も「人間情報データベース」を通じて、研究およびデータドリブンビジネスに貢献してまいりたい。