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『情報未来』

当社の研究、コンサルティング、事例から厳選された、お客様の問題解決に役立つ情報誌です。

No.48(2015年10月号)

マネジメントの復権 第3回

戦略リテラシーを育成していこう

四條 亨
四條 亨
NTTデータ経営研究所 グループ事業推進センター マネジメントトランスフォーメーション・コンサルティンググループ長 アソシエイトパートナー

しじょう とおる
生産財、サービス財を中心とする戦略的マーケティングが専門領域。企業ビジョンや戦略策定、CS経営、営業マネジメント、ナレッジマネジメント、組織とIT等のテーマは、消費財メーカや金融機関等にも広く経験を持つ。主な共著は、『顧客ロイヤルティ戦略』(同文舘出版)。

 前回の本欄で、戦略検討の不十分さや、柔らかい戦略計画がマネジメントに取り込まれにくい状況について論じた。例えば共通的な戦略課題の抽出・設定の欠如もあるし、それらも含めてことを変えていくには、「戦略リテラシー」の組織的な育成が必要なのではないかと考えている。

戦略リテラシーとは何か

 ご存じのように、しばらく前から情報リテラシーやITリテラシーという言葉が出されて、情報システムへの知識、ITの技術面における可能性やアプリケーションの利活用などが、組織の底上げに必須のものであると提起されてきた。ちょうどITがマネジメントや業務そのものと不即不離になってきたこと、PCやネットワークが普及したことでITが該当部署の専管事項というよりも普遍的に活用すべきツールになってきたことなどが背景にある。そして特に親和性が高くない中高年層を中心に、ITリテラシーを向上させることが主張されてきた。
 IT部門以外にとっては、ITの浸透に伴ってそのリテラシーが問われる形になったわけである。しかし、ことマネジメントに係る戦略のリテラシーは、IT以前から取り組まれてきたはずであるものの、改めて問われるきっかけがなかったようである。
 経営の業務サイクルが成り立っているとしても、それは必ずしも戦略リテラシーが具備されていることを意味しない。むしろIT/情報リテラシーが普遍化する一方で、戦略が「不在」であったり、形式的な戦略計画が跋扈したりしている現状を見ると、敢えて戦略リテラシーを問うことには意味があるのではないかと考えている。
 戦略リテラシーについて、筆者としては一旦「事象から課題やその構造を抽出し、対応する戦略を創造する能力」と定義しておきたい。それは事象への気づき(センシング)とその事象のもたらす意味を読み取ること、そして組織への課題を推察していく論理性や課題構造に対応した戦略案を考える創造性という一連の戦略に関する能力を指している。
 例えばB2B企業がある顧客に入り込むことを考えていた場合(財の種類にもよるものの)、多くの場合営業担当は顧客の固有性を現場のファクトとして語るであろう。これに対して戦略リテラシーが欠如している場合、上長はその顧客の状況を理解し追認することしかできないか、精々過去の自身の経験事例に引き寄せてファクトを確認するにとどまってしまうであろう。一方、上長との間で顧客の環境を(様々な事象から)分析し、それに基づいて仮説的な課題を出し、それを解決するようなアプローチを提示することに取り組めたらどうであろうか。マネジメント層やマネジャー層における戦略リテラシーは、現場現状の確認ではなく、それらに基づく課題について共通の土俵で語り、そして顧客への取組み方(顧客への参入戦略)を検討することを意味するはずである。顧客についての理解や共通的な論理検討をもって、組織として顧客にアプローチする「理」や「策」を構築することが可能であれば、組織内の「知」が活かされると共に、個人的な営業を超えた組織的な営業へと活動が進化するであろう。
 このような戦略リテラシーは、顧客対応だけではなく本来的には「戦略的なものの見方と業務の回し方」を指すため、マネージの対象として自社組織にも適用されるものであると考えている。

戦略リテラシーの欠如

 会社によって相違は大きいと思われるが、少なくとも戦略リテラシーの向上は実態としては未だ充分十分とは言えないであろう。これまで経営がうまく推移してきたような組織であるほど、企業の組織固有性が連綿と受け継がれてきている。顧客との関係性においても安定的な基盤を有しているなど、環境変化に晒されていなければ、従来からの固有性のままで対応し続けることができる。
 先述のように、例えば営業における実態を取り上げてみよう。自社の営業スタイル(方法)が強みとなっていた一方で、更に科学的なアプローチを取りたいといった変化を求められることがある。しかし組織においては、(過去の)実績主義によって昇進昇格が決められてきたことが殆どであって、売上成果を大きく上げたセールスパーソンが営業の管理職となっていることが多い。その結果、営業組織のマネジメントに相応する見方や考え方が育成されていない場合もある。そのため、組織固有の(場合によっては個人的な)取組み方を経験主義的に肯定してしまい、組織内に押し進めていくことが生じてしまう。営業管理のためには、当該のマネジメント能力が必要であろうし、まして安定的な環境や顧客関係が変化しつつある時下、従前の経験主義の意義は限定的にならざるを得ないはずである。
 またあるB2B企業では重要な案件について、所管役員と担当マネジャーの間で「ニコポン」のやり取りをもって、案件営業の進捗が大丈夫であるとの確認が交わされていた場面に遭遇したことがある。営業担当から進捗がスムーズであることは伝わるとしても、なぜ大丈夫であると言えるのか、顧客に関して何らかの影響がありそうな気づきの有無などは、言語化されていないことで捨象されているように見受けられた。コンテクストが共有された暗黙裡のコミュニケーションが成立することは素晴らしいかもしれないが、営業の進捗に応じて顧客の意思決定や課題がどのような状態にあるのかといったことを言語化していく必要があるのではないだろうか。そのようにコンテンツを明確にしなければ、コンテクストを共有した方々以外には、ことの成否もその内容や理由さえも一切理解できないことになる。それでは個人的な経験主義が進められるだけであり、組織としての戦略リテラシーには寄与しないのである。
 一方で、必ずしも組織全体では戦略リテラシーが高くなっていないとしても、業務のコミュニケーションでうまくそれらが取り込まれている場合も見られる。別のB2B企業ではインダストリー区分で営業が組織化されており、顧客個別についてのプロフィールや案件についての分析検討が整理されている文書を作成している。筆者はこれらを縦覧する機会があったのだが、組織ごとの記述レベルの差の大きさに驚かされたことがある。
 あるインダストリーでは、業種の環境分析を踏まえ個別顧客の課題を導出し、自社の事業機会や他社との競合について分析検討がなされており、概ね妥当感がある内容であった。一方でその内容が何年も更新されず、通り一遍のファクトが記述されているだけで分析がなされていないものや、顧客に関しても既存の取引のリプレースだけに焦点があてられているような内容もあった。
 このような内容の幅広さは、同じような業務内容を導入しつつもそれをドライバとしてどのように取り組むかというマネジメントの姿勢によるものと見受けられた。一般的に言えば、顧客の課題を正しく導くことよりも、売上を上げるといった数字のインパクトが求められることの方が強いであろう。そのような場合であったとしても文書を埋めることだけに汲々とする場合と、このような文書作成をトリガーとして戦略的な検討を行う土俵づくりを考え、組織の戦略的な思考を高める活動を行う場合との差は大きい。もちろん業界や顧客との関係性の深さや取引の安定性といった相違があったり、組織目的の違いがあったりするから、一概に良否は言い難いものの、組織が知的、戦略的に考え行動していく基盤がどちらにあるかは、明白であろう。※1

戦略リテラシーの意義

 戦略リテラシーを意識した活動を行う意義は、主に4点あると筆者は考えている。

(1)共通言語を持つ
 トップマネジメント、ミドルマネジメント、現場といった階層に関わらず、また個別組織(例えば対象業界の相違など)のジャーゴン(仲間うちだけに通じる用語)に煩わされず、組織内でユニバーサルな共通言語を持ち、共通理解を可能にする。その土俵の上で活動や取組内容について討議が可能になる。※2
(2)戦略枠組みを共有する
 共通言語に関わり、マネジメントに関するフレームワークについて適時適確に利活用することを通じて、分析的な見方や結果をスムーズに共有化するとともに、課題の抽出や対応に傾注していくことができる。この場合、特にフレームワークに関する誤解(誤用)には注意が必要になる。※3
(3)理路をただす
 同じ事実と共通言語をもとに、例えば仮説と検証のサイクルを回すことができれば、その理路を複数の異なる視点や背景を持つ方々で確認し、レベルアップさせていくことが可能になる。※4
(4)戦略的な視点やセンサーの感度を上げる
 個々人と組織の両方において、戦略に関するセンサーの感度が上がるようになっていくことは、組織能力を向上させていくことにつながる。組織内には多様な個人がいて、各々の観点を持っているとするならば、それらの集合知の活用が可能になると考えられる。

組織での戦略リテラシーの育成

 戦略リテラシーは、基本的なフレームワークの理解と論理性がもとになっている。

図1: 戦略リテラシーの観点

図表1:

出所:執筆者作成

 その点からすると、まずはOff-JTでの知識情報の装備が、ベース習得のために効率的といえるかもしれない。※5 一方で経験知、現場知などを昇華させた思考も有効な面がある。そして業務における様々な局面で利活用されることが、リテラシー向上として望ましい点からすれば、業務(オペレーション)の中で取り組まれているようなOJTによる育成の意義も大きい。現状の組織がそれに相応しくなければ、コンサルタントなど外部を活用して弾み車を回し、組織内にそれらを醸成していくことが望まれる。
 このように戦略リテラシーを育成し根付かせていくことは、組織としてのインテリジェンスが問われることを意味する。かつて筆者が営業マネジメントの仕組みづくりを手伝ったB2B企業では、感覚的に活動していた担当者が、顧客の意思決定にどのように寄与していくかを理解した途端に、顧客の状況を観察し課題を挙げられるようになった例もある。そのようなきっかけになるものをどのように提供するか、形成していくかということは、まさにマネジメントに課されているのである。

  • ※1 記述の仕方だけではなく、それをもとにミドルマネジメントとの間で具体的な討議が成立しているかということがそもそも問われる
  • ※2 共通言語をもとに討議されることは、担当と予算を小分け分担させていくというお任せ管理に対して、内実を伴うマネジメントを成立させる要素となる
  • ※3 フレームワークの誤用については、従前も触れたことがある。例えばPPM(製品ポートフォリオマネジメント)の縦軸や横軸を変えて分析しているものを見たところ、キャッシュ(資源)分配の必要性を一覧するものではなく、単なる自社の製品位置付け図になっているものがあった。筆者はマネジメントスクールでも受講生の誤用を多く見かけてきたことから、元々の軸の意味を読み解くことなく図案のように用いてしまっていることが少なくないのではないかと考えている。
  • ※4 これはインダストリー単位の営業組織のみならず管理間接部門の業務専門性を含めて、様々なマネジメントの科目相当の内容(人、組織、資金など)をブリッジして見ていくという点からも、必要な理路を押さえることは有意義である
  • ※5 Off-JTではいわゆるMBA科目のような設定が多く、当該テーマについてはロジカルシンキングや仮説思考のトレーニングなどの方が近い。しかし科目にあるようなフレームワークも必要であり、また考え方の独自性と汎用性を狙うという点からすれば、まさに「ストラテジック・マインド」の醸成といえるのかもしれない。