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『情報未来』

当社の研究、コンサルティング、事例から厳選された、お客様の問題解決に役立つ情報誌です。

No.47 (2015年6月号)

マネジメントの復権 第2回

課題認識を持って戦略を手ずから考えよう

四條 亨
四條 亨
NTTデータ経営研究所 グループ事業推進センター マネジメントトランスフォーメーション・コンサルティンググループ長 アソシエイトパートナー

しじょう とおる
生産財、サービス財を中心とする戦略的マーケティングが専門領域。企業ビジョンや戦略策定、CS経営、営業マネジメント、ナレッジマネジメント、組織とIT等のテーマは、消費財メーカや金融機関等にも広く経験を持つ。主な共著は、『顧客ロイヤルティ戦略』(同文舘出版)。

トップマネジメントだけではなくミドルマネジメントであっても、マネジメント層の中核的な活動は戦略検討とその実行(戦術やオペレーションが中身になっていく)にあるといってよいであろう。筆者は前職から、多様な業界の会社における戦略検討や戦略計画策定に携わらせていただいてきたが、戦略計画は作らざるを得ないため対応している作業と化している会社も多いのではないだろうか。戦略計画策定という折角の機会は、今一度戦略検討を行う契機として捉え直して、それらを通じてマネジメントの再考を論じてみたい※1。

戦略計画の短期化

戦略経営はおおよそ70年代から、特に経営計画は80年代に作成企業の裾野も広がり、ブームとなったとみてよいだろう。その後は多くの会社で計画の洗い替えの時期が来る度に作成され、継続的にマネジメント活動に取り込まれている。

しかしよく見ると、例えば80年代には5年スパンの長期経営計画を策定していた企業であっても、昨今は3年スパンの中期経営計画に移行するなど、策定対象期間が短サイクル化してきている場合もある。このような短期化は、先々の経営環境の変化が見通しにくいにも関わらずその影響が大きくなってきていること、ビジネスの実際的な取り組みにおいても変化が大きくなってきていることなどを反映しているのではないかと思われる。

一部には新興IT企業をはじめとして、長期・中期を問わず経営計画を敢えて作成しないという会社も出てきているようである。中期であっても変化が大きく先々の見通しが立ちにくいのであれば、年次の少し先を読みながら事業をドライブしていく方が妥当という見立てであろう。(さらに言えば、IR等に基づき企業の業績提示と対応については四半期ベースへと短期化されてきている。)

このような状況にあって、従来から取り組まれているような中長期の戦略計画はどのような意義を持ち続けているのであろうか。

一つは競争等の実践にあたる日々の戦術を超えて、広いスコープから経営戦略を見返していくことについて、中長期の計画策定が良い契機になるという点が挙げられる。ビジネスの取り組みと成果が短期化するほどに、目の前の事業の成否や業績に振り回されがちになるため、先々の構造変化を考慮するといった視点と思考を改めるに適した機会になっているのではないか。その点から短サイクル化の進展は、長期視点に立った戦略とマネジメントについて時宜を得て考える機会を提供する中・長期戦略計画の存在意義を増しているはずである。

更に戦略検討に必要となる資源についての見通しは立ちにくいとしても、人財をはじめとする資源の将来のあり方や育成、配分等への打ち手は予め考えておく必要があるため、経営戦略の検討は必須となるといえるだろう。

戦略計画の盛衰

成長期をはじめとして、かつては中期的な見通しが現在よりは立ちやすく、それに応じた経営の実践が可能であったように感じている。例えば筆者が中長期経営計画策定などに携わり始めたバブル前後は、安定的な成長を超えた外部環境の急激な変化に応じて、従来からの既存事業をベースとする経営から脱しようとする会社も多かった。一方でその後生じたマーケットの縮退に対しては、生き残るための仕組みを考えるといった方向に振れるなど、ダイナミズムが働きつつも大きなトレンドは見えやすかったと言えるかもしれない※2。

そのような時期であれば、一連のプロセスをもって導出された理路を環境変化に応じて参照していくことができたのだが、不連続な変化などから経営計画の実効性が低下したと感じられたことを背景として、その位置づけに変化が生じてきたと思われる。多くの企業で経営計画の策定は止めてはいないものの、経営戦略と直結しにくくなり、計画は目標数値を示すものと化してしまったように感じられる(何しろ折角策定するのだから少なくとも先々の達成ゴールを掲げるべき)。同時に計画策定の経験が重なってくるとともに、スタッフ(経営企画部門)にとって周年のルーチンワークと化していく側面もあって、なおさら数値目標化が加速した面があるとみている※3。

戦略計画を策定しシェアすることは、戦略そのものを見直すと同時に、それらの可視化を図り会社の方向性をステークホルダーと共有する効能があるのだが、計画の数値目標化はそれを活かさないことになる。お考えいただきたいのだが例えば、当社は3年後に「このような会社に変身します」という姿と道筋が見えるのであれば、共感する関係者も少なくないであろう。しかし売上●億円の会社になるから頑張って売上に貢献しようと言われても、社員はさておき他の関係者から好意的な反応を引き出すことは難しいのではないか。戦略が語られずに数値目標だけが前面に出ることも少なくないことは、経営計画の位置づけが変わってきたことを示していると思っている。

戦略計画で見かける問題

かつての経験から、その策定を巡って幾つかの問題があると考えている

(1) 戦略計画の形(アウトプット)をつくれば、自ずから経営戦略が形成されるとの誤解がある

(2) 戦略そのものが十分に検討されない結果明確でなく、戦略計画の策定が自己目的化する傾向にある。計画のタイトルや内容が「▲▲戦略」という名称だけだったり、単なる領域テーマを扱う宣言であったりというものは、戦略としての要件を欠いている※4。

(3) 経営計画策定においては、一つの計画数値という答えに収斂させることが当然と考える傾向が強い。例えば環境変化の発生確率やシナリオプランニングに基づいて複数のパターンから戦略を選択的に提示することよりも、いわゆる「松竹梅」の3パターンの数値幅を設定し、中間の「竹」を答えとして設定するように導く検討が行われる場合もある。そのためコンティンジェンシーの考えも弱く、予めトップマネジメントの意向を忖度(そんたく)し、それに収斂させる計画策定が見受けられる。

(4) その結果、大きな戦略変革を踏まえた計画というよりも、提示された売上げ目標に向けて、各事業が頑張るというストレッチ目標をシェアすることが戦略計画の中心になってしまう※5。

(5) 計画遂行に際しては、全社的なリソースは勘案するとしても、各事業ラインに割り戻された目標を達成するために、事業ラインごとに製品市場の個別の取り組みを考えることが戦略遂行であると落とし込まれる。いわゆる小分け管理が行われがちである。

戦略と計画を取り戻す
~現状認識と課題認識~

ここに挙げたような戦略計画の問題は、トップマネジメントをはじめとして経営戦略を常時考えているであろう方々が、戦略計画に対してコミットを弱めたことにも依っているのではないか。例えば企業規模が大きくなり、事業が多様化するほどに、その傾向があるように感じられた。またスタッフを中心に分析フレームやフォーマットを用いると戦略構築が進められたと考えがちであることに対応している※6。

これに関し戦略計画策定のプロセスからは、大きく3つのプランニングのスタイルがあるように見受けられる。(図表1)

① ウォーターフォール型
全社では大きな戦略方向性を設定し、それを受けて事業単位で戦略検討を行うもの。事業戦略が中心になりがちで、資源配分や全社での大きな転換に関する戦略構築には向かないが、早く効率的に構築でき、事業ラインに則した計画を策定可能である反面、戦略計画が手続き化する傾向が強い。

② 目標交渉型
経営計画の中心は数値目標であり、それを事業ラインでの積み上げと全社との間で交渉を踏まえて策定するもの。①も数値の扱いについては、実質的には②に包含されることが多い。多くの会社の経営計画がこれに該当すると思われる。現業での先々の見通しとその延長上の事業を捉えるため着実性がある一方で、交渉によってストレッチされた数値目標には論拠は薄く、力関係で頑張らせるという関係に陥る点で、実行性に疑問もある。

③ 課題共有型
現場とコーポレートの間で、現状認識とそれに基づく課題認識を共有し、全社的な優先課題を明確にして戦略検討に取り組むもの。課題積み上げと共有/優先度判断のやり取りにおいてインタラクションが成立するため、「戦略課題」の括(くく)りだしと対応も行いやすい。反面、現場の課題検討プロセスを包摂し、コーポレートと事業ラインのインタラクションがあるため時間がかかり効率的ではなく、課題の抽出や共有化、優先度設定に際しては「認識」を巡りコンフリクトが生じうる。そのためコンサルタントのような第三者の仲立ちがある方がベターなケースも少なくない。

ここに挙げた③課題共有型のように現場の状況と課題を改めて確認しつつ、企業の経営戦略を検討するということは時間もかかるし、経営陣からすればわかっていることの重複に過ぎないとの意識もあろう。しかし敢えてそれらに意義を感じるのは、昨今の環境変化の大きさや不連続性からすれば、戦略を考える機会に全社を挙げて異なる視点や能力を再評価し活用していくことが、会社としての可能性と機会を生み、危機をヘッジすることに役立つと考えるからである。その点からすれば、マネジメント層としてはスタッフだけに過度に依存せず、戦略とその検討ために課題共有にどれだけ自身が関われるのか、が問われていくことになると思われる。

図表1:経営計画におけるプロセス

図表1:経営計画におけるプロセス

出所:筆者作成

柔らかい計画へ

そして戦略計画の立て方や遂行の仕方を見ていると、計画に対する考え方、位置づけに大きな相違があることも付言しておきたい。計画策定の経験を重ね、規模が大きくなると得てして「堅い計画」に片寄っていくように思われるが、筆者はその中にあっても敢えて「柔らかい計画」の指向性を再び持つことが大事ではないかと考えている。(図表2)

ここで柔らかい計画と言っているのは、計画そのものを必達で順守すべき堅いものと捉えることの対局のことである。計画はある時点/観点からの経営に資するシミュレーションと位置付けており、計画への柔軟な姿勢を指している。筆者は戦略計画をそのように捉えたいと考えているため、例えば戦略計画で設定した数値が次年度以降の年度計画の目標(予算)額に自動的に置き換わってしまうことには疑問がある。策定には時間もかかり翌期の環境も変化するため、変化を取り上げつつ計画時点での理路をもとに実践を果たしていくことが、計画遂行には求められると考えるからである。策定する計画が後の必達目標を指すことになるのであれば、保守的な目標を策定したいというバイアスも働くであろうし、そもそもの思考と検討の自由度が縛られることになるからである。

このように課題認識を通じた戦略検討や計画策定を行うことや、とかく形式に陥りがちなプランニングを柔らかい計画へ導くことによって、改めて戦略自体を考え、そしてマネジメントを捉えなおすことが可能になるのではないかと考えている。

図表2:堅い戦略計画と柔らかい戦略計画

出所:筆者作成

※1 経営計画と戦略立案や戦略計画については、厳密に区分することもあるが、本論では戦略計画は経営戦略を検討し経営計画を策定することと同義として扱っておく。 ※2 そのような時代であっても経営計画は時期が来たら作成して、あとは飾っておくという「神棚型長計」(西村務の喩え)への志向は弱くなく、戦略を体現する計画づくりに腐心した覚えがある ※3 「失われた20年」の「安定的」状態に対してコストリダクションなどの「内向き」な取り組みを中心にしたこと、ITバブル等も含め短サイクル化の加速が生じたことなどが相俟って、計画のルーチン化が進んだ面もあるのではないかと推察している。また実行的な戦略は、現業での対応として事業ラインが中心になるべきとの意識もあるのかもしれない。 ※4 特にこの十数年はIT系のバズワードと言われるものを掲げることが「戦略」とされるという誤解が強いように思われる。それをどのように自社の優位性にし得るかというオリジナリティもなく、各社が横並びで提示し、それを実行するという宣言になっている場合が少なくないように見受けられる。 ※5 トップが想定する将来の姿(目標)に対して、現状(既存)延長での積み上げとの間に生じるギャップは、まさに「戦略課題」であり会社として埋めるべき課題となる。しかし実際には各事業と目標のストレッチ交渉の中で、そのギャップを解消することが圧倒的に多い。これが戦略課題の埋没である。拙稿「標準治療のマネジメント」(情報未来36号所収)記している ※6 ミンツバーグらは“戦略サファリ”(東洋経済新報社,2012年)で、戦略論の学派区分をしているが、その中でいう「プランニングスクール」やその後の「ポジショニング・スクール」がまさにその代表となる