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『情報未来』

当社の研究、コンサルティング、事例から厳選された、お客様の問題解決に役立つ情報誌。

No.40 (2013年10月号)

特集レポート

ビッグデータ、その前に… マネジメントへのインサイト

四條 亨
四條 亨
NTTデータ経営研究所 情報戦略コンサルティング本部 アソシエイトパートナー

しじょう とおる
生産財、サービス財を中心とする戦略的マーケティングが専門領域。企業ビジョンや戦略策定、CS経営、営業マネジメント、ナレッジマネジメント、組織とIT等のテーマは、消費財メーカや金融機関等にも広く経験を持つ。主な共著は、『顧客ロイヤルティの時代』(同文舘出版)。

過去の旬なテーマの想起

 ビッグデータは、ビジネスの「キーワード」と化して久しく、今もっとも旬なテーマとなっている。周知のように、大量データの高速処理を始めとする技術の進展が可能にした、新しい次元のものである。これまで顧みられなかったデータをもインフォメーションとして扱えることで、インテリジェンスを引き出す可能性を秘めている。よく言われるように、「量が質を上回る」こともありうるのである。

 一方これまで、ビジネスに関わる旬なテーマとされたものを振り返ってみれば、古くはSISやDWH※1など様々なものが想起される。それらの中には、新たな地平が出現し、「誰でも」適用でき「どのような」活用も可能になるという誤謬を生みかねない言説をふりまいたものもある。しかし流行りとされたテーマであっても、マネジメントとして本質的に捉えられ取組まれたものは、廃ることなく今日でも企業組織で継続して有効に機能している。

 本稿ではこのような旬なテーマを利活用されるユーザ企業組織にとって、今後のビジネス取組みの糧になるように、またビッグデータがバズワード化しないために、マネジメントへの適用について考えてみたい。

※1 SIS:戦略情報システム、DWH:データウェアハウス

キーワードで語ることの危険性

 ICT業界をはじめとして、多くの業界企業で「キーワードは…」と言われる場面に居合わせる。過去の旬なテーマも、そのようなキーワードとして扱われてきている。

 皆さんもご経験があると思うのだが、キーワードはコンテクストが共有されている関係(例えば同じプロジェクトチームで練り上げたプランのテーマ設定など)であれば、うまく伝わる。しかしそのような共有性がないにもかかわらず、キーワードだけが出されてくる場面には注意を要すると筆者は考えている。それはお互いの前提の相違や思い違いが糊塗(こと)されてしまって、実態・現実となって初めて間違いが顕在化したり、行き違いが生じたりすることを見てきているからである。皮相な見方をすれば、端的にキーワードを示すことによって、異 なる立場の方々を納得させ相互に分かった気にさせることは、「美しき誤解」として治まりが良いという狙いがあるのかもしれない。

 このようなキーワード主義には、更に別の陥穽(かんせい)もある。キーワードで語ることが好きな方は、相手が求めることはあれも入っている、これにも妥当すると、汎用的に全てを包含させてしまうことが多い。それは自身でキーワードの定義付けができていない(相手の話に応じて変容する)場合や、その活用によって本当に実施できることを考え抜いていない場合に、生じているように見受けられる。半可通のような理解不足が原因のことも少なくないが、そのキーワードを多用し覆い尽くすことによって、いわばユーザを煙に巻いてビジネス機会を拡大しようとする場合もあるのではないか。ビッグデータについては、そのようなキーワード主義の濫用がなされていないか、ユーザ、ベンダともども冷静に顧みることが重要である。

ビッグデータで何をするのか

 ビッグデータを一言で定義することは難しいものの、ビジネス適用でよく取り上げられるのは、全データなど大量データの解析によって、人が介在した分析では取り上げられなかったものが見えてくる例である。Googleのパンデミック把握の例などアラートモデルが代表的であり、相関をもとにした予測などが主に該当する。これらはまさにビッグデータでなければできないことであり、予想しなかった結果を浮かび上がらせることが可能になる。この中には、これまでインフォメーション化できなかった(見過ごしたり対象にし切れなかった)データを活用するようになるものも含まれ、主として高いレベルでの(情報)組み合わせ発見レベルが評価されることになる。

 一方でビッグデータを用いると、これまでできなかった目的情報の収集やそれらとの突合せが容易になったり、情報の精度と量が飛躍的に向上するような適用もある。これは例えばマーケティング情報の分析活用など、従来から行われていた取組みが高度化される場合が多く、目的的なものである点から一種の「アクティブ型」の取組みと呼ぶことができる。(図表1) その一例は、従来から企業内で高度な分析を行っているBAやBI※2に相応するような使われ方である。他社データとの組み合わせといった発展形の場合もあるだろうし、純粋なビッグデータとは性格を異にするにしても、そのツールや方法論がうまく活かせるのであれば、うまくビッグデータを適用しているということができるだろう。

※2 BA:ビジネスアナリシス、BI:ビジネスインテリジェンス

図表1:事業と情報の観点に基づく取組み

事業と情報の観点に基づく取組み

(出所:筆者作成(©2012))

 ビジネス領域としては、(1)データ保有者として保有大量データを利活用する、(2)ビッグデータであるからこそ可能になるビジネスアイデアを創出しそれを立ち上げる、(3)ビッグデータにおける技術やビジネスプロセスを実現する(ビッグデータのデータ処理やソリューションの専門)、(4)データの仲介(自社データを適確な他社に適用してもらうことも含む)、といった領域が提示されている※3。これらは(3)を除けば、ビッグデータならではのビジネス展開として考えられていることがわかる。

 このようなビジネスの整理を踏まえると、ビッグデータの適用の入り口として、「できること(可能性や能力発揮)」を見極めて、自社が「したいこと(Will)」への適用を考えることが必要になること、そのためビジネスとして、どこで何を行うことを(自社としての)ビッグデータと称するのか、という当たり前の点を明確にすることが求められる。

 しかしながら筆者は知人から、ビッグデータ・ビジネスを推進するベンダから「兎も角やってみましょう」「自社に任せてくれれば、何かが(あるいはこれこれが)できます」と言った拙速な提案を受けていると聞くことがある。ことはビッグデータに限らないものの、新たな取組みに際しては、得てしてテーマへのイメージから飛びついてしまうことや「事例主義」に陥る危険性を持っている※4ことに留意が必要である。マネジメントが、他社の成功(とされる)事例は実現されているためにリスクが低いと見て、そのまま適用しようとする「事例主義」は、ビッグデータ・ビジネスでもご法度であろう。

※3 V.M=ショーンベルガー&K.キクエ,ビッグデータの正体,講談社,2013
※4 拙稿「標準治療のマネジメント」情報未来,2010

取組みに際しての留意

 新しいテーマへの取組みは、期待が大きい分だけ誤解や誤用を生じやすい。いささか古い例になるが、DWHの時代には成果の例として、バスケット分析で「ビールとおむつの同時購買」の抽出が喧伝(けんでん)されていた。筆者が当時クライアントに申し上げていたのは、そのような適用成果は(自社への)有効性があるか、目的に適っているかどうかを判断しましょう、いうことであった。同様の購買行動を括(くく)り出して陳列できれば、収益向上になるはずという安直な「事例主義」の意識が見受けられたからである。

 比較するまでもなく、米国では購買頻度は低く大量のまとめ買いが多い。その分広い商業施設内を買いまわる購買の大変さがあり、買い忘れ防止の支援にも意味がある。そのため、このような抽出結果を活かした陳列は購買者にもメリットが大きく、企業の収益機会にも効果があったかもしれない。それを日本の施設規模と購買行動にそのまま適用すべきかどうか、その仕組みやシステムを用いて何をすればよいのか、ということについては改めて考える必要があった。

 その頃筆者は、金融業のある企業から、構築しているDWHをどのように活用すればよいのかわからないとの相談を受けたことがある。DWHへの期待をもとにシステム構築が優先されたものの、DBには既存の枠組みでの顧客情報しか収集されていなかった。検討の結果、すべきことは心理行動変数を用いた顧客のセグメント化とそれに応じたコミュニケーションを実施することであると考えた。そこで改めて顧客のセグメンテーション変数を設定・収集して、それらをもとに顧客への有効なはたらきかけを作成し、反応を把握していくことにした。従来行われていた汎用的なコミュニケーションを超えることによって、本来の目的であった顧客の維持が可能となり、結果として収益と利益の拡大を達成することができた。

 このような細やかな顧客対応は、まさにビッグデータを用いることで、より即時適確に行える可能性が高く、それによる成果も大きくなるだろう。しかし大元には、顧客との関係性の考え方、マーケティング施策の地道な取組みが求められるのであり、「どこかにある」データを活用できれば、一元的に成果をもたらされるわけではない。

 その点からすると、ビッグデータのビジネス適用についても、例えば自社内の従来の取組みが高度化されることであるのか、自社保有データの価値を梃子(てこ)に他社と新たなビッグデータ・ビジネスを創出するのか、といった「何をするか」の広がりを考えることは大事な点である。それこそが、十じっぱひとから把一絡げで語られがちなビッグデータ・ビジネスへの勝手な「期待」を整理し、自社の成果に結実していくために必要な検討であると考えている。(図表2)

図表2:ビッグデータビジネスを支える事業からの観点

ビッグデータビジネスを支える事業からの観点

出所:筆者作成(©2012)

マネジメントに求められることは …

 ビッグデータを用いたいユーザ企業の立場からすれば、従来業務を高度化するのか、更には自社ビジネスを高度化し他社情報も活用して、新たにシナジービジネスを創出するのか、といった様々な狙いがあるはずである。それらに応じて目標や担い手が(その意思決定者も)変わってくるため、どのような情報を対象にしていくことが目的に適うのかということを考えることになる。それは目についたデータを突っ込んで回していくだけでは、設定できないものなのである。したがって、ビッグデータならではの初期仮説の設定や創意工夫が、最初に必要になる※5。

 マネジメントにおいては、当然のこととしてビッグデータというキーワードに踊らされないこと、そして実施には丁寧な取組みを要することを理解して、適用の現場を支えることが責務であると考える。それは、成果だけを期待してベンダ等に丸投げするのではなく、徹底した適用検討における現実主義が求められることを意味している。そのような見地に立てば、ビッグデータという新たなコンセプトを自社に持ち込む際に、すべきことを見誤らないことに結び付くはずである。つまり旬なテーマであるビッグデータの入口に立ったとしても、その取組み前に、マネジメントとしての基本事項について改めて考慮いただきたいと考えている。

※5 ニューヨークの犯罪対策としてビッグデータを活用した際、不正改造住居を抽出する最終的な決め手となったのは、現場を知る検査官の観点であった(上記※3所収の事例)