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(「環境新聞」2013年2月27日より)

リサイクルビジネス講座(23)
パートナーとしての行政機関

地方公共団体と描く成長戦略

NTTデータ経営研究所
社会・環境戦略コンサルティング本部
シニアマネージャー 林 孝昌

地方分権による地域経済の活性化は国是である。併せて、地域間競争が本格化するのも時間の問題であり、地方公共団体が域内産業の競争力強化を通じて雇用を生み、税収を高めることが、住民サービスの質を保つ上での必要条件となる。行政機関とリサイクルビジネスの関係は、一義的には許認可権者と申請・取得者であり、その審査などが公正に行われることが大前提となる。ただし、地域経済の活性化という点で両者の利害は一致しており、競争力強化のための連携は極めて有効となる。

本稿では、地方公共団体によるリサイクルビジネスへの支援や連携のあるべき姿についての検証を行う。

図(パートナーとしての行政機関)

まずは域内リサイクルビジネスを育成・強化するための「資金サポート」である。具体的には、技術開発や設備投資などへの補助金等が該当する。ただし、財政難の自治体などが独自財源を確保するのは困難であり、意欲と能力を有する域内事業者を見いだし、中央政府の補助金などを取得する後押しを行うことが現実解となる。特定企業を後押しすることについて、公平性云々という議論もあるが、目線を下げて横並びの政策を打てば地域全体が確実に沈む。今や民間需要で地域が潤い、雇用が創出されることこそが地域の大義である。行政は地域のトップランナーへの政策的後押しを躊躇してはならない。

次に事業活動の自由度を高めるための「制度的サポート」である。リサイクルを含む環境分野では、法令などの基準を超えた自治体独自の基準や運用がビジネスの足かせとなっている事例も多い。廃棄物などの受け入れにあたり、他都市より厳しい環境基準を設定することが、環境保全に資するという考えは安直であり、間違いである。優れた環境保全技術を有する企業であればこそ、他社が受け入れ困難な廃棄物等の適正処理が可能となる。こうした企業にとって受け入れ基準が柔軟であるほどビジネスチャンスが広がり、逆にエンド・オブ・パイプの排出基準は高い水準を保つことができる。世界的にも高度なわが国の制度的基準を超える環境基準設定に科学的な根拠はない。むしろ優れた環境技術導入を前提とした規制緩和こそが、本質的に優れた住民サービスの提供につながる。

最後に、「海外展開サポート」が挙げられる。少子高齢化への本質的な対策が存在しない以上、海外市場獲得は、業種や地域を問わず成長の必要条件となる。中央政府による海外展開サポートは、短期的成果が求められがちであり、外交戦略的な側面も色濃く反映される。一方、地方公共団体が有する海外都市とのネットワーク(姉妹都市、友好都市など)は、その関係性が柔らかい分、成果の見極めが中長期的で、かつ外交問題などの影響を受けにくいという利点がある。廃棄物処理やリサイクルはインフラビジネスであり、民間レベルだけでなく、現地側行政機関などとの連携が不可欠なことは自明である。地方公共団体が窓口となり、インフラ輸出のサポートを行うというアプローチを、さらに強化していくことが求められている。

地方公共団体にこそ、成長戦略が求められる時代が訪れている。リサイクルビジネスはその中でも重要な役割を担うべき、地域密着型産業なのである。

リサイクルビジネス講座 目次
(24)他社差別化の方向性
(23)パートナーとしての行政機関
(22)マクロ経済環境の変化踏まえた投資
(21)ソーシャルビジネスとの連携可能性
(20)製品の普及と潜在市場の有望性
(19)バイオマス事業化の可能性と行政支援のあり方
(18)リサイクルによる低炭素化
(17)市場規模と業界構造
(16)リサイクルビジネスの持続可能性
(15)巨大マーケット攻略と持続可能性への投資
(14)海上静脈物流の活性化に向けて
(13)制度の「目的」と「可能性」
(12)「発電燃料」としての循環資源
(11)リユースに求められるセンス
(10)「静脈メジャー」の意味と意義
(9)リサイクル目線から見た街づくり
(8)リサイクルビジネスとトレーサビリティ管理
(7)リサイクルビジネスと地域活性化
(6)資源循環の適正スケール
(5)循環資源の「質」と「量」
(4)リサイクル技術とは
(3)原料利用と燃料利用のベストミックス
(2)利益を生み出す必要条件
(1)リサイクルビジネスとは



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