株式会社NTTデータ経営研究所(所在地:東京都千代田区、代表取締役社長:山口 重樹、以下 当社)は、共創型リーダー人材の養成を目指す女子美術大学共創デザイン学科と連携し、2024年5月から2カ月にわたり「行動を変えるデザインで社会課題を解決する行動デザイン論」の講座を実施しました。
講座では「子宮頸がんワクチン接種」「朝食欠食」「かかりつけ婦人科医をもつ」「災害対策」といった課題について学生がグループで取り組み、行動を変えるためのデザインアイディアとそのための行動分析に用いる行動デザインカード(行動に影響する要因)を創出し、9月20日に同大学のホームページで公表しました。本講座の取り組みを通じて、学生自身に社会課題に対する当事者意識が芽生え、「自分の行動で国や社会を変えられると思う」と感じる学生が56.4%になるなど、多くの学生に意識変容や行動変容がみられました。
社会課題を行動デザインで解決するアイディアを共創 オリジナルの行動デザインカードも公表 | 女子美術大学 芸術学部 共創デザイン学科 (joshibi.net)
背景と目的
当社の行動デザインチームは、人間の行動特性や心理傾向を踏まえ、人間の本質に合わせて行動を変える支援を通じて人のウェルビーイングの実現や社会課題・ビジネス課題の解決にチャレンジする「行動デザインコンサルティング」に取り組んでいます。
当社ではこれまで、行動をデザインする施策立案や実証実験を通じた効果検証やエビデンスづくりを行ってきました。しかし、行動に着目して問題を捉え、解決に向けてデザインを活用する行動デザインはビジネス、行政、社会で問題解決に取り組むあらゆる方が実践していくことで、社会変革が進むものと考えています。
そこで、共創型リーダー人材を養成する目的で2023年に新設された女子美術大学共創デザイン学科と連携し、2年生60名の学生向けに行動デザインの実践方法のノウハウを提供するとともに、学生が当事者として自ら社会課題に取り組み、行動をデザインするアイディアを共創する体験型授業を実施しました。
行動デザイン講座の効果
講座には安田日本興亜健康保険組合も協力。健保組合が取り組む社会課題の中で、若年層の女性が当事者である「子宮頸がん予防」「朝食欠食」「かかりつけ婦人科医をもつこと」の問題と健保組合における取り組みを紹介。これらのテーマに学生自身が提案した「災害対策」を加えた4つのテーマについて10グループで取り組みました。
同じテーマに複数のグループが取り組むことでお互いの分析やアイディアにフィードバックし合うことが可能となりました。また、外部講師によるフィードバックも受けてアイディアをブラッシュアップしました。
学生による行動デザインアイディア
テーマ | ターゲット | アイディア | ||
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子宮頸がん予防 | ワクチン接種対象者の親世代 | ◆子宮頸がんワクチンのリーフレット 子宮頸がんと一見では分からないデザインで母と娘の会話形式による読み物仕立てのリーフレット。入学式や保護者会など子どものための場面で配布されることで、親子でワクチンについて考えるきっかけを提供 | ||
中1~高1の息子を持つ男性 | ◆ラジオCM 子宮頸がん予防には男性の理解が欠かせないが男性向けの発信が少ないことに着目し、同性の父親と息子にアプローチするアイディア。カーラジオを付けると耳に自然に入る場面を想定して寸劇風のCMによりでワクチンについて親子の会話を促進 | |||
中高生 | ◆ショート動画「HPVワクチンくんの使命」 対象年齢が正しく理解する環境を作るため、学校の保健の授業などで使用できる4分アニメの台本と絵コンテを考案。ワクチンを主人公に学び、同世代同士や親と会話するきっかけを提供 | |||
朝食欠食 | 朝ご飯を食べれていない、ホルモンバランスを整えたい就活生 | ◆ガチャごはん Fun&Easyをコンセプトにガチャでご飯が出てくるアイディア。手間と時間をかけずに楽しく朝ごはんを食べる習慣を後押し | ||
一人暮らしの20代 | ◆朝食応援アプリ「リズムアップ」 食費を押さえられる自炊のモチベーション向上と実行支援を狙ったアイディア。手軽なレシピのほか食べたらスタンプが増える自己承認の仕掛けや期限付きのクーポン・ポイントによるインセンティブで自炊を促進 | |||
働いている一人暮らしの女性 | ◆とじるだけおにぎり 朝ごはんの優先度が低いことに着目し、ごはんに具材を挟むだけで栄養が取れるサンドイッチ風の簡便な商品アイディア。ライスのみ、具材付き、セットにより、準備・片付けの手間なく自炊の満足感を満たして朝食習慣を後押しする | |||
かかりつけ婦人科医をもつこと | 高校生~20代の女性 | ◆SNSで身体診断 婦人科に行く心理的抵抗感や相談・受診するほどのことか判断がつくほど身体のことを知らないことに着目したアイディア。手軽にセルフチェックして婦人科での相談や受診予約につなげる | ||
一人暮らしの女子大生 | ◆婦人科チェックシート(女性用)、啓発ポスター(男女共用) 軽度の症状について周囲からの心ない一言で相談しづらくなることに着目し、女性向けには症状に合わせた相談・受診促進するセルフチェックシート、男性向けには傷つきやすい言葉を知らせるポスターで言葉がけの変化につなげる | |||
災害対策 | 一人暮らしの女子大生 | ◆可愛い防災グッズ 防災の知識不足や選択過多に着目し、災害対策用でなくても欲しくなるリュックとグッズセット(魔法少女になるセット)で防災グッズの購入を促進 | ||
大学生 | ◆オンラインの学生チュータープロジェクト 気持ちはあっても被災地支援の行動に映せないハードルに対して、被災地に行く以外の選択肢としてオンラインで被災地の子どもを支援するアイディア。災害ボランティアに参加する学生の増加につなげる |
行動デザイン講座の効果
2カ月の講座で各テーマに取り組んだことにより、学生に行動変容や意識変容の変化が生じました(事前アンケートn=59, 事後アンケートn=55)。
子宮頸がん予防
- 子宮頸がん予防についての「予防している」「予防していないがしようと思う」は69.1%となり、14.9ポイント上昇。
- 子宮頸がんの一因のHPVは男性にも感染し発病することの認知度は22%から60%に、がんになる前段階や早期発見が大切であることの認知度は45.8%から67.3%に上昇。
朝食欠食
- 朝食欠食は「必ず毎日食べている」と「1週間に2~3日食べないことがある(4~5日は食べる)」が69.5%から81.8%となり、12.3ポイント上昇
かかりつけ婦人科医をもつこと
- かかりつけ婦人科医については「聞いたこともなく、かかりつけ医はもってもいない」が69.5%から23.6%に大幅減少
災害対策
- 「講座をきっかけに対策した」「講座をきっかけにこれから対策するつもり」が41.8%を占めた
「自分の行動で、国や社会は変えられると思う」という回答は44.1%から56.4%となり、12.3ポイント上昇しました。必ずしも本講座だけの効果とはいえませんが、当事者となるテーマに取り組み、行動を変えるためのデザインに取り組んだことが一定の寄与をしたと考えられます。
<学生の声>
「子宮頸がんワクチンはずっと打とうと考えていたのですが、めんどうくさいが勝って結局打っていませんでした。子宮頸がんグループの子たちのプレゼンを見てちゃんと打ちにいこうと思いました」
「グループで話し合あってたくさん情報を調べて実際に現場に足を運んだりしているうちにどんどんやりたいことや伝えたいことが明確になっていって、本当に誰かの行動を動かせるんじゃないかなと思えるようになりました」
「行動をデザインする際には、まず自身の行動の見直しも大切だと学びました」
「他人任せではなくて、一人一人の行動の小さな積み重ねで社会が改善していくかもしれないと思いました」
<安田日本興亜健康保険組合担当者の声>
日本における子宮頸がんワクチンの接種率は、国際的に見ても非常に低く、わずか2%弱にとどまっています。子宮頸がんは予防可能な唯一の癌ともされており、予防接種、また検診による早期発見と早期治療が効果的です。しかし現実には、多くの人々がワクチン接種や検診を受ける行動を起こしていないのが現状です。
今回の取り組みでは、当事者世代の実感や実態を反映した行動デザインのアイディアに新鮮な驚きを感じました。これらのアイディアは、社会的な課題解決への新たな視点を提供し、実践に結びつけていく価値があると強く感じています。またこの機会を通じて、参加者自身が健康課題への意識を高め、特に学生たちの行動変容の気づきとなったことは、意義深い取り組みであったと感謝しています。
<女子美術大学共創デザイン学科 ご担当者様コメント>
株式会社NTTデータ経営研究所の小林洋子先生ご指導のもと、共創デザイン学科2年生が多様なテーマやレベルの、行動を促すデザインのプロセスを学びました。
行動プロセスの分析から始まり、どのようにすれば人の行動を変えることができるのか、グループワークの中で観察を深めて多くの気付きを得ながら、身近な問題で実践することができました。
今後、様々な課題に取り組む「共創型リーダー」を目指す学生たちにとって、デザインが行動を変えるきっかけになることを理解・経験できたこの授業は、大きく成長する一歩になったと感じています。
株式会社NTTデータ経営研究所の小林先生、行動デザインチームコンサルタントの皆様、安田日本興亜健康保険組合の皆様のご尽力に深く感謝申し上げます。
当社では、女子美術大学との共創経験を通じて、行動デザインに取り組む人材育成に取り組み、行動を変えることで社会課題やビジネス課題を解決する人材のすそ野拡大に取り組んでまいります。