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オックスフォード大学サイードビジネススクール
ジョナサン・トレバー准教授出版インタビュー
「リアライン:
   ディスラプションを超える戦略と組織の再構築」

~デジタルは、人の能力、文化、構造、連携作業など、他の形態の組織機能と統合しなければならない~
2023.08.22
Dr. Jonathan Trevor×池上重輔×NTTデータ経営研究所
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リアラインの観点から見た日本企業の状況

池上重輔

まず、リアライメントという点で日本企業の状況はどうなっているのか、お聞かせください。先生は日本の大手企業へのコンサルティングや講演が多いので、日本の状況をご存じでしょうし、もちろん日本以外の企業、欧米やアジアの企業もたくさんご存じだと思います。日本企業の状況をリアライメントの点からどのように見ているのか、印象をお聞かせください。

ジョナサン・トレバー

本当に素晴らしい質問です。よろしければ、少し物議を醸すような回答をしたいと思います。


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この本の目的は、世界中のあらゆる産業やあらゆる企業が直面する重要な問題についてグローバル・パースペクティブで捉えることだと思っています。この本には、イギリス企業、ヨーロッパ企業、フランス企業、アメリカ企業、そしてアジア企業についてのケーススタディーが書かれています。重要なテーマの一つは、世界共通の課題がある一方で、世界共通にリーダーシップの機会もあるということです。

今、物議を醸している部分は、尊敬する同僚でもある池上先生との仕事を通した部分だけではなく、日本企業との仕事を通した部分でもあります。日本はハイコンテクスト文化の国であり、また非常にユニークな国で、グローバルな課題の多くは日本とは異なるという考え方が日本にはあります。

しかし、実際は、それほどでもないと思っています。私は、日本の企業や日本のリーダーは、世界中のどこもと同じような課題に直面していると思っています。実のところ、この本は、日本のビジネスを含むすべての人のために書かれています。しかし、私が思うには、非常に的を絞り、非常にカスタマイズされたアプローチが必要なのは、共通の課題ではなく、むしろソリューションについて考えるときだと思います。リアライメントのソリューションは日本国内でも、企業単位でも異なるものにする必要があると思います。A社でうまくいくことが、B社でもうまくいくわけではありません。

それが原因で、リーダーには、自身のビジネスについて非常に注意深く考え、他のビジネスや他のソリューションをそっくりまねしたいという誘惑に抵抗しなければならないという緊張感が生まれると思っています。しかし、たとえば、競合他社がそっくり模倣したり、見習ったりできない非常にユニークで、また非常に具体的な方法で優位に立てる自社製のソリューションを見つける非常に大きな機会も生まれると思っています。

池上重輔

そうですね。ありがとうございます。日本企業のハイコンテクスト性について話していただきました。そのハイコンテクスト性が、日本企業のリアライメントに関して何か、何らかの特別な特性に影響を及ぼしているのでしょうか。

ジョナサン・トレバー

私は、ハイコンテクストな要素もありますが、私たちが考えているほど多くはないと思っています。実際、日本のビジネスが欧米のビジネスとかなり違うという考え方に異議を申し立てたいと思っています。先ほども申し上げたように、両者は異なるというよりも、ずっと似ていると思っていますが、構造的に重要な違いがあると強く思っています。雇用形態もその違いの一つだと思います。

私が一緒に仕事をしている多くの組織には、その組織の人材をマネジメントする方法について非常にユニークなアプローチがあると思います。それは違いの一つであり、文化的、法律的、あるいは技術的な理由など、さまざまな理由によりますが、それでもそれほど大きな違いはないと思います。真の課題は、新型コロナ感染症であれ、技術的・政治的なディスラプションであれ、世界規模の大きな混乱に直面したときに、私たち全員がどのようにリアライメントするか、そして、将来に向けての事業をさまざまな方法で考えるためのリーダーシップ能力をどのように構築するかということだと私は思います。

デジタル変革(DX)と戦略的リアラインの関係性

坂本新太郎

デジタルトランスフォーメーションというパースペクティブも含めて質問させてください。つまり、デジタル技術を活用したビジネスモデルの変革ということです。現在、私たちのクライアントの多くが、デジタル技術の現在の定義的普及をきっかけに、組織をどのように変えるべきかを見直すようになってきています。デジタルトランスフォーメーションに成功していると言われる海外企業の戦略的リアライメントの方向性には、何か特徴があるのでしょうか。

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二つのケースでお伺いしたいと思います。まず、純然たるIT企業の場合、つまりGAFAMについてです。「ネットワークエクスプロイター」は、これらの企業との戦略的リアライメントの理想的な形態らしいのですが、それは本当でしょうか、それとも一つのモデルケースやそのようなものは必要ないのでしょうか。

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Source: adapted from Trevor, J. (2019). Align: A Leadership Blueprint for Aligning Enterprise Purpose, Strategy and Organisation. Bloomsbury Publishing.

Copyright © Jonathan Trevor, 2019.

ジョナサン・トレバー

分かりました。重要な原則がいくつかあると思っています。まず、私が話をする誰もが、デジタルがその人たちの検討課題の第一か第二となっています。これは良いことだと思いますが、同時に注意しなければならないことでもあると思います。ここにはいくつかの重要なポイントがあると思います。まず、デジタルには、ある意味で、リーダーたちが避けることが難しいと見てきたビジネスの側面を修正するための応急処置と見なされる危険性があると思います。デジタルは、ビジネスをより良くするためのソリューションであり、唯一のソリューションであるかのように世間では言います。

デジタルは絶対的に重要ですが、唯一のソリューションでもなければ、すべての問題のソリューションでもありません。私にとってのデジタルは、組織がその潜在能力を最大限に発揮し、最高のパフォーマンスを発揮するための組織機能の一つの側面に過ぎません。デジタル機能は、人の能力、文化、構造、連携作業など、他の形態の組織機能と統合しなければなりません。ハイパフォーマンス、高いレジリエンス、そして持続可能な組織を作るには、これらすべてのことが一体とならなければなりません。それが、デジタルを戦略的に考えることであり、単にすべての問題のソリューションだと考えてはならないということです。それは、いかなる一つのことも、つまり、何もかもがそうであってはならないからです。

二つ目は、デジタルを戦略的に管理するということは、デジタルの利用を目的達成の手段として理解する必要があるということだと思います。あなたは、戦略的アライメントパースペクティブからこの戦略的アライメントのフレームワークについてお話をされ、企業がさまざまな市場で勝つために、効率から柔軟性、集中からシナジーまで、どのように競争できるかということについて、競合するアプローチについてお話をされています。私にとってデジタルは、このフレームワーク、本書の中核をなすフレームワークですが、このフレームワークの一つの象限にとどまるものではありません。デジタルはすべての象限にありますが、さまざまな目的に役立つものです。効率最大化の象限では、デジタルは、私たちができる限り効率的になるように私たちをサポートします。

それには、データも含まれています。モニタリングも含まれています。つまり、非常に正確なリソースの配分です。これらは、本当に効果的なデジタルトランスフォーメーションの成果です。しかし、「エンタープライズレスポンダー」の象限で考えると、デジタルは別の目的に役立っています。そこは、本当に優れた顧客インサイトを開発すること、市場や市場細分化に関する非常に正確な情報を持つことに関する象限です。社内のチームを結びつけ、個々の市場、あるいは個々の顧客に対して、再構成可能で高度にカスタマイズされたプロポジションを提供することができるようにすることに関する象限です。「ネットワーク・エクスプロイター」について考えてみると、その目的は、ネットワークの接続をサポートし、その中心に位置する委託元がそのネットワークを活用できるようにすることです。

私にとっては、戦略や組織に関するあらゆることと同様に、目的があり、手段があります。デジタルは目的達成の手段なのです。何のために使うのか、最も良い方法でどのようにマネジメントするのか、他のリソースや機能とどのように統合し、可能な限り目的に合うようにするのか、非常に慎重に考える必要があります。そこで、私は、一般的な方法ではなく、非常に正確な方法でデジタルについて考えることを提案したいと思いますし、それが最大の価値を得る方法だと思います。

異なる性質を持つ組織のマネジメント「両利きのマネジメント」の成功のためにDXが貢献できること

藤岡春

企業内の各部門がSAFに関して異なる戦略的アプローチをとる場合、組織体制はどのようになるのでしょうか。私たちNTTデータ経営研究所は、デジタルトランスフォーメーションを進める際に、「顧客第一主義」、「スピーディーかつアジャイルな変革」、および「デジタル技術を活用した多様な顧客接点」という3つのパースペクティブが必要だと考えています。この三つのキーワードをSAFというパースペクティブで見ると、それらは複数の象限に散らばっていると思います。DXを推進する企業が、一つの企業の中に複数タイプの組織を持つことは可能でしょうか。

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ジョナサン・トレバー

それは本当に素晴らしい質問だと思いますし、多くの点で、日本だけでなく世界におけるリーダーシップの最大の課題の一つだと思います。そして、さまざまな組織がこの課題にどのように対応しているかを知るのは、本当に興味深いことです。私にとって、あなたの質問はダイバーシティとバラエティーに関するものです。戦略的アライメントのコンセプトは、「私たちが選んだ戦略に沿って目的を果たすために、何を得意としようとしているのか」という大きな問いを投げかけているのだと私には思われます。本当に重要な質問で、非常にシンプルな原則です。

一つのことが得意であれば十分な場合、それは比較的シンプルです。複数の異なることが得意であると選ぶ場合、おそらく複数の異なるビジネスラインを持ち、複数の異なる地域でビジネスを展開しようとし、組織はより複雑になります。その多様な異なる機能をマネジメントし、それぞれを得意としながらも、横断的に得意とすることは、より難しいリーダーシップの課題となります。それは難しいことです。同時に複数のことを得意とするのは難しいことです。特に、それらのこと、異なるビジネスラインが潜在的に非常に異なっている場合は、特にそうです。

効率に優れ、同時に顧客中心主義に優れることは非常に困難です。これらは、根本的に異なるプロポジションなのです。一つは標準化で、もう一つは、カスタムマイズに関することです。それらには異なる文化が必要です。異なる構造を必要とします。また、異なる人材のスキルや知識も必要となります。両手利き、つまり両方を行う能力が課題だと私は思います。デジタルトランスフォーメーションはもちろん、戦略的なデータおよびデータマイニングの活用や、分析を含むデジタル機能が、組織やビジネスを両手利きで運用し、異なることを同時に得意とするために非常に大きな役割を担っていると思います。

しかし、これは私たちが取り組んでいる困難な課題でもあると思います。1990年代に始まったダイバーシティ化のプロセスを逆行させる組織の例を、世界中でたくさん見ることができます。例えば、ゼネラル・エレクトリックは、現在三つの会社に分かれています。なぜでしょうか。その理由は、コングロマリット構造をマネジメントするのが難しかったからだと思います。IBMを見ても、同じように分割されています。

事実上すべての産業で、このようなことが見られます。DXの将来に向けての潜在的利点の一つは、この両利き、つまり同じ組織内で複数の異なるビジネスを同時にマネジメントする能力をサポートすることだと思います。しかし、これは現在私たちが取り組んでいる困難な課題であり、多くの点で、多くの組織がこの課題に直面したとき、分割による簡素化を選択しています。本当にホットな話題をはっきりさせてくれたと思います。

デジタルがプラットフォームやエコシステムを基盤としたビジネスモデルを可能に

池上重輔

先生は、デジタルがサポートに影響を与え、またリーダーシップや組織にも影響を与える可能性があるとおっしゃいました。それがどのような影響を与えるかは、おそらく一概には言えないと思います。しかし、デジタルがリーダーシップや組織に与える影響について、一般的なトレンドはあるのでしょうか。

実は、すでに少しお話がありました。しかし、リーダーシップについては、おそらくデジタル化によって、リーダーは従業員とより密接な関係を築けるようになり、それが一般的なトレンドになると思われます。そして、組織については、おそらくそのようなリーダーは、組織をより速く変化させることができるかもしれませんし、そのスピードは変わらないかもしれません。先生はどう思いますか。

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ジョナサン・トレバー

私は、あなたが最初に言った「一概には言えない」ということが、まさにその通りだと思います。でも、それ以外のことはすべても同意します。特に、以前よりもハイブリッドでバーチャルな環境になった今、デジタルにより、リーダーは部下とより密接な関係を築けるようになると思います。また、デジタルにより、組織は顧客とより密接になることできると思います。同様に、組織はパートナーとの距離も縮めることができると思います。デジタルが将来のビジネス環境にもたらすことができる最大の違いの一つは、過去には不可能だった、どちらかというと、プラットホームやエコシステムを基盤としたワークモデルを可能にすることだと思います。そのワークモデルは新しいものではありませんが、デジタルが可能にするパートナーとの結びつきがないために、これまでは困難でした。

今後は、ヒエラルキーモデルではなく、エコシステムモデルに近い組織がますます増えていくのを目の当たりにするのではないでしょうか。というのも、そのエコシステムを通じて、より多くのリソース、より多くの機能、より多くの知識、より多くのイノベーションを得ることができ、また、デジタルにより、そのエコシステムが一つの影響力として集結することができるからです。

組織は、以前にはなかったデジタル技術による関係構築の手段を今や持てるため、オープンになってきています。しかし、依然として社内中心主義を貫く効率重視の組織でも、効率化を図ることができるということもあると思います。それは単に、そのような組織は、自由に使える情報が多いため、より良い資源配分の決定をリアルタイムかつ迅速に行うことができるからです。デジタル革命が起きていると思いますが、それは企業が可能な限りベストな状態になり、潜在能力を発揮できるように支援することです。

池上重輔

分かりました、とても興味深い話ですね。組織が外部のエコシステムに対してオープンになり、それがリーダーシップのタイプに影響を与えるかもしれないとおっしゃいましたが、このような循環が起こる可能性があるのでしょうか。

ジョナサン・トレバー

はい。その通りです。

日本の読者に対するメッセージ

池上重輔

最後に、日本の読者にメッセージをお願いします。

ジョナサン・トレバー

私は2002年から仕事で日本を訪れています。今年で日本との関わりは20周年になります。これまで50回ほど日本を訪れ、多くの素晴らしい企業や、池上先生や他の同僚のような素晴らしい共同研究者と一緒に仕事をしたことは大きな喜びでした。私は、ビジネス環境としてだけでなく、イノベーションの偉大な源泉として日本に深くコミットしています。この本が少しでもお役に立てれば幸いです。この本は、すべての人のために書かれたもので、この本から価値を見いだし、皆さんの具体的な状況においてお役に立てることを心から願っています。

<対談ビデオへのリンク>

対談動画はこちらからご覧いただけます。

<書籍の紹介及びリンク>

「リアライン:ディスラプションを超える戦略と組織の再構築」

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(著)ジョナサン・トレバー

(訳)安藤貴子/NTTデータ経営研究所Re:Align研究チーム

(監訳)池上重輔

購入はこちらから(Amazonへ飛びます)

<対談者の経歴の紹介>

・ジョナサン・トレバー:オックスフォード大学サイードビジネススクール、マネジメント・プラクティス准教授

・藤岡春:NTTデータ経営研究所 クロスインダストリーファイナンスコンサルティングユニット マネージャー

・坂本新太郎:NTTデータ経営研究所 ビジネスストラテジーコンサルティングユニット マネージャー

・池上重輔:早稲田大学商学学術院大学院経営管理研究科教授

本件に関するお問い合わせ先

株式会社NTTデータ経営研究所

コーポレート統括本部 業務基盤部

広報担当

E-mail:webmaster@nttdata-strategy.com

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