株式会社NTTデータ経営研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:山口 重樹 以下、当社)は、東和薬品株式会社(本社:大阪府門真市、代表取締役社長:吉田 逸郎 以下、東和薬品)とVIE株式会社(本社:神奈川県鎌倉市、代表取締役:今村 泰彦 以下、ヴィー)と共に、脳波解読による状態推定に基づいて音楽を選曲する技術「ノスタルジア・ブレイン・ミュージック・インターフェース」の研究開発を進めてきました。現状得られている成果についてお知らせします。
今後も3社でニューロテクノロジーと音楽の力を融合した研究開発を続け、中長期的な視点では認知症に対する予防・治療へ貢献できることを目指していきます。
【主なポイント】
1. 懐かしい音楽を聴くことで自伝的記憶が想起される。そうした想起訓練が認知機能を高めること、ウェルビーイングを向上させることが過去の研究により示されているが、一人ひとりに最適な曲を選曲する技術が存在しなかった
2. イヤホン型脳波デバイスを用いて、個人が「懐かしいと感じる音楽」を選曲するインターフェースの研究開発を行い、その利用により「懐かしさが感じられ」「高い幸福感をもたらし」「鮮明な記憶を想起する」ことに成功した
3. さらに研究開発を続け、長期的な効果の検証などを行っていく
【背景】
高齢化の進む現代社会では、認知症の発症率が深刻な問題となっています。認知症は年齢とともにリスクが高まるため、今後さらに多くの人々が影響を受けると予想されています i。加齢および認知症に伴う自伝的記憶(人生そのものの記憶)に関する能力の低下は、アイデンティティと深く結びついた記憶であることもあり、本人だけでなく周囲にも心理的苦痛を与えてしまいます ii。そうした症状の緩和も含めた認知症に対する治療薬の開発は、日本の製薬企業の努力もあり進展はありますが、その症状の複雑さや副作用のために課題も残っています。そのため、副作用の心配がない非薬物的アプローチが注目され、加齢に伴う認知機能低下および認知症ケアの新たな選択肢として関心を集めています iii , iv 。
その中でも、音楽が持つ効果に期待が高まっています。音楽は記憶機能と心理的幸福の2つに効果がある可能性が示されています v。例えば、認知症や健忘症など記憶障害がある方でも、懐かしい音楽によって自伝的記憶の想起が促進されることが報告されています vi , vii。また、うつ病や認知症による不安や抑うつなどの心理的な症状に対しても、音楽を聴くことで症状が緩和され、心の健康を改善できることが確認されています viii , ix。
しかしながら、人それぞれ記憶が想起される懐かしい音楽は異なりますし、そもそも曲を選ぶことも容易ではありません。また飽きずに聞き続けるためには曲の多様性も重要ですが、そうした選曲を行える技術はこれまでありませんでした。
そこで我々はこうした課題に対応するべく、イヤホン型脳波デバイスを用いて懐かしい曲を自動選曲する「ノスタルジア・ブレイン・ミュージック・インターフェース(N-BMI)」の研究開発を行ってきました。
【研究開発の状況】
個人に「懐かしさ」を感じやすい音楽を自動的に選定する技術、ノスタルジア・ブレイン・ミュージック・インターフェース(N-BMI)の開発と効果検証の研究を行ってきました x , xi , xii 。以下にその実証研究の概要を記します。
目的
脳波をもとに記憶想起に最適な音楽を自動で選曲する技術を開発し、懐かしい音楽を聴くことによる記憶想起や幸福度への効果を評価する。
開発要素
①脳波と音楽特徴を利用した選曲技術の開発
②効果検証(懐かしさの評価・記憶想起の評価)
実験参加者
高齢者(70-87歳)17名 若年健常者(21-35歳)17名
方法
手順①:自分で選んだ懐かしい曲とそうでない曲(3曲ずつ)を聴いている際の脳波データの取得
手順②:手順①で使用した楽曲特徴データを利用した個人の「ノスタルジア楽曲選曲モデル」の学習
手順③:現在聞いている曲に対する脳波データから「感じているノスタルジアの強度を予測するモデル」の学習
手順④:手順③で作成したモデルを利用し、曲を聴きながら手順②のモデルの学習データを追加し、再学習
手順⑤:選曲モデル(手順②)更新後、改めて選曲された曲を聞かせることを繰り返す(手順④~⑤)
手順⑥:一連の選曲された楽曲の聴取後、「幸福度」「懐かしさ」「音楽により想起された記憶の鮮明さ」を回答
結果
上記の選曲モデルを利用し、「ノスタルジアを最大化する」選曲を試みた結果、懐かしさ、幸福度、記憶の鮮明度を有意に高めることができた(下図)。
【今後について】
以上、開発した選曲技術により、人々に懐かしさと幸福感をもたらし、自伝的記憶を鮮明に呼び起こすことに成功しました。これまで得られている研究結果はノスタルジア・ブレイン・ミュージック・インターフェースに関する即時的な効果なものですが、長期的な利用による長期的な効果についても期待され、今後とも3社で研究を進めます。当社では、こうした先端デジタルテクノロジー・ニューロテクノロジーを融合したこれまでにないヘルスケア事業を構想・実装できるコンサルティングチームとして、これからもお客様と共に邁進していきます。
【本件に関するお問い合わせ先】
■報道関係のお問い合わせ先
株式会社NTTデータ経営研究所
コーポレート統括本部 ブランド推進部 米倉
Tel:03-5213-4016
E-mail:webmaster@nttdata-strategy.com
■研究開発内容に関するお問い合わせ先
株式会社NTTデータ経営研究所
ニューロ・コグニティブ・イノベーションユニット
茨木 拓也