現在ご覧のページは当社の旧webサイトになります。トップページはこちら

ソーシャルリスニングの推進

情報未来研究センター
パートナー 山下 長幸

 

ビッグデータとしてのソーシャルメディア投稿データ

近年、ビッグデータを収集・分析して、社会問題の解決、マーケティング戦略立案や業務改善などビジネスに活かす動きが加速化している。インターネットをはじめとする情報通信関連のビジネスやモバイル機器など各種電子機器の普及・発展に伴い、GPSによる位置情報データ、電子マネーなどのICチップデータ、画像データ、センサーデータ、Webログデータなど多種多様で、場合によって数テラバイトから数ペタバイトにもおよぶ大量のデータであるビッグデータが加速度的に増えている。これらを効率的に処理する数百、数千台のサーバー上で動作する大規模並列ソフトウエアなどの情報処理技術が発展したこともあり、ビッグデータを収集・分析するサービスが様々な企業から提供され始めている。(図表1)

図表1:各種ビッグデータ概観

各種ビッグデータ概観

(出所:NTTデータ経営研究所にて作成)

現在ビッグデータの一角を占めるソーシャルネットワーキングサービス(以降、SNS)は、2002年サービス開始の米国Friendsterが2004年に数百万人規模となり新しいネットコミュニティの形態として注目を集め、その後2004年から2006年に現在の有力なプレーヤーであるFacebook、Twitter、LinkedIn、Myspace、(以上、米国)、mixi、GREE、DeNA(以上、日本)などが続々と市場参入をした。(図表2)

図表2:主要ソーシャルネットワーキングサービスの開始時期・変遷

(出所:NTTデータ経営研究所にて作成)

このようなSNSは、日本では2000年代後半から普及し、数百万人、数千万人の人々が登録し、その存在感を大きく示し始めた。SNSにより、登録ユーザーである生活者は、個人個人がさまざまな生活体験や思い(コンテンツ)を発信したり、それらが人から人へ日常的に伝わりシェアされたり、個人でも社会に対して情報発信ができる能動的な存在となり、ソーシャルメディア上には、登録ユーザーの声が膨大に投稿され、ビッグデータの有力な1つと認識されている。

 

企業名Twitter投稿件数

ソーシャルメディアの1つであるTwitterの投稿情報において、企業名及び一部企業は店舗のブランド名などを検索キーワードとして、その検索結果数を調査してみた。業界横断で日本におけるすべての企業を調査する事は難しいので、Twitterフォロワー数企業ランキング、各種業種における大手企業、ネットビジネスにおける大手企業に関して、約40業種240社を検索キーワードとした。概ねTweet件数の多い企業名はカバーし大きな傾向としては妥当だと想定しているが、もし抜け漏れがあればご容赦頂きたい。

 図表3は、2013年3月の1ヶ月間のB2Cの伝統的な業界の主要企業名の検索ヒット件数の上位15社を示している。第1位は、NHKで月間約265万件、第2位はマクドナルド(注1)で、月間約212万件となった。この2社は3位以下を大きく引き離してTwitter投稿件数が多く、Twitter世界でのプレゼンスが高い。

図表3:Twitter投稿情報における企業名検索ヒット件数の上位15社
    伝統的な業種に分類される企業(2013年3月の1ヶ月間)

Twitter投稿情報における企業名検索ヒット件数の上位15社 伝統的な業種に分類される企業(2013年3月の1ヶ月間)

(出所:NTTデータによるTwitterデ-タ提供サービスの検索結果を利用し、
NTTデータ経営研究所にて調査分析(2013年3月の1ヶ月間))   

1位のNHK、3位のTBS、8位の朝日新聞の放送・新聞業界は、ランクインしていない企業も含め、Twitter投稿件数が多い。マスコミとしての情報供給量の多さによるTwitter投稿ネタの多さや自宅や通勤時などにニュースを見たユーザによるTwitter投稿のしやすさなどがその要因と想定される。

 第2位のマクドナルドを筆頭に、第4位のスターバックスコーヒー(注2)、第15位のミスタードーナツ(注3)のファストフード・カフェ系も、ランクインしていない企業も含め、Twitter投稿件数が多い。リピート客の来店頻度の多さによるTwitter投稿ネタの多さや店舗でのTwitter投稿のしやすさなどがその要因と想定される。

 5位のソフトバンク、6位のau(注4)、14位のNTTドコモの大手通信会社は、Twitterを投稿するデバイスである携帯電話やスマートフォンのサービス提供をしていることがTwitter投稿ネタの多さに寄与しているものと想定される。

 7位のTSUTAYAや9位のファミリーマート(注5)・10位のローソン・12位のセブン-イレブン(注6)のコンビニチェーンや11位のイオン・13位のドン・キホーテ(注7)のスーパーや量販店も、ランクインしていない企業も含め、Twitter投稿件数が多い。リピート客の来店頻度の多さによるTwitter投稿ネタの多さなどがその要因と想定される。

 図表4は、2013年3月1ヶ月間におけるインターネット関連業界における主要企業名の検索ヒット件数の上位13社を示している。

図表4:Twitter投稿情報における企業名検索ヒット件数の上位13社
インターネット関連に分類される企業(2013年3月の1ヶ月間)

Twitter投稿情報における企業名検索ヒット件数の上位13社 インターネット関連に分類される企業(2013年3月の1ヶ月間)

(出所:NTTデータによるTwitterデ-タ提供サービスの検索結果を利用し、
NTTデータ経営研究所にて調査分析(2013年3月の1ヶ月間))   

断トツの1位は、Twitterで月間約1,390万件、第2位は楽天で月間約1,163万件となった。この2社は3位以下を大きく引き離して投稿件数が多く、Twitter世界でのプレゼンスが高い。第1位のTwitterは本調査がTwitterを対象としていることもあるが、それでもTwitterが情報投稿や登録者同士のコミュニケーションツールやSNSとしての存在感を示しているものと感じられる。第2位の楽天は、主力の楽天市場のみならず、銀行・証券・カードなど日本国内のインターネット世界でのプレゼンスの高さが想定される

 第1位のTwitterに加え、8位のFacebook、12位のmixiの大手SNSがランクインしている。

 第2位の楽天に加え、第4位にAmazonと大手インターネット通販サイトがランクインしており、Twitter世界にその存在感を示している。

 第3位のLINEは、昨今、日本における4,700万人の登録ユーザ数を誇っており、Twitter世界でのプレゼンスも非常に高いものがある。LINEに加え、インスタントメッセンジャアプリのSkypeが第6位にランクインしており、Twitter世界にその存在感を示している。

 第5位にYouTube、第9位にニコニコ動画と、大手動画共有サイトがランクインしており、Twitter世界にその存在感を示している。

 第7位にYahoo!、第10位にGoogleと、大手検索ポータルサイトがランクインしている。かつて大手検索ポータルサイトは、インターネットの世界における存在感が非常に大きいものがあったが、SNSやインスタントメッセンジャアプリの台頭の影響を受けているものと想定される。

 図表5は、B2Cの伝統的な業界における主要企業名の検索ヒット件数の上位15社(図表3)と、インターネット関連における主要企業名の検索ヒット件数の上位13社(図表4)を、同一のグラフにプロットしたものである。第1位のTwitter、第2位の楽天が3位以下を大きく引き離してTweet件数が非常に多い。ベスト10には、インターネット関連企業が8社、伝統的な業種の企業が2社と、インターネット関連企業におけるTwitter世界での存在感が大きい。インターネットビジネスでは、トップ企業の寡占度が高まる傾向にあることも影響していると想定される。

図表5:Twitter投稿情報における企業名検索ヒット件数の上位28社(2013年3月の1ヶ月間)

Twitter投稿情報における企業名検索ヒット件数の上位28社(2013年3月の1ヶ月間)

(出所:NTTデータによるTwitterデ-タ提供サービスの検索結果を利用し、
NTTデータ経営研究所にて調査分析(2013年3月の1ヶ月間))   

これに対して11位から28位においては、インターネット関連企業が5社、伝統的な業種の企業が13社と、伝統的な業種の企業もTwitter世界でのプレゼンスを示している。29位以下にも伝統的な業種の企業が多数ランクインしており、リアル世界での存在感はまだまだ大きいものがある。

 このように企業名を検索キーワードとするTwitter投稿は、業種・企業によってはかなりの件数のデータ投稿がなされている。

注1:マクドナルドは、略称で投稿する人も非常に多いので、「マクド」、「マック」の名称も考慮した。
注2:スターバックスコーヒーは、略称で投稿する人も非常に多いので、「スタバ」の名称も考慮した。
注3:ミスタードーナツは、略称で投稿する人も非常に多いので、「ミスド」の名称も考慮した。
注4:会社の正式名称や略称であるKDDIなどで投稿する人は非常に少なく、ブランド名である「au」で投稿する人が非常に多いので、その名称で検索した。
注5:ファミリーマートは、「ファミマ」という略称で投稿する人が非常に多いので、その分も勘案した。
注6:セブン-イレブンは、「セブン」という略称で投稿する人が非常に多いので、その分も勘案した。
注7:ドン・キホーテは「ドンキ」という略称で投稿する人が多いので、「ドンキ」で検索をした。

 

「ソーシャルリスニング」というマーケティング手法

ソーシャルメディアに生活者による膨大な投稿情報が日々蓄積されている状況のもとで、企業に注目されているのが「ソーシャルリスニング」というマーケティング手法である。ソーシャルリスニングとは、企業が各種ソーシャルメディア全体の中で人々が日常的に語っている会話や自然な行動に関する投稿データを調査・分析し、マーケティングや業務改善に活かす手法である。(図表6)

図表6:ソーシャルリスニングとは

ソーシャルリスニングとは

(出所:NTTデータ経営研究所にて作成)

TwitterなどのSNSへの投稿内容としては、会社選択の基準、購買手続きのしやすさや購入商品・サービスの良し悪しに関する感想、販売店やコールセンターでの接客態度の良し悪しへの感想など多岐にわたり、企業におけるビジネス改善への参考となるものも少なくない。自社のビジネスに役立ちそうなSNS投稿情報を収集・分析・活用することがソーシャルリスニングによって可能となる。

 

伝統的な顧客ニーズ把握手法とソーシャルリスニング手法

企業における顧客の要望や不満などのニーズの把握手法としては、顧客アンケート、グループインタビュー、デプスインタビューなどこれまで様々な手法が活用されてきており相応の成果を上げてきているが、各種の課題も抱えている。2013年6月に当社がNTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション社と共同で実施した「企業によるソーシャルリスニングに関する動向調査」でも、「無意識に模範的な回答になりがち」、「調査のための予算が結構かかる」、「実施までの準備や調査をまとめるまでに時間がかかりすぎる」、「質問に誘導された回答になりがち」、「顧客の潜在的なニーズを把握しにくい」など6割の企業で、伝統的な顧客ニーズ把握手法である顧客アンケートやグループインタビューなどに関して様々な課題を感じている。(図表7)

図表7:伝統的な顧客ニーズ把握手法である顧客アンケートやグループインタビューなどに関する課題認識

伝統的な顧客ニーズ把握手法である顧客アンケートやグループインタビューなどに関する課題認識

(出所:NTTデータ経営研究所/gooリサーチによる企業アンケート結果:2013年6月実施、408サンプル)

企業におけるお客様窓口は、顧客の質問や不満を受けとめる顧客チャネルとして重要な役割を果たしていることが多い。お客様窓口に寄せられる顧客のコメントを商品開発やマーケティングに活用することも相応の成果を上げてきているが、課題も抱えている。強い不満を持ち、そのようなコメントを伝えたい強い意志を持った顧客の意見はお客様窓口へのクレームとして把握できるが、そうではない顧客(サイレントカスタマー)の意見を十分には把握することはできないという課題認識企業は8割弱となっており、サイレントカスタマーの意見の把握に課題を感じている企業が非常に多いと言える。(図表8)

  図表8:お客様窓口に関する課題
(強い不満を持ち、そのようなコメントを伝えたい強い意志を持った方の意見はお客様窓口への
クレームとして把握できるが、そうではない顧客(サイレントカスタマー)の意見を十分には
把握することはできないという課題)

お客様窓口に関する課題

(出所:NTTデータ経営研究所/gooリサーチによる企業アンケート結果:2013年6月実施、408サンプル)

これに対して、ソーシャルリスニングのメリットに関して尋ねたところ、「タイムリーに顧客の声を把握」できることについて「大いにそう思う」、「そう思う」の合計回答比率で、71.8%となった。アンケート調査とは異なりTwitterなどのソーシャルメディアへの投稿内容は今日の投稿を今日すぐに分析できることが大きなメリットと言える。

 「お客様窓口に寄せられないようなサイレントカスタマーの声を把握」できることをメリットと考えている割合は69.8%となった。強い不満を持ち、そのようなコメントを伝えたい強い意志を持った方の意見はお客様窓口へのクレームとして把握できるが、そうではない顧客(サイレントカスタマー)の意見を十分に把握することはできないという課題を感じている企業が多い中、ソーシャルリスニングは、ある程度の解決の手段となるものと考えられる。

 次いで、「アンケート調査のような質問に誘導された回答でない自然な声を把握」(69.3%)、「顧客の深層心理を理解したり潜在的なニーズを知る」(63.7%)、「低コストで顧客の声を把握」(63.5%)となった。これらはソーシャルリスニングが、伝統的な顧客ニーズ把握手法である顧客アンケートやグループインタビューなどの顧客の要望・不満把握に関する諸課題をある程度解決できると感じている企業が多いという証左であると考えられる。(図表9)

図表9:ソーシャルリスニングのメリット

ソーシャルリスニングのメリット

(出所:NTTデータ経営研究所/gooリサーチによる企業アンケート結果:2013年6月実施、408サンプル)

 

顧客契約データ分析とソーシャルリスニング手法

顧客契約データ分析は売れ筋の把握など顧客ニーズに関して有効な示唆を得ることができるが、様々な限界も認識されている。(図表10)しかしTwitter投稿情報分析により、顧客契約データ分析の限界を超えることが可能である。

図表10:顧客契約データ分析の限界

顧客契約データ分析の限界

(出所:NTTデータ経営研究所にて作成)

顧客契約データの前提条件として、顧客契約データでは契約顧客以外の客の状況は見えづらかったり、新たな発想でのプロモーションによる販売結果は分かりづらかったりするものもあるが、Twitter投稿情報分析では、契約顧客以外の顧客コメントの収集分析や自社・他社のプロモーションへのコメントの収集・分析により様々な発想でのプロモーションへの反応把握が可能である。

 契約時点で顧客契約データでは、商品・サービスの契約件数が伸びていたとしても、なぜ伸びているのかは十分には理解しづらかったり、逆に、商品・サービスの契約件数が伸び悩んでいたとしても、なぜ伸び悩んでいるかは十分には理解しづらかったりするものがある。これに対して、Twitter投稿情報の中には、商品・サービスの契約理由などのコメントや商品・サービスを契約しない理由などのコメントがなされる場合があり、それらの収集・分析が可能である。(図表11)

図表11:顧客契約データ分析の限界とTwitter投稿情報分析(1/2)
ソーシャルリスニングの効用

顧客契約データ分析の限界とTwitter投稿情報分析(1/2)ソーシャルリスニングの効用

(出所:NTTデータ経営研究所にて作成)

契約後の顧客状況としては、顧客契約データでは、商品・サービスが利用される場面や状況の詳細は分からなかったり、商品・サービスが利用されて満足だったのか、不満だったのかは分からなかったりすることもある。これに対して、Twitter投稿情報では、自社商品・サービスがどのような場面や状況で利用されたのかなどのコメントや自社商品・サービスを活用後の満足・不満足の評価コメントがなされる場合があり、それらの収集分析が可能である。(図表12)

図表12:顧客契約データ分析の限界とTwitter投稿情報分析(2/2)
ソーシャルリスニングの効用

顧客契約データ分析の限界とTwitter投稿情報分析(2/2)ソーシャルリスニングの効用

(出所:NTTデータ経営研究所にて作成)

 

企業によるマーケティング課題とTwitter投稿情報分析

Twitter投稿情報分析は、様々な企業によるマーケティング課題解決への参考となり得ると考えられる。(図表13)

図表13:企業によるマーケティング課題とTwitter投稿情報分析(1/2)
ソーシャルリスニングの効用

企業によるマーケティング課題とTwitter投稿情報分析(1/2)ソーシャルリスニングの効用

(出所:NTTデータ経営研究所にて作成)

 
《マーケティングの観点》
【顧客セグメント】
 小売店経由で商品を流通させる消費材メーカーとしては、自社商品や同業他社商品はどういう年齢層・性別に売れているのか、どういう年齢層・性別に弱いのか、どの地域で売れているのか、どの地域で弱いのかを把握したいものであるが、Twitter投稿者の属性推定技術を活用することにより、顧客セグメント別や地域別に自社商品のみならず、同業他社商品の強み・弱みを把握することが可能である。

【商品・サービス】
 企業としては、自社商品に関する顧客評価はどうか、同業他社商品と自社商品の顧客比較評価はどうかなどを把握したいものであるが、Twitter投稿情報に、自社商品のみならず、他社商品の活用後の満足・不満足の評価コメントが含まれる場合があり、それらの収集・分析が可能である。

【広告・宣伝】
 企業としては、自社商品・同業他社商品の広告・宣伝に対する顧客の評判はどうなのかを把握したいものであるが、Twitter投稿情報に、自社商品のみならず、他社商品の広告・宣伝の評価コメントが含まれる場合があり、それらの収集・分析が可能である。

 
《顧客購買心理プロセスの観点》
 企業としては、顧客購買心理プロセスごとに、顧客状況を把握したいものであるが、Twitter投稿情報分析は、これらの関連情報を得ることができるものと考えられる。(図表14)

図表14:企業によるマーケティング課題とTwitter投稿情報分析(2/2)
ソーシャルリスニングの効用

企業によるマーケティング課題とTwitter投稿情報分析(2/2)ソーシャルリスニングの効用

(出所:NTTデータ経営研究所にて作成)

 
【気付き・関心】
 企業としては、自社商品・同業他社商品への気づき、関心を持つきっかけはどのようなものなのか把握したいものであるが、Twitter投稿情報の中には自社商品・同業他社商品への気づき、関心を持つきっかけについてのコメントが含まれる場合があり、それらの収集・分析が可能である。

【購入】
 企業としては、自社商品・同業他社商品を購入するきっかけはどのようなものなのか、購入の際の手続き満足度などはどうなっているか把握したいものであるが、Twitter投稿情報の中には自社商品・同業他社商品の購入のきっかけや購入の際の満足度コメントが含まれる場合があり、それらの収集・分析が可能である。

【利用】
 企業としては、自社商品・同業他社商品が使われた場面や状況の詳細はどのようなものか把握したいものであるが、Twitter投稿情報に、自社商品・同業他社商品がどのような場面や状況で使われたのかなどについてのコメントが含まれる場合があり、それらの収集・分析が可能である。

【評価・拡散】
 企業としては、自社商品・同業他社商品が使われた際の満足度はどのような状況になっていて、それらがどう口コミ拡散しているのか把握したいものであるが、Twitter投稿情報に、自社商品・同業他社商品を活用後の満足・不満足の評価コメントが含まれる場合があり、それらの収集・分析が可能である。

企業におけるソーシャルリスニングに関する状況

ソーシャルリスニングの対象とするソーシャルネットワークサービス(SNS)

ソーシャルリスニングの対象として「積極的に対象としている」、「それなりに対象としている」の合計回答比率は図表の通りとなった。現状では、Facebook、Twitter、ブログ及びニュースサイトの4つがソーシャルリスニングの主なソースとなっている。(図表15)

図表15:ソーシャルリスニングの対象ソーシャルメディア

ソーシャルリスニングの対象ソーシャルメディア

(出所:NTTデータ経営研究所/gooリサーチによる企業アンケート結果:2013年6月実施、408サンプル)

Facebookでは投稿内容を友人・知人限定にしているユーザーが多いので、ソーシャルリスニングの対象としての投稿件数は高くないと想定される。しかし、Facebookページを開設している企業がそれなりに存在している事、登録ユーザー数の多さや実名登録ユーザーの多さなどの理由で、Facebookをソーシャルリスニングの対象としている企業がある程度存在していると想定される。

 Twitterは投稿内容を公開しているユーザーが非常に多く、ソーシャルリスニングの対象とする投稿件数が非常に豊富であることが特徴となっている。

 ブログは一時期隆盛を誇ったが、FacebookやTwitterなどに移行したユーザーが多くなり、ブログのインターネットにおけるプレゼンスが低くなったため、ソーシャルリスニングの対象としての比率が低いのは妥当と言える。しかし、現在でもそれなりの投稿数があり、ソーシャルリスニングの対象とする価値があると考えられる。

 ニュースサイトは、現状、新聞やテレビなどの有力な代替手段があるため、ソーシャルリスニングの対象としての比率が低いのは妥当と言える。しかしニュースサイトは新聞よりも速報性があり、インターネット検索が容易にできることから、ソーシャルリスニングの対象とする価値があると考えられる。

ソーシャルリスニングの実施状況

43.4%の企業が「自社の風評や炎上、機密情報の漏えいなどに関するソーシャルリスニング」を実施している。インターネット上での風評や炎上対応は企業としてスピーディな対応が求められることもあり、企業としてソーシャルリスニングを実施するニーズが最も高くなったと考えられる。(図表16)

図表16:ソーシャルリスニングの実施状況

(出所:NTTデータ経営研究所/gooリサーチによる企業アンケート結果:2013年6月実施、408サンプル)

39.5%の企業が「自社の商品・サービスに関する投稿数やポジティブ・ネガティブ件数の定量的な把握」を実施し、36.8%の企業が「自社の商品・サービスに関するキャンペーン、イベントなどのSNS投稿数やポジティブ・ネガティブ件数の定量的な把握」を実施している。SNSは投稿情報が膨大であるため、このような把握方法が必要であり、風評や炎上監視サービスを提供する会社やテキストマイニングツールでこのような定量分析データを提供していることがこの回答率の高さに表れているものと考えられる。

 35.0%の企業が「投稿情報の調査分析により市場全体での顧客ニーズの把握」を実施している。SNS投稿情報からは自社商品・サービスの評判だけでなく、市場全体における顧客の要望・不満を把握することが容易であることから、この項目の回答率の高さにつながったと考えられる。

 24.5%の企業が「自社の商品・サービスに関するSNS投稿内容について定性的な調査分析」をしている。SNS投稿情報は、売上データなど定量情報を補完するような商品・サービス購入の理由などが投稿される場合もあり、定性的な分析が威力を発揮するものと考えられる。しかし、膨大なSNS投稿情報を定性的に分析するツールや手法がまだ確立されておらず、この項目は今後の発展が期待される分野と考えられる。

 24.5%の企業が「自社の商品・サービス不満・質問・改善要望を持つSNS投稿者に企業側からコミュニケーションをとるアクティブリスニング活動」を実施している。SNS投稿情報から自社の商品・サービスに対する不満、誤解、質問などを把握した場合、企業としては何らかの対応が必要となるが、SNSでは会話投稿機能があり、企業が顧客とコミュニケーションを容易にとれる利点があり、即座に返信することも可能である。このような活動はアクティブリスニングとも称されるが、すでにSNSをこのような手段として活用している企業も出始めており、今後の進展が期待される分野である。

 24.5%の企業が「自社の商品・サービスに関連する購買ニーズを持つSNS投稿者に企業側から販売促進投稿をする活動」を実施している。上記のような自社の商品・サービスに対する不満、誤解、質問などに対する返信はSNSのマナーとして許容されているが、購買ニーズを持つSNS投稿者に事前了解なくいきなり売り込み返信をするのは迷惑メールと受け止められる可能性が高いので注意を要する。販売促進の返信を打つ場合は、基本的には、顧客の事前了解を得るという段取りが必要である。

 23.1%の企業で「同業他社の商品・サービスに関するSNS投稿数やポジティブ・ネガティブ件数の定量的な把握」を実施し、23.1%の企業で「同業他社の商品・サービスに関するSNS投稿内容について定性的な調査分析を実施」している。まだまだ自社関連情報の収集分析自体が発展途上であるため、同業他社情報まで手が回っていないものと考えられるが、マーケティングの観点からは同業他社動向の情報収集は重要であり、この分野は今後発展の余地が大きいと考えられる。

ソーシャルリスニング分析の高度化

自社の商品・サービスに関連するソーシャルネットワークサービス(SNS)投稿情報を調査分析の高度化に関して、「積極的に実施」、「それなりに実施」の合計回答比率は図表の通りとなった。(図表17)

図表17:分析の高度化

分析の高度化

(出所:NTTデータ経営研究所/gooリサーチによる企業アンケート結果:2013年6月実施、408サンプル)

ソーシャルリスニングから取得できるデータは有意義なものがあるが、それですべてが完結できる訳でなく、既存の各種の社内関連データとの連関分析により、更に価値が高まるものと考えられる。連関分析については今後発展の余地が大きいと考えられる。

ソーシャルリスニングの実施目的

ソーシャルリスニングの実施目的に関して、「積極的に実施」、「それなりに実施」の合計回答比率は図表の通りとなった。(図表18)

図表18:ソーシャルリスニングの実施目的

ソーシャルリスニングの実施目的

(出所:NTTデータ経営研究所/gooリサーチによる企業アンケート結果:2013年6月実施、408サンプル)

「現状の顧客の声の把握」以外の「自社で持っている仮説を検証」、「近未来の状況を想定・予測」、「自社で認識していない新たな発見」などの高度な実施目的は3割前後とまだ多くの企業での実施目的とはなっていないが、これらの実施目的は今後増加する事を期待したい。

ソーシャルリスニングの課題

ソーシャルリスニングの課題に関して、「大いにそう思う」、「そう思う」の合計回答比率は以下の通りとなった。(図表19)

図表19:ソーシャルリスニングの課題

ソーシャルリスニングの課題

(出所:NTTデータ経営研究所/gooリサーチによる企業アンケート結果:2013年6月実施、408サンプル)

65.0%の企業が「SNS投稿情報を調査分析する要員が不足」をソーシャルリスニングの課題としている。ソーシャルリスニングはまだ企業内において確立された手法や業務となっておらず発展途上の手法であるため、企業としても十分な要員を配置できず、他の実務を抱えた社員による副次的な業務となっている状況と想定される。加えてビッグデータ解析を行うデータアナリストのような専門技能を持った社員の育成も今後の企業課題になるものと想定される。

 64.7%の企業が「SNS投稿情報を調査分析した結果を社内の関係部署で受け止めて実施する体制が十分でない」ことをソーシャルリスニングの課題としている。ソーシャルリスニングは発展途上の手法であるため、社内での業務プロセスに組み込まれておらず、現業部門でもこれまでの担当業務で手一杯であることもこの結果の原因であるものと想定される。今後、ソーシャルリスニングの手法が確立され、企業の業務プロセスに組み込まれることが期待される。

 62.5%の企業が「意図的な偽りのSNS投稿情報を十分に見分けられない」ことをソーシャルリスニングの課題としている。SNS投稿情報にはデマ情報などが含まれているという状況が確かにある。これに関しては、テキストマイニング技術としてSNS投稿情報の真偽判定をする技術開発も進んでおり、その早期実用化が望まれる。ただし、そのような技術がなくても、投稿内容の真偽を別の方法で検証したり、ビジネス判断をしたりすることもビジネス実務としては必要であろう。

 54.7%の企業が「ソーシャルリスニングをするための費用が効果に見合っていない」ことをソーシャルリスニングの課題としている。ソーシャルリスニングの費用対効果は、ソーシャルリスニングにかかる費用と、そこから得られた分析結果がビジネスで成果を出せるかどうかにかかっているが、今後の手法活用の進化により、この課題を解決することが期待される。

 53.0%の企業が「自社や業界全体に関連するSNS投稿情報が多すぎて調査分析しきれない」ことをソーシャルリスニングの課題としている。この課題はいわゆるビッグデータの活用技術にも関連する分野であるが、テキストマイニング技術やデータベースなどビッグデータ解析利用技術の進展が期待される分野である。

ソーシャルリスニングの海外対象国

ソーシャルリスニングの海外対象国に関して、「積極的に対象」、「それなりに対象」の合計回答比率は図表の通りになった。(図表20)

図表20:ソーシャルリスニングの海外対象国

ソーシャルリスニングの海外対象国

(出所:NTTデータ経営研究所/gooリサーチによる企業アンケート結果:2013年6月実施、408サンプル)

この調査項目に関してはもっと実施比率が少ないのではないかと想定していたが、1割前後の企業で諸外国もソーシャルリスニングを対象としていることが判明した。これらは日本企業のグローバル化の進展とともに比率も増加するものと想定される。

ソーシャルリスニングの運営体制

ソーシャルリスニングの運営体制として以下の回答となった。(図表21)

図表21:ソーシャルリスニングの運営体制

(出所:NTTデータ経営研究所/gooリサーチによる企業アンケート結果:2013年6月実施、408サンプル)

「10名以上の体制で実施している」 ・・・・・・・・4.9%
 「5名-10名体制で実施している」・・・・・・5.1%
 「1名-4名体制で実施している」・・・・・・・・・16.9%
 これらを合計すると、26.9%の企業で、1名以上の要員でソーシャルリスニングを実施している。

 「現在は要員配置はしていないが、近い将来は要員配置する予定」との回答(9.8%)も加えると、合計で36.7%となり、ソーシャルリスニングをしかるべき体制で実施しようとしている企業の姿勢が見受けられる。

 

ソーシャルリスニングの調査分析ツール

ソーシャルリスニングの調査分析ツールに関して、「積極的に利用」、「それなりに利用」、「導入しているが使いこなせていない」の合計回答比率は図表の通りとなった。(図表22)

図表22:テキストマイニング等のソーシャルメディア調査分析ツール

テキストマイニング等のソーシャルメディア調査分析ツール

(出所:NTTデータ経営研究所/gooリサーチによる企業アンケート結果:2013年6月実施、408サンプル)

「分析ツールを導入して自社社員で調査分析している」との回答が32.6%となったが、そのうち「導入しているが使いこなせていない」との回答が分析ツール導入企業の3割にあたる9.6%となっている。ソーシャルメディアへの投稿情報量は膨大で、ビジネス的に意味のある投稿情報は散在しているため、ソーシャルメディアへの投稿情報を有効に活用するには、情報収集から選定、分析にテキストマイニング技術や分析ノウハウが要求される。(図表23)ソーシャルリスニングはまだまだ発展途上であるため、このような調査分析ツールやサービスはまだまだ発展の余地が大きいものと考えられる。

図表23:Twitter投稿情報の収集分析プロセスの概要

Twitter投稿情報の収集分析プロセスの概要

(出所:NTTデータ経営研究所にて作成)

一般的なSNS投稿情報等分析ツールの現状と課題

一般的なSNS投稿分析ツールは、マーケティングなどの活用目的に対して課題が多い状況となっている。(図表24)分析ツールは、インターネット上での炎上や風評監視目的で設計された分析ツールが多いため、マーケティング目的などでの利用には対応が不十分な分析ツールが多い。

図表24:一般的なSNS投稿情報等分析ツールの現状と課題

一般的なSNS投稿情報等分析ツールの現状と課題

(出所:NTTデータ経営研究所にて作成)

一般的なSNS投稿分析ツールによるキーワード検索は、全てのSNS投稿情報等を機械的に抽出表示する分析ツールが多く、ビジネス的な意味に乏しいSNS投稿情報等が抽出表示され、ビジネス的示唆を得ることが容易ではないケースが多い。また、検索ロジックに個別業界特性が加味されておらず、一般的な用語をベースとしているため、個別の業界の視点からは、抽出表示されたSNS投稿情報等から示唆を得にくいツールが多い。

 一般的なSNS投稿分析ツールによるネガティブ・ポジティブ分析(以降、ネガポジ分析)は、全てのSNS投稿情報を機械的に分析するツールが多いため、ビジネス的な意味に乏しいSNS投稿情報等がノイズとなり、それらを含んだネガポジ分析結果が必ずしも実態と合わないケースも発生しやすい。また、業種横断で汎用的な判定ロジックでネガポジ分析をするツールが多いため、業種独特の言い回しに対しての判定ロジックが不十分となり、ネガポジ分析結果が必ずしも実態と合わないケースも発生する。

 一般的なSNS投稿分析ツールによる頻出単語ランキングや単語相関関係分析では、業種横断で一般的な用語で機械的な分析ロジックで結果表示するツールが多いため、ビジネス的な意味に乏しい単語が多く入り込み、それらがノイズとなり投稿内容の分析結果として分かりにくいものになってしまうケースが発生する。

SNS投稿情報等分析ツールの進化の方向性

これまでの一般的なSNS投稿分析ツールの課題を克服すべく、下記のような方向性に分析ツールを進化させる必要がある。(図表25)

図表25:SNS投稿情報等分析ツールの進化の方向性

SNS投稿情報等分析ツールの進化の方向性

(出所:NTTデータ経営研究所にて作成)

広告宣伝ツイートなどビジネス改善には意義に乏しい投稿情報等を除去する機能を装備し、調査分析対象をビジネス的に意味のあるSNS投稿情報に絞り込むことが必要である。これにより、キーワード検索においてビジネス的に意味のあるSNS投稿情報等が抽出表示され、ビジネス的示唆が得やすくなる。また、ビジネス的に意味のあるSNS投稿情報等に絞り込まれた中でのネガポジ分析は実態に合いやすくなったり、頻出単語ランキングや単語相関関係分析においてビジネス的に意味のある分析で示唆が得やすくなったりする。

 また、業種別テンプレートを装備し、業種独特の言い回しに関する判定ロジックにより個別業種特性を加味してSNS投稿情報分析を実施する事が必要である。これにより、キーワード検索において業界特性が加味されるため、抽出表示されたSNS投稿情報等から示唆が得やすくなる。ネガポジ分析においては、業種独特の言い回しに対しての判定ロジックにより、ネガポジ分析結果が実態と合いやすくなる。頻出単語ランキングや単語相関関係分析においては業種特性を加味した分析で示唆が得やすくなる。

 マーケティング枠組みテンプレートを装備することにより、マーケティングの枠組みを活用したSNS投稿情報分析を実施しやすくする必要がある。これにより、キーワード検索においてマーケティング枠組みの活用をし、抽出表示されたSNS投稿情報等から示唆が得やすくなる。ネガポジ分析においては、マーケティング枠組みの活用により、ネガポジ分析結果から示唆が得やすくなる。頻出単語ランキングや単語相関関係分析においては、マーケティング枠組みを活用した分析で示唆が得やすくなる。今後このような技術・機能を装備したSNS投稿情報分析ツールを実現したいと考えている。

Page Top