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シニアが高める企業競争力シリーズ 第3回

シニアのマインドセット

シニアマネージャー 加藤 真由美
【第1回】 事例に学ぶ役職定年制
【第2回】 SI企業におけるシニア活用の課題と展望
【第3回】 シニアのマインドセット

1.はじめに

「シニアが高める企業競争力シリーズ」の第1回では、役職定年制度のグッドプラクティスを事例で紹介するとともに、企業の継続性には後進を育成するためにポストを譲る必要があり、そのための制度として役職定年制度が有効であるとしている。一方で、第2回では、変化の速いSI業界でのシニア人材の活用には、「第一線で活躍できるプレーヤーとしての役割」が必要であり、その役割を加速させるエンジンとして「マネジメントの役割」を担うことであると整理している。

本シリーズでは、役職定年制度の是非を問うものでもなく、結論づけるものでもない。読者の議論のたたき台にしていただきたいと考えている。そこで、これまであまり語られていない50歳代のマインドセットについて、シリーズ第3回では考察していく。

50歳代で大手企業からグループ企業や取引先等へ出向または転籍する方のマインドセットについて、筆者は過去3年にわたり、受け入れ先50社100名を超える方にインタビューを実施している。

インタビューを受けてくださった方々は、ご自身が転籍(出向)され現役で活躍されている50歳代の管理職、20代30代のプロパー管理職・社員、60歳を超えて嘱託となっている方と多様である。

もちろん、50歳代にも他の世代に求められている職務能力(スキル)、経験は欠かせない視点であるが、若い世代とともに会社に貢献していくためには、マインドセット・立ち振る舞いが一般的に考えられているよりもその割合が大きいことが100名のインタビューで導出されている。

したがって、本レポートは、50歳代でこれまで馴染(なじ)んだ企業を離れて再就職される方、同一企業内でも50歳代で配置転換される方、もしくは受け入れ側の担当者の方にも役立てていただけると思う。

2.転籍先・出向先に求められるマインドと行動

【図表1】
転籍者・出向者に求められるマインドと行動
出所:NTT データ経営研究所にて作成

50歳代の転籍者・出向者に求められるマインドと行動は、(1)会社を良くしたいという熱意をもち、(2)経験を生かし、(3)挑戦し続けることである。(図表1 転籍者・出向者に求められるマインドと行動を参照)

どのインタビューでも、これら3点のうちいずれか、もしくは3点とも重点項目として挙げられた。

これら3点は、50歳代に限らず、転籍者・出向者に限らず、どの世代であっても、必要なマインドや行動である。あえて、50歳代の転進者・出向者のインタビューで挙げられることが多かったのはなぜだろうか?

その理由として、次の2点が考えられる。

(1)50歳代で環境が変わるとうまく実践することが難しくなる。

(2)できていないと目立つ(できていない人が目立つ)

では、重点項目3項目を順にみていく。

(1)「会社を良くしたい」という熱意をもつ

インタビューの中で、転籍者・出向者には、意欲的にという言葉も多く耳にしたが、「熱意」という言葉が特に残っている。ここであえて「熱意」という言葉を使うには意味がある。「熱意」とは、文字通り「熱い思い、意志」である。熱い思いや意志をもち続けることは、意外と難しいのである。

これまで馴染んだ環境から新しい環境に変化したとき、新しい会社とこれまでの会社を比較して劣っている点にばかり目がいってしまい、組織に溶け込むことが面倒になってしまうケースもあるだろう。無意識である場合も多いと思うが、横柄な態度や脈絡のない自慢話が若手をうんざりさせ、組織に溶け込めなくなってしまうケースもあるようだ。

「会社を良くしたいという熱意」があれば、そのような振る舞いには到底ならないはずである。

また、楽をしたいという気持ちが強いと、目線も低くなりがちになるようだ。立場はどうあれ、50歳代に求められている目線は、経営的視点である。後進の育成と称して、叱咤激励(しったげきれい)をするだけでは経営的視点とははるかに遠い。自ら五感を使って考え、手動かし、ビジョンを語ることを忘れてはいけない。

(2)経験を生かす

新しい環境の中で新しい技術を使いながら経験を生かすためには、若手と一緒に考えることが重要である。指示をするだけでは、自らのスキルのブラッシュアップもできないし、部下育成にもならない。若手は、経験に裏付けられた状況に応じた適切なアドバイスがあると、仕事の質的負荷も軽減される。そして、若手ばかりでなく、自らの成長を考えるならば、経験のあるやり方ばかりではなく、常に新しいやり方をとりいれていくことが賢明である。新しいやり方にも順応できる柔軟性を失わないこと自体が重要でもある。

出向・転籍者に求められる人脈とは、元の職場と新たな職場の「潤滑油」となることが多いようだ。人脈は、一朝一夕に築けないからこそ、太いパイプのある出向・転籍者がその役割を担っているのである。つまり、元の職場での人間関係が悪かったというのは死活問題になる。

(3)挑戦する

50歳を過ぎた出向者・転籍者には、立場を切り替えることは挑戦と言っても過言ではないようだ。例えば、トラブルが起きたときには、かつての部下がお客さまであってもきちんとお詫びができなければならない。まして、かつての部下ということで、「○○くん」と呼ぶことは厳禁である。まずは、立場が変わったことをきちんと言葉や態度で示し、けじめをつけることは挑戦の一歩となるからである。

変化の激しい時代にあって、経験のない分野への「仕事領域の拡大」は必須である。経験のある分野は、すぐに陳腐化してしまうと考えた方がよい。何ができるかわからない、どんな仕事ならばできるのかと周囲から思われてしまうと、もう仕事はないと考えた方がよい。あの人ならば、何とかしてしまうのではないかといった挑戦的な姿勢が大切である。人件費に見合った貢献を続けるためには、不断の挑戦は必須である。

多くの場合、出向元・転籍元よりも小規模の会社で就業することになる。一人で何役もこなさなくてはならず、新たな領域に踏み込んでいくことなる。そうした状況を受け入れ、興味・関心をもって楽しむ気持ちにセットしていくことが挑戦へとつながるようだ。

3.出向先・転籍先を困らせるタイプ

出向先・転籍先で困らせる50歳代も多い。若い世代と違い、注意する側も勇気が必要であることを肝に銘じ、年をとればとるほどに自らを律する必要がある。

まずは、着任したばかりの出向者が部門会議で次の挨拶をしたら、あなたはどのように感じるだろうか。少々、大げさかもしれない。

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30年間、多くの仕事を経験してきましたが、どの仕事も大過なく勤めてまいりました。

スタッフの仕事は、まだ3年くらいです。この会社でも、スタッフ系の仕事をやるようです。

私の経験の中で、一番長い仕事は品質管理です。10年ほどやりました。品質マネジメントシステムの内部監査員として、全国を飛び回っていました。北は小樽支店、南は鹿児島支店まで年に数回出かけていました。小樽と鹿児島には「切子」という共通点があります。

今では、小樽切子と鹿児島切子を収集することが趣味になりました。

出向を機に、自分でも切子作りに挑戦してみようと思っています。つい最近も、江戸切子の職人体験をして、なかなか良い風合いのグラスを作ることができました。小樽や鹿児島にも月に1回くらいは出かけて、現地のアトリエでお世話なるつもりです。

おかげさまで余生は、充実しそうです。

これまでのように、プレッシャーを感じて、時間に追われる生活をしなくてよいと思うとホっとするものがあります。これからは、悠々自適な生活を送るつもりです。それが、長生きの秘訣、健康の秘訣ではないかと思います。

人生の先輩として、みなさんの相談に多少なりとものっていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

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「大過なく」「余生」「悠々自適」という言葉には、挨拶をした人のマインドが透けてみえる。人柄を知ってもらうために趣味の話をするのも多少はよいが、公式の場での着任挨拶は、仕事への熱意やビジョンを語るべきである。

部門会議ではなく、懇親会の席では趣味の話に興じるもの悪くはない。しかし、仕事への姿勢が「あがりモード」であるような発言は慎むべきである。

要は、他の年齢の出向・転籍等の異動と何ら変わらないのである。

4.最後に~高齢化社会を謳歌(おうか)する

内閣府「平成22年版高齢社会白書」をよると、日本の65歳以上の高齢者人口は、1950年には総人口の5%に満たなかったが、1970年には7%を超え(国連の報告書において「高齢化社会」と定義された水準)、さらに、1994年にはその倍化水準である14%を越えた(「高齢化社会」)。そして、今、まさに22%を超え、5人に1人が高齢者、10人に1人が75歳以上という本格的な高齢化社会となっている。

日本の高齢化のスピードは、平均寿命の延伸と少子化が同時に発生していることが要因であるが、これは不老長寿を達成しているわけで、喜ばしいことであると筆者は思う。

また、健康寿命(要介護状態となった期間を平均寿命から差し引いた寿命)は、WHO(世界保健機関)“The World Health Report 2004”によれば、2002年のわが国の健康寿命は男性72.3歳、女性77.7歳である。長寿国では、平均寿命と健康寿命の開きが長く、要介護期間が長いという問題がある。介護の問題を別とすると、高齢化は、労働人口の減少が最も大きな問題であると言える。

日本人は平均70歳越えまで健康で働くことができるとされているならば、70歳までを労働人口としてカウントできれば、社会保障の問題も大きく変わってくる。

【図表2】
いつまで働きたいか
出所:内閣府「高齢者の地域社会への参加に関する意識調査」(平成20年)

内閣府「平成22年版高齢社会白書」では、60歳以上の有職者の就業を希望する年齢について、「70歳くらいまで、75歳くらいまで、76歳以上、働けるうちはいつまでも」をあわせると、50%を超えている。(図表2 「いつまで働きたいか」を参照)

不老長寿の社会を手に入れたとするならば、50歳代は第二の人生の幕開けといえる。

だからこそ、シリーズ第2回の事例で挙げたように、ライフセミナーやキャリアセミナーが必要とされているのだろう。これまでの30年を振り返り、これからの仕事生活の20年を考える機会を企業が自社の社員に提供しているのである。

出向・転籍にかかわらず、50歳の声をきいたら、ライフセミナーやキャリアセミナーを受講するなど、振り返りと自らの展望を確認するとともに、自らの振る舞いについても考察することもお薦めしたい。

70歳までは働くために・・・・・働かなくてはならない・・・・・とさえ筆者は考える。

高齢化社会では何歳になっても、心身ともに健康を維持し、仕事を楽しみながら自らプレーヤーとして活躍できなければならない。若手のようにテキパキと仕事が片付けられなくても、頑張り続けることが大切である。

「熱意をもち、経験を生かし、挑戦する」ことで、雇用される能力・エンプロイアビリティをもち続け、働く人皆で高齢化社会を謳歌したいものである。

以上

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