現在ご覧のページは当社の旧webサイトになります。トップページはこちら

シニアが高める企業競争力シリーズ 第1回

事例に学ぶ役職定年制

シニアコンサルタント 金井 恭太郎
【第1回】 事例に学ぶ役職定年制
【第2回】 SI企業におけるシニア活用の課題と展望
【第3回】 シニアのマインドセット

1.はじめに

少子高齢化により、労働人口が大きく減少することが予測される中※1、高齢者活用は社会的な問題となっている。2006年には、高齢者雇用安定法の改定が行われ、多くの企業において65歳までの継続雇用の制度が整備された※2。そのよう中、役職定年制を導入している企業の管理職は、55歳前後で役職定年を迎え、65歳まで約10年間は新たなキャリアを築くことになる。本レポートでは、10年間を見据えた役職定年者の活用について、シニア活用に先進的に取り組んでいる企業15社に対する調査・インタビューに基づいて考察する。

※1:独立行政法人労働政策研究・研修機構「労働力需給の推計 -労働力需給モデル(2007年版)による将来推計」によると、2006年と同水準で推移した場合、2030年には15歳-29歳の労働力人口は400万人以上、30歳-59歳の労働力人口は700万人以上が減少することが予測される。
※2:厚生労働省「平成22年「高齢者雇用状況」集計結果」によると、301人以上の企業の98.7%が高齢者雇用措置を実施していると回答している。

2.役職定年制とは

企業が永続する前提に立つと、基幹となるポストについては後任を計画的に育成し、配置するサイクルを回し続けることが必須となる。特に経営者育成の観点に立ち、心身共に充実した50代前半までに役員登用を行うことを考えると、管理職ポストには40代前半で登用し、課長、部長、部門長を10年程度は経験する期間があることが望ましいと言える。60歳定年を待って、ポストを後進に譲っていたのでは育成が間に合わない。役職定年制は、その一助となる手段であり、ある一定の年齢で一律に管理職ポストから外す制度である。厚生労働省の調査によると、従業員1,000人規模以上の企業の約50%は役職定年制を導入している※3

※3:厚生労働省「平成21年賃金事情等総合調査(退職金、年金及び定年制事情調査)」によると、慣行による運用含め48%の企業が役職定年制を導入している。

役職定年制の大きな特徴は、年功的な人事考課を行ってきた企業にとってマネジメントコストが低いことである。近年、欧米においては年齢が処遇に影響することが受け入れられにくい理由から、役職定年制を廃止する日系グローバル企業が増えている。しかし、廃止した企業の多くはポストマネジメントに苦労しており、後進育成の阻害と総人件費の下方硬直性という2つの問題が大きくなっている。グローバル企業の経営者は、時差や長距離移動等に直接体力を削られる環境下でビジネスを推進する必要がある。ビジネスチャンスやトラブル発生時に、体力的な理由で指揮を執れない経営者では通用しない。その意味では、心身が充実した年齢をゴールに人材を育成することは必須と言える。グローバルでの説明責任を考慮した制度を構築した結果、グローバルに戦える経営者育成を阻害しているということは皮肉な結果と言わざるを得ない。

なお、欧米のグローバル企業では年齢による一律のマネジメントは行わないが、ハイポテンシャルについては、個別にキャリアデベロップメントプログラムを作成し、アサインメント対象となる管理職以上の基幹ポストは管理している例が多い。日本企業のように内部育成を主軸においている企業においても、厳しい内部競争が行われる。長期間同じポストに就くことは少なく、昇進するか社外に出るか、いずれにしても後進にポストを譲る運用がなされている。

年功的な人事考課を長く行ってきた日本企業にとっては、労働関係法規はもちろん、社員のメンタリティ、組織に形成された文化の影響もあり、上述した欧米企業のように昇進させるか社外に輩出するかという運用を行うことは難しい。しかしながら、企業活動がグローバルに行われる中、経営者育成の観点に立ったポストマネジメントは必須であり、そのためにはポストを外れたシニア活用の枠組みを企業が構築することが求められる。役職定年制を採用する際は、ポストを外すことと合わせて、その後の活用の枠組みについて考えることが求められる。

3.役職定年後のシニア活用の枠組み

役職定年後のシニア活用の枠組みは大きく3つに分類できる。1つ目は会社主導で、グループ会社や取引先など社外の経営者や管理職ポジションに斡旋(あっせん)するパターンである。2つ目は、自社内で管理職待遇の専門職に戻るパターン、3つ目は自社内で役職定年者として固有の活用の枠組みを用意するパターンである。下記に事例から考察される、メリット/デメリットを組織マネジメントと人件費コントロールの観点から紹介する。

■人材登用・人事権

  主なメリット 主なデメリット
パターン(1)
社外(グループ会社や取引先)に斡旋
・役職定年者の活用を行うコストが発生しない。
・総人件費が抑制できる。
・役職定年者数に対してポスト数が不足し、不要なポスト設置や押し付け的な斡旋が行われやすい。
・斡旋先の内部昇進が阻害されるため、経営者育成、モチベーションダウンが起こりやすい。
パターン(2)
複線型(管理職待遇の専門職を定義)
・管理職待遇の専門職の役割が明確になり、役職定年者の活用を含めた組織マネジメントが行いやすい。 ・管理職優位の価値観からの脱却が難しいため、管理職待遇の専門職のモチベーション向上が難しい。
・ライン管理職と管理職待遇の専門職の処遇差をつけることが年功的な処遇をしてきた企業では難しく、人件費のコントロールが困難。
パターン(3)
シニアスタッフ型(役職定年後の固有の枠組みを定義)
・役職定年前と切り離したマネジメントや人件費コントロールが可能。 ・役職定年後のシニア層のモチベーションが下がり、残したい人材や技術等の社外流出が起こりやすい。
・役職定年者固有の役割を創出し、マネジメントを行う難易度が高い。

運用状況についても見ていきたい。パターン(1)は高度成長期の大手企業で多く実施された枠組みである。近年ビジネスの成長の鈍化、役職定年者の増加により需給バランスが崩れ、全員を斡旋することが難しくなっている企業が多く、パターン(2)、パターン(3)に主軸を移しつつある状況が見られた。パターン(2)、パターン(3)の比較においては、パターン(2)の方が運用に成功している傾向が見られた。役職定年者の活用に成功している事例に共通して見られる傾向として、プレーヤーとしての活用を主軸においていることが挙げられる。パターン(2)はそのメッセージを社員に伝えることに適しているからと考えられる。

■役職定年者の活用に成功している事例の共通傾向

  • 培った専門性を活かして、業務遂行において直接価値を発揮している。
  • 管理職時代に、管理業務だけでなく、業務遂行に必要な専門性を磨いてきている。
  • 経験のある職種、職場に配属されている。

パターン(3)においては、「後進育成」「ノウハウ伝承」等に主軸が置かれる傾向が見られた。しかしながら、育成は本来上司や先輩によるOJTが主軸であり、業務と切り離して行うことは困難である。また、多くの企業において、テレビ番組等で匠の技として紹介されるような、あらためて役職定年後に伝承を行う価値があるノウハウや技術を持つ人材は多数派ではない。結果として、現場もなんとか固有の役割を創出しようとするが難しく、間接部門でリエゾン的な役割で受け入れるにもキャパシティが限られており、役職定年者当人には「余生」的な気持ちが加速されてしまう。

4.グッドプラクティス

プレーヤーとして活用といっても容易ではなく、「管理職としてマネジメントの力を磨いてきた者に専門性が期待できるのか」「給与水準はどうするのか」等の問題がある。調査においてはどの企業も試行錯誤しており、残念ながらベストプラクティスと言える総合的なモデルには出会えなかった。しかしながら、個々の資質に応じたマネジメントを行う上で、それをサポートする効果的な施策は見えてきた。そのうちの2つをグッドプラクティスとして紹介したい。

■個人に応じた処遇を行い、モチベーションを高める A社の事例

50代後半で役職定年を迎えると、能力や経験はもちろん意欲についても個人差が大きくなる。既に定年を意識して「余生」的な気持ちになる者もいれば、マネジメントとは異なる役割で「もう一旗あげたい」と意欲を高める者もいる。そのため、一律ではなく個人に応じた処遇を行うことが必要と言える。

A社では、役職定年前と同じ枠組みで処遇するが、役職定年前以上に昇級、降級も含めメリハリをつけた評価が可能な制度を構築している。役職定年直後は、外れた役職に応じて降級になるのが基本である。しかし、その後のプレーヤーとしての専門性の発揮度合いと成果に応じて、役職定年前より高い給与で処遇される可能性がある。A社のような制度を構築した場合、現場単位で運用にバラツキが出ること、評価が甘くなること等が懸念されるが、運用を経営トップが主管する会議体が担うことでそれを防いでいる。

■市場価値を意識した能力開発を促す B社の事例

役職定年はある一時点の問題ではない。役職定年後を見据えてどのような能力開発を進めるのかを含めた長期のキャリアプランと密接に関連する。日本企業の多くにおいては、若手に対しては積極的に教育投資を行うのに対して、管理職以上には教育投資を控える傾向がある。また、当人においても、管理職は十分な成長を終えた到達点、という考え方になっている場合が多い。しかし、管理職こそ経営人材として、もしくはいずれは専門職に戻ることを意識した能力開発が必要と言える。

B社に置いては、管理職登用の時点よりサポートが始まる。その中のひとつに、会社が社外からの求人を取りまとめて管理職以上に公開するという施策がある。管理職は、その案件と照らし合わせて、自分が社外に出たときどのような仕事があるのか、どれくらいの給与水準になるのかを意識し、それを踏まえた能力開発を行うことを促している。これは早期退職の仕組みとは大きく異なる。B社の給与水準は概ね市場より高く、家庭の事情等で仕事のスタイルを変えたい者などを除くと、その仕組みを使って転職する者は少ない。その仕組みを通じて、管理職になっても市場価値を意識して能力開発を続ける必要性を伝えることが主眼である。

5.終わりに

役職定年の議論は暗くなりがちである。高齢者の雇用確保のために、無理に雇用を創出する、どのように給与水準を下げるのか、という議論になりやすい。方針によっては、社員から「今まで会社に尽くしてきた社員に対してひどいのではないか」という反応もあるだろう。しかしながら、企業を継続させるためには、後進を育成するためにポストを引き継ぐ必要がある。ビジネスの拡大が緩やかであり原資が増えないのであれば、後進の給与を上げるためにはシニアの給与を抑制することも必要になる。トレードオフが存在する中で重要なのは、どのような仕組みであれば全社一丸となって厳しい環境の中でビジネスを推進できるのか、ということだ。第1回である本レポートでは制度面の現状を中心に考察した。残念ながらベストプラクティスと言えるものは見えてこなかったが、グッドプラクティスからの示唆を紹介することはできたと思う。今後予定している第2回では具体的なシニア活用について、第3回ではシニアに求められるマインドセットについて紹介していきたい。

以上

Page Top