現在ご覧のページは当社の旧webサイトになります。トップページはこちら

グローバル人事を考える 第2回

【対談】中国人材市場の現状 人材紹介の最前線から

シニアコンサルタント 金井 恭太郎
【第1回】 欧米企業の事例に学ぶグローバル人事
【第2回】 中国人材市場の現状 人材紹介の最前線から
【第3回】 ヘッドクォーター人事として主導すべき施策は何か

世界の一流企業がひしめく中で、中国での人材獲得競争は激烈を極めている。 中国市場における人材獲得競争最前線の状況を、アクシスコンサルティング株式会社代表取締役社長山尾 幸弘氏に伺った。

海外から日本へのヒトの供給→海外拠点でのヒトの需要へ


金井: まず御社が中国での人材紹介をスタートされたのはいつでしょうか。またどのような経緯があったのか、お聞かせいただけますか。
山尾: 当社が中国市場でのビジネスを本格的に開始したのは2006年です。当時、日本のIT企業は深刻な労働力不足にあり、国内での採用強化はもちろん、中国人採用のニーズが増えていました。そこで当社も上海、大連、北京の人材会社と提携して、日本で働きたいという希望を持った第2新卒などの若手人材を、日本企業のお客さまにご紹介してきました。しかし現在では、日本国内向けのご紹介数が鈍化しているのに比べ、海外拠点に対して中国現地人材をご紹介するケースが急速に増えています。

より高度な人材へと人材需要がシフト


金井: 日本企業が海外事業を拡大するのに伴い、外から中へ向かっていたヒトの流れが、今は現地内でのヒトの流れに変わってきている、ということですね。そのほか、ヒトの流れの方向だけでなく、流れの質自体も変わっていませんか。つまり、製造業について言えば、これまでのアジア拠点は工場にすぎなかったのが、販売拠点としての機能も持つようになってきました。基幹技術の研究開発は国内にしっかりキープしながらも、現地向け製品の開発機能については現地市場に近いところにシフトをしていく、そういったケースも出てきています。
そうしますと、工場で働く人材だけでなく、マーケティングや営業人材、製品開発技術者など、これまでに日本企業が採用したことのないような、いわゆる高度人材の獲得が必要になってくると考えられます。新興国では、依然、高度人材の絶対数が少ない中で、欧米企業と激烈な人材獲得競争が行われており、当社がクライアント企業の中国進出をご支援する中でも、高度人材の獲得の難しさがたびたび話題になります。
中国の人材市場を見て、何かそういった、人材市場の質的な変化はありますか。
山尾: IT企業の人材市場について、これまでの中国人採用のニーズは、主にシステムエンジニアとプログラマが中心でした。仕様決め後の、プログラミングなど下流工程経験者へのニーズが中心です。ところが最近では、プロジェクトマネージャができる人材が欲しい、というニーズが非常に強くなってきています。従来、日本人駐在員や派遣者が担っていたような仕事を、現地の人材に任せていくことを本気で考えている企業が増えてきているのだと思います。

オフショアビジネス等を通じて育った中国人人材の獲得競争


金井: プロジェクトマネジメントができる人材は、中国には多くいるのでしょうか。つまり、中国では、大学など高度教育機関が急速に整備・強化されてきていますが、日本企業で働くには日本の商習慣を知っていることが必要な上に、日本語ができることが求められる場合が多いと思います。そのような人材はどのくらい、いるのでしょうか。
山尾: 実は、日本がオフショアの拠点として昔から中国を活用してきたことが、今、人材獲得の面でプラスに働いています。つまり日本のIT企業は比較的古くから、中国にオフショア拠点を設けてオペレーションを行ってきたために、中国国内に日本企業向けのシステム開発ができる人材が育ってきたと感じています。プロジェクトマネジメントができる人材については、まだ豊富というわけではありませんが、上流工程の中国移転が進めば、人材育成も進むと思っています。もちろん、このような人材は、日本企業にとって貴重な即戦力として、引く手あまたになっていて、日本企業同士で人材の取り合いが起こることもめずらしくありません。
金井: 中国も国を挙げて人材育成に取り組んでいます。高等教育の強化はもちろん、海外のIT企業を招致して仕事の機会を作り、中国沿海部だけでなく内陸部にも産業集積地ができています。
山尾: 先日も中国に視察に行ってきましたが、例えば山東省の済南では、地方政府が主導してテクノパークを作り、IT人材の育成を進めています。まだ、それほど有名ではありませんが、日本や欧米の大手IT企業が進出してきています。アウトソーシング拠点としては有力な候補のひとつだと思います。

これからの草刈場としての内陸部


金井: 中国で人材が育ってきている、というのは企業にとって喜ばしいことですが、賃金水準の方も上昇してきています。例えば上海統計局のデータによると、過去20年以上に渡り、上海の平均年収は年10%前後上昇していて、2009年は上昇速度が鈍ってきたものの、8%強の上昇になっています。人件費の安さから中国をオフショア先に選んだ企業も多いと思いますが、今後は人件費の面でメリットを出すのが難しくなってくるでしょう。
山尾: 実際、企業が沿海部から内陸部に拠点をシフトする動きが起きているのを目にします。当社ではすでに、こうした内陸部でものIT人材の需要を想定し、内陸部にも現地人材紹介会社等とのネットワークを構築し、IT人材の供給を支援していきたいと考えています。

日本企業は学生に不人気、理工系からの評価はまだ高いが


金井: ところで、日本企業の人材採用力は、欧米企業や中国巨大国有企業などに比べて、弱いと言われています。毎年、中国で発表される就職したい企業ランキングで、100社中、日本企業は2社程度しか入ってきません。実際、中国の学生の間で、日本企業の人気はどうなのでしょうか。
山尾: 日本企業は確かに現地人材からあまり人気がありません。中国の大学の最優秀層は欧米企業を向いています。理工系の技術者志望の学生の間では、まだ日本の製造業が評価されることはありますが、IT分野に限って言いますと、最先端のソフトウエア技術者は日本企業を志望しません。一方プロジェクトマネジメントやシステム管理の領域では日本企業を志望する学生も存在します。文科系の方は、まったくだめです。ほとんどは第一志望として欧米系の企業を挙げます。

離職率が高いのは日本だけ、選ばれない理由がある


金井: 人材の獲得難に加えて、人材の定着も難しいと言われています。中国では、上昇志向の人が多いので離職率が高い、と言われていますが、本当でしょうか。
ここにおもしろいデータがあります。欧米と日系の中国現地法人で専門・技術者の離職率を調べたところ(2007年)、日本企業は30%程度だったのに比べ、欧米企業は7%でした。またある日本企業の中国現地法人の社員に「次に転職するとしたらどこに行きたいか」について聞いた調査がありますが、それによると、「欧米企業に転職する」、「中国企業に転職する」、「海外留学する」というものが多く、「日本企業に転職する」という答えはゼロでした。つまり、離職率が高いのは日本企業の特徴であって、日本企業には高度人材に「選ばれない理由」があるということです。
山尾: 当社では、多くの転職者の再就職を支援している関係から、日本企業に就職したい理由、辞めたい理由について詳細なデータを持っています。いくつかご紹介しますが、日本企業を志望する人材から聞かれるのは、日本企業で「勉強できる」、「雇用が安定している」といったものです。ただしスキルを身につけたら欧米企業に転職したいという希望者も少なくありません。日本企業を辞めたい理由や日本企業には就職したくない理由としては、「昇進・昇格ができない」、「実力主義ではない」が圧倒的に多いです。
金井: 辞めずに仕事を続けている人のモチベーションについて、当社でも以前調査したことがあるのですが、自己成長感や上司とのよい関係を挙げるケースが多かったです。報酬水準を市場価格にまで引き上げることは必要ですが、報酬水準競争には際限がありません。総合的な人事施策と組織運営、つまり本社と海外子会社の権限関係やガバナンスの考え方を整理していくことで、現地社員のモチベーションとコミットメントを高めることが重要です。

今後は国内から海外へ、海外から国内へヒトも資本も複雑に動く


金井: 最後に、これからの人材市場、特にIT人材市場のトレンドについて、どのように見ていらっしゃるかを教えてください。
山尾: 重要なトレンドとして2つあると思います。ひとつは、日本から中国へのヒトの流れが起きているということです。例えば日本に留学していた中国人が、日本での就職が難しいため、中国へ戻って就職することを希望するケースが増えてきています。また、シニア層を中心に、日本企業の技術者が中国企業に転職するケースも増えてきています。日本人に対する求人で多い職種は、製造系のエンジニア、生産管理、品質管理、コスト管理、営業職です。「グローバル企業に製品を納品したい」、「必要なレベルの品質管理ができる人材が欲しい」、「国からの技術力を向上するようにというプレッシャーがあり、技術開発を担える人材が欲しい」、「日本企業と取引実績を作りたい」といったニーズをよく耳にします。
もうひとつのトレンドは、中国企業が日本国内にいる人材を活用するために、日本に進出しようという流れです。日本企業だけで国内市場を活性化するのは難しいため、日本国内に雇用機会を作るという意味で、このような動きは歓迎すべきであり、日中の橋渡しをすることが当社の今後の重要なミッションのひとつだと考えています。
金井: 複雑でダイナミックなヒトの大移動がはじまっています。その中で、私たち一人ひとりがこうした流れを前向きにとらえてキャリアを作っていかなければならない時代の到来を強く感じました。 本日はありがとうございました。

【第1回】 欧米企業の事例に学ぶグローバル人事
【第2回】 中国人材市場の現状 人材紹介の最前線から
【第3回】 ヘッドクォーター人事として主導すべき施策は何か
アクシスコンサルティング株式会社
人材紹介ビジネスの中でも特にコンサル・IT分野での人材紹介でトップクラスの実績を持つ。近年は日本国内だけでなく海外での人材紹介を数多く手がけ、特に中国での人材紹介に力を入れている。

山尾 幸弘 (アクシスコンサルティング株式会社 代表取締役社長)
大手食品メーカーの営業・マーケティングを得て、1992年に国内系エグゼクティブリサーチ会社に入社。9年間で648人の転職を成功に導く。また、グローバル大手コンピュータメーカーへのキャリア採用スキームの企画立案~導入~ 定着化コンサルからスタートアップベンチャー企業の経営まで数多くのコンサルティングを手がける。 2002年にアクシスコンサルティング創立し代表取締役に就任、現在に至る。
Page Top