株式会社NTTデータ経営研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:柳 圭一郎、以下 当社)は、NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社(本社:東京都品川区、代表取締役社長:塚本良江)が提供する「NTTコム リサーチ」登録モニターを対象に「都市部に居住する相続人世代の意識調査」(以下、本調査)を実施しました。
本調査では、地域金融機関において相続による預金流出が課題となっていることを背景に、都市部に居住する50代、60代(以下、相続人世代)を対象に、今後発生しうる相続についての備えや離れて暮らす自身の親注1(被相続人)に関する意識について調査を行った結果、以下のことが明らかとなりました。
【主なポイント】
- 多くの相続人世代で、今後発生する相続への備えが不足
- 今後発生しうる相続について、自身の親と相談する必要性を感じている相続人世代は3割強に留まる。そのうち実際に相談した割合は4割弱となっており、自ら相談の必要性を感じて相談まで至った割合は全体の1割程度となる。
- 親と別居している相続人世代の6割強が親の資産を正確に把握できていない。
- 出身地から離れて暮らす相続人世代では、地域金融機関とのリレーションが希薄に
- 都市部に居住する相続人世代では、出身地から離れるほど、出身地の地域金融機関との関係は希薄になる。
- 相続関連の潜在的ニーズがある都市部に居住する相続人世代に、地域金融機関が直接アプローチすることは難しい状況にある。
- 相続人世代のニーズを取り込むには、被相続人である親へのアプローチがカギに
- 相続については生前から準備ができていることが望ましい一方、相続人世代が自身の親に働きかけるのは敬遠される傾向にある。
- 地域金融機関が相続関連の潜在的ニーズを取り込むには、地域金融機関との接点がある親自身が相続対策の必要性を実感し、親を起点に相続人を巻き込んだ対策が取られるようなアプローチをする必要がある。
【背景】
昨今の人口動態の変化に伴い、地方で暮らしていた被相続人から、大都市圏で暮らす相続人への預金シフトが発生しています。特に地域金融機関においては、相続による預金の流出を課題と捉え、相続人の預金取り込みに取り組んでいるものの、明確な効果はみられていない状況です。
今後も、相続の発生による預金シフトは継続するものと想定されており、出身地を離
れて暮らす相続人世代に対して、相続発生後も地域金融機関を利用してもらうための施策が必要です。
そこで、本調査では、都市部に居住する50代、60代を対象に、今後発生しうる相続についての備えや離れて暮らす自身の親に関する意識について把握することにより、地域金融機関が都市部に暮らす相続人世代と接点を確保し、ニーズを満たすために必要な条件を明らかにすることを目的に調査を実施しました。
【主な調査結果・考察】
1. 多くの相続人世代で、今後発生する相続への備えが不足
今後発生しうる相続について、自身の親と相談する必要性を感じている相続人世代は32.9%に留まっている(図1)。また、親との相続に関する相談の必要性について、「強く感じている(いた)」「ある程度感じている(いた)」と回答した相続人世代のうち、62.6%が実際の相談にまで至っていない状況にある(図2)。相続人世代で自ら相談の必要性を感じ、実際に相談まで至った割合は全体の1割程度となる。
また、親と別居している相続人世代の約6割が、親の資産を正確に把握できていない(図3)。
2. 出身地から離れて暮らす相続人世代では、地域金融機関とのリレーションが希薄に
都市部に居住する相続人世代では、現在の居住地域が出身地から離れるほど、出身地の地域金融機関と「口座も取引もない」と回答する割合が高く、出身地の地域金融機関との関係は希薄である(図4)。
そのため、相続関連の潜在的ニーズがある都市部に居住する相続人世代に、地域金融機関が直接アプローチすることは難しい状況にある。
3. 相続人世代のニーズを取り込むには、被相続人である親へのアプローチがカギに
相続については生前からの準備ができることが望ましい一方、相続人世代が自身の親に相談するケースは少ない。その理由として、相続に関する相談の必要性を感じていても、「センシティブな内容なので、親と話をしにくい(話をしにくかった)」と回答する割合が最も高く50.5%を占める(図5)。また、自身の親と相続に関する相談を実施した相続人世代に、そのきっかけについて回答してもらったところ、「自身の親から話をされた」とする割合が最も高く57.1%を占める(図6)。
このことから、相続人世代が相続を前提として自身の親へ働きかけるのは敬遠されがちな傾向にあり、地域金融機関が相続関連の潜在的ニーズを取り込むには、地域金融機関との接点がある親自身が相続対策の必要性を実感し、被相続人である親を起点に相続人を巻き込んだ対策が取られるようなアプローチを実施する必要がある。
【結論(今後について)】
地域金融機関では、相続人世代との接点確保やニーズの取り込みが急務である一方、都市部に居住し接点が切れている相続人世代に対して、直接的にアプローチすることは困難です。また、相続対策については生前からの準備が望ましい一方、相続発生前に相続人世代から親に話をすることは感情的に難しいことが明らかになりました。
こうした調査結果から、地域金融機関においては、年金受給口座などで、ある程度つながりを持つ親を対象として早期対策の必要性についての啓発活動を行い、地域金融機関として各種サービスの提供や相談が可能であることを知らせておくことで、親を起点とした相続人世代とのリレーションを構築する必要があります。
これまで金融機関では、定年退職後の被相続人世代(給与振込契約等がなくなる)に対する積極的なリレーション維持のアプローチはあまりしてこなかったと考えられますが、今後は退職年齢到達前からの年金受取口座指定、資産運用支援、リバースモーゲージ等を含むリタイア生活支援等を通じたリレーション維持・強化を目的とした各種施策に取り組む必要があるものと考えられます。
また、相続については相続税が発生しない割合注2が大半であり、相続税が発生しない場合や、相続人世代へ資産を残す意向がない場合においても、相続前後における資産活用・処分に関する各種相談やサービス提供を可能とすることは、親と相続人世代のニーズを幅広く取り込むことにもなると考えられます。
しかしながら、地域金融機関が都市部に居住する相続人世代とリレーションを保ち続けていれば、親を介さずともアプローチが可能であることから、将来的に相続人世代となる若年層と居住地域に関わらず如何に接点を確保し、保ち続けられるかが、地域金融機関にとっての本質的な課題であると考えられます。インターネットの活用がそのカギとなるものとみられます。
当社では、このような調査を通じて導出した示唆をもとに、地域金融機関等への戦略策定や新規施策立案などのご支援に、引き続き取り組んでまいります。