働き方改革とウィズコロナ

1 日本の働き方改革とテレワークの進捗状況 ~テレワーク導入企業は39・1%~

弊社は、NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社が提供する「NTTコム リサーチ」登録モニターを対象に、東京都など7都府県に安倍総理大臣が「緊急事態宣言」を発令した2020年4月7日からの4日間で「緊急調査:パンデミック(新型コロナウイルス対策)と働き方に関する調査」を実施した。それによると、2020年4月の時点で全体(N=1158)の55・5%の企業が働き方改革に取り組み、テレワークに取り組んでいる企業は39・1%であった。

弊社が毎年行ってきた「働き方改革に関する調査」では、2015年に働き方改革に取り組んでいた企業が約22%だったのに対して、2019年は約49%と、2倍以上増加した。※1

一方、総務省「平成29(2017)年通信利用動向調査」(従業員100人以上の企業)では、テレワークに取り組んでいる企業は長年13~14%に留まってきた。弊社の調査でも、2018年度以前からテレワークに取り組んでいる企業は13・0%であり、働き方改革法が施行された2019年4月から2020年1月の間にテレワークを開始した企業は5・4%であった。しかし、新型コロナウイルス(COVIDー19)への危機感が高まり始めた2020年2月以降は、取り組み企業の構成比が毎月6・5%以上増加し、わずか3カ月でこれまでの2倍以上の企業がテレワークに取り組んだ姿となっている(図1)。

ところが、同調査では2020年1月まではテレワークを導入している企業の従業員の半数以上がほとんどテレワークを利用したことがないとの結果であった。本調査は、従業員規模10名以上、経営者・役員を含む雇用者(正社員)、20歳以上のホワイトカラー職種を対象としているので、ビフォーコロナの日本では「雇用型テレワーカー」はほとんど存在していなかったということになる。このような状況では、IT後進国といわれてきたことは至極当然だったわけである。

COVIDー19のパンデミックにより、突然未経験のテレワークに取り組むことになったわけだが、緊急事態下では、一人ひとりの健康や安全を守ること、医療従事者に代表されるエッセンシャルワーカー(ライフラインを維持するために現場で働く人たち)に通勤電車を譲ることが最優先である。しかし、ウィズコロナにおいては経済活動との両立も求められる。本稿では、ホワイトカラーの働き方とテレワークの課題をウィズコロナの視点で考察する。

図1| 働き方改革とテレワーク/リモートワークの取り組み状況
図1| 働き方改革とテレワーク/リモートワークの取り組み状況

出所| NTTデータ経営研究所にて作成

2 各国のテレワーク導入状況 ~日本はテレワーク後進国~

ビフォーコロナの各国のテレワーク事情をみると、アメリカの企業におけるテレワーク導入率は85%と高く、一方、フランスと日本はほぼ同水準の13~14%の推移であった(図2)。

アメリカは1990年代からテレワークの促進に関する法律を制定し、Job Descriptionやホワイトカラーエクゼンプションを適用したことなどから、テレワークの企業導入率が高くなっているとみられる。2010年にはテレワーク強化法が成立し、連邦政府全職員にテレワークの普及を推進している。

ヨーロッパでは、2002年に合意された「経営者団体と労働組合団体の間でのテレワーカーの労働条件に関するフレームワーク」をベースに、各国でテレワークに関する法律を整備してきた。

イギリスでは長時間労働の習慣もなく、柔軟な労働時間制度が普及しているため、フランスや日本の2倍以上のテレワーク企業導入率となっているとみられている。

フランスでは政府がテレワークを強く推進してきたにも関わらず、経営側がテレワークのメリットを見い出せず、従業員側にも「職場にいることが重要」とされる強い「プレゼンティズム」※2があり、長くテレワークは進まない状況にあった。職場で自分の働きぶりや存在価値をみせることが仕事人生で重要な位置付けとなっており、どこか日本の文化に似ているところがある。

日本ではアメリカに遅れること20年、2013年に世界最先端IT国家創造宣言で「テレワーク導入企業数」等の政府目標が掲げられた。2012年のロンドンオリンピック・パラリンピック競技大会の成功事例に習い、2017年からは、2020年東京オリンピックの開会式の予定日であった7月24日を「テレワーク・デイ」と位置づけて、多くの企業・団体・官公庁の職員がテレワークを一斉に実施するよう国が呼びかけてきた。しかし、テレワークが浸透しているという状況には至らなかった。

図2| 各国のテレワーク導入状況(企業導入率)
図2| 各国のテレワーク導入状況(企業導入率)

出所| 以下のデータを基にNTTデータ経営研究所で作成
   アメリカ:Survey on workplace flexibility 2015,WorldatWork
   イギリス・ドイツ・フランス:European Company Survey on Reconciliation of  Work and Family life 2010
   日本:総務省「平成29(2017)年通信利用動向調査」(従業員100人以上の企業)
   イタリア:ECS2010
   韓国:韓国情報化振興院「2015情報化統計集」

3 緊急事態宣言下でも通勤する日本人 ~経営トップの強い意思で同調圧力を一掃する~

2020年4月上旬にイギリスの世論調査会社ユーガブ(YouGov)が26か国で行った調査「Avoiding going to work」(通勤を避ける)では、日本のテレワーク率は18%、アメリカ、イギリスとフランスが30%~40%、イタリアが約50%となっている。日本人の同調圧力の下で「何があっても会社に行く」姿勢は、緊急事態宣言下においても変わらなかったといえる。

こうした職場風土を変え、緊急事態宣言下で従業員の健康を守り、エッセンシャルワーカーに通勤電車を譲るためには、経営トップの強いメッセージが求められる。

NTTデータグループ内には、経営トップが「8割以上の従業員がテレワークを実施するように」と各組織に繰り返し指示を出した会社(従業員1000人規模)がある。テレワークをほとんど実施してこなかった同社で中間管理職の意識を変え、短い期間で号令通りに実現していく過程を目の当たりにした従業員は「エンゲージメントが高まった」と話している。

ちなみに弊社では、3月からはコンサルタント職は在宅ファーストを基本とし、緊急事態宣言下での出社は本部長承認を必要とする措置をとった。社長のメッセージとともに、業務上の詳細プロセスを添えて迅速に周知した。

4 テレワークの課題 ~コミュニケーション不足は、イノベーション創出を阻害する~

前述の当社実施の調査では、テレワークに取り組んでいる企業に勤務する従業員(N=453)の4割以上が「自己管理」や「仕事とプライベートの区別」、3割以上の従業員が「運動不足」「コミュニケーション不足」や「テレワークでできる仕事の限界」を課題としてあげている。

1990年代からアメリカでは国をあげて積極的にテレワークを推進してきたことを前述したが、2010年代に入ってからは、IBMやYahooといったIT企業がテレワークの禁止や縮小を行うという傾向がでてきた。Yahooは、2013年まで積極的に推奨してきた理念を一転し、2017年にはIBMが全面的にテレワークを禁じている。さらに、アップル・グーグル・フェイスブックといった大手IT系企業も、テレワークを積極的に推奨してこなかった。

これらに共通した理由は、チームでより高度な成果を上げるためには、場の共有とともにチームワークによるイノベーションが求められたからである。イノベーションの本質は「新結合の遂行」にあるとしたシュンペーターによると、「様々な知識や情報を共有し、十分に議論すること」がイノベーションには有効であり、コミュニケーション不足は、新結合には致命的だというわけだ。これは早くからテレワークを導入し、多くの従業員が高度な業務に従事するシリコンバレーからの警鐘である。

ただ、さすがに世界的なパンデミック下の2020年3月上旬からは、アップル、アマゾン、グーグル、フェイスブック、ツイッター、セールスフォース・ドットコムといったシリコンバレーの企業も従業員にテレワークを推奨した。この結果、シリコンバレーの交通の流れや街の風景は変わっているという。

日本におけるテレワーク実施上の課題に戻ろう。テレワークに慣れることやITリテラシーの向上によって解決できる問題と、アメリカのIT企業が警鐘をならしている「チームワークによるイノベーションの創出」への挑戦は分けて考えた方がよさそうだ。なにしろ、日本では緊急事態宣言下でようやく本格的にテレワークを実施した人が多く、自宅での仕事スペースの確保から始めたのだから。

5 日本のウィズコロナ ~遊び心をもって、問題を探しにいこう~

最後に本章では、日本におけるホワイトカラーの働き方改革とテレワークの推進を、いかにしてイノベーションと両立させるかという課題について考えてみたい。

前述の業務遂行上の課題で筆頭に挙がった「コミュニケーション不足」は、顔のみえるTeamsやZoomなどの会議ツールを利用し、雑談を交えたコミュニケーションで解決しつつあることを実感している人も多いはずである。ビジネスの現場だけでなく、幼稚園の入園式(可愛いネイティブズーマの誕生!)、お年寄り向けのカルチャースクール、ジム等でもZoom等が利用されている。COVIDー19によって会議ツールが生活様式を大きく変えているのだ。

全員がテレワークの場合、会議室の予約の必要もなく、会議ツールを使って気軽にコミュニケーションがとれる。COVIDー19で不確実性が増した時代においては、これまでのように「正解を模索する」のではなく、「問題は何か」を探しながら前に進むしかない。経験のある方も多いと思うが、生産性の向上は、追求しすぎると次第に疲弊する。生産性の向上も重要だが、楽しさや遊び心がイノベーションを生むのではないか。「テレワークは部下の働きぶりが見えないので困る」という管理職も多いが、気軽にコミュニケーションをとりながら、「遊び心をもって、問題を探しているか」といった視点で、自律した人材に育てていきたいものだ。

ただし、オンライン飲み会は要注意である。前述の当社の調査ではビフォーコロナよりも「職場の飲み会」が減少していることに対して、「減ったままのライフスタイルが好ましい」とする回答は、全体(N=1158)の2割超であった。オンライン飲み会は、対面での飲み会よりも都合がつけやすいため、断りにくい面がある。就業時間外の職場との「つながらない権利」は、より重要な観点になってくるので、注意が必要である。

ビフォーコロナでは労働時間の短縮に注力した働き方改革が主体であった。ウィズコロナでは遊び心をもって問題を探しながらイノベーションの創出に力点をおいた働き方改革を進め、第2波・第3波に備えるとともに、アフターコロナの展望を語り合えば、この未曽有のピンチをチャンスに変えられるはずだ。

  • 2019年7月5日付「働き方改革2019」より
  • ここでいうプレゼンティズムは、「出勤しているにも関わらず、心身の健康上の問題により、充分にパフォーマンスが上がらない状態 」 ではなく、職場におけるプレゼンスを発揮することを意味している。

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NTTデータ経営研究所 情報戦略事業本部
ビジネストランスフォーメーションユニット シニアマネージャー
加藤 真由美
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