デジタルコグニティブサイエンスセンター

 デジタルコグニティブサイエンスセンター

人間情報データベースのELSI対応に関する有識者検討会の開催

株式会社NTTデータ経営研究所
情報未来イノベーション本部
デジタルコグニティブサイエンスセンター
シニアコンサルタント 松崎 友和

1.はじめに

2021年9月1日、デジタル庁が発足した。「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化1」をミッション、存在理由として掲げ、社会全体のデジタル化を推進する牽引役として期待が高まっている。また、令和2年・令和3年個人情報保護法の改正に加え、総務省からは、オンラインサービスの利用者情報保護の強化等を盛り込んだ、電気通信事業法の改正案が2022年3月4日に閣議決定されるなど、情報・デジタルをキーワードとした環境整備が加速している。

このような現状において、人間情報データベースを所管している株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所(以下、弊社)は、個人情報に係わる運用の更なる改善、ELSI2に関するフォワードルッキングな対応について、今般、一般財団法人日本情報経済社会推進協会(以下、JIPDEC)主催の下、全3回に亘る有識者検討会を実施した。

1 「デジタル社会の実現に向けた重点計画」デジタル庁 (令和3年(2021年)12月24日)

2 ELSI:ELSIとは、倫理的(Ethical)・法的(Legal)・社会的(Social)課題(Issues)の略称で、1990年にアメリカで始まった「ヒトゲノム計画」の中で登場した概念である。

2.有識者検討会概要

① 有識者検討会開催に至る経緯及び目的

弊社は、2020年度より、自社で取扱う「人間情報データベース」に関するELSI対応を強化し、安全性・信頼性の向上、および客観性・透明性の向上を図るため、JIPDECが主催する有識者検討会を通じた助言・アドバイスを有効活用している。(2020年度の詳細はこちらから)

本検討会では、2020年度の有識者検討会を経て改善した運用フローの結果および更なる改善案に関して議論した後、個人情報に関するフォワードルッキングな対応の推進を目的として、2022年4月施行の改正個人情報保護法への対応、並びに新規ビジネスに対するリスクや責任分界点に関して議論した。

② 有識者検討会委員一覧

〔敬称略、五十音順、委員長:◎〕
森 亮二 弁護士法人英知法律事務所 弁護士
菊池 浩明 明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科 専任教授
高橋 克巳 日本電信電話株式会社サービスイノベーション総合研究所社会情報研究所 チーフ・セキュリティ・サイエンティスト
古谷 由紀子 サステナビリティ消費者会議 代表

③ 各回の開催概要

有識者検討会 第1回会合 2021年12月27日(月)
議題
  • ■人間情報DBの運用等における問題点とその改善方法
    ・モニターに対する同意文変更に伴うアンケート回答率の低下
    ・モニター共有に関するリスク軽減策
    ・レピュテーションリスク軽減策
有識者検討会 第2回会合 2022年1月31日(月)
議題
  • ■第1回の振り返り、および弊社対応方針案に関する確認
    ・モニターに対する同意取得方法の改善
    ・調査会社との契約書条文の変更
    ・プロジェクト受注プロセスの改善
  • ■2022年4月施行の改正個人情報保護法への対応
    ・ 第三者提供記録の開示請求
    ・個人情報取扱事業者による不適切な利用の禁止
    ・提供先で個人データとなることが想定される場合の確認義務の新設
    ・学術研究機関等への個人情報の提供
有識者検討会 第3回会合 2022年2月25日(金)
議題
  • ■第2回の振り返り、および弊社対応方針案に関する確認
    ・ステークホルダーとの契約書条文の変更
    ・避けがたい重要な選択に影響を与えるスコアリングの検討プロセス追加
    ・モニターに対する同意文の改善
  • ■新規ビジネスに対するフォワードルッキングな対応
    ・今後のビジネス構想(Federated Learning)におけるリスクや責任分界点
  • ■次年度以降に向けた対応方針
    ・今年度の有識者検討会を踏まえた弊社取組事項
    ・次年度以降の有識者検討会の実施方式案

3.今後について

冒頭でも触れた通り、情報の提供主体である消費者及び生活者を取り巻く環境は、大きな変革期にあると言っても過言ではない。特に、システム間連携の多様化・複雑化に伴い、情報の取り扱い主体である事業者が対応すべき事もまた、多様化・複雑化している。令和2年個人情報保護法の改正では、事業者の責務の在り方において、取得時に明示する利用目的に加え、どのように利用されるのか(例:プロファイリングを行う等)を個人が具体的にイメージできるレベルまで明示することが必要とされた。

このような状況下において、より適正に、より安全にデータを利活用する運用を人間情報データベースに活かすべく、前年に続き全3回に亘り検討会を開催した。弊社では、情報提供主体及びクライアントへの「透明性」と「アカウンタビリティ」はもちろん、分かりやすさへの配慮も重要なファクターとして位置付け、人間情報データベースの運用を改善し続ける方針である。

また、2022年度以降、有識者検討会に参画するメンバーの拡大を図る予定である。これまでの有識者検討会では、個人情報を取り扱う担当者が有識者およびJIPDECと相対し、個人情報に関する取組を強化してきた。2022年度以降は、弊社経営層・パートナー企業担当者・調査会社担当者等、人間情報データベースに係わるステークホルダーを含めた有識者検討会へと拡大し、弊社の個人情報に関する取組の発信力の強化や個人情報に関する円滑な企業間連携を推進していきたい。