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グローバルITマネジメントの改善に向けた第一歩(上)~現場の声を聴く~

情報戦略コンサルティングユニット IT戦略コンサルティンググループ
シニアコンサルタント 赤城 徹
コンサルタント 岡田 裕
1.はじめに

 現在、グローバル企業は、減速する中国経済やEUの政情不安定化といった事業環境の変化や、AI、IoTやビッグデータに代表されるテクノロジー面での変化など、さまざまな変化へ対応するために、自分自身を絶えず変革していく必要に迫られている。
 ビジネス自体の変革がグローバルレベルで行われる場合、その変革を支え、時には変革の中心となるITシステムの構築プロジェクトも、同様にグローバルレベルで、スピーディに実行されることが求められる。そして、プロジェクトの成功を確実なものとするためには、当然グローバルでのITマネジメントがきちんと機能し、かつ継続的に改善されることが必要不可欠になってくるだろう。
 本稿と、続く次稿では、グローバル企業が上記のような状況に対応するために自社のITマネジメントの現状を把握し、改善につなげていくための方法を紹介したい。まず本稿にて現状分析および継続的改善を「現場からボトムアップに分析していく手法」について概説し、続く次稿「グローバルITマネジメントの改善に向けた第一歩 (下)〜フレームワークを活用する〜」で、フレームワークを利用してトップダウンに診断する方法を紹介する。

2.現場からITマネジメント上の問題を吸い上げる

 ITマネジメントの問題をボトムアップに分析するということは、言い換えると、ITマネジメントの巧拙の結果が一番影響する現場、すなわちシステム開発プロジェクトにおいて生じる課題を分析するということを意味している。
 本稿をお読みの方々は、グローバルでのシステム開発プロジェクトにおいて、以下のようなシーンに直面したことはないだろうか。

【シーン①】

 海外拠点が利用するシステムを本社主導で開発するプロジェクトにおいて、本社から拠点担当者に対して要件の提示を依頼した。しかし、実際に出てきた要件定義書は、本社の定める標準フォーマットや記述のレベル感から大きく外れていた上に、現地担当者ごとに要件定義書の品質が大きく異なっていた。その結果、記載内容の整理を本社側で再度行うことになってしまい、当初想定以上の工数が発生してしまった。

【シーン②】

 要件定義フェーズの成果物レビュー時に、海外拠点の業務部門に対し業務フローレビューを依頼した。しかし、その際に、事前に拠点システム部門に収集させていた連携対象システム以外のシステムが存在することが判明してしまった。さらに、そのシステムの仕様書や設計書が存在せず、製品ベンダー特有の技術要素を用いたシステムであったため、その後の追加調査に多大な工数を要してしまった。

 上記はあくまで例であるが、グローバルでのシステム開発を経験した方であれば、一度や二度ならず経験したことがあるシーンではないだろうか。このような状況は、よく事前の調整不足やコミュニケーションミスなど、プロジェクト自体のマネジメントの問題として処理されてしまうことが多い。しかし、グローバルでのITマネジメントがきちんと機能していれば、避けられる課題も多くある。

 例えばシーン①のように、本社が定めた開発標準を拠点が現地化し、運用しやすいフォーマット、記載内容にしていることはありがちだが、ここでの問題は、本社がその変更自体を把握していないことにある。もちろん拠点側のすべての変更を細かく管理することは難しいが、ある程度は拠点における標準の運用状況をモニタリングしておけば、プロジェクト開始後にフォーマットや内容のすり合わせを行う事態は避けられただろう。
 さらに、「現地担当者ごとに要件定義書の品質が大きく異なっていた」という課題は、そもそも拠点担当者がユーザー企業の行うべき要件定義に必要なスキルを身につけられていない(人によってばらつきがある)ことに起因する可能性が高い。その場合は、本社側が定めたITスキルの標準に則って拠点側が育成や人材採用を行っておらず、かつ、その状況を本社が把握していないという、ITマネジメント上の問題に帰結するだろう。プロジェクトが始まる前に状況を把握できていれば、本社から人を送り込んで要件定義の支援を行うなど、対応の取りようはあったはずだ。

 シーン②では、直接的には、拠点側のシステムを本社が把握できておらず、成果物等の管理も拠点側に徹底させられていないという、IT資産管理上の問題が想定される。それと同時に、そもそも拠点事業部門のシステム導入に、職務分掌上、拠点システム部門がほとんど絡めていないという可能性もある。
 本社がグローバルでIT組織の組織機能を定義していたとしても、拠点の状況によってはその定義に則った組織設計・運営ができないこともあるため、本社がその状況をきちんと把握し、適切な対応を取っておかないと、プロジェクトが始まってからでは手の打ちようが無くなってしまう。

 以上に挙げたとおり、グローバルのシステム開発プロジェクトで発生する課題の背後には、拠点に対する開発標準、ITスキル、IT資産やIT組織に対するガバナンス不足や、本社のサポート不足といった、ITマネジメント上の問題が潜んでいることが多い。個々のプロジェクトでモグラたたき的に対応していくのにも限界があるため、企業として、ITマネジメントの継続的な改善に向けた取り組みが必要となってくるのである。

3.プロジェクト課題分析からITマネジメント改善につなげる

 ITマネジメントを継続的に改善していくためには、プロジェクトから抽出した問題を分析し、改善施策の立案、実行へとつなげていく仕組みを企業内に設けることが必要となる。(図1)

図1:ITマネジメントの継続的な改善の仕組み

図1:ITマネジメントの継続的な改善の仕組み

出所:NTTデータ経営研究所にて作成

 まず、プロジェクトからITマネジメント上の問題を定常的に吸い上げてくることが必要となる。吸い上げるタイミングとしては、システム開発の最終工程であるプロジェクト評価の中で、ROIの報告等と合わせて行うようにするのが良いだろう(図1の①)。
 ただし、本取り組みを関係者にただ周知するだけでは、現場から報告がきちんとなされない可能性がある。開発プロセス標準の一部としたり、本社のシステム開発の規定として定義したりすることで、課題の報告をルール化していくことも視野に入れるべきである。
 次に、各プロジェクトから抽出される様々な問題の依存関係を分析し、根本原因を特定していく(図1の②)。問題を分析する過程では、関係する拠点に対して分析結果を共有し、意見を求めることが望ましい。今後施策を実行していく際に拠点が納得感を持って進めていくための布石を、この時点で打っておくと効果的である。
 根本原因が特定された後は、その解決を図るための改善施策を立案する。その際には、実施体制やスケジュールに加え、施策の効果を計るための評価指標やモニタリング計画も合わせて策定する。実行に移った施策は、担当者に任せきりにせず、継続的にマネジメントレベルでモニタリングし、必要に応じて施策の見直しを行う(図1の③)。
 施策の実行時には、拠点への定着化が思うように進まないこともあるだろう。その際には、拠点側の担当者と密に連携し、実行結果の進捗をきちんと可視化することで、定着化に向けた改善アクションを適宜実施していくようにしたい。それでも進展がみられない場合は、本社と拠点のマネジメント層にアラートをあげ、状況が硬直化するまえに、早期に解決を図ることが必要となる。

4.おわりに

 グローバルで連携して行われるプロジェクトで起きた課題は、往々にして「文化の壁」という曖昧な言葉でかたづけられたり、「コミュニケーション不足」といったプロジェクトメンバの能力不足として処理されたりしてしまうことが多い。もちろん、そういったものに起因する課題があることも否めないが、グローバルでのITマネジメントがきちんと機能していれば、発生が抑えられる課題が多いこともまた事実としてある。
 日々奮闘している現場の負担を減らし、プロジェクトを確実に成功させるためにも、現場の声をしっかりと聴き、グローバルITマネジメント改善に繋げていってほしい。

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