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LINE登録ユーザー数急伸とソーシャルメディアマーケティング活用

パートナー 山下 長幸
 

LINE登録者数の急増

図表1:LINE:ユーザー登録数推移
出所:NHNジャパンプレスリリース:http://lineblog.naver.jp/archives/18474843.html 別ウィンドウが開きます
図表2:LINE:5,000万ユーザー獲得日数

NHNジャパンにより運営されているLINEの登録者数が急増している。「LINE」は2011年6月23日、無料メッセンジャーソフトとしてサービス開始後、1年強の2012年9月30日時点で、登録ユーザー数が全世界6,500万人超、うち日本国内が3,000万人超となった。(図表1)日本発のインターネットサービスが急速にグローバル展開できたというのは画期的な事例である。

LINEによる5,000万ユーザー獲得を達成するのに要した期間は399日で、Twitterの1,096日、Facebookの1,325日と比較しても急速なペースで利用者を獲得した。(図表2)

このような状況を受けて、LINEはソーシャルメディアマーケティングの有力な媒体として一般企業から注目を集めつつある。

LINEとは

LINEはリアルな関係があるクローズなグループで会話が楽しめるスマートフォン向けの無料電話・無料メール等のコミュニケーションツールを基本コンセプトとして開発された。LINEはチャットやIP電話などパソコンにおけるインスタントメッセンジャー機能の要素がベースになっているが、インスタントメッセンジャーの仕組みを、これまでのパーソナルコンピュータベースのサービスに引きずられず、スマートフォンに特化・最適化した形でサービス設計し、さらに携帯電話メールにおける絵文字に似たスタンプ機能を充実させてコミュニケーション表現力を高めているところが、LINEの大きな特色となっている。

図表3:LINEの運営会社NHNジャパンの資本関係
出所:NTTデータ経営研究所作成

現在、LINEは、韓国検索サイト最大手のNHNの日本法人NHNジャパンによって運営されているが、LINEの運営会社NHNジャパンの資本関係は次のようになっている。NHN株式会社は、1999年6月創業で、韓国最大の検索サイトNAVERを運営し、韓国での検索サイトシェア8割を持ち、オンラインゲーム事業も運営している。NHNは、Next Human Networkの略称で、人と人とのコミュニケーションを促進することを社是としている。

LINEを最初に企画・構築したのは、NHN株式会社の子会社で2007年12月設立のネイバージャパンで、日本版ネット検索事業NAVERを運営していた。

現在、LINEを運営しているのは、NHN株式会社の子会社で2000年9月設立のNHNジャパンで、検索事業NAVER日本版を2001年に立ち上げるも2002年に撤退したが、2012年1月にネイバージャパンを吸収合併し、LINEの運営主体となった。2012年1月の従業員数は約1,000名である。(図表3)

LINE大躍進の要因スマートフォン向けに特化・最適化したサービス設計開発

図表4:スマートフォンの普及予測
出所:NTTデータ経営研究所にて作成
図表5:スマートフォンの強み
出所:NTTデータ経営研究所作成

米国アップル社によるスマートフォンiPhoneが、米国で2007年6月、日本では2008年7月に発売され、日米でスマートフォンブームが起きた。米国での発売から5年弱の2012年3月末時点での世界全体への累積出荷台数は2億1,600万台に達している。日本ではこれまで普及していたフィーチャーフォン(携帯電話)からスマートフォンへの移行が急速に進むことが予想されている。(図表4)

デスクトップパソコンは、ワープロ、表計算など文書処理、インターネットの利用、卓上印刷、キーボードとマウスを活用した操作など主として机上の情報処理として利用するものである。これに対して、スマートフォンは、端末を手軽に身につけて常に持ち歩け、タッチパネルで簡単に操作でき、人の全生活空間における活動を支援するなど、広大な実空間の多様な領域における情報処理として利用可能である。このようにスマートフォンによるモバイルコンピューティングは、パーソナルコンピュータにおけるデスクトップコンピューティングという限定された枠組みを大きく超えており、モバイルコンピューティングには大きな可能性が感じられる。(図表5)

企業の視点からは、スマートフォンは、個人が持ち運ぶ生活インフラとして高占有率のマーケティング媒体であり、口コミマーケティングなど各種マーケティングへの活用が可能となる。

スマートフォン向けに特化・最適化したサービス設計開発

電話帳の電話番号情報を友人・知人とのマッチング機能に利用

図表6:LINE大躍進の要因
出所:NTTデータ経営研究所にて作成

LINE大躍進の要因として、存在感を増しつつあるスマートフォン向けに特化・最適化したサービス設計開発が挙げられる。(図表6)

これまでもメッセンジャーサービスはSkypeなどが既に長年サービス提供しているが、インタフェースがパーソナルコンピュータの利用に適しており、必ずしもスマートフォン向けに使いやすいような設計がなされていなかったり、パーソナルコンピュータでは利用できる機能がスマートフォンでは利用できなかったりするなど、スマートフォンユーザーにとっては必ずしも使い勝手が良くない面がある。これまでパーソナルコンピュータベースの躍進してきたGoogleやFacebookもスマートフォン向けのサービス適合性を高める努力を進めているが、これまで構築してきたパーソナルコンピュータ向けのサービス設計スキームに縛られて、スマートフォン向けに改良することに苦労しているようである。

これに対して、LINEの企画開発チームは、パーソナルコンピュータ向けサービスをスマートフォンに向け改良するのではなく、スマートフォン向けに特化してゼロベースで考えてサービスの設計開発をしたことが功を奏したと考えられる。もともとLINEはスマートフォン向けにチャットやIP電話などの無料メッセンジャーソフトとしてサービスを設計開発したので、電話番号や電話帳を利用するという発想は自然な流れと言えるが、スマートフォンに登録している電話帳を友人・知人とのつながりに利用したことが、LINE大躍進の大きな要因であろう。このようにスマートフォンで電話をかけるための電話番号の情報を友人・知人とのマッチング機能を持たせるというパーソナルコンピュータベースのサービスにはない仕組みを企画・創造したことにより、登録ユーザーが急増したと考えられる。

簡便なユーザー登録手続きにより迅速にサービス利用が可能

多くパーソナルコンピュータ向けソーシャルネットワークサービスのユーザー登録プロセスは、メールアドレスを入力登録、登録サイトからのメールを受信し、そこに記載のURLにアクセスし、個人情報やID、パスワードの登録をするなど、かなり手間と時間がかかる。

LINEは電話接続またはSMSの送信でアカウントの登録ができ、利用開始までのハードルが非常に低い。LINEでは、スマートフォンの機能と特長を活かし、ボタンを押して電話をかけるか、SMSを送信してパスコードを入力するかのいずれかでユーザー登録が完了する簡単なユーザー登録の仕組みとなっている。LINEは従来のパーソナルコンピュータ向けソーシャルネットワークサービスにおける面倒なユーザー登録手続きを不採用とし、スマートフォンの機能と特長を活かして簡便なユーザー登録手続きとしたことも多くのユーザーを短期間で獲得できた要因の1つであろう。

そしてLINEによる電話番号ベースのユーザー登録スキームを採用したことにより、スマートフォンの電話・アドレス帳による友人・知人とのコミュニケーションを簡便に実現することができ、その結果ユーザー登録数が大きく伸びたと想定される。具体的には、登録ユーザーの同意を得たうえで、登録ユーザーのスマートフォンにある電話・アドレス帳の情報がLINEのサーバ上にアップロードされ、その電話・アドレス帳にある電話番号と、LINEに登録しているユーザーの電話番号をマッチングし、既にLINEに登録しているユーザーを「友だち」として簡便に登録できるというスキームである。これによりLINEを活用して即時に電話・メールを活用して友人・知人とコミュニケーションを取ることができる。

多くのパーソナルコンピュータ向けのソーシャルネットワークサ―ビスでは、自ら友人・知人を検索・登録する必要があるのに比べて、このLINEのマッチングサービスによる友人・知人登録スキームは非常に簡便であり、これが短期間でLINEが多くの登録ユーザーを獲得できた大きな要因であろう。このようにLINEのサービスは、誰でも、簡単に、すぐに使えることを徹底したサービス設計思想を採っている。

クローズドなコミュニケーション

Twitterなど一般的なソーシャルメットワークサービスではゆるいつながりの多数の人々と高頻度にコミュニケーションを取ることが多く、いわゆるソーシャルメディア疲れという状況が発生することもある。

LINEでは、スマートフォンの電話・アドレス帳によるリアルな人間関係をベースとしたコミュニケーションサイトなので、一般的なソーシャルネットワークサービスよりもクローズで、リアルで、濃密なソーシャルグラフを有していると考えられる。

Twitterなど一般的なソーシャルネットワークサービスでは、友人・知人を通じて多くの情報を取得することができるという長所もあるが、リアルな世界で必要とされる親密なコミュニケーションが取りにくい面もある。これに対してLINEは必要度の高い友人・知人とのクローズな世界での本音ベースでのコミュニケーションを取りやすいという仕組みになっているところが、登録ユーザーを大きく伸ばした要因の1つと考えられる。

LINEによる主な提供機能

コミュニケーション機能(1):無料電話

LINEの重要な機能の1つが無料電話機能である。これはスマートフォンの音声通話ではなく、パケット通信を利用したIP電話であり、LINEの登録ユーザー同士のみで利用可能である。LINEの登録ユーザー同士という限定された相手のみであるが、インターネットに接続できれば、世界中どこからでも無料通話ができる。このLINEの機能はユーザーから大変評価され、ユーザー数を大きく伸ばした要因の1つと考えられる。ちなみに電話通話は無料だが、パケット通信料金は通常のインターネット利用と同様に利用者負担である。インターネット接続料金を定額制に設定しているのであれば、LINEの利用による追加的な料金負担は発生しない。

コミュニケーション機能(2):トーク

トーク機能はLINEのサービス開始当初から提供されている無料メールサービスである。これは、パーソナルコンピュータで提供されているインスタントメッセンジャーに相当する機能で、特定の相手に対して文章等を入力すると、すぐにその相手にメッセージが届く。通常のPCベースの電子メールは受信というアクションをする必要があるが、トーク機能はそれよりも迅速なコミュニケーションのやり取りができる。トーク機能は一般のソーシャルネットワークサービスのようにコミュニケーションが一般に公開されることはなく、クローズな友人・知人間のみでリアルタイムのメッセージのやり取りができる。

コミュニケーション機能(3):スタンプ

LINEにおけるコミュニケーションの表現力を高める仕組みがスタンプ機能である。LINEの「スタンプ」は「トーク」の際に利用する。多種多様に用意されたキャラクター画像を文章の代わりに相手方に送信できる。日本においてはフィーチャーフォン(携帯電話)における絵文字に相当するものなので、慣れ親しんだ機能と言えるが、日本以外の多くの国々では目新しく楽しい機能と受け止められ、LINEが登録ユーザー数を大きく伸ばした要因の1つと考えられる。

フィーチャーフォン(携帯電話)における絵文字と比べて、「スタンプ」はサイズがかなり大きく、ブラウン、コニー、ムーンやジェームズなどキャラクターの表現が豊かで、コミュニケーションを取る際に簡便かつ効果的な表現ができることから人気となっている。プリインストールされたスタンプだけでなく、LINEスタンプショップからさまざまな種類の有料スタンプを購入し、トークに利用することができる。最近では、LINE公式アカウントを開設した企業がLINE内で広告宣伝をする場合、その企業や商品のキャラクターなどを用いたスタンプをキャンペーンとして無料で配布することもある。

ソーシャルネットワーキング機能強化:ホームとタイムライン

LINEでは無料電話やトークなどのコミュニケーション機能に加えて、LINEの友だち同士で情報を共有するソーシャルネットワーキング機能も強化しつつある。

「ホーム」はFacebookにおけるマイページのような感じで、自身のホーム画面を示し、カバー写真を設定したり、文章・写真・位置情報などを活用して自分の近況を伝えたりする機能である。友人・知人の「ホーム」ページに掲載されている写真などに、コメントを書き入れたり、「スタンプ」を付けることもできる。

「タイムライン」は、LINEでつながっている友人・知人の「ホーム」で更新された近況を、タイムライン形式で一覧できる機能である。Twitterのタイムラインに近い感じだが、文章だけでなく、「スタンプ」を活用することによりタイムラインに表示された友人・知人の「ホーム」での投稿に対して簡便に気持ちを表現することもできる。

「ホーム」と「タイムライン」の両機能は 後述の「LINE Channel」と連携しており、ユーザーがLINE Channelで利用したサービスの利用履歴がホームやタイムラインに表示される。これまでのLINEが持つリアルタイムなコミュニケーションに加え、これらは、ソーシャルネットワーキング機能を提供していると言える。

LINE運営サイドとしては、LINEの基本はあくまでコミュニケーション機能なので、ソーシャルネットワーク機能を主役にするような機能・サービス設計をする方針ではないようである。

コンテンツ提供プラットフォーム機能:LINE Channel

「LINE Channel」は、パートナー企業と共に、ゲーム、クーポン、占いなどのさまざまなコンテンツを提供するプラットフォームであり、今後もその機能強化を目指している。現状ではLINEのAPIは公開されておらず、限定されたパートナー企業とLINEとで共同開発している。現状では、クーポンに関してはリクルートをパートナーとしてホットペッパーのコンテンツを提供、トークノベルに関しては、講談社をコンテンツパートナーとし第一弾の「リフレイン」は20万人の読者を獲得した。ソーシャルゲームに関しては、LINEゲームという名称で続々と投入予定である。このようなLINE Channelで提供される有料コンテンツを購入するために、「LINE コイン」という仮想通貨を提供している。

図表7:LINEによる主な提供機能
出所:NTTデータ経営研究所にて作成
表8:LINE公式アカウント:友だち数順ランキング
出所:ガイアックスソーシャルメディアラボ http://gaiax-socialmedialab.jp/line/146 別ウィンドウが開きます
2012年8月末時点データ
図表9:日本語Facebook企業ページ年間ランキング
図表10:Twitter企業・ブランド フォロワー数ランキング
出所:Facebook:http://facebook.boo.jp/2011-facebook-ranking-top 別ウィンドウが開きます
2012年9月1日時点

このようにLINEはLINE Channelをベースに、内製アプリを投入するとともに、いずれはFacebookなどのようにAPIを公開してさまざまなアプリベンダーを呼び込み、アプリケーションを充実させる段階に移行することにより、登録ユーザーへの課金、プラットフォーム利用課金を収益源とするビジネスモデルを構築するのではないかと考えられる。

このようなソーシャルネットワークサービスにおける内製アプリによるユーザー課金やプラットフォーム課金ビジネスモデルは、日本では、GREEやMobageが携帯電話を活用したビジネスモデルとして構築し顕著な業績を上げている。LINEはこのような日本における携帯電話におけるビジネスモデルの経験・実績を活かし、スマートフォンに応用し、フロントランナーとしての地位を築きつつある。(図表7)

マーケティングプラットフォームとしてのLINE:公式アカウント

2012年6月、LINEでは、企業がLINEをマーケティング媒体として活用するため企業向けに「LINE公式アカウント」の提供が開始された。日本コカ・コーラ、ローソン、すき家、ZIP!、Music Loversなどが公式アカウントを開設した。LINEの登録ユーザーは、これらの企業公式アカウントを「友だち追加」することにより、これらの企業からキャンペーン・クーポン・商品・サービス情報などを受信することができる。逆に言えば、企業は友だち追加して頂いたLINE登録ユーザーに対して、直接、種々のメッセージを送信することができる。

2012年8月末時点において、LINE公式アカウントにおける友だち数は上位企業では、1位:ローソン:322万人、2位:コカ・コーラ:232万人などと100万人単位となっている。(図表8:2012年8月末)これに対して、Facebookファン数上位企業では、1位:ANA:32万人、2位:JAL:22万人など(図表9:2011年末)、Twitterフォロワー数上位企業では、1位:スターバックスコーヒー:28万人、
2位:ZOZOTOWN:27万人など(図表10:2012年9月1日時点)、10万人単位で、LINE公式アカウントにおける友だち数上位企業では、Facebookファン数上位企業やTwitterフォロワー数上位企業より1ケタ多い数となっている。

これは登録ユーザーが企業と「友だち」関係というコンセプトが登録ユーザーに幅広く受け入れられたことや企業によるキャンペーン情報などがクローズで親密なソーシャルグラフのもと広がったことがその要因として考えられる。公式アカウントを開設している企業はまだ少なく、友だち登録先企業として選ばれやすかったという要因もあったのかもしれない。いずれにせよ100万人単位の友だち獲得が可能と言うのは、企業にとっては非常に有力なマーケティング媒体だと言える。

2012年9月終わりから10月初めにおける企業LINE公式アカウントのキャンペーン事例は以下のとおりである。

コカ・コーラ
・爽健美茶ナチュラルパーカープレゼントキャンペーン(新色カーキ色)

資生堂 ワタシプラス
・ワタシプラスポイント対象店または資生堂オンラインポイントショップでのお買い物で、ポイント還元率が一律10%アップ

すき家
・すき家のクーポン デミハンバーグ・おろしバーグ定食50円引き。

g.u.
・フェイクレザーコンビポンチョの商品紹介。

現状、企業から送信されてくるメッセージは、企業と登録ユーザーの「友だち」という関係を意識してか、ビジネス的な堅苦しい文体ではなく、絵文字を多用した友だち感覚の柔らかいトーンを意識した文体となっている。内容的には、現状では、プレゼントキャンペーン、割引クーポンや新商品・サービス情報などシンプルな広告宣伝が多い。今後、企業と登録ユーザーとの「友だち」という関係を前提としたマーケティングにおける内容、手段、表現について試行錯誤を経て確立されていくのであろう。

図表11:マーケティングプラットフォームとしてのLINE:公式アカウント
出所:NTTデータ経営研究所にて作成
図表12:マーケティングプラットフォームとしてのLINEの方向性
出所:NTTデータ経営研究所作成

Facebookなどにおける企業公式ページは無料開設することができるので、大手企業から個人事業主まで多数の企業が公式ページを開設している。これに対してLINEの場合は有料開設となっており、2012年6月時点では、LINE公式アカウントは初期費用200万円、月額150万円からで、スポンサードスタンプ1,000万円となっている。LINE公式アカウントの初年度費用は、最低でも2,000万円となるので、現状ではそれなりの費用負担体力のある企業による取り組みとなるであろう。LINEとしても、ソーシャルメディアマーケティングのプラットフォームのビジネスモデルを試行錯誤し構築するため、相当の本気度で取り組んでくれる企業と協業したいという感じなのであろう。(図表11)

LINEは、FacebookやTwitterに比べて友だち数が限定的な場合が多いと考えられ、情報の拡散力という観点からは強いものではないと想定される。しかし、LINEのソーシャルグラフはリアルで強固な関係の場合が多いと考えられ、FacebookやTwitterに比べて伝達されてきた情報への信頼度は相対的には高いと言えそうで、その特長を活かしたマーケティング手法の開発が望まれる。また、スマートフォン利用者が多いユーザー特性を活用して、インターネットからリアル店舗への誘導(O2O:Online to Offline)手法の高度化も期待される。

LINEによるこれらのソーシャルメディアマーケティング手法が構築・高度化されれば、APIを公開し、中小企業も含めたもっと多数の企業が参加できるマーケティングプラットフォームを構築でき、プラットフォーム課金という収益源を確立できるものと想定される。(図表12)

LINEのビジネスモデル(収益モデル)

一般的なSNSのビジネスモデル

図表13:SNSのビジネスモデル
出所:NTTデータ経営研究所作成

SNSのビジネスモデルとしては、大きく3つのモデルがある。(図表13)
第1は、広告モデルで、広告主からのバナー広告、行動ターゲティング広告などの出稿料を収益源としている。広告収入は登録ユーザーの視聴数などに依存するため、広告収入で事業を成り立たせるにはそれなりの規模での登録ユーザー数を獲得することが必須である。Facebook やmixi が主力の収益モデルとしているものである。
第2はユーザー課金モデルで、内訳として2つのタイプがある。1つ目は自社提供サービス型でSNSサイト自身が提供するアプリサービス等に対し、サービス利用料という形で利用者に対して直接課金し、収入源とするものである。SNSは全般的に無料という意識がユーザーに強いため、ユーザー課金から収益を上げることは難しいとされているが、日本のGREEやMobage(DeNA)による自社提供サービスでのユーザー課金モデルの成功は世界的にも注目を浴びている。

ユーザー課金モデルの2つ目のタイプは、プラットフォーム提供型でサードパーティ・デベロッパーのSNS利用者向けアプリのプラットフォーム利用手数料を収入源するものである。例えば、企業が製品販売促進のためのゲームアプリをアップし、そのプラットフォーム利用対価を企業から得るという方式である。

第3のその他のモデルとしては、データ提供型で利用者が生成する大量のCGM(Consumer Generated Media)データを提携している検索エンジン企業へ提供する提携売上を収入源とするもので、Twitterが主力の収益モデルとしているものである。さらには、他サイト誘導・連動型SNSから他サイトへの誘導により収益を上げるモデルなどもある。

日本における主要SNS3社の業績

図表14:日本におけるSNSの特徴:主要3社の業績
出所:各社の決算報告書データをもとに、NTTデータ経営研究所にて作成

mixi、GREE、DeNAの日系SNS主要3社の業績であるが、まず特筆すべきは経常利益率の高さである。GREEが51.8% 、DeNAが43.0%と驚異の高さである。製造業のような製品原価率が高くないので、損益分岐点を超えて売上が大きく伸びるとその分はほとんどが利益という感じである。mixiは15.8%と他の2社と比べると見劣りはするが、それでも一般的な製造業と比べるとかなり高い利益率となっている。(図表14:左グラフ)

GREE、DeNAとmixiの経常利益率の差異は、フィーチャーフォン(携帯電話)におけるソーシャルゲーム課金収益の差と考えられる。DeNAは「怪盗ロワイヤル」、GREEは「釣りスタ☆」に代表される大ヒット自社ゲームを保有・展開している。これに対してmixiはサードパーティ・デベロッパーに対するプラットフォームサービスに徹(てっ)していて、自社ゲームを保有していない。

GREE、DeNAにおける自社ソーシャルゲームの運営ノウハウはかなり高度なものがあり、ゲーム参加者を飽きさせないチャレンジ度合いレベルの設定、ゲーム参加者が難しくてもあきらめてしまわないような容易さレベルの設定など、ゲームを投入後も日々少しずつゲーム内容にチューニングをかけるなど、ゲーム参加者を楽しませるノウハウが非常に優れているため、自社提供ゲームでの収益性が高いという結果を残していると言われている。(図表14:右グラフ)

LINEのビジネスモデル(収益モデル)

LINEの経営陣の方々も、mixi、GREE、DeNAの日系SNS主要3社のビジネスモデルや業績動向はご存じであろうから、LINEのビジネスモデル構築にあたって、当然、参考とされていることであろう。

現状では、既にLINEゲームというブランドネームで自社提供ゲームを供給したり、占いなどの自社提供アプリを提供したり、「スタンプ」の販売など、ユーザー課金モデルを展開しはじめており、今後はゲームやアプリのさらなる展開やノウハウの高度化が求められるものと考えられる。

プラットフォーム課金に関しては、まだ、API公開をしてゲームベンダー、アプリベンダー、ネット販売会社などを広く募る状況には至っていないが、限定的な協力ベンダーとの試行錯誤を経て、プラットフォーム課金のビジネスモデルの確立も視野に入っているであろう。現時点でも、有料コンテンツを購入するための仮想通貨「LINEコイン」を利用した決済スキームは既に導入済みである。さらに、LINEシークレットセールの公式アカウントを「友だち追加」したユーザー限定で、商品の詳細や販売開始日時、購入ページのURLなど特別なセール情報を入手することができるなどネット通販にも取り組みを開始した。このようにLINEでは プラットフォームビジネスモデル構築に向かって着々と手が打たれはじめている。

広告収入モデルに関しても、現状では、限定された企業との協業での試行錯誤を経たのち、ソーシャルメディアマーケティングノウハウを構築して、幅広い企業による広告・PR活動を収益源する方向に向かうことも想定される。

スマートフォンにおけるプラットフォーム市場・ソーシャルアプリ市場をめぐる市場競争

スマートフォンの急速な普及で、主要プレーヤーがスマートフォンにおけるプラットフォーム市場・ソーシャルアプリ市場をめぐって現在激戦を繰り広げている。

PCベースのソーシャルネットワークのプラットフォームに強みを持つFacebookは、スマートフォンにおけるソーシャルネットワークのプラットフォーム提供にも注力している。Facebook上でのソーシャルゲームで収益を上げている米国ゲームベンダーであるZyngaはスマートフォンにおけるソーシャルゲーム提供にも注力している。この2社は既にグローバル展開の実績があることも強みであろう。

他方、日本国内メインでフィーチャーフォン(携帯電話)を主力にソーシャルネットワークのプラットフォームおよびソーシャルゲームを提供しているGREE、Mobage(DeNA)は、日本国内でのスマートフォンへの展開のみならず、グローバル展開にも注力している。フィーチャーフォン(携帯電話)で培った高度なソーシャルゲーム運営ノウハウをグローバル市場でのスマートフォンでも発揮しようとしている。

スマートフォンに関しては、iPhone・iPadではアップル App Store、GoogleによるAndroid Market(Google Play)のアプリマーケットプレイスがプラットフォーム機能を果たしている。

図表15:スマートフォンにおけるプラットフォーム市場・ソーシャルアプリ市場
出所:NTTデータ経営研究所にて作成

このようにスマートフォンの普及拡大に伴い、各種関連グローバルプレーヤーによるスマートフォン関連のプラットフォーム市場・ソーシャルアプリ市場への参入が相次ぎ、競争が激化している。(図表15)

このような状況の下、NHNジャパンによるLINEが彗星(すいせい)のごとくスマートフォンマーケットの有力プレーヤーとして出現し、その輝きを増している。日本国内だけではなく、サービス開始当初からグローバルに登録ユーザーを獲得できているところは素晴らしいものがある。栄枯盛衰の激しいソーシャルネットワークサービス業界であるが、日本発のSNSグローバル企業として発展して頂きたいものである。

企業の視点としては、このようなLINEを活用したソーシャルメディアマーケティング手法を開発・発展させ、日本のみならずグローバル顧客とのリレーション構築による業績向上を図っていくことを期待したい。

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