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顧客ロイヤルティとマネジメント 第2回

顧客ロイヤルティに向けた組織活動
~営業に求められる機能~

『情報未来』No.39より

情報戦略コンサルティング本部
アソシエイトパートナー 四條 亨

ロイヤル顧客への働きかけ

 先日ある企業のCIOの方に話を伺った際に、自覚されてはいなかったものの、取引先の企業にロイヤルティを持った要因に触れられていたことが興味深かった。

 ある方は何年も前の難しい取り組みについて、多大な努力と能力を傾注して素晴らしい成果をあげたと思い出を語られた。これは、ある種の「カストマー・ディライトネス」の経験から、その企業のファンになったことを物語っている。その後はすべての取り組みで同様の成果が上がったわけではないにもかかわらず、経験効果が残存してその企業へのロイヤルティをお持ちになっていたのである。

 また別の方は、社を挙げた大きな取り組みについて、継続的に常に高い品質で完遂していることを極めて高く評価されていた。当然投資費用も大きかったとのことであるが、チャレンジングな取り組みを高い質で成し遂げ続けていることが、信頼の源であり、だからこそ今後も依頼し続けたいとのことであった。

 前回触れたように、ロイヤル顧客になってほしい顧客企業を選び、様々な働きかけを行い(この中に難しい取り組みを多大な労力や最新技術を駆使して完遂する等も入ってくる)、それらの「何か」が寄与して、顧客企業が深い関係性意識とロイヤルティを持つに至るというプロセスと想定している。ここで挙げた事例は、高満足度とも言えるが、ファンになってもらうためには常時満足を獲得すればよいとか、顧客を驚かせる経験を提供できればよいと単純化することはできないだろう。しかし何らかの契機や感応をもって、顧客がファン化するという様相からは、満足を得ることは当然のこととして、顧客組織(構成する個々人)に向けて不断の働きかけを行う必要があると言えるだろう。

良好な関係性の上にあるロイヤルティ

 筆者は顧客ロイヤルティについて、あくまでも満足を基本に関係性が深化するなど、ファン化していくことと見ている。しかし満足度とは独立に、ロイヤルティは顧客の購買(使用)継続や再購買である、という見方をすることもできる。その場合は、満足や関係性とは関係なく顧客を囲い込み、逃げないことがロイヤルティを持っていることになる。

 ただし、消費財やサービス財も含まれているそのような見地からは、製品サービスが競争的か否かによって、満足度とロイヤルティの関係が変わる。代替する製品サービスが少ない(ロックイン含む)場合では、上に凸になる。逆に代替する製品サービスが多く競争が厳しいため、高い満足を感じない限りは再購買(再利用)しないような製品サービスは、下に凸になっている※1(図表1)。

※1 T.O.Jones & W.E.Sassar,Jr. Why Satisfied Customers Defect, HBR,Nov-Dec.1995

図表1:競争状況と顧客満足、顧客維持

図表1:競争状況と顧客満足、顧客維持

出所:T.O.Jones & W.E.Sassar,Jr.(1995)※1を元に筆者作成

 ロイヤルティを継続/再購買でみれば、戦略的に代替製品サービスを使えないようにできれば(例えばスイッチングコストを高くする、サービスや利用契約を長期化して縛るなど)、満足度が低くとも高いロイヤルティ(継続)が見込まれることになってしまう。仮に代替製品サービスが使えないことで(已むなく)継続している状態も、ロイヤルティがあるというならば、新たな代替製品サービスの出現や顧客サイドの断念(判断)一つで、その結び付きは切れてしまう「ドライ」なものであることになる。

 しかしここでは、顧客からの判断として、自社と深く付き合いたいと考えてもらえる良好な関係性をロイヤルティの基本としたい。

 多くの企業はこのような良好な関係性を指向されるであろうが、マネジメントの現場実態としては、必ずしもその指向が反映されているとは言い難い。それは、営業に代表される顧客接点での対応の仕方が、組織的ではなく、営業部門や担当者に一任されていることが多いからである。

営業機能が抱える矛盾

 昨今は投資支出が抑制されているため、モノやサービスが売れにくくなっている。それに対して営業部門や担当に向けて、経営数値上の要請として売上ノルマを課しつつ、顧客の満足やロイヤルティを得るべき顧客最適な活動を行うように、との矛盾を含んだ指示が出されていることが多い。また資本財では顧客数が限られることから、AO(アカウントオフィサー)、RM(リレーションシップマネジャー)などの名称で、個別顧客への対応を一元化する組織を構築していることが多い。そこでは次のような問題が見受けられることがある。

ロイヤル顧客の選定
 相対している顧客がロイヤル顧客足りうるか、という選定自体を見直すことが難しい。生産財では長い取引のある顧客は、継続的に大きな取引を行っていることが多いため結果として、現在の取引規模やこれまでの取引期間を基準として、ロイヤル顧客の選定がなされてしまうことになる。相手の顧客企業は、良好な関係性ではなく、大口顧客としての交渉力によって価格交渉がしやすいことで自社を選択しているのかもしれない。また、そもそもロイヤルティ指向を持たない可能性もある。

 さらに、自社の製品市場(顧客)に関する政策を変更する際にも、規模をもってなし崩し的に既存の位置づけが維持されてしまうこともあり得る。これらは政策がうまく進まない要因になり得る。

②現場判断による実態肯定
 なし崩し的な判断が生じやすいのは、顧客選定を現場(顧客やノルマを抱えている)で行わせている場合である。企業組織としての政策論であるにもかかわらず、その判断を分権的に現場判断に依存する。現場はノルマがあるなど短期的な数値成果を求められているのだから、顧客の見直しといった判断を自主的には行い難いはずである。相対して苦楽を共にしている顧客を選択しないことはできない、という心情もあろう。これでは組織としての意思決定はできない。

③顧客ロイヤルティよりは、短期成果を求めた案件営業になりがち
 取り組み案件ごとの満足度や驚きがあるような成果経験などがロイヤルティに結び付くことがある一方で、営業の評価の中心は短期的な数値成果であることがほとんどである。その結果、理屈を理解していても、目先の案件受注を優先しそれを何とかこなすことに傾注しがちである。そのため、個人として顧客ロイヤルティに寄与する行動をさらに求められても、何をどのようにしていけばよいのか、実感を持ちにくいはずである。

顧客ロイヤルティのための営業機能

 端的には、顧客ロイヤルティを意識した営業機能に求められるのは、顧客に向けた問題解決と関係性構築、自社組織においては組織的な営業によって個人営業の矛盾を超えることであると考えている。

 そのため、顧客対応の最適化とノルマの両方を担当が抱えている矛盾から解放することを意図して、ノルマによる成果主義を外すというマネジメントの仕組みを構築したことがある。つまり顧客対応の最適化を営業行動の目的としたのである。顧客の問題解決を具体的に進めたものが個別の案件になっていくのであり、その受注に際しても「顧客の意思決定(プロセス)」の進捗を支援することに徹したのである※2

※2 西村&四條によるSIMAC.営業マネジメントの革新.(c1990-2005)に基づく。成果数値については、営業担当には課さず、マトリクス組織におけるプロダクトマネジャーとマーケットマネジャーに負わせることによって、営業機能の責務と製品/顧客軸からの機能の責務を峻別した。このマネジメントの具体的な取組み方については別途触れることとしたい。

顧客に資する案件選択
 この仕組みは、顧客の抱える(特に潜在的)問題の解決を優先することを狙っている。ともすれば、自社(営業担当)にとって金額が大きく、継続案件など技術や業務上のリスクが低いとみなした案件を選択してしまうことを変えていくことにつながる。受注金額が大きくとも、既往のテーマ案件は低利益かもしれない※3。また顧客にとって抱える大きな問題の解決がリスクを伴う場合は、本来はロイヤルティを持っている相手と共に解決したいであろう。仮にそのような難問は上手く解決しきれなくとも納得するかもしれない。上手くいけば冒頭の事例のように、顧客の満足とロイヤルティが飛躍的に高まる可能性を持っている。

※3 サプライヤと顧客の間で、取り上げる業務テーマへの既知/未知の組合わせを考えれば、既存案件は双方にとって既知になる。そのため技術革新対応などがない場合は、リスクプレミアムや付加価値が(少)ないため、利益性が低い可能性がある。

 しかし低リスクで額が大きな案件を優先して取ろうとする行動は、このような顧客の考えには最適ではない。顧客もそのような言動を冷静に見ている可能性があるため、良好な関係性は継続しなくなるであろう。

②自社の優位性の明確化
 かつて建設系の企業の営業マネジメント変革に関わった際に、大口顧客からの案件は、声かけされたものにすべて対応していることを問題視したことがある。どのようなテーマ案件を受注するかは、政策判断である。そのため自社の能力が活かせ(顧客に価値提供でき)、収益が確保できそうであり、案件として手戻りなく進められるなどの条件を付して、案件選択を行う仕組みを提案した。結果として、収益性を改善し、顧客企業からの信頼も厚くすることができた。自社としての優位性を打ち出せるテーマ内容を明確にして顧客に伝え、提供価値に適った案件選択をすることがカギである※4

※4 ナラヤンダスの指摘によれば、ロイヤルカスタマーを維持するには、自社が提供する「無形の非経済的優位性」を顧客企業に正しく伝達することが大事であるD.Narayandas, Building Loyalty in Business Markets, HBR, Sep.2005

③顧客内の対応すべき範囲の広がり
 生産財のうちでも、特に投資支出が大きい資本財では、本来は組織的な購買意思決定が行われている。それにも拘らず営業担当の活動は、探った「キーパーソン」を押さえればよいというアプローチが多いように見受けられる。そのキーパーソンは、対応窓口の役割を果たすゲートキーパーの場合がほとんどである。

 顧客が組織的な購買を行う際には、「購買センター」が形成される※5。購買センターは、

  1. 使用者:製品サービスの使用者は仕様決めや購買を要求するなど
  2. ゲートキーパー:情報の流入をコントロールする
  3. 影響者:技術や品質などの評価を通じて、購買決定に影響を与える
  4. 決定者:実質的に購買を決定する
  5. 購買者:業者選定をし納入手続きを実施する

※5 西村&四條,の上記の仕組み(c1990-2005)においては、F.E.ウェブスターの購買センター概念に準拠して、ここに示したような5区分を用いることが多い。

 これらは案件の規模や性格によって、誰が相当するかが変わってくる。また顧客の購買プロセスの段階に応じて、果たす役割が異なっている。したがって、顧客企業の満足を踏まえてロイヤルティを得るためには、これらの役割機能の構成メンバから、納得感を得ることが求められることになる。つまり営業担当者がゲートキーパー(例えば情報システムであれば、情報システム部門の然るべき立場の方が多い)だけにフォーカスすることは、顧客組織からの満足/ロイヤルティ獲得には不十分であることになる。顧客への不断の働きかけは、顧客組織に対して漠然と行われるものではなく、担っている役割機能に応じて、求められる対応を行うことが重要になる。

組織としてロイヤルティを得る活動

 このように営業を中心とする顧客接点のロイヤルティへの影響を考えると、これらを営業担当者ないしは営業チームのみで担うことは困難であることがわかるであろう。案件だけではなく、顧客内の印象形成を含めて、あらゆる顧客接点でのロイヤルティを意識した活動も必要になる。

 例えば上記の意思決定者については、多くの場合然るべき役職の方であるため、自社の役員が折に触れてコミュニケーションを取っておく対象であろう。また使用者や評価者については、日常的な接点は予め持ちにくいケースが多いと思われる。それに対して例えば、自社のエンジニアが必要な段階で、顧客企業の使用者や評価者に適確な対応をすることが、奏功することは少なくないのである。

 次回はこのような仕組みのマネジメントのあり方、さらには組織としてのロイヤルティ活動について、さらに深掘りをしていきたいと考 えている。

【第1回】顧客ロイヤルティとマネジメント
【第2回】顧客ロイヤルティに向けた組織活動~営業に求められる機能~
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