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企業に広がる柔軟な働き方:東日本大震災後のワークスタイル変革

ワークスタイル変革研究ワーキンググループ
シニアスペシャリスト
小豆川 裕子
シニアマネージャー 加藤 真由美
マネージャー 吉識 宗佳
シニアコンサルタント 大林 勇人
『情報未来』No.37より

はじめに

3.11の東日本大震災の発生、その後の計画停電、そして今夏の政府や電力会社からの節電、電力削減への要請によって、企業はこれまでにない勢いでテレワークをはじめとする柔軟なワークスタイルに取り組みはじめている。

 

NTTデータ経営研究所 ワークスタイル変革研究ワーキンググループ(WG)は、2011年6月、1,015社に勤務する正社員(従業員規模30名以上、1社1名)を対象に「東日本大震災後と柔軟なワークスタイル」に関する調査を実施した(gooリサーチとの共同調査(※1)による)。

本稿では、この調査結果を中心に、柔軟なワークスタイルの実態やニーズ、今夏の電力削減や今後の震災の備えに向けた企業の施策等を踏まえ、ワークスタイル変革をめぐる今後のあり方について検討したい。

※1:「東日本大震災後と柔軟なワークスタイル」の調査概要は以下のとおり。
(1)調査対象:gooリサーチ登録モニター (2)調査方法:非公開型インターネットアンケート (3)調査期間:2011年6月9日~2011年6月13日 (4)有効回答者数:1,015人 (5)標本設計:30人以上の従業員規模の企業に勤務する社員(社長・役員除く)。 政府・地方公共団体・各種法人・団体、農林・漁業等を除く1社1名のみ抽出。従業員規模30人以上-300人未満、300人以上1,000人未満、1,000人以上5,000人未満、5,000人以上を各1/4ずつに割付け。※なお、職種は「販売(店舗内、事業所内)」「生産・製造」「受付・窓口」「工事・施工」を除外、調査エリアは、被災地エリア(岩手県/宮城県/福島県)を除外した。

柔軟なワークスタイル実践の意義:持続可能な個人・企業・社会に向けて

図表1:柔軟なワークスタイルの実践の意義
出所:NTT データ経営研究所にて作成

柔軟なワークスタイルの代表格、テレワーク(※2)に関しては、これまでも官民でさまざまな取り組みが行われてきたが、総務省の「通信利用動向調査」(従業員規模100人以上)によると、テレワークを導入している企業の割合は、2008年末15.7%、2009年末19.0%、2010年末12.1%とやや減少傾向を示しており、普及が進んでいるとは言えない状況であった。

図表1は、柔軟なワークスタイルを実践する意義と柔軟なワークスタイル(例)を整理したものである。

今般の震災を受けて特に顕在化しているのは、「持続可能な個人・企業・社会」に対する強い関心である。企業は社員の安全・安心を確保した上で「個人の豊かな生活」を実現し、「社会課題への対応」、「企業の存続・成長」と3つの対応策にバランスよく取り組んでいく必要がある。

「個人の豊かな生活」は、「社会課題への対応」、「企業の存続・成長」の基盤となる。そのため、一人ひとりの個人に対して防災、減災に対する意識づけを行うとともに、個人を守る現実的な仕組みづくりが求められる。震災直後の計画停電は、平常時の交通ダイヤの正確さや緻密さが、我々の日常生活にとっていかにストレスがなく、ありがたいサービスであるかを感じさせた。さらに連日の余震が続く状況下で、家族や職場の同僚、友人の安否確認や、絆の大切さを改めて実感した人もいただろう。

続いて大幅な電力削減を中心とする「社会課題への対応」である。ITを活用したワークスタイルについてはこれまでも少子高齢社会への対応、地域での雇用創出、地域活性化策としてその可能性が指摘されてきた。また後述するグリーンITによるCO2削減効果も引き続き期待されている。これらに加えて今夏の節電、電力削減の要請を、どのようなワークスタイルで乗り切るか、さまざまな取り組みが行われている。

さらに事業継続性の確保をはじめとした「企業の存続・成長」に対する取り組みも活発である。今回の大震災によって、我々は自然災害が事業存続に大きな危機をもたらしうることを、まざまざと思い知らされた。リスクマネジメントを徹底するとともに社員をプロ集団化し、コスト削減や業務プロセスの改革の徹底が求められる。

それでは、東日本大震災前後の状況について、まずはテレワークの実施状況からみていきたい。

※2:在宅勤務をはじめとする「ICT(情報通信技術)を活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」とする。モバイルワークやサテライトオフィス勤務等も含む。

テレワークの実施状況(3.11震災前~発生から1カ月以降)

勤務先企業のテレワークの実施状況についてテレワークの開始時期を、「震災以前」、「震災直後(発生から1カ月位まで)」、「震災後(発生から1カ月位以降)」の3つの期間別に分類して尋ねた(図表2 上)。

図表2:テレワークの実施率、実施状況と必要性
出所:NTT データ経営研究所にて作成

その結果、震災以前から制度を整備して、テレワークを実施している企業は10.6%、上司や個人の裁量で実施している企業は3.2%と、合わせた実施率は13.8%であった。

テレワークの実施率は、震災直後から徐々に増加し、「震災直後(発生から1カ月位まで)」に実施した割合は合計で3.8%、「震災後1カ月以降から」実施した割合は同2.5%となり、合わせたテレワーク実施率は2割に達した。

従業員規模が大きくなるほど実施率は高く、500人以上の企業では2割を超え、5,000人以上の企業は3割弱(28.0%)を占める。

業種別では通信・メディア業(40.4%)、コンピュータ・情報サービス業(33.0%)で高く、製造業(21.8%)、流通・商業(20.2%)でも2割を超えている。また、外資系企業は45.0%と日系企業の13.1%を大きく上回っている。なお、震災以前から実施している外資系企業は約3割であった。

震災直後の計画停電や交通混雑などの状況下におけるテレワークの実施状況については、「全く支障なく実施できた」(19.7%)と「ほとんど支障なく実施できた」(51.7%)を合わせた割合は7割を超えている(図表2 下)。震災以前からすでに実施していた企業において、「支障なく実施できた」と回答した割合はより高く、平常時にテレワークを実施することが、震災等の有事に有効に役立つことが示唆される。

一方、テレワークが実施できなかった理由は、「通信回線がうまくつながらなかった」が最も多く4割以上を占め(45.1%)、次いで「停電していた」が4割弱(37.3%)と続く(図表省略)。

さらに、夏場の節電、ピーク時の電力削減や今後の震災への備えとして、テレワークなど柔軟なワークスタイルを実施する必要性について尋ねたところ、「必要性を非常に感じる」(10.1%)、「必要性をまあ感じる」(42.1%)を合わせた割合は5割を超えた。「必要性を感じる」割合は5,000人以上の企業では6割を超え、外資系企業においても6割以上(61.4%)が「必要性を感じる」と回答。さらにテレワーク実施企業では75.9%を占め、テレワーク未実施企業の46.3%を大きく上回った。

図表3は、夏場に向けた各社の柔軟なワークスタイルの事例である。これらをみると、震災前からテレワークを制度として導入している企業が中心となっており、対象者の拡大や規程の緩和などの取り組みがみられる。そして、テレワークは単独実施するのではなく、スーパークールビズをはじめとして、輪番休業やオフィス閉鎖、フリーアドレスなどと組み合わせて行う傾向がみられる。

図表3:夏場に向けた各社の柔軟なワークスタイルの事例(敬称略、50音順)
企業名 特徴
NTT(持株会社) スタッフ部門約300名が毎日在宅勤務を実施。夏期期間中の半日在宅勤務。始業時間を1時間早め、フロア単位で午前、午後の在宅勤務。
NTTコミュニケーションズ 事業継続上の核要員(最大1,000名)に対し、クラウドのデスクトップ、仮想化サービス、WEB会議サービス等を活用した在宅勤務を実施。約85,000名に拡大予定。
NTTデータ 夏季連続休暇の奨励、空調温度28度、LED導入。オフィスの輪番操業(週1回かつ1週間連続のフロア不使用)。すでに実施している在宅勤務制度を、新入社員等に対象者を拡大。実施日(上限月8回)の一時的緩和を実施。
KDDI 在宅勤務とサマータイムを組み合わせて始業時間を1-2時間早め、午後は在宅勤務を実施。終日在宅勤務を含め、本社ビル4,500名の4割に導入。
ソフトバンクグループ 7月~9月22日まで、3,000人規模で社員が交代で在宅勤務やサマータイム勤務を実施。オフィスの30%を閉鎖。在宅勤務を実現するシステムは、仮想デスクトップサービス「ホワイトクラウドデスクトップサービス」を利用。
帝人 東京本社、東京電力管内の事業所・研究所の全職員(約2,000名)を対象にテレワーク勤務を拡大。
日本IBM 7月よりオフィスの一部を閉鎖。もともと導入していたフリーアドレス制で対応。自宅勤務の同僚とはテレビ会議やチャットで会話が可能。5月よりスーパークールビズも導入。
日本オラクル 日常的に運用している在宅勤務制度を活用。場所に依存しないデスクトップ環境。
日本HP 東京電力管内の本社や主要拠点対象に、在宅勤務制度の回数制限(週2回、月8回)を取り払い在宅勤務制度を拡充。情報セキュリティ管理のもとで、自宅以外の勤務場所も可能。ポロシャツ、ウォーキングシューズなどスーパークールビズを導入。
日本マクドナルド 7月より本社勤務の約6割の社員に週1回以上の在宅勤務を許可。PCの自宅持ち帰りとともに電話会議なども実施。
日本ユニシス 全社員を対象に、リモートアクセス用のUSB型認証キーを配布し、テレワーク環境を整備。
パナソニック 全国17拠点に設けられたスポットオフィスの利用、自宅・出張先等の場所と時間を問わないWeb会議を利用。
日立 7月から9月まで東京電力と東北電力管内で休日輪番、夏季休暇の分散を実施。総合職に限定していた在宅勤務制度の対象を社員全体に拡大。1日単位から取得できる育児・介護休職制度など、既存の各種制度の積極的な活用を推進。
ファイザー 社ビル2,200名を対象。7月から9月22日の毎日、輪番でフロアを一部閉鎖。当該フロア社員は在宅勤務を実施。その他19時退社を徹底してオフィススペースの使用を禁止。会議室の利用を18時以降禁止。ポロシャツやチノパンなどオフィス・ドレスコードを緩和。
三井金属 本社オフィスの社員対象に、今夏のピーク電力25%削減を目標に、長期の一斉休暇を実施。その他の期間は本社を5ブロックにわけ、週3日程度、空調を輪番で停止。その間本社内フリースペース、サテライトオフィス、在宅勤務でトライアルを実施。スーパークールビズも実施。
出所:総務省、日本テレワーク協会など各種公開資料等によりNTTデータ経営研究所にて作成

テレワークの効用実感、災害時の遂行方法は、実施してはじめて確認できる。まだ着手していない企業は早急にリモートでの執務環境を整備し、テレワーク実施の試行を行うことが求められよう。

夏場の電力削減策におけるワークスタイル変革の役割


東日本大震災と福島第一原子力発電所事故に伴い、2011年夏期は節電が必須の状況となっている。東京電力・東北電力管内では、7~9月の平日9時から20時に電力需要抑制率15%が目標とされている。また電力抑制量の目標は大口需要家・小口需要家・家庭部門等の区別なく設定されている (経済産業省「夏期の電力需給対策について」)。

社会における省エネを促進する上で、昨今「グリーンIT」の重要性が指摘されている。グリーンIT推進協議会は、社会においてITを活用することによる省エネ(「グリーンby IT」)のポテンシャルを試算し、貢献ポテンシャルが極めて大きいと指摘している(「グリーンIT推進協議会調査分析委員会報告書」2009年度版、2010年度版)。そして、IT活用の具体例としてテレワークによる省エネポテンシャルの性質を調べ、(1)テレワーク導入による省エネ効果を顕在化するためには、オフィス使用面積の削減等の追加施策が必要な場合がありうること、(2)テレワーク導入に伴うエネルギー消費量の増減には空間的広がりがあり、ある場所で削減される一方で、別の場所では増加する場合もあること、などを示している。

そこで、夏場の節電対策検討状況と、テレワーク等柔軟なワークスタイルが関係する施策の役割、それらがどのような形で実際の節電に結びついているかを分析した。

まず、東京電力・東北電力管内に事業所を持つ企業にこの夏の節電目標と施策の検討状況を尋ねた。全社的な節電目標の分布をみると、「10%以上15%未満」(27.5%)、「15%以上20%未満」(37.6%)が多く、6割以上の企業が15%前後の節電を目標としていた(図表省略)。

節電目標や施策の検討状況には従業員規模による差が大きくみられ、従業員数5,000人以上の企業では節電目標10%以上の企業数が88.2%となるのに対し、従業員数が99人以下の企業では節電目標10%以下の企業が半数を超えている。節電対策と節電効果の検討状況についても従業員数が少ない企業では、取り組みの遅れが見られている。

 

図表4:夏場に向けて設定したオフィスの節電目標と従業員減少率、使用フロア削減率
出所:NTT データ経営研究所にて作成
図表5:夏場の節電、ピーク時の電力削減対策の検討状況
出所:NTT データ経営研究所にて作成

次に、オフィスにおける節電目標、節電施策を実施した時に期待されるオフィス使用面積の削減量、オフィスで勤務する従業員の減少量を、テレワーク実施企業・未実施企業とで比較した(図表4)。

節電目標については、実施企業のほうが削減率の高い企業の割合が高い。オフィス使用面積とオフィスで勤務する従業員数は、「減少しない」とする回答が最多であるが、これは働き方の変更を伴わない空調設定の変更や省エネ機器の導入が施策として最も多いためである(後述。図表5)。テレワーク実施企業と未実施企業の比較では、実施企業は減少率が高い傾向がみられる。

さらに、各カテゴリーで中央値を仮定して、節電目標、オフィス使用面積の削減量、勤務従業員数の減少量の平均値を計算したところ、節電目標については、テレワーク未実施企業が約12%に対し実施企業で約17%、オフィス使用面積削減量については、テレワーク未実施企業で約2%に対し実施企業で約7%、勤務従業員数減少量については、テレワーク未実施企業で約7%に対し実施企業で約12%と、いずれも5%程度の差がみられる。テレワーク実施企業では、勤務従業員数が減少しオフィス使用面積が削減されることが、より高い節電目標につながっていると考えられる。

さらに具体的な節電施策について、全体、テレワーク実施企業、未実施企業でそれぞれの検討状況をみた(図表5)。

全体、テレワーク実施企業と未実施企業のいずれにおいても、実施率が最も高いのは「クールビズの導入・拡充」、続いて「所定外労働の削減の徹底」である。「省電力機器・設備の拡充」では、テレワーク実施企業、未実施企業で差は見られない。

しかし、働き方の変更を伴う対策の多くの検討率に大きな差がみられる。「テレワーク実施の導入・拡充」は当然だが、例えば「サマータイム制等の導入」(実施19.7%、未実施8.5%)、「オフィスの部分的閉鎖」(実施17.7%、未実施6.4%)など、勤務時間や勤務場所の柔軟化が必要な対策でテレワーク実施企業の検討率が特に高く現れている。

このことは、テレワーク導入の有無と働き方の変更を伴う施策の導入しやすさに強い関連があることを示唆している。

以上の結果から、テレワークがより高い節電目標検討に寄与している構造を推測することができる。節電目標として取り組みやすい「クールビズの浸透(おそらく空調設定の変更)」、「残業削減」「照明の間引き、省エネ機器への更新」等の施策は、テレワークの実施・未実施にかかわらず広く検討されている。テレワーク実施企業では、さらに、業種等の特性を考慮した上で勤務時間や休日のシフトを伴う施策を追加し、オフィススペースの使用面積削減を通して5%程度の削減目標積み増しを検討していると考えられる。

言いかえると、テレワークが可能にする柔軟な働き方は、企業が多様な選択肢から節電施策を選び、より高い節電目標を検討することを可能ならしめていると考えられる。

柔軟なワークスタイル実現に有効なITの活用策

テレワークをはじめとする柔軟なワークスタイルを実現するためには、ITの活用が重要な鍵となることは言をまたない。図表6は、柔軟なワークスタイル実現に資すると考えられるIT関連施策の実施率を横軸に、施策の有効性(「非常に有効である」と「まあ有効である」を合計した比率)を縦軸にとって双方の関係を示したものである。概(おおむ)ね実施率が高い施策は有効性も高い傾向がある。特に「オフィスのペーパーレス化」、「知識・情報共有(ナレッジマネジメント等)の仕組みおよび環境の整備」、「社員の所在(安否)確認システム、プレゼンス管理など勤務状況確認の仕組みおよび環境の整備」、「テレビ会議、WEB会議、電話会議等の利用」については、実施率、有効性ともに全施策の平均値を大きく上回っている。

 

IT関連施策の実施状況について、テレワーク実施企業と、未実施企業で比較すると、全体的にみて実施率が高い施策としては「テレビ会議、WEB会議、電話会議等の利用」(テレワーク実施企業69.5%、未実施企業41.6%)、「社員の所在(安否)確認システム、プレゼンス管理など勤務状況確認の仕組みおよび環境の整備」(同57.1%、29.3%)、「知識・情報共有(ナレッジマネジメント等)の仕組みおよび環境の整備」(同54.7%、28.7%)、「オフィスのペーパーレス化」(同51.2%、36.9%)とすべての施策において、テレワーク実施企業が未実施企業を大幅に上回っている。加えて実施状況の差が目立った施策は、「テレワーク等を開始・拡充するための情報セキュリティ関連のポリシー、ルール等の見直し」(40.9ポイント(※3))、「会社が準備したPC、携帯端末、ネットワーク回線等を利用した自席以外(サテライトオフィス、自宅等)での勤務」(35.3ポイント)という結果も得られている。

さらにテレワーク実施企業について日系・外資系企業別に施策の実施状況を分析したところ、多くの施策において、外資系企業が日系企業を大幅に上回っている。特に外資系企業で実施率が上回っている施策は、「メッセンジャー・チャットツールの利用」(34.4ポイント)、「テレビ会議、WEB会議、電話会議等の利用」(26.1ポイント)、「スマートフォン、タブレット端末、スレート端末等、多様なIT機器の利用」(22.5ポイント)、「個人所有のPC、携帯端末、ネットワーク回線等を利用した自席以外(サテライトオフィス、自宅等)での勤務」(21.3ポイント)であった。

図表6:施策の実施率と有効性 (N=1,015)
出所:NTT データ経営研究所にて作成

個人所有のIT機器・インフラを用いるワークスタイルについては、昨今、外資系企業を中心に、「BYOD(Bring Your Own Device)」が提唱され日本においても今夏以降の節電対策にも有効な施策の一つとして、急速に注目を集めている。(※4)

 

実際にこれらの施策とともに以前からテレワークを実施している企業では、今回の震災に際しても社員の安全を確保する形での業務継続を実現し、施策の有効性を確認している。例えば、日本ユニシスはBCPとワーク・ライフ・バランスの観点で、普段からネット経由で業務が可能なテレワーク環境を構築していたため、震災後も全社員9,600人のうち、約1,700人がテレワークで業務を継続したとのことである(日本経済新聞2011年5月11日朝刊)。また、製薬会社のノバルティスファーマのように、2009年から、医療関係者の問い合わせに対応するコールセンターのオペレーターを対象に在宅勤務が可能な制度を導入していたところ、震災後の3月に首都圏で実施された大規模計画停電の際にも、震災絡みで急増した問い合わせに通常通りに対応したといった事例も存在する(日経情報ストラテジー 事例データベース)。

他方で、「テレワーク等を開始・拡充するための情報セキュリティ関連のポリシー、ルール等の見直し」の有効性については4施策と同様であるが、実施率については全施策平均を下回っており、実施の困難さがうかがえる。

さらに、柔軟なワークスタイル実現のための課題としては、「施策費用の確保」、「施策推進するための知識、技術をもった人員の不足」、「情報の漏えい、改ざんリスクへの不安」が挙がっており、関連ソリューションの充実や人材育成が望まれると言えよう。

※3:「テレワーク実施企業の施策実施割合 ― テレワーク未実施企業の施策実施割合」で評価した。
※4:例えば『日経コンピュータ』2011年6月23日号では「私物解禁!今夏を乗り切る『一石五鳥』の情報化」といった特集が組まれ、BYODの最新動向・事例、メリット、導入する際の注意点などが掲載されている。

柔軟なワークスタイル実現に向けて求められる組織環境

柔軟なワークスタイル実現に向けて必要と考えられる組織環境について、設定した8項目(その他を含む)の中から1位~3位で優先順位を尋ねたところ、全体で最も優先順位が高い項目は、「会社と社員が相互に信頼し、社員同士も支えあう組織文化を創る」で、1位~3位に挙げた割合を合計すると6割を占めた(63.9%)(図表省略)。

続いて「震災を機に、働き方や休暇の取得(ワーク・ライフ・バランス)など、仕事と生活全般のあり方を見直す機運を高め、環境整備を行う」(同57.1%)、「都市や地域を問わず、自分が住みたい地域で暮らし、仕事ができるしくみ・環境づくりを行う」(同47.4%)と続いた。さらに、テレワーク実施企業では「雇用という形態に捉われず、IT活用等により個人のスキルと仕事を柔軟にマッチングできる環境を整備する」において、4割を超えている(同43.8%)。

テレワーク実施企業を柔軟なワークスタイルの先進企業とするならば、先進企業では、個人のスキルと仕事をマッチングする環境の整備や、雇用形態に捉われない自由で柔軟な企業と個人の関係構築に対するニーズが顕在化しているとも言えよう。

今回調査は柔軟なワークスタイルを実現するために必要な組織環境について尋ねたものではあるが、これらの結果からみると、会社の求心力を高めるために柔軟なワークスタイルを構築していくという考え方も成り立つのではないかと思われる。

柔軟なワークスタイル実現に向けて求められる社員のスキル・能力

一方、柔軟なワークスタイル実現には、組織環境の整備だけでなく個人のスキル・能力も求められる。

さまざまなスキル・能力を表す9項目(その他を含む)について、あてはまる項目をすべて挙げてもらったところ、全体では「指示がなくても自律的に動ける力」(62.7%)が最も支持率が高く、次いで「自分一人でタイムマネジメントができる力」(50.4%)、「主体的に周囲に働きかけ、仕事を進めることができる業務遂行力」(43.9%)が上位を占めた(図表7)。

図表7:柔軟なワークスタイル実現に向けて求められる個人のスキル・能力
出所:NTT データ経営研究所にて作成

さらに、管理職(事業部長、部長、課長 N=323)と非管理職(係長、主任、一般社員 N=658)、テレワーク実施企業(N=203)と未実施企業(N=812)で分けてみると、双方「指示がなくても自律的に動ける力」は6割を超え、特に、テレワーク実施企業は、68.5%を占めている。

管理職と一般職の差が現れる項目として「管理職のマネジメントスキル」が挙げられる。管理職がこれを挙げた割合は、45.5%であり、一般職の39.2%を大きく超えている。管理職を細分化してみると、特に事業部長・部長クラスにおいて、52.3%がこれを支持している(図表省略)。

ここで、「指示がなくても自律的に動ける力」を育成するフレームとして、目標設定でよく使われる「SMART」を紹介したい。

Specific 具体的、かつ
Measurable 測定可能で
Action-oriented 行動を促し
Relevant 意味があり、
Time limited 明確な達成期限がある

管理職のマネジメントスキルは、部下一人ひとりに「SMART」な目標を設定することで、指示がなくても自律的に動ける優秀な人材を確保でき、組織がプロ集団化しうるのではないかと考えられる。

図表7において、テレワーク実施企業で「多様なメディアを活用できるITリテラシー」を挙げた割合は4割を超える(40.9%)。それ以外の項目でも、テレワーク実施企業は全体的にあてはまるとした割合が高い。テレワークを実施する上では、高い個人のスキルが求められることを実感している結果と言える。テレワークを推進するためには、いわゆるプロとしての姿勢が問われていると言っても過言ではない。つまり、テレワークを推進することで、社員に対してより個人のスキルの重要性を問い、会社も社員も互いに信頼しあい、自律した良い関係が結べるのかもしれない。

調査結果と考察を踏まえた提言

以上の調査結果と考察を踏まえ、ワークスタイル変革についての提言を以下にまとめる。

1.平常時のテレワークの有効性を確認し、「テレワーク」の導入とさらなる拡充を

テレワークはここ数年、ワーク・ライフ・バランスの施策として、あるいはCO2削減による地球温暖化への対応として、その意義が提唱されてきた。一昨年からは新型インフルエンザの流行などパンデミック対策、企業の危機管理策としての側面が確認されつつあった。しかしながら日本におけるテレワークは、普及が進んでいない状況が続いている。

今回調査によって、東日本大震災後、企業におけるテレワークの実施率が徐々に増加していること、また、計画停電による交通混乱等の状況のなかで、震災直後にテレワークを実施していた企業で「テレワークを支障なく実施できた」割合は7割を超えることが確認された。特に震災以前から実施していた企業において「支障なく実施できた」割合はより高い。また、半数以上が柔軟なワークスタイルの必要性を支持している。さらに、夏場の電力削減に向けて、すでにテレワーク環境を整備している企業は、対象者の拡大や規程の見直しなど、大胆な施策に取り組んでいる。

平常時にテレワークを実施することが、震災等の有事に実際に役立つことが明らかになっており、BCPの備えの一環として、テレワークの導入・拡充を一層すすめることが求められる。

2.注目される、テレワークのさまざまなワークスタイル変革の牽引機能

テレワーク実施企業の節電目標は未実施企業と比較して高く、節電施策を実施した際に予想されるオフィス使用面積の削減量、オフィスで勤務する従業員の減少量もともに高いことが確認された。

また、テレワーク実施企業は、サマータイムなど出社、退社を早める勤務時間のシフトや、オフィスの部分的閉鎖、フリーアドレスなど、働き方のさまざまな変革に着手できている。言いかえると、テレワークの実施によって、企業は多様な選択肢から節電施策を選択し、より高い節電目標の達成を可能ならしめていると考えられる。

3.IT利活用の次なるステージの萌芽:企業のワークスタイル変革の挑戦を後押しする関連ソリューション・サービスの改善と普及を

柔軟なワークスタイル実現に向けて「テレビ会議、WEB会議、電話会議等の利用」、「社員の所在(安否)確認システム、プレゼンス管理など勤務状況確認の仕組みおよび環境の整備」、「知識・情報共有(ナレッジマネジメント等)の仕組みおよび環境の整備」、「オフィスのペーパーレス化」は、企業における実施率が高く、その有効性が高く評価されているソリューション・サービスである。

また、外資系企業は日系企業と比較して特に「メッセンジャー・チャットツール」、「テレビ会議、WEB会議、電話会議等」、「スマートフォン、タブレット端末、スレート端末等」、「個人所有のPC等を利用した自席以外(サテライトオフィス、自宅等)での勤務」の実施率が高い。昨今、外資系企業では、「BYOD(Bring Your Own Device)」が提唱され、セキュリティ・情報管理を徹底した上での、私物のITデバイス・インフラの活用が進んでいる。個人が使いなれた機器の利用により企業は追加投資が軽減できるとともに、より高い生産性が期待できる。一方、「施策費用の確保」、「施策推進のための人員の不足」、「情報漏えい、改ざんリスクへの不安」は未だ大きな課題である。

関連ソリューション・サービス提供企業は、導入しやすい価格設定と製品・サービスの改善によって、企業におけるワークスタイル変革への挑戦を強く後押ししていくことが求められる。

4.ワークスタイル変革の必要条件:個人の自律とITリテラシー

柔軟なワークスタイル実現に向けて、求められる個人のスキル・能力として、「指示がなくても自律的に動ける力」、「自分一人でタイムマネジメントができる力」、「主体的に周囲に働きかけ、仕事を進めることができる業務遂行力」が上位を占めた。テレワーク実施企業では特に「多様なメディアを活用できるITリテラシー」を挙げる割合が高い。個人は、仕事の進め方に関する意識・行動を見直すとともに、ITリテラシーをさらに磨き、知識の習得やスキル強化を行っていくことが重要である。

5.求められる、会社と社員の相互信頼、社員同士の相互支援の組織づくり

柔軟なワークスタイル実現に向けての組織環境として最も重要性が支持されたのは、「会社と社員が相互に信頼し、社員同士も支えあう組織文化の創造」であった。

ITを活用し、働く場所や時間が自由に選択できる環境下では、ともすれば、個人の自己管理能力、個人のパフォーマンスだけが注目され、会社と社員、社員同士の関係が軽視されがちである。

一方、東日本大震災を機に、我々は「つながる価値」を改めて実感している。会社と社員が相互に信頼し、社員同士は相互に尊重しつつ、自分の役割を超えて、支え、学びあうことが組織のパワーにつながっていくことは間違いない。トップ層、管理職層の率先した意識づけ、組織文化の創造とともに、これらの信頼や相互支援を実現する制度、仕組みづくりが求められる。

(参考文献)

さらに詳しい調査結果(分析結果)は、当社Webサイトをご覧ください。

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