「いま」を大切にして「働きがい」を高める
~社員が「働きがい」を感じ、メンタルヘルスに好影響をもたらす組織づくり~
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1.はじめに
2010年11月、株式会社NTTデータ経営研究所は、NTTレゾナント株式会社が提供する「gooリサーチ」登録モニター(1,013名)を対象に、「働きがいに関する意識調査」を実施した。
昨今の厳しい市場環境の中で、どのような要因が「働きがい」に最も影響を与えるのか、この3年間ではどの程度変動があったのかを明らかにし、働きがいを高めるための方向性を探るべく、「働きがいの現状と、働きがいを高める要因/阻害する要因」、「3年前と比べた働きがいの変化とその要因」、「心の疲弊感の現状と、働きがいの関係」を中心に行った。
本稿では、性別-年代-役職別にこれらを分析し、組織と個人がどのような考え方や姿勢で臨むと「働きがい」を感じ、「心の疲弊感」を取り除くことができるかを考察していく。
2.結果分析
2-1 「働きがい」の現状
現在、「働きがい」を感じている人は、52.4%(「感じている」「やや感じている」を併せて肯定評価。以下、同じ)。
男女差はあまりない(52.8%、51.2%)が、年代別、役職別でみると、年齢や役職が上がるにつれ「働きがい」を感じる人が多くなっている。一般社員クラスで「働きがい」を感じている人が44.9%に対して、事業部長・部長クラスになると75.2%の人が「働きがい」を感じている。
2-2 「働きがい」に影響を与える要因
「現在働きがいを感じていますか」との質問に対し、「感じている」、「やや感じている」と回答した人を「働きがいを感じているグループ」とし、「感じていない」、「あまり感じていない」と回答した人を「働きがいを感じていないグループ」として、各グループにおいて、当社で独自に設定した「働きがいに関する20の質問項目」に対する回答結果を分析した。
各グループにおいて、「働きがいに関する20の質問項目」に対して肯定的な回答をした人(「感じている」、「やや感じている」と回答した人を合計)の割合を示している。
結果として、働きがいを感じているグループの方が、すべての項目において30ポイント以上高く、「働きがいに関する20の質問項目」はいずれも「働きがい」と深い関係があることを示している。
20項目を分類してみると、おおむね「仕事⇒職場⇒上司⇒会社」の要因順で「働きがい」に影響を与えていることがわかる。
図表2:働きがいに関する20の質問項目への回答結果
出所:NTT データ経営研究所にて作成
※働きがいを「感じているグループ」(N=531)-「感じていないグループ」(N=482)の差によるランキング |
2-3 「働きがい」の変化
3年前と比較して、全体で3割(31.0%)が「変化をしていない」と回答している。
働きがいが「高まった」「やや高まった」と回答しているのは、22.5%であるに対して、「やや低くなった」「低くなった」は、44.8%に達している。中でも、係長・主任クラスは50.2%が「やや低くなった」「低くなった」と回答している。事業部長・部長クラスでも、33.3%が「やや低くなった」「低くなった」と回答している。
2-4 「働きがい」が高まった要因
3年前と比較して、「働きがい」が高まったと答えた228名にその要因を聞くと、「今の仕事は、自分の適性に合っていると感じている」(適応感)を挙げた人が50.9%と最も多い(「感じている」「やや感じている」を併せて肯定評価。以下、同じ)。そして、成長実感(43.9%)、仕事の価値の実感(41.2%)、力の発揮(38.6%)と続く。
年代別にみると、20歳代で「働きがい」が高まったと回答した人は、「今の仕事を通じて、成長していると感じている」(成長実感)を挙げた人が53.8%に達する。
役職別では、課長クラスは「適応感」を感じて「働きがい」が高まった人が67.6%に達する。
2-5 「働きがい」を阻害する要因
3年前と比較して、「働きがい」が低くなったと答えた454名にその要因を聞くと、「会社の将来性が感じられなくなった」(会社の将来性)を挙げる人が42.7%と最も多い(「感じている」「やや感じている」を併せて肯定評価。以下、同じ)。そして、「達成感」(33.3%)、「社内でのキャリアイメージ」(25.6%)、「力の発揮」(24.2%)と続く。
年代別にみると、20歳代で「働きがい」が低くなったと回答した人のうち、54.5%が「会社の将来性」を挙げている。次いで「今の会社で、将来のキャリアイメージを描けると感じられない」(社内でのキャリアイメージ)を挙げる人が45.5%に達している。
事業部長・部長クラスでも「働きがい」が低くなったと回答した人のうち53.8%は、「会社の将来性」を挙げている。課長クラスは、「今の仕事を通じて、達成感を感じられない」(達成感)を挙げる人が41.5%に達し、「会社の将来性」を理由に挙げる人(38.5%)を上回っている。
2-6 「心の疲弊感」の現状
現在、心が疲れて弱っている状態を示す「心の疲弊感」を感じている人は、69.7%(「感じている」「やや感じている」を併せて肯定評価。以下、同じ)。
年代別にみると、20歳代は「心の疲弊感」を感じている人は76.6%に達し、50歳代は59.1%にとどまっている。
役職別では、係長・主任クラス以下の役職では3割近くが「心の疲弊感」を「感じている」(ここでは、「やや感じている」は除いて記述)と回答しているのに対して、課長以上になると2割を下回っている。
2-7 「心の疲弊感」と「働きがい」との関係
「心の疲弊感」と「働きがい」の関係をみると、回答者の約2割(21.9%)が「心の疲弊感」を(あまり)感じず、「働きがい」を(やや)感じていると回答している。
一方で、「働きがい」を(あまり)感じず、「心の疲弊感」を(やや)感じていると回答した人は、約4割(39.3%)に達している。
3. 調査結果からの考察 ~「いま」を大切にした健康で活力のある職場づくりが組織をよみがえらせる~
働きがいに影響を与える要因順として、おおむね「仕事⇒職場⇒上司⇒会社」であることがわかった。そして、「働きがい」を得るためには、価値ある仕事で力を発揮し、成長実感を得るとともに達成感や適応感を体得することが重要であることが明確になった。
さらに、3年前と比較した問いに対しては、「働きがい」が低くなった要因として、「会社の将来性」、「社内でのキャリアイメージ」が挙げられている。特に20歳代は、3年前と比較して「働きがい」が低くなったと答えた回答者の54.5%が「会社の将来性」を、45.5%が「社内でのキャリアイメージ」を挙げている。
「会社の将来性」を全く心配しなくてもよい会社に勤めることは、変化の激しい現代を生きる私たちには難しい。
将来を杞憂するよりも、「いま」をみつめて自分の力が発揮できるよう自ら考え抜き、適応感を高めることが、「働きがい」を高める近道と言える。
これは、組織パフォーマンスを上げるためには、個人の仕事の志向に沿った環境や機会を提供するインフラ整備を行い、管理者はこのインフラをうまく使いこなす重要性を意図している。つまり、職場で互いに仕事の価値や互いの力(知識、意識、スキル)を共有・承認(アクノレッジ)し、「“自分は”、“自分たちは”、いま何をしたいか」を率直に話し合い、「仕事」の価値や自らの成長が実感できるような環境づくりが、「働きがい」を高めるインフラとなることを意味している。
そして、「仕事」の価値や自らの成長が実感できる組織では、組織パフォーマンスが高まるだろう。組織パフォーマンスが高まれば、達成感や適応感も高まるだろう。達成感や適応感が高まれば、「働きがい」も高まるだろう。
こうした流れが、「働きがい」を生みだすメカニズムであり、好循環組織であると言える。
次に、心が疲れて弱っている状態を示す「心の疲弊感」と「働きがい」との関係をみると、約2割(21.9%)の回答者が「心の疲弊感」を(あまり)感じず、「働きがい」を(やや)感じており、いわゆる「良好な状態」であることがわかった。一方で、「働きがい」を(あまり)感じず、「心の疲弊感」を(やや)感じているといった、いわゆる「注意を要する状態」にある人は、約4割(39.3%)に達していることがわかった。
年齢や役職が高くなると、「働きがい」が高まり、「心の疲弊感」を感じる割合も少なくなっていることから、若手を中心とした早急な手当てが急がれる。
まずは、管理者が互いの力(知識、意識、スキル)の見える化を行うとともに、社員が「仕事、上司、職場、会社」に対してどのように感じているかを定点観測・分析し、すぐにできる打ち手は講じていく必要がある。実行に際してのポイントは、「仕事」の価値や自らの成長がタイムリーに実感できるようなタイムリーな承認(アクノレッジ)である。
このような「いま」を大切にした健康で活力のある職場づくりが、組織パフォーマンスを高め、「働きがい」を感じ、メンタルヘルスにも好影響をもたらすと筆者は考える。
最後に、『フロー・カンパニー』(ビジネス社 2008)の著者、辻 秀一氏が著書の中で教示している思考法を紹介する。-----夢中になってそのことにのめり込んでいる状態、精神的に極めて充実し、楽しくて仕方がないという時間を過ごすことが可能になり、パフォーマンスも向上し結果が得られる状態をフローな状態とし、このフローな状態になるための思考法である。
※5つのフローな思考法になるためのポイント
- いまに生きる思考
- 好きを大事にする思考
- 一生懸命を楽しむ思考
- 変化を重んじる思考
- 自分に素直な思考
以上