企業内SNSの利用状況と効果をめぐって
~NTTデータのケースを中心に
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はじめに
図表1:企業のソーシャルテクノロジーの活用状況
出所:総務省「平成20 年通信利用動向調査」(企業調査)
図表2:CGM への取り組みに関する企業の意識
出所:日本情報処理開発協会「企業IT 利活用動向調査2009」 |
ソーシャルテクノロジーやCGMと呼ばれるSNS、ブログが企業に普及してきた(※1)。その活用の目的・期待は大きく(1)マーケティング革新、(2)組織革新の2つに分けられる。前者は消費者との新たな接点構築による商品開発、販促プロモーション、後者は拠点・地域・国をまたがる組織の一体感づくり、組織活性化などである。
本稿では企業内SNSの動向をみるとともに2006年から導入しているNTTデータにおける企業内SNSの利用状況等の分析結果の一部を紹介し、その有効性や課題を検討する。
ソーシャルテクノロジーの活用動向
企業のビジネスブログ・SNSの開設率をみると、2007年末は6.8%、2008年末は10.5%と増加しており、サービス業で多いのが特徴である(図表1)。
企業のCGMの取り組みについては、「企業として取り組むことが当たり前のことになる」(28.8%)、「その取り組みをするかどうかで、今後、企業の事業活動に大きな違いがみられるようになる」(25.8%)と回答する企業は5割を超え、企業が事業活動の戦略ツールとして位置づけはじめていることがわかる(図表2)。
特に最近ではコミュニケーション活性化、組織革新のツールとして企業内SNSの導入が相次いでいる。オフィスの分散化、勤務時間のシフト制、採用形態、雇用形態など、1つの組織であっても各社員の勤務条件やバックグラウンドが多様化しており、つながり・絆づくり、気づき・知識・情報交換の場となっている(図表3)。
図表3:企業内SNSの導入事例
出所:各種公開資料等により筆者作成 |
企業内SNSには、プロフィール、仲間リスト、Know Who検索、日記、コミュニティ、メッセージ、新着通知などの機能が備えられており、ユーザーは日々新たな発見や感動を経験している。
NTTデータの企業内SNS
NTTデータでは、行動改革の一環として「セクショナリズムの壁」の打破を目的に、2006年4月より企業内SNS「Nexti」を稼動させている。2010年6月14日現在では、登録者数8,427名、グループ会社を合わせると11,003名となっている。
以降は企業内SNSの4年間の利用状況の推移、ユーザー特性からみた個人・組織のメンタリティ、企業内SNSの有効性としてパフォーマンスや満足度等に対する影響分析の一部をご紹介する(※2)。
企業内SNSの利用状況の推移
2009年度(2009年12月)における企業内SNSの利用は、Highユーザー(週に1回以上)は5.6%、Lowユーザー(月に3回以下)は61.6%で利用率は約7割を占める。利用の推移を回答カテゴリーをスコア化した平均でみると全体的に低下傾向にあり、2009年度と2006年度ではマイナス0.15ポイント低下している(※3)。
性別にみると、2009年度では男性の方が女性よりもHighユーザー、非ユーザーの占める割合が高い。平均スコアでみると、女性の方がスコアは高いが3年間の低下傾向が顕著である。
年代別にみると、2009年度ではHighユーザーは40代、30代、Lowユーザーは20代、非ユーザーは50代以上で高い。4年間の推移をみると相対的に20代の低下がみられる一方、40代、50代が上昇している。
その他、採用形態別ではHighユーザーと非ユーザーにおいて中途が新卒よりも高い。職位別ではHighユーザーは課長、部長以上の占める割合で高く、部長以上は2006年度との比較でも上昇傾向を示す。職種別ではHighユーザーは研究開発、スタッフで高く、非ユーザーは運用保全、開発で高い。4年間の推移をみると、営業の利用率の低下が顕著である(図表4)。
図表4:企業内SNSの利用状況
出所:各種公開資料等により筆者作成 |
企業内SNSのユーザー特性からみたメンタリティの特徴
それではユーザー特性別にメンタリティの特徴があるのだろうか。
個人・組織の状況として設定したメンタリティの項目のうち、分析に適切な項目を選定して因子分析を行った結果、「コラボレーション・ダイバシティ実践」「チャレンジ志向・組織コミットメント」「ストレスフリー」「リフレッシュ・サポート」「処遇・制度等受容性」の5つの因子が抽出された(図表5)。
図表5:企業内SNSのユーザー特性からみた個人・組織のメンタリティの特徴
出所:NTTデータ社員満足度調査(2009年度)を元に筆者分析 |
Highユーザーは、「ストレスフリー」「チャレンジ志向・組織コミットメント」因子に特にプラスに反応しており、「コラボレーション・ダイバシティ実践」に対しても同様である。LowユーザーはHighユーザーほどではないが「チャレンジ志向・組織コミットメント」「コラボレーション・ダイバシティ実践」因子にプラスに反応し、「処遇・制度等受容性」因子に対してもプラスである。一方傾向は著しくないがHighユーザーは「リフレッシュ・サポート」「処遇・制度等受容性」因子にややマイナスの反応を示している。全般的に非ユーザーはマイナスの反応傾向を示している。
パフォーマンスや満足度に対する効果
企業内SNSの利用がパフォーマンス(結果評価+能力評価)と、仕事満足感、成長感、会社満足感、勤続意向に対して効果を持っているのか否かを分析した結果を図表6に示す(※4)。
図表6:企業内SNSの効果
出所:NTTデータ社員満足度調査(2009年度)を元に筆者分析 |
Highユーザーは、仕事満足感、成長感、会社満足感、勤続意向にプラスの反応を示している。また、頻度がやや低下するLowユーザーは、パフォーマンス、仕事満足感、成長感に対してプラスの効果がある。利用頻度は個人の職務や環境に依存すると考えられるが、いつでも利用可能な環境が重要であり、個人にとっての仕事や組織の価値を高めていく装置として企業内SNSが一定の役割を果たしつつあることが推察される。
おわりに
商用SNSのユーザーは一般的に若年層だといわれている。本分析の範囲では、企業内SNSは40代、30代、管理職という、組織の中核層で良く利用される傾向にある。このことは組織の規範やルールを体得し、ある程度の仕事上の知識や経験があるユーザーがSNSの知識・情報共有の価値や発信効果を実感し、よく利用している様子がうかがえる。一方、全体的な利用低下については、セキュリティチェック等アクセス上の制約もさることながら、SNSのステージが導入、成長期を過ぎて成熟期にさしかかっていることが考えられる。戦略ツールとしての活用を強化していくためには、なんらかのリニューアル施策が必要であろう。また、企業内SNSの利用は、個人・組織のメンタリティとして相互尊重・相互支援や協働の意識が関連している。
最近ではTwitter、AR(拡張現実)など、より臨場感、場所を越えたつながり感の創出や軽快な瞬時のやりとりを可能にするツールの活用も広がりつつある。今回の分析によって、企業内SNSの利用とパフォーマンスや満足度、一種の帰属意識の促進・醸成の効果が観察された。今後は、ツールの活用形態や阻害要因、メンバー間の知識・流通の実態などを把握し、組織革新に向けての効果的な運用を進めていくことが求められよう。
(参考文献)
- 総務省(2009)「平成20年通信利用動向調査」(企業調査)
- 日本情報処理開発協会「企業IT利活用動向調査2009」
- Nexti運営メンバー有志「NTTデータ流ソーシャルテクノロジー『発信』『気づき』『つながり』で組織の壁を打ち破る」リックテレコム2010
- 小豆川裕子「企業内SNSのユーザー特性に関する一考察」人工知能学会第六回知識流通ネットワーク研究会