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IT投資マネジメントのススメ

マネージャー 永田 憲次郎
『情報未来』No.36より

 

インターネットの普及に伴い電子メールやWWWが浸透し、ERP/SCM/CRMに代表される業務電子化が進み始めた時代を思い返すと、ITがもたらす効果が明解かつ確度が高いゆえ、投資対効果が取りざたされることも少なかったと言える。

これに対して、生活上のあらゆるシーンにITが関与している現在、ITの重要性が認知される一方で、IT基盤の整備が一通り行き届いた結果、さらなる情報化の方向性が非常に難しくなってきているものと考えられる。
基本的には、さらに高度なシステムを求めるか既存システムの維持更新かが大きな道筋であるが、いずれにしても効果が見えづらくなってきていることに間違いはない。また、折からの不況によりIT投資そのものが抑制傾向にあることもあり、IT投資をきちんとマネジメントすることにより、限られた資源を最大限に活用しようとするニーズが強まっているものと考えることができる。

そこで本稿では、このIT投資マネジメントを実施するにあたり必要となる要素を、「プログラムマネジメント」「プロジェクトマネジメント」「マネジメント基盤」の3つに分け、その具体的な実施内容を順に述べていく。

プログラムマネジメント

IT投資マネジメントを実施するにあたっては、まずは計画期間中(基本的には中期)におけるIT投資全体をマクロで捉え、大枠でどのように資源配分し、どういったテーマに取り組んでいくかについて、IT投資戦略を立てる必要がある。本稿では、これをプログラムマネジメントと呼称する。

(1)投資総額の決定

まずは、計画期間中におけるIT投資の総額を決定する必要がある。

IT投資総額を決定するにあたっては、過去の予算推移を見ながら前期における総額を棚卸しするのが基本である。とはいえ、当然のことながら経営状況がまったく同じはずもなく変化しているわけなので、当期における非ITを含めた全社投資総額とのバランスを考慮した上で、ITに注力する、しないといった経営方針に従い、上方/下方修正を行う必要が生じることとなる。

(2)投資配分の決定

次いで、投資目的などのカテゴリに応じた投資配分を定める必要がある。

なかでも重要なのは、不可避投資(維持更新や法令対応など対応せざるを得ない投資)と戦略投資(売上向上ないしはコスト削減を狙った戦略的な投資)のバランスである。これについては、まず不可避投資の総額を決め、残りを戦略投資に回すという考え方になる。不可避投資の総額は、前期の総額をベースとし、当期中におけるシステム更改や法令対応などが見えている、いないによって、上方/下方修正を行うのが基本である。さらに一歩踏み込んで、不可避投資に要するコストを削減し、戦略投資に回すといったコントロールを行うことができれば理想的と言える。

(3)取り組みテーマの決定

図表1:取り組みテーマの抽出イメージ
出所:NTT データ経営研究所にて作成

最後に、計画期間中に重点的に取り組むべき大骨テーマを設定する必要がある。

テーマの設定にあたっては、経営サイドから示された経営戦略をベースとするのが基本である。これに加えて、内部環境情報として、業務環境(新規事業の立ち上げに合わせシステム改善を要する等)、IT環境(老朽化して更改の必要があるシステムがある等)を考慮するとともに、外部環境情報として、マクロ環境(PEST(※1)等)、ミクロ環境(市場/顧客/競合等)を考慮しながら、最終的なテーマを設定することとなる。テーマ設定時に合わせて結果を評価するための指標を設定し、毎年度振り返りを行いながら見直しを図るのが望ましい(図表1)。

※1:PEST=Political, Economic, Social, Technological

プロジェクトマネジメント

プログラムマネジメントによりマクロ視点での管理を実施した後は、転じて個々のプロジェクトのマネジメントを行うことになる。事前評価(企画時)を行って投資案件を絞り込むとともに、中間評価(調達時、開発時)、事後評価(運用時)を行って当該案件を追跡評価し、改善活動実施のうえ、効果の刈り取りへと結びつけるのが基本的な流れである。

(1)事前評価の実施

まずは、プロジェクトの予算確保に向け、企画時に事前評価を行う必要がある。

事前評価に際しては、各プロジェクトのオーナー、投資目的(戦略投資:売上向上/コスト削減/事業基盤強化、不可避投資:リスク回避/法令対応/維持更新)、戦略適合性(経営戦略ないしはIT投資戦略との整合性)、不可避性(本当に不可避であるか)、コスト、効果、リスクを明らかにし、総合的に評価を行うこととなる。

まず肝要なのはオーナーシップである。IT投資の効果は業務とITの両輪がそろって初めて得られるものであるが、IT部門をオーナーとしたのでは業務所掌範囲を超えるゆえ、期待したような効果を得ることができない。そのため、業務部門にオーナーシップを持たせ、プロジェクトを進めることが重要である。

図表2:既存顧客に向けた営業プロセスの刷新による事業売上増およびコスト削減
出所:NTT データ経営研究所にて作成

もう一点、投資目的の重要性も高い。例えば、売上向上を目指した戦略投資であれば、ROIを中心とした評価、一方、維持更新による不可避投資であれば、不可避性の確認とコストの妥当性評価によるシーリング管理と、投資目的により評価の観点が変わってくる。それゆえ、BSC(バランススコアカード)の戦略マップ的な考え方等も参考にしながら、何を目指した投資なのかをつきつめて明確にする必要がある(図表2)。

(2)中間評価の実施

次いで、企画時に立てたプロジェクト計画の見直しを行う意味で、調達時および開発時に中間評価を実施する必要がある。

企画時の段階では、プロジェクトの内容が煮詰まっていない部分も多く、また意図しない要因によって当初方針に変更が入ることもままあるため、実際に調達/開発する段階になって要件が固まるのに合わせて、当初計画を修正するのが望ましい。

この見直しを行わなければ、特に効果に関する乖離を抱えたまま調達/開発を行うこととなり、後に効果の刈り取りを行う際に実は実現不可能なことが判明するという事態に陥ることとなる。

(3)事後評価の実施

最後に、企画内容の振り返りを行う意味で、運用時に事後評価を実施する必要がある。

プロジェクトの運用開始後しばらく経ち、ある程度運用が定着した際、コスト、効果、リスクの振り返りを実施する。その結果、実績コストや実績効果が当初予定通りでない場合、効果の刈り取りに向け、改善活動を実施のうえ、翌年度以降も継続的に評価を実施、当初目的を達成した段階でプロジェクトが終了する流れとなる。

プロジェクト終了後は、事後評価結果より得られたノウハウ/教訓等を蓄積するとともに、以降は維持フェーズの案件として管理していくのが望ましい。

(4)全体管理の実施

前項までは個々のプロジェクトに閉じた管理の話題であったが、プロジェクトマネジメントを効率的に進めるにあたっては、複数のプロジェクトを横断的に見た全体管理の観点が必要となる。

全IT投資案件の全フェーズ(企画、調達、開発、運用)の実行状況(スケジュール、コスト、効果などの状況)について、一元的に管理するとともに、全体最適の観点からプロジェクト間での調整を実施する。

これにより、例えば、企画時の案件選定の際により有益な案件を選定、調達時に集中購買など調達方法を全社的にコントロール、開発時に進捗状況が良くない案件に全社リソースを投入、運用時に効果の刈り取り状況が良くない案件に対して集中的に改善策を求める、などといった全社措置を講じることが可能となる。

マネジメント基盤

IT投資マネジメントを制度として実施していくにあたっては、統制に際しての基盤として、規定の整備、体制の整備、運用の定着を図っていく必要がある。

(1)規定の整備

まずは、IT投資マネジメントを制度として成立させ、統制を図るための規定(手順、基準、様式など)を整備する必要がある。その中で、マネジメントの対象をどこに設定するか(グループ組織のいずれを対象とするか、IT投資と非IT投資のいずれを対象とするか、IT部門管理システムと業務部門管理システムのいずれを対象とするかなど)、起案者/評価者/決定者/管理者を誰にするか、プロジェクトのオーナーシップをどう考えるか等といった論点についても、明確化していくこととなる。

(2)体制の整備

次いで、IT投資マネジメント制度を運用していくにあたっての、体制を整備する必要がある。基本的には規定として整備された内容に従いながら、制度を回すための役割分担を適切に行い、会議体を適宜整えていくことが肝要である。

(3)運用の定着

最後に、制度意図の理解を促すための仕組みとして、教育やヘルプデスク等を実施することで、運用の定着を図っていく必要がある。運用の定着に際しては、制度起案側および評価側に、無理な負担が生じていないか配慮することがポイントであり、制度の運用そのものが目的となってしまうことのないよう留意しなければならない。

おわりに

IT投資マネジメントは、あくまでIT投資の最適化を図るために実施するものである。とはいえ、折からの不況ゆえIT投資の削減が第一義になりがちであることは否めない。しかしそれではコストが抑えられる代わりに得られる効果も小さなものとなり、必ずしも最適であるとは言い難い。単純にIT投資全体のパイを削減するのではなく、不要な案件については積極的に削減し、その分を真に必要な案件へと回すサイクルを確立することで、IT投資全体の活性化を図っていくことが肝要であろう。

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